/*見上げる先*/  見えるところは真っ暗だ。おまけに狭くて、背中もおしりも足もぺったりと、しっかりした何かにくっついている。その中でわかる事なんてたくさんはない。ただ一つわかるのは、この足のさきにいる柔らかい感触の持ち主は、自分の相方であると言う事だけ。  ちょっと息苦しいくらい狭いけど、でもだから、安心もできた。  むにゅ。  おなかを押される。お返しに前足を伸ばした。むにゅ。  にゃー。 「そうだ、カール、子猫達に会っていい?」  その声が聞こえて少しすると、暗がりを裂くように明かりが見えた。久しぶりの明かりはまぶしすぎて、くりくりした両目は思わず細めた。けれどやっと狭いところから出られたのだ。そのまま歩いて行きたくなったので、目も瞑っていたのに足を出した。  すかん。  ころん。  ぽてん。 「にゃ」  そして上に落ちてくる何か。  押しのけて立ち上がる。目を開けた。  ―――――見えるのは、広い広い青い空。まるで綿菓子をちぎって投げたような白い雲。まぶしいほどの日差しに、空も雲も燦然と輝いている用に見えた。  手を伸ばせばそれに触れることができるだろうか。  なんて思って、上を向いて歩き出す。  けれどその足はまだ弱くて、数歩歩いたらよろけて倒れた。隣で同じ事をしていた相方も、同じように倒れてくる。二匹はもつれ合った。 「オズ、シュパイツー」  見上げてみる。そこには笑顔の女性が一人。  大きな腕が伸びてくる。と、ふいに体を抱え上げられた。いつもより柔らかい腕の感触に不思議に思う。相方もそう思ったのか、前足でぺしぺし腕を押していた。 「カールー、ビックリしたわよー」どこか楽しそうな声。「オズ、シュパイツ、大丈夫ー?」  片腕で抱えられて、もう片方の手で耳の後ろを掻かれる。  くすぐったい。  相方はのどをくずられていた。  気持ちよくて、目を細めてしまう。 「いいこねー、元気そうでよかった!」 「あずけるのもかわいそうだったので、もってきた」 「無事でよかったわよう! もー」  どさり。体が揺れる。  どうやら、自分たちを抱えている人が誰かに寄りかかったらしい。 「空飛んでる間、怖がらなかった、この子たち?」 「さすがに飛べないから、空母であずけた。」 「そうか、本当にびっくりしたけど、ありがとう、私会いたかったから…」  暖かなものが背中に触れた。背中をなでていく。掌だ。  どっちもころころと声を上げた。 「かわいいかわいい」楽しそうな声。「あ、カール、ちょっとかがんでくれる?」  長い時間、沈黙。 「愛している」 「愛してます」 「この子達と、あなたと、いい家庭を作ろうね」 「ああ」  ――勿論。  見上げた猫たちは、全部見ていた。