その日、橙にして鈍色のカレンは複雑な心境だった。 /*/ 鈴藤 瑞樹からの久しぶりの呼び出し。 NWとの同盟は破棄されてはいるが、個人が休暇中にどこに行こうが誰と会おうが自由だ。 だが・・・会えないでいた時間が長すぎた為か、はたまた別の理由か自分でも分からなかったが、久しぶりの再会を思うと胸が締め付けられた。 そんな複雑な心境のまま数日が経ち、待ち合わせ当日になってしまった。 普段とは違いそわそわと約束の時間を待つカレンの目の前にようやく待ちわびた鈴藤が姿を現す。 「このたびはッ!大変なご迷惑をおかけしましてッ!申し訳ございませんでしたァッ!!」 現れた途端最速で土下座をする鈴藤だったが、一瞬だけ見えた彼の顔と久しぶりに聞く彼の声にカレンの体温は上昇し頬を染めていった。 今日の自分は少しどうかしている、とカレンは思った。 普段とは違い妙に落ち着かずそわそわしている。だがこうやって鈴藤と他愛のない話しをしているだけで胸の締め付けが解け、暖かな物が自分を満たしていった。 そんな少しふわふわとして、それでいて居心地が悪いわけでもない不思議な空気を鈴藤の一言が破った・・・ 「こないだですね、レイカちゃんに会いましたよ」 その鈴藤の一言が、暖かだったカレンの胸中にヒビを入れてしまった。 思わず視線をそらしてしまうカレン。 長らく行方不明だったレイカの消息が掴めるというのに、カレンの心を支配していったのは安堵ではなく、何か黒く嫌な感じがするモノだった。 恥ずかしくて口には出せないが、決してレイカの事が嫌いなわけはない。どちらかというと好いていると言ってもいいかもしれない。だけど、どうしてこの人がレイカの名前を出すと、彼女の事を嬉しそうに話すと胸が締め付けられるのか・・・ この人に悪気がないのは分かる。 分かってはいるが、それでも自分を支配していく黒い感情が止められず、止められない事がまた自己嫌悪に陥り気分が沈んで行き、口からでるのは思いとは裏腹の言葉だけ・・・ もしかしてそれが自分の本心なのか、と思考の闇に飲み込まれそうになったカレンを引きとめたのは、皮肉にもカレンをそんな状態に追い込んだ鈴藤本人だった。 「……あの、いやだったら止めてくださいね?」 そういって恐る恐る触れ合った手はとても暖かかった。硬くなっていたカレンの心がじわりと溶かされていく。 それでもすぐには思考が纏まらないカレンに向かって鈴藤は両手を広げていった。 ゆっくりと手が広げられ小さなカレンの体を包みこんで行く。 そして徐々に狭まる腕の中、カレンは鈴藤の体温と鼓動を感じていた。 そっと優しく、けれどもどこか力強く抱き締められるとまるで二人の鼓動が一つになったかの用な錯覚を覚えた。 ドクドク、と普段よりも数倍早い鼓動を感じながら、カレンは思った あぁ、そうか、私はこの人が・・・ 口づけをしようとした鈴藤をブラスターで叩くとカレンは嬉しそうに笑みを浮かべたのだった。 /*/ その日、橙にして鈍色のカレンはとても幸せだった。 恐らくは、これからも、ずっとずっと。