『コイバナ、男たちのその後』 作:11-00230-01 玄霧弦耶 /*/ いつの世も、どんな世界でも、『兄弟』とは、一番身近な隣人である。 血縁上は親子の縁のほうが先に来るものの、年の差で考えれば、兄弟ほど影響を与え合う関係はなかろう。 年をとって行けば話は別だが、これが多感な時期ともなれと、その影響は計り知れない。 その影響も千差万別だが、一般的な家庭を見るに、基本的にはよい影響を与えるだろう。 年が上のものは下のものを守り、下のものは上のものを見て学ぶ。 間に挟まれたものは両方を見て育つ関係で多少ひねくれたりはするものの、概ね問題は、ない。 まあ、これが姉妹とかになってくると、それまた別の話となるのだが。 /*/ 〜翡翠の場合〜 「……おかしい」 翡翠は、倒れたまま考えた。 なんとなく、影が薄い気がする。 たしかに今日の主役は帰ってきた柘榴とコーラルだが、それは別として最近影が薄いような気がする。 『今度何かあったときは目立たなければ』 そんなことを考えつつ、翡翠は立ち上がった。 そろそろ、頬に張り付く床の感触に飽きたのだった。ついでに、これ以上倒れていると挫けてしまいそうだった。 騒がしい柘榴たちの方を見た後、ふと、コーラルと目が合った。 「もう大丈夫ですか?」 コーラルが優しく微笑みながら声をかける。 ああ、やはりおまえが女であれば。 柘榴とひなぎくは駄目だ。ひなぎくはそもそも柘榴にべったりだし、柘榴は…… 「なんだ兄さん、コーラル狙いに切り替えたのか?」 「えっ、やっぱりそういう趣味だったの!?」 これだもんな。というか、ひなぎくまで。 兄弟たちの愛を受けつつ、翡翠は本日四回目の床の感触を味わった。 /*/ 〜柘榴の場合〜 思ったよりダメージが大きかったのか、翡翠が倒れたまま何か歌っている。 (…やりすぎたかもしれないけど、まあ、暫くすれば復活するか) 兄に対して若干失礼なことを考えつつ、腰にしがみついているひなぎくを見る。 まだ微妙に泣きながらも、嬉しそうにしがみ付いている。正直、悪くない気分ではあるが… (やっぱり、兄離れすべきだ。それも早急に) そう決心し、ひなぎくにを説き伏せるべく、行動を起こそうとする。 しかし。 「柘榴ー、ひなをいじめちゃ駄目だからねー」 あおひとから牽制が入る。 さすが母というか、展開を読まれているというか、手玉に取られているというか。 (帝國士官学校の最優秀成績保持が聞いてあきれるな……) ぼんやり考えながら、あおひとたちを見る。 丁度、士官学校での出来事を聞かれたコーラルが、そのことを言っているところだった。 先ほどまでの翡翠の立場が、次は自分に来るのだろう。 そう思いながら、柘榴は遠くを見た。 /*/ 〜コーラルの場合〜 コーラルは個性豊かな兄弟たちを、一歩引いたところから嬉しそうに眺めている。 穏やかで、家族思いの翡翠。 手はかかるがかわいいひなぎく。 #フォロー的な意味で そして、上官であり、親友でもある柘榴。 皆、大事な兄弟である。 もちろん、あおひと・忠孝の夫婦も、大事な親であり、コーラルはこの家族が大好きであった。 もらわれた当初は負い目や引け目に不信感もあったが、今ではそんなものは微塵もない。 ……まあ、未だに遠慮は多少、あるが。 そもそも、先ほどの『柘榴はひなぎくと会うのを楽しみにしていた』というのは、言葉の少ない(というかたりない)柘榴の代弁でもあるが、本をただせば自分の素直な気持ちである。 (もっとも、ひなぎく限定ではなく、この家族に会うのを楽しみにしていた、という意味でだが) そんなことを思いつつ、兄弟を見る。 ひなぎくは抱きつく位置を正面の腰から左腕を包む形には変えていたが、かわらず柘榴にべったりである。 その柘榴は、むすっとしているが、気分を悪くはしていないようだ。 翡翠は…… 「〜〜〜〜〜♪」(#ゴットファーザーのテーマっぽい何か) 倒れながら鼻歌を口ずさんでいた。涙らしきものも見えるが、気のせいだろう。 どうしたものかと思いながら時計を見る。そろそろ時間だった。 「翡翠さん、翡翠さん、戻ってきて下さい。そろそろ帰ってきますよ」 揺さぶりお越しながら翡翠を立たせる。 翡翠はまたああこれが女であればといっていたが、とりあえず微笑んでおく。 コーラル、空気とTOPの読める男。 その様子を見たあおひとが、子供たちに呼びかけた。 「さ、みんなでお出迎えしましょう!」 柘榴がひなぎくを腕に巻きつけたまま無言で玄関に向かう。 翡翠も、まだ戻りきってはいないものの、よろよろと玄関に向かった。 そこに続こうとしたコーラルに、あおひとが声をかけた。 「コーラル、ちょっといい?」 「はい、なんでしょうか …おかあさん」 『おかあさん』に満足しつつ、あおひとが続ける。 「私も含めてみんな、柘榴が帰ってきたからじゃなくて、二人が帰ってきたから嬉しいんですよ?」 それだけ言って、にっこり笑って玄関に向かった。 取り残されたコーラルは暫く呆然としたまま、今日一番嬉しそうな顔で、玄関に向かった。 〜おまけ〜 「あー、翡翠。ちょっといいですか」 食事の支度中に、忠孝が翡翠に声をかけた。 暫くは普通に言葉を交わしていたものの、急に翡翠がぶっ倒れた。 その様子を料理しながらこっそり眺めていたあおひとが、問いかける。 「忠孝さん、なにを言ったんですか?」 してやったりな顔で、それに答える。 「いえ、恋愛というものについて、少々」 ……生きろ翡翠。きっと皆応援しているぞ。