秩序というのは、安定であり停滞である。進みはしないが、退きもしない。 故に決して崩れず、人はそこに安心を覚えるかもしれない。自由と引き替えに。 無秩序とはその対義、不安定であり乱雑である。進むも退くも、自由である。 故に決して一つところには留まれず、人はそこに畏れを覚えるかもしれない。しかしその心はどこまでも自由である。 どちらがいいかと人に問えば、意味を知らなければ前者を選び、知っていれば答えは出ない。 どちらも選ぶということはできない。相反するものだから。 しかし、だからこそその両者は引き合い、惹かれあうのであろう。 「おーい」 そこまで自分が惹かれている理由を考えて、考えの元になっている本人に邪魔されるというのはいまいち腑に落ちない気がする。 せっかくふてぶてしい顔を演出するのに丁度よい課題だったのに。 楽しみにしていた事は事実だが、それはどうにか心の片隅におしやる。 先手をとるには色々準備が必要なのだ。 そこまで考えてようやく、オンサは口を開いた。 「…………なに?」 さて、今日はどういじくってやろうか? 「まずは、久しぶり」 今回の入りはいつもに増してふつうだなぁ。 秩序なんだから、そう簡単に変わられても困るわけだが。 それと、といいつつ頭を下げる姿も相変わらずだなぁと気を抜いて眺める。 「ごめん。また待たせました」 「何それ……ああ」 そういえば今日は待ったことについて何も言ってなかった。 自分から言ってくるのは初めてだな。 考えながら、なぜか先手を取られたのだと思ってむかついてきた。 気づいたら両手でつらねの頬を引っ張っていた。 「ふん、いひゃ、ほんほにごへんはひゃい……」 なんて言っているか判別はできないが、理解はできる。 そこまで謝る必要はないのだけれども……まぁ、悪くはないか。 うむ、許した印くらいはやってもいいかもしれない。 「それで、どうしたの、どこにいくの。何が目的?」 「うんまずは、慰霊碑に行きたいと思って。後は、ちょっと相談に乗ってもらいたい」 額をさすりながら言うな! と言いたいのをぐっとこらえる。突っ込むだけで恥ずかしくなる気がしたし。 「……どうせそういうことだと思った。歩きながら、話せる用件?」 「そだね。もやもやしてるから、歩いてた方が話しやすいとは思うから」 今回は先手を取りに来るなぁ。 まぁそんなに悪い気はしないので手を取って従ってやるとしよう。 いずれはこれくらいリードしてもらわなければいけないのだから、まぁ、練習だ。 で、なにがしたいの? かっこつけて上なんか向いて、こっちだけ見なさいっていうのに、あっかんべー。 「おまえはほんとにわかってるよな」 分ってるに決まってるじゃない。それくらい。 いちいち笑わなくてもいいって。 「……こないだの蜘蛛のこと、有難う。助かった」 「やっつけたわよ。援軍なくても、勝てたかもしれない。無傷じゃいられなかったと思うけど」 「うん。俺の気が気でなくなるし。無傷で良かった」 国の話だって言うのに、私しか見てないみたい。 まったく、自分に+してそれくらい守れなくちゃあなたの横には立てないでしょう? 「あれの意図はどこにあったと思う?」 「……んー」 言われて改めて考える。 対応している間にも考えたことだが、改めてとなるとまた別の視線から見られる分、気づかなかったことにも気づける。 その結論としては、 「たぶん、試してるんだと思う」 「各国を切り崩せるか?……それとも各国を護り通しているか?」 「殺すのが目的なら、戦力を集中するはず。だから、殺すのとか、勝つのとか、そういうのじゃなくて、別の理由の、戦争だと思う」 「ふん……正直測りかねてる。まわりくどいんだよな、なんか。敵意にしては、なんかおかしい気は、する。」 「緑はそういうものよ。回りくどくて、扱いに困る」 じゃなければもうとっくに決着はついているはずなのだから。勝つにしろ負けるにしろ、まぁ勝つだろうけれども。 「うん、そうなんだけどね。ただ、なんつっか、それ以上の何か、っていうのかね俺も、ほら、気が小さいから。ただ心配になってるだけかもしれないけれど。」 意外といいところに気づいた、褒めてやってもいいかなと思って、やめる。これくらいは、ね。 「その心配、重要……たぶん、封印者をさがしてるのかな」 「……封印者っていうと、アレ対策か」 「そ、クーリンガンの。封印して欲しいんじゃないかな」 誰が、とは言わないけれども、つらねの所作でそれが伝わったことは分かった。 「……ん、おっけい。有難う。ひとつ取れたよ」 あ、のどのつっかえね、とか補足はいらない。だんだんその辺りが分かるようになってきたということだろう。 さて、ではちょっとクイズ。 「封印の人は、どこにいるのかしら」 「思い当たる節は色々いるんだけどね……例の巫女の話も、まあそこらへん関係かもしれないとは、思ってたりはする」 残念、知らなかったか。見当違いだけれども、許してやるか。 「FVBにいるけど、それが誰かは分からないの」 「だから、か」 うん、よくできました。 ちゃんと伝わったことを確認して肩を叩いてやる……やろうとしてやめた。 その代わりに慰霊碑を叩く。 これに命を与えることができればいいのに、そこまではできないから、少し動かしてやる。肩がこるといけないわ。 安心しなさい。あなた達の王は間違わないように育ててあげてるから。 「……喜ぶの?これは、喜んでくれるのかしら?」 知らないけど、あなたが育っていることは喜ぶんじゃない? 黙祷なんかしないで、胸張って堂々と話せばいいのにとは思うけれども。 無駄に汗かいて申し訳なさそうにして、どこぞの逆転する弁護士じゃないんだからやめなさいっていうのに。 まぁ、合わせて黙っていてもいいだろう。 「ほい。有難う。また今度」 慰霊碑にそうやって呟くところを見ると、用はすんだようだ。 じゃあ、またね。私もまたくるから。 びよよんと戻る碑を見るつらねの目が何か言いたさそうにしているが、言葉にしない以上無視である。 「……さってとう。そっちは先方に伝えるとして……」 「うん」 で、次は何するの?笑っていないで早く言いなさい。 早くしないとつっつくだけじゃなくてヒゲ抜くわよ。 「巫女繋がりで。西條さんところのお二人、最近、知ってることは無い?」 「? 知ってるけど」 いちいち口パクで言わなくたっていいっていうのに、それくらい。 あー、じゃあ大丈夫かーと安心するところがまたムカつく。 国の女の子の安全は私が見てるから、気にするなって言うのに。 「無事?そこだけでも聞きたい。」 「無事そうよ。ドラゴンが、護ってるみたい」 「つくづく頭上がらなくなったなあ……」 もとから竜なんかに上げる頭なんかあったかと考える。 自分にはなくてもつらねにはあるのだろう、ムカつくことに。 「いやほんとに、こっちで何もできないまま時間ばっか経過しちゃってね。」 「まあ、ドラゴンの考えてることは、私にも分からないから」 だからいちいち落ち込んだらだめよ。それくらい堂々と構えてよくやってくれたくらい言わないと。 言えないことも分かっているけれども、そう思う。国とは面倒くさい。二人だけでいられたらいいのに。 「うん。それは、こっちで聞いてみるよ。有難う」 そうやって気を使って、また不健康になって煙草吸ってさらに不健康になって。 こっちが元気になってしょうがないから困るんだけど。 「……それと、これが、最後なんだけれど。」 「うん」 「……民族不和、と俺らは呼んでる。」 だから、そう、それにも気を使うんでしょ?分かっている。 「うん」 「あれからまあ、もう長い……とかいう前置きは、もうこの際良いね。」 「まだ、どこかで?」 何か嫌なものを見たのだろうか、聞いたのだろうか。 そのようなマイナスな話は入ってきていないはずなのだけれども。 「いや、最近大きな話は聞いてないんだ。」 ほっと一息つく。それならば想定の範囲内に収まる。 収まるだけで嫌な話には違いないが、まぁいい。 「ただ、別れたままで、ずっとそのまま。それで良いのかどうか、正直悩んでる。このまま時間が解決してくれるのを待つと言うのも、手かもしれないけれどね。」 「難しいね……」 「うん……まだ俺が前の国で藩王やってた頃みたいな、危なくなったら相手の国にかけつけるみたいな、そんな昔がね。ちょっと懐かしいんだわ」 時間がすべてを解決するということは、なくはないけれども岩が砂になるが如く長い時間を要する。 そして風化しつつあるものに手を加えるのは砂の楼閣に手を加えるようなもので、慎重にしなくてはいけない。 難しいと一言で済ませられればいいけれども、そんなものでは済まないから困る。 そこはずっと考えてきたことだし、言われるとも思っていた。 だから、調べはついているのよ。 「都築系の人が、今、よんた国で帰還事業をしてるみたい」 「……都築系全体からの評価は?っていうとよそよそしいな……皆どう思ってる?」 「賛成もあるけど、反対もある。反対の方が多いかな。でも、私は偉いなあと、思ってる」 どちらの側からも、という言葉は言わなくても通じると思って抜いた。 泣きそうな顔のつらねがさらに泣きそうになったら泣いてしまうから。 女の前でなくなんて許さないわよ。そんなの。 「だろね……あー、あほうだなあ、俺も。」 「?」 「ずっとさ、何にも決めないうちに、時間ばっかり過ぎていくなあと思ってね。」 「そうね。でも、第七世界人主導でやるのも、変じゃない?」 主導でやらないで発生した問題なんだから、終わりにも第七世界人が関わらなくてもいいはず。 なんでもかんでも王様任せとかでは万が一第七世界と繋がらなくなったときに困るし。 「それもそうなんだけど。ん、んー……そこも悪い所か。全部俺一人でやっちゃおう、ってさ。」 「今だってできてないんだから、気負わないでも」 「ですよねー」 何を今更言っているんだか。だから私がいるんじゃない。 そうやって笑いながら、本当は目が笑っていない理由だって知っているんだからね。 「さーてとう。」 「?」 「都築系の帰還事業やってる人ら、国の中に事務所みたいなところ、持ってる?集会所でも、関わってる人がいるところでも」 「うん。知ってる」 その程度なら調べはついている。実際に何回か行ったこともあるし。 ……何よう。メモはメモなんだから変な顔しない。ちゃんとそれでも開けるのよ? 「それと……今から、行ける?買い物してから。オンサへのお礼と、その人らにちょっと差し入れもしたい。」 そーですか。そういう態度ですか。 別に、普通がいいんならそう言えばいいのに。 メモも普通の本に戻した方がいいんでしょうね。どうせ。 まぁ、乗るか反るかは、 「言い方しだいかなあ……」 「おまえはほんっとうにかわいいよな!」 周りに人がいないからって、大声で叫ばなくてもいいのに。 そんなこと当たり前でしょ? で、どうなのかしら。 「うん、デートしようぜ」 「……うん」 ま、合格としてあげますか。 とびっきりの笑顔はあげられないけど、ちょっとした微笑みくらいはご褒美だ。 しっかり目に焼き付けなさい? ※ここ以降はなんというか、うん、おまけになるのかな? 某アイドレスプレイヤーは言う。 ええ、あのログを見て、これはおかしいなと思いましたよ。 だって、オンサさんと都築さんですよ? なんで普通に話し合ってるんですか。 なんで普通に歩いてるんですか。 そりゃ最近はデートもできるようになったんでしょうが、 この二人っつったら、あれでしょあれ! 爆発! 牙の抜けたやつになんて心うずくわk、うわ、何をするやめ(以下略) ※いろいろと危ない表現があったためインタビューを中断しました。 という一部の声もあるが、現在ログないでは爆発は確認されていない。 しかし、生活ゲームのログと言うものはほんの1時間を抜き出したものに過ぎない。その後何があったかというのはACEたちの記憶の中にあるのみである。 つまりは、そこで爆発を起こしている可能性は十二分にあるということである。 そう、もしかしたらこの何の変哲もないスーパーの中でも起きているかもしれないのである。 なんでここかって? だって、二人のデートの舞台なんだもの。 Order&Chaos-番外?- 都築つらねは藩王である。別に改造されたりしてはいないがオーマだったりはする。忘れないでね。 そして重ねて言うが、王様である。王様といえば一応国の最高権力者である。 そんな人物が普通にスーパーに王妃を連れて行くとか、普通に考えたらありえない話である。 いや、アットホームな国だからお忍びとか考えればありえなくはないのだけれども、だからこそありえない話なのである。 藩王はいい。いい人だし酒とつまみとタバコを買うだけの簡単なお仕事をして帰るだけだからいい。 問題はその同行者にあった。というかオンサにあった。 舞台となっているスーパーはオンサ自体も良く利用する。 そして平時ならばまったく問題なく普通に買い物をして帰る。 しかし、しかしである。 藩王と一緒の時のはっちゃけ具合は周知の事実である。 はっちゃけるというか、なんというか、爆発具合というのが正しい。 故に、その場にいた全員の心はこの一文で埋め尽くされていた。 なんでつれてきちゃったんですか藩王! 慌ててレジに並ぶ主婦をありえない速度で捌く店員たちの後ろで、店長は覚悟を決めた。 今日乗り切ったら転職しよう。 絶対に負ける戦いが、いや、戦いにもならない、蹂躙が始まった。 二人は並んでカートを押して入店した。 目的物は大人数用なのでカートは絶対必要である。そしてしばらくはスルーするはずである。 「お前も変わってるのな。お礼が普通のプリンとアイスでいいとか」 「○イトーのなめらかプリンとダッツのアイスをバカにしたら爆破するわよ」 が、既に青果売り場のパイナップルがその隠語の如く弾けている。 ああ、スナックパインでよかったっていうか果物でよかった。 青果コーナーのおばちゃんがそれをせっせと片づける横を嫌な汗を流しつつ通る都築。 「いや、してないけどね、とりあえず何の脈絡もなく爆破は俺の心臓も止まるんでヤメテー」 「いいじゃない。どうせ目的は差し入れの飲み物とスナック菓子でしょ」 アーティチョークも見た目パイナップルぽいっていう理由で爆破。 歩くたびに弾けるからある意味特殊効果にも思えるが、後ろで爆破されるのを待つ側として気が気でない。 というかこれどれだけ金かかるねんと思う都築も気が気でならない。 「あまりかしこまったものだとあれかなと思う、とかでスナック菓子にするとか、あー、かわいそうかわいそう」 「ていったって、お前デパートつれてったら大損害確実だし」 「失礼ね、節度くらいあるわよ」 いや、あるなら歩くたびにポップコーン量産しないでください。 青果売り場店員一同の心の叫びは届かない。届いたら逆に怖いので届かないでお願いとか思うレベルである。 まぁ、その辺りは藩王には届いているのだが、何せ相手がオンサであるからして、その効果はたかがしれている。 「じゃあ予告してくれないかな。止めるし」 「馬鹿ね。止めたら爆発しないじゃない」 ごもっともですが今は話を聞いてください! 山芋のねばねばに覆われながら声にならない声を上げる店員。 なぜかすごく正論を言っているはずなのにすごく的が外れているという奇跡。 なんというか、活き活きしているように見えるのは店員の見間違いではないだろう。 「あー……わかった。わかったからせめて商品を爆発させるのはやめようぜ」 「わかったわかった」 いや、それは一番ここでは言ってはいけない死亡フラ…… さすがに声に出して止めようとした店員の目の前で棚がその内側から爆発し、反対の壁に備え付けられていた。 やったねたえちゃん!内装が変わるよ! どころの騒ぎではない。商品は爆破されていないが一緒に破壊はされていることに変わりはない。 むしろ悪化している。 「いや、そういうことではなくてですねオンサさん」 「あ、スナックコーナーあったわよ」 聞いちゃいねぇ。 ツッコミ不在の現在店員たちが総ツッコミである。 が、まぁ、さすがに目的地にたどり着いた以上被害は出ないだろう。 「で、どれにするの?」 「えーと、ここは定番のパーティーパックを適当に」 「じゃあこのへん4種類くらいかしら」 「ん、いんじゃね」 「じゃあ後はいらないわね」 被害が出ないと思ったか?嘘だよ!出るよ! どこのインセプションかと思うくらいにぽぽぽぽーんと弾ける袋たち。散乱するポテチたち。 床に落ちる運命になければその場にいて貪ってみたい衝動に駆られそうな映像だが、残念なことに過去の出来事である。 「……いやいやいや、ほら、他のも後でほしいと思うかもしれないですよ」 「そういうときはあまりものでどうにかするのよ。煎餅とか」 「あー、煎餅のパックもいいね」 「それじゃあ適当に取ってっと」 スナックコーナーに再びさっくりとした雨が降り注ぐ…… かと思われたが、それはなかった。 恐る恐る目を開けた店員たちが見たのは凍りついたままの煎餅たち やってくれたぜ藩王! でもどっちみち商品として使えないからどっちもどっちだぜ藩王(涙) 「……なに?」 「煎餅を、米を原料にしているものを爆破することだけは農家出として許せない」 「……野菜は?」 「……対応できなかった過去を悔やむより未来に活かす方向で考えてるんですみませんとにかく米製品は勘弁してください」 藩王ょぇぇ。 しかしとりあえずは爆破を思いとどまってくれただけで片づけの手間が省けてよかった。 ほっと胸をなでおろすスナック担当店員たち。半分以上壊滅していることにはこの際目をつむろう。 そして問題なのは、後はどこに行くかだ。 「ま、いいでしょ。で、後は何を買うの?」 「あー、飲み物とプリンとダッツだな」 「じゃあはやくいきましょ」 この時点で精肉と鮮魚コーナー生存確定。 一番単価高いうえ悪くなると非常にきつい部門なだけに担当者も店長もよかったと手を合わせて喜ぶ。 「あ、そうそう忘れてた」 と思ったら爆発していた。 甘い、認識が甘すぎる。 安心するのは店を出て1時間くらいした後でなければいけないのだ。 両コーナーの担当者の涙とともに我々は重い教訓を手に入れた。 すまん、すまんと無言で謝る藩王の後ろ姿だけが彼らの救いであったとかないとか。 「飲み物は?」 「炭酸とお茶を半々で……あー1ケース分ずつくらいもっていこうか」 「よーし、それじゃあ」 「今やるとダッツとプリンに影響出るぞ」 「……や、やるわけないじゃない」 嘘だっ! 某虫がなく頃の様に藩王含め全員の心が一つになった。 分りやすすぎてもう嘘を暴いたとかいうレベルの話ではない。 ただ藩王だけがああ、かわいいなもうとか追加で思っているあたりレベルの高さが伺える 「そ、それで、プリンとダッツは」 「3個パックと6個パックでどうだ?」 「……く、クリスピー○ンドも」 「つけるつける」 っしと小さくガッツポーズをするオンサ。 先ほどまであれだけの破壊を引き起こしていたとは思えないほどのかわいさである。 照れ隠しで遠く離れた青果コーナーの野菜が一つ残らず破裂したのも、今の藩王だとかわいいものだと思ってしまうのだろう。 恋は盲目とはよく言ったものである。 もう終わったと思っていた青果コーナー店員からしたらたまったものではないが。 しかしこれで全部買い物は済んだ。後は会計のみである。 二人の足が唯一無事なレジへと向いた。 「……っし、これで全部だな。じゃあ会計……」 「代金はいりませんっ!」 それを遮るように食い気味に店長が先手を打つ。 代金請求する=スーパーの中のものほぼ全部の代金になるので今は無理という事情もあるが、何よりこれ以上店内に存在していてほしくないという気持ちの方が先に来ている。。 本当に一刻も早く離れていただかなくては本当に危ないのだ(店が) 店長は目に気持ちを込めてじっと都築の目を見つめた。 体を半身にしてレジをスルーする方向へ誘導しておくのも忘れない。 せめて、せめてレジだけでも死守しなければ! 藩王の前に立つ店長の、必死の無言の説得であった。 しばしの沈黙ののち、都築がゆっくりと頷いた。 さすがに空気をカラケとは読まない藩王。ここまでされれば空気を読んで無言で頷くしかない。 言葉がなくても通じ合える、それが対話というものである。 「じゃあ、お言葉に甘えて」 「いいの?」 「ええ、もう大丈夫ですともええ、もう!」 「ふーん……じゃあもらっていくわね」 オンサはそう言って、いつものようにどこか挑みかかるような印象の笑みを残して去っていった。 扉の閉まる音と同時に訪れる静寂。 ついに、スーパーに平穏が戻ってきた。 店長は後に語っている。 あの時一歩でも足を踏み出すのが遅ければ、次の瞬間にはレジもボカンといっていたでしょう、と。 もう一度、このスーパーでやっていける、そんな自信を持てた決断だったと。 店長は残った者を集め、生き残れたことをたたえ合い、ただ喜び合った。 この瞬間、彼らはまさしく勝利者であった。 そんな歓喜の声が渦巻いている頃。 二人は重くなったレジ袋を抱えて歩いていた。 オンサの表情は明るかったが、対照的に都築の表情は暗かった。 「なんか、悪いことしたなぁ」 「そう?別に気にすることないんじゃない?」 「いやだって、あれだけ商品ふるぼっこにしたんだし」 「別に、なくなっちゃえばいいんでしょ?」 エ?今ナント仰イマシタカ? そう聞き返す前にその背後でちゅどーんという音がした。 急いで振り向く都築の目には、ドクロの形をしたきのこ雲がもうもうと立ち込めていた。 すーっと色を失っていく都築の目の前にオンサが立った。 そして誇らしげにサムズアップ。 「大丈夫、元ネタに忠実だから誰も死なないっ」 「そこは問題じゃねええええ!」 本日二度目の、全力の叫びが響き渡ったという。 スーパーの店員たちはどうなったって? 当然、アフロだ。 おしまい