友達、小さな幸せ /*/  宰相府に来るのは幾度目なのかなと思いながら、あたりを見渡してみる。 宰相府のいささか整いすぎた、機械的な風景を見ながら、小さいけど大きな、大切な人を探す。 旅行社からの連絡は行っているはずなのに、姿が見えないことに少しだけ恐怖心の芽が顔を出す。 ダメだダメだとぎゅっと目を瞑って、芽生えた恐怖心にそっと蓋をする。 ・・・ジャスパー /*/  ふいに肩に何かが乗った気がした。 恐る恐る目を開くと、探していた鼠の騎士が肩の上で凛々しく立っていた。 「ジャスパー!?・・・会いたかった・・・!お手紙ありがとう!」                                               ジャスパーは尻尾をふらふら揺らしながら、こっちを見ている。 騎士としての気遣いがそうさせるのか、優しいというよりも、しゃんとした声で返事がくる。 「悪かったな」 「こちらこそ・・・ごめんね?」 「いや?」  その気遣いがさっき蓋をした恐怖心の芽を優しく摘んでいくのを感じた。 恐怖心の代わりに安心感や感謝の気持ちや、言い表せないの気持ちがどんどん溢れてくる。 目の端に涙が映ったかもしれないけど、それをこらえつつ出来るだけにこやかに。 「・・・ありがとう・・・」  肩の上の騎士は優しい顔になって、次の言葉を待ってくれている。 どんなに小さくても、それさえも誇りとしてたたずむ鼠の存在は決して小さくはなかった。 むしろ、小さいとか言うやつがいたらぶっ飛ばしてやるっ。 「護衛の方はもう大丈夫なの?」 「そっちも、またいくよ。でも今は。お前を守る」                                               当たり前のように言うのは騎士としてもあるのだろうけど、それが嬉しい。 思わず肩に頬を寄せて、小さな騎士の頭をすりすりしてしまった。 「ありがとう・・・ジャスパー大好き・・・!」 「友達だろ」 「うん、友達!友達ってほんとにうれしい、ありがたいものだって今実感してる」  ジャスパーがいなかったら、藩国だけじゃなくて、私もだめになってたかもと本当に思う。 この騎士の小さな手が、私だけじゃなく色んなことを支えてくれてる、一人じゃない強さがある。 本当に、心から。 「ありがとう、友達でいてくれて」  笑ってくれるジャスパーに先を促されて、二人で迎賓館に足を向けた。 手土産でも用意をすれば良かったかなと思いつつも、ジャスパーがいればそれでいいかな。 あ、そうだ。                                              「えへへ。今日会えないかもって思ってお手紙出しちゃった。クッキー同封してるからみんなで食べてね」 「おう」  美味しく食べてもらえるといいな。 /*/ 「さて、そろそろ時間かしら。」                                               迎賓館の一室を掃除し、花も換えて、ティーセットを用意した所でちょうどいい時間になった。 エプロンを外して軽く身を整えてから部屋を出て、迎賓館の入り口までゆっくりと歩いていく。 衛兵が敬礼をするのを笑顔で迎えるのと同時に、典子が門番にエスコートされているのが見えた。 しかし、聞いていた人数は二人で典子の姿しか見えな・・、いやその肩にもう一人が立っていた。 きちんと彼女を護衛しているようで、周囲の警戒を怠らずにいながらも姿勢を崩していない。 その姿に自然と笑みがこぼれる。 ・・・あ、はっとして使用人を呼び一つ託けて、二人を出迎える。 「こんにちは。お忙しいところお時間いただきましてありがとうございます!」 「あら、可愛いお友達ね」 「私の自慢のお友達です」 「俺は騎士だ。彼女を守ってる」  思ったとおり友人として騎士として彼女を大事に思ってるのがよく分かる。 二人の姿に、気づけば自分の目じりが下がっていた。もう・・、私はだめね。 典子がジャスパーを手に乗せて、自分の前に差し出してそれぞれの紹介をする。 「ジャスパーです。ジャスパー、こちらヒルデガルドさん。とてもお世話になっているの」 「ゴリアテも倒せそうね。さて、話を聞きましょうか?この間は大変だったわね」                                               案内してきた門番を労いつつ、先ほどまで準備をしていた部屋に二人を案内する。 部屋のソファーに二人を座らせて、ティーセットと託けてあったドール用のカップを用意する。 紅茶を温めてる間に典子から先に声がかかった。 「ありがとうございます。先日は失礼をいたしまして申し訳ございませんでした」 「あ、いえ。隠しきれてなったかしら・・・ほほほ」 「何度もご相談となって大変申し訳ないのですが、藩国ACEのみんなに帰って来てもらうにはどうしたらいいのか、ご相談させていただければと存じます」  温まった紅茶をそれぞれのカップに注ぎながら典子の話を聞く。 アールグレイの心地よい香りが部屋一杯に広がり、二つのカップをそれぞれの前に差し出す。 二人がカップを手にとって落ち着いてきたところで、ジャスパーの顔を眺める。 「騎士様は、ジャスパー様は藩国ACE?」  唐突に切り出された話に、典子は紅茶を呑む手を休めてこちらに向き直る。 すっかり落ち着いたようでさっきまでのおろおろした様子はなく、しっかりとした面持ちである。 「はい・・・ジャスパーは今、必要なことがあって国を離れている旨先日連絡をくれました。そして今日は私を護りに来てくれました」 「なるほど。ならば、私が手伝わなくても、いいのではなくて?」                                               典子が少し呆然とした顔をしたまま少し止まって、頭の中で状況を整理している。 整理がついたのか、ジャスパーの方を見て少し不安げに声をかける。 「ええ、ジャスパーは・・・心配事が無くなったら帰って来てくれる、よね?・・・ひょっとしてエクウスも一緒に行動してる?」 「・・・ああ。一緒だ」 「ありがとう・・・。実は手紙にも書いちゃってたんだけど」  典子の顔に少しずつ笑顔が戻ってくる。 指折り数えているのは藩国のACEの数を数えているのだろう。 「ええと・・・森さん、茜くんはシュワさんのところにいるって聞いてます。フランクさんはわかりません」 「フランクは共和国だな。手伝ってる」 「そっか・・・!ありがとう、ジャスパー」  ジャスパーも典子が無事に笑顔に戻って微笑んでいる。 二人に紅茶のお代わりを出して、しばらくたわいもないことを話した。 「フランクさんも、やるべきことが終わったら戻ってきてくれるかな・・・」 「まあ、んじゃ、国に戻るか」 「う、うん!えっと、ヒルデガルドさんすみません!ありがとうございました!」 「いえいえ。どういたしまして。そうね。」  この二人を見てると、本当に胸が暖かくなるのを感じる。 ・・・こんな気分、本当に久しぶりに感じるわね。 典子がありがとうございますとお辞儀をしているのを見つつ、微笑みながら二人を見送った。 /*/  にょろにょろにょろ。 しかし、久しぶりに起きるとえらい変わってるもんやなー。  にょろにょろにょろ。 「ウイングバイパー様!?」  お、どっかで聞いたような声やな。 とぐろを巻いてちゃんと顔見なな。よいしょっと。 「典子ちゃんか。どないしたんや」 「お久しぶりです・・・!うわーん!!」 「春になったら、戻るといいよったやないか」  あらあら、なんかおっちゃんうれしいやんか。 でも、泣くのはアカンでー。といっても、なんか止まらへんなぁ。 「スキーできたかー?」 「剣の封印の時・・・僭越ながら心配になってしまいました。はい」 「あれかー。夢の中だけで終わらせたかった」 「はい・・・」  あかんあかん。しょげさせてもうたがな! 「ま、でもな。神々でなくても、なんとかなりよったやないか。人間えらい。もうちょっとがんばろ」 「な?」 「はい!ありがとうございます」  ふふふーん。典子ちゃんはええ子やなぁ。 にょろにょろしてまうわー。にょろにょろにょろ。 「おっちゃんシーズンオフは休んでるから、あれやけど、またプロ野球も始まったし、ええこともあるんとちゃいますか」 「ええ 私にとってはすでに今日、いいことがいっぱいです」 「国の方も、色々被害を受けましたが、復興具合はどんな感じかな・・・少しでもよくなってるといいですが」  そやなぁ。えらい頑丈そうな家もいっぱい出来てるしなぁ。 典子ちゃんも心配してたんやなぁ。 「・・・みんなが楽しそうにしてくれてると、うれしいですね」 「春は短いからな」 「はい。・・・これからまた身近に夏、秋、そして長い冬になりますが、夏も秋も、そして冬も、みんなが楽しんでくれたら、と思います」  なんや、典子ちゃん微妙に元気ないんかいな? よっしゃ、おっちゃんちょっと頑張るで!にょろにょろにょろ。 確か、あっちの土手に土筆がいっぱい生えてたはずやしな。 「春からの贈り物や」 「土筆!」 「鼠の剣だな」 「うれしいなあ。私、子どもの頃集めて食べてた気がするw」 「うんうん」 「・・・しあわせ・・・みんなありがとう・・・」  なんや、おっちゃん頑張った甲斐があったなー。 「小さい幸せやな」 「いい奴だといえ」 「悪いとはいうとらんやないか」 「あははw」 「小さい幸せだけど、みんなに分けたり、お返ししたりしたい」  そうやな。にょろにょろ。