「よっこらせっと」  抱えた本の数々をテーブルに置き、秋津隼人は満足そうに頷く。 「うー、ゆー」  トラナはふらふら歩くぎこちなさ一緒にと幾冊もの本を抱え、踏ん張っている。  おいおい、と嘆息し秋津はトラナから本を取り上げ、自分が置いた本の隣に置く。本と言う重石から解放されたトラナは未だ顔を紅潮させ、ふうふうと息を吸う。    「ありがとう、パパ」    「おう」  そんな二人の遣り取りを見て、図書館の貸し出し窓口のお姉さんは微笑を受かべる。『随分若いパパさんね』などと思いつつ、秋津より受け取った本の貸し出し処理を次々と行っていく。トラナが目を輝かせて、その手際よいお姉さんの手付きを見つめる。流れるように左から右に積まれていく本の内容は風景写真や、旅行書である。  今日は二人にとって大事な風杜神奈の誕生日を祝う為の打ち合わせをしようと地元の図書館に来ていた。厳選に厳選を重ね、選び抜かれた数冊の本。残りは返した筈だったが、トラナとしては落選させられない本があったのだろうか更に数冊持ってきたという訳である。  その様子に微笑を浮かべる秋津。周囲と打ち解けるのが苦手だったトラナが、こんなにも誰かの為に頑張っている。それは秋津にとって、娘の成長が感じられる嬉しい光景であった。  「頑張ったなトラナ」  トラナの頭を撫でる秋津。トラナは少しくすぐったそうな顔をしている。その時、目の端に借りた覚えの無い絵本が、受付のお姉さんによって貸し出し処理後の本の塔に積まれる。  それを見なかったことにし、秋津は心の中で苦笑する。甘え方はまだまだ下手だな、と。   /*/  「はい、という訳で今日は神奈の誕生日祝いについて会議をします」  真面目くさった表情を作り、長くカールしたヒゲをちょいちょいっと撥ねさせて見る秋津。トラナは「おー」と言いつつ、拍手している。  そして、そんな中ペンギンは一人、壁際に寄りかかり煙をくゆらせる。トラナの方には煙が行かないような器用な吸い方をしている。そもそも、そこまで気を遣うのであれば、吸わなければいいのだが、そこはそれ。ハードボイルドの拘りという処なのだろう。  「はい、そこのノリの悪い一名」  「俺はペンギンだ。一匹、というべきだな」  秋津は嘆息し、切り替えるようにトラナの方へに向く。そこへがちゃりとドアが開き、入ってくる人影がある。  「よぉ、差し入れに来たぜ」  日曜バンド仲間の、静寂(しじま)は近所の小売店のマークが入った袋を見せて現れた。  「お、何してんだ。似合わない真面目な顔して」  頭に被ったかつらを取る。  頭はモヒカンだった。本の載ったちゃぶ台にビニール袋を置き、更にその横にかつらを置く。普通の人が見たら、一体どういう状況なのか混乱しそうな光景である。  「何しに来た、モヒカン」  「だから、差し入れだって。はい、トラナちゃんには瓶入りチョコな」  「モヒカン、ありがとう」  「おい、夕飯前にお菓子を食べさせるな」    「ファンタジアさんよ、知ってっか。子供の発育に煙は悪いんだぜ」  蕩ける様な笑顔でペンギンを見る静寂。奥様方が列を成して失神しそうなその笑顔を数秒見つめ、ペンギンはフリッパーを一振りして喫煙を止めた。静寂は口寂しいだろうから、とペンギンに飴を渡す。いつの間にか話題の中心となっている静寂に対し、秋津は面白くない。  「おーまーえーはー」  「何、怒ってるんだよ。それより、なんだ。旅行でも行くのか?」  「あのね、神奈の誕生日にお出かけ」  「神奈ちゃんて、トラナのお友達って言う子か」  何度も首を縦に振る神奈を見て、モヒカンも満面の笑みを受かべる。その顔は如何にも人好きの顔だった。  「蟹だっけ。あれ、食べに行けば」  「うんうん」  「前に行ったのは駄目だ。それに今回はトラナの為じゃなくて、神奈の為だからな」  「じゃ、彼女の行きたそうな場所はどんなのがあるのさ?」  途端にトラナも秋津も頭を抱えてしまう。二人の脳裏には「どこでもいいですよ」と、控え目に笑う神奈の姿しか思い浮かばなかった。  「そう言われると、思い浮かばないな」  「ふーむ」  「いくつか候補を選んで、後は本人に選ばせればいいだろう」  タバコの代わりに飴を舐めるペンギンの一声。その娘の能力なら、行き先はその時に決めても大丈夫だろう、と付け足す。  あれもいい、これもいいと3人が本を開き、ああでもない、こうでもないと盛り上がり始める。こうして、一人の少女の誕生祝いの会議は続く。  相手を思い、自分も思われる。  血は繋がっては居ないけど、それはまるで家族のよう。  それはパパと二人の姉妹の物語。  /*/   後日。  「これ、いいな」  「うんー」  「って、それは図書館のだから、切り抜いちゃだめー」  「よぉ、差し入れに来たぜ。今日のお土産は観光雑誌だ」  「………」  「モヒカン、ありがとー」  「おう」 ///////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////  お疲れ様です。  久しぶりに「Romantic DARK SUMMER」を読んで、あれペンギンて出てなかったっけ、と焦る文族の端くれ その1です。  しかし、モヒカンがかっこよすぎて困りますね。活躍させ易い二番手キャラです。 また、是非どこかの生活ゲームに出てこないか、期待していたり。  それでは、本日は読了頂き、ありがとうございました。