めぞんツン国。 砂漠の片隅に居を構えるこのアパートの1階部分は、 キノウツンPCたちの会議場として臨時に使われたり、菓子をつまみつつ世間話をしたり……、 要はすることなくても適当にだべる溜まり場として親しまれている。 住人である者以外にも、集まりやすさからめぞんへと足を向けるPCは多い。 そして私と一緒に帰ってきたこの小宇宙は、このめぞんの管理人。 さっきまでイアイドや管理機構の番長たちと一触即発だったにもかかわらず、 この小宇宙という男はそんな雰囲気をおくびも出さずにゆったりとした足取りで管理人室へと入り、 人数分のお茶を用意している。 「で、どうでしたか」 声に反応するように、ロビーの方を振り向く。 例に漏れずだべっていたと思われる、桜城とかいう男だ。 他の面々……住人であるアシタ、船橋、沢邑、スカーフ、浅田、青狸、 あと同じ第7世界人のはる、高原、蓬莱山、桜城……って多いわね相変わらず……! 第7世界人じゃない他の住人は部屋で寝ているのだろうか。 これ以上人数が増えてもややこしくなりそうだし、ありがたいといえばありがたい。 ……とにかく、そいつらも興味深げに小宇宙を見ている。 「管理機構が来ていた。12人もいたとは驚きだ」 ゆったりとした手つきで急須を回しつつ応える小宇宙。 途端にざわめきが広がる。 当然よね。管理機構の名を聞いて震え上がらない者なんていないもの。 ましてや12人。私だっておっかな 「十二神将がいいですかね」 「絶対四天王くらいだと思ってたのに……」 「ある日突然、あなたに12人の管理番長が出来たらどうしますか?……これは流行らない」 「12といったら12星座だろ常考」 「十二宮!十二宮!」 「やめろ、俺のトラウマを蘇らせるんじゃない!」 「蟹座乙」 「まあ、名乗ったのは迅雷の力石とかいうやつだけだったが」 「力石!」 「知っているのか高原!」 「いや、名前に反応した」 「物凄くボクシングが得意そうですね」 「迅雷……そして力石……これは間違いなくパンチスピードが光速を超える」 「セイ……番長に同じ技は二度通じぬ もはやこれは常識ということですか」 「そういやメンチビームを『古い技』だと言ってたな。やはり同じ技は通じないのか」 「小宇宙には燃えてもらうしかないな、二重の意味で」 「誰上」 「燃え尽きたぜ……真っ白になフラグですね わかります」 「誰上」 な、何を話しているのこいつら……?ていうかちっとも怯えてない……。 与えられた情報に対し何やらお互いに発言を繰り返しては笑い合っている。 管理機構の恐ろしさをわかっていない……そうに違いないわ……。 そこへ、全員分の配膳を終えた小宇宙が戻ってくる。 「お茶だ……。あと、管理機構から挨拶代わりの柏餅だそうだ」 「これは礼儀正しい……のか……?」 「あんこ系なら僕ドラ焼きの方が……」 「毒とか入ってないですよね」 「管理機構はそんな卑怯な真似しないわよ」 そう。その愚直なまでのこだわりこそが恐ろしい。 そのことに早く気付かせなくちゃ 「うーーーーまーーーーいーーーーぞーーーー!」 「あ、言おうと思っていたのに」 「おお、はるの”味知のヒゲ”が持ち上がったっ……」 「パアン!(拍手)」 「遙ちゃんたち寝てるんだから静かにお願いします」 ……何なのこいつらは!?管理機構が怖いとかそういうのを別にしても、 若手芸人のようなネタへの食いつきよう、何かの競技でもしてるの!? ねえ、ちょっと小宇宙からも管理人としてびしっと 「やれやれ、こんな柏餅をうまいと言っているようじゃ、 感覚+5食事者っていうのも怪しいもんだ」 ……小宇宙? 「ちょっと小宇宙、いくら敵とはいえ引越しの挨拶に対してそんなことを言うなんて……」 「明日またこのめぞんに来てください。 こんなただ高そうな柏餅よりずっとうまい柏餅をご覧に入れますよ」 ロビーが爆笑に包まれる。 わからない。わからないわ……。今のやり取りのどこに笑う要素があったっていうの? 小宇宙も、店子たちと楽しそうに談笑している。……疎外感。 そして落ち着きを取り戻し、ようやく私がいることに気がついたという表情の面々。 「いい合いの手でした、なおみさん」 「しかしキノウツン的には究極より至高の方が。ツンデレ的な意味で」 「この柏餅を作ったのは誰だあっ!」 「つ管理機構」 「なおみさんもいるんだからそろそろ自重」 「すいません内輪ネタで盛り上がってしまって」 「いや、別に」 さっきまでとはうってかわって神妙そうな面々。 なんだかこっちが悪いことしたみたいじゃない。 はぁ……。小宇宙の管理してる店子ってこんなんばっかりなの……? 全員が全員ボケ要員、噛み合わない漫才でもしてる気分だわ。 小宇宙も、よくこんなてんでばらばら、好き勝手な店子たちの管理が出来るわね……。 「小宇宙」 「何だ?」 「一体どうやって管理をしたらこうなるわけ?」 「……俺の管理では不満足か?」 「不満とかそういう問題じゃないわよ!ていうか管理なんてちっともしてないし!」 「だが……みんな楽しそうだったろう?」 「……!」 そう言って私を見る小宇宙の瞳は、イアイドたちを威圧した時の鋭い眼とは違い、 どこか暖かく、優しげだった。 この目を見て、こいつが曲がりなりにも管理人として、 荒唐無稽な連中を従えている理由が少しわかった気がした。……なんか悔しいけど。 「そういや小宇宙、今日は管理機構と会って柏餅もらっただけ?」 「ああそういえば、イアイドがもう出現して暴れてたな。 管理機構はイアイドたちもまとめて管理する気らしい」 その一言で、あたりの雰囲気が一変する。 「ちょwwwwww」 「そういうことは」 「最初に言え!」 「ええいこうしちゃおれん。対策練るぞ対策」 「まだ完成もしてないってのに」 「政策作るー」 「俺たちももう着れるのかなあ。今度着て開示のときにいい影響が出るようにするとか」 「まあ何にせよ提出急がんとな」 緩みきっていた場の空気、面々の顔つきが一気に引き締まる。 ある者は政庁へ、またある者は目を閉じて考えを巡らせ。 交わされる会話も、さっきまでとは違い真剣なことこの上ない。 まさか。 これこそが小宇宙の真価だというの? さっきまで「全員ボケ」だったのが、「全員ツッコミ」になり、「全員真面目」に……。 全員が突っ込まざるを得ないある種天然のボケをかまして、場の空気を作り出す。 こんな管理方法、聞いたことないわ……! 小宇宙。 一度はあなたのこと見損ないかけたけど、訂正するわ。 やはりあなたは好敵手、管理番長小宇宙……! 見ていなさい。 今に管理機構も小宇宙も全て、私が管理してみせる……!