ここ数日 ツイッターどころかメールの返信、日記の更新すらも疎かになっていますさくらです(^^;
幼稚園と小学校関連の用事が目白押しで昼間駆けまわっている挙句 夜は夜で 園と学校指定の袋物大量生産に追われて時間が全くないという体たらくです。
そこに持ってきて押井本読んでみたり 子供を病院に連れていったりと何故用事って重なるのかしら、と空に向かって叫びたいくらい(笑)
ええと 押井本に関してはもう・・・というわけで緊急招集チャットは先日終了したのですが明日の夜 某所でも開催予定があるそうなので参戦したい方は覗いてみてはいかがでしょうか?(^^)
心やさしい管理人さんなので初めての方も安心して参加できるのではないかと~☆
場所に関して知りたいわ~と言う方は個別にご連絡くださいませ♪
(リンクを辿っていただいても辿りつけますが~☆)
さてさて暦の上では立春を過ぎて春になりましたね。
昨日は暖かかった関東ですが寒の戻りもある様なので油断禁物!
寒さとインフルエンザ対策はシッカリしていきましょうねっ
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そしてここからは連載のお話。
前回からなんと2ヶ月・・・
最早忘れられていても不思議ではない間の開き様では御座いますが・・・
どうにかこうにかここまで辿り着きました。
今回は凄く長いんですよね。
正直2回に分けたかったんですがどこで切っても妙に収まりが悪くて結局こんなことに☆
毎度毎度読むのが大変な量でごめんなさい~
というわけで読んであげてもいいよ、というお客様はこちらか☆
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不在 39
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SIDE-SV2(6)
二課に戻って数日が経ち出向の為事実上休暇を返上した形になった一号機コンビは今一つ疲れが抜けきらない状態のままデスクワークに勤しんでいた。
こみ上げる欠伸を噛み殺した野明が隣席の遊馬を見遣ると同じように眠気を抑えて大きく伸びをする姿が目に入る。
二人揃って疲労感を漂わせているその様子に太田が剣呑な眼差しを向けた。
「なんだ お前ら二人揃って欠伸なんぞしおって。少し弛んどるんじゃないか」
ふんぞり返りそうな勢いで言う太田に半眼を向けた遊馬は面倒臭そうに「へいへい 申し訳ございませんね」と投げやりに言い手にしていたシャープペンをポンと机の上に放り出した。
その態度に大きく顔を顰めまだ何か言い募ろうとする太田をさらりと無視し徐に立ち上がった遊馬はそのまま野明の肩を叩いて軽く顎をしゃくった。
黙ってそれに倣う彼女を見た太田が更に口を開こうとするのを遮り「頭 冷やして来ます」と殊更大きな声で宣言した遊馬は野明を伴って扉の向こうに姿を消した。
残された太田が「何なんだ あの態度はっ」と吐き捨てるのを聞いて山崎と進士は肩を竦め、不満のぶつけ所を失った太田が乱暴な仕草で椅子に座り直すと隣席の熊耳がやれやれといった様子で額を押さえた。
「太田君、人に注意をするのもいいけれど報告書がまだよ」
「あ・・・はい、申し訳ありませんっ。しかし・・・」
「あの二人の件に関しては隊長達が判断します。それに・・・」
感情の読み取り難い目線を机に落とし彼女は微かに眉を顰めた。
手元には彼等から提出された出向期間中の報告書が束になって置かれている。
作業時間こそ基本的に定時間内であるもののその作業内容の濃さと多さに彼女は目を瞠った。
これだけの仕事を時間内にこなす為には事前準備もさることながら基礎的知識が圧倒的に足りない野明自身も同等かそれ以上に準備と勉強を必要とした筈だ。
スケジュール的に見ても勤務時間内にそれを行う事はまず不可能。
となれば社内で残業をしていないだけで退勤後作業報告に現れないその作業に相当な時間を割かれていた事は想像に難くない。
試験の準備と彼女の勉強 双方に手を掛けていたであろう遊馬の負担は相当なもので あの二人がこの一週間満足に睡眠を摂っていないことを察した彼女は報告書をチェックしながら眉間に深い皺を刻んだ。
「全く あいつらときたら・・・」
その仕草を不満と受け取り小声で毒づいた太田は彼女に困った様な視線を向けられ思わず鼻白むと慌てて机に向き直った。
どうにかその場が落ち着いた事にホッとした進士と山崎もまた自身の机での作業を再開する。
静かな中にカリカリとペンを走らせる音だけが響く室内。
暫く落ち着か無げに席に着いていた太田が遂に痺れを切らし眉間に皺を刻んだまま足を鳴らして部屋を出ていくとキャリア組二人が顔を見合わせて大きく息を吐き出し 熊耳は深く溜息をついた。
隊員室を出た遊馬は野明を連れて電算室に向かった。
端末を立ち上げ席に着くよう促すと自分はその隣に腰を下ろす。
棚からディスケットを引き抜いた遊馬はそれを彼女に向かって差し出した。
「一号機のデータ。自分で見てみな」
言われるままデータをロードした野明は画面を見て軽く目を瞬いた。
「どう?」
「えっと・・・」
「読めるようになってるだろ?」
「うん・・・」
画面をスクロールさせながら野明は少し不思議な気分で表示されるパラメータに目を通した。
「さて ここで問題。一号機の動作パターン 欠点を述べよ」
「えっと・・・やっぱり私、射撃下手だね・・・」
「そうだな」
あっさりと肯定され、野明がむぅっと拗ねた顔をすると遊馬はクスクスと笑いながらくしゃりと髪を掻き回した。
表示された命中率の低さに彼女が深い溜息をつくと遊馬は画面を切り替えて動作パターンの解析データを表示した。
「で・・・なんでそうなのか判るか?」
「えっと・・・ちょっと待って」
懸命にデータに目を走らせ気になる個所を探しある所でスクロールを止めた彼女に遊馬は小さな笑みを浮かべた。
「標準が・・・ぶれてる・・・?」
呟く様に言った彼女に遊馬は軽く頷くと横からモニターを覗き込んだ。
「だよな。他の時はそんな事ないんだけどさ、リボルバーを構えると上腕が横滑りすんだよな、お前」
「気付いてたの・・・?」
「ちょっと前にな。初めはお前が撃つのに躊躇いがあるからだと思ってたんだけどさ。どうも・・・癖じゃないかと思うんだよな」
「癖?」
「ああ おそらくそういう動作を繰り返した結果 こいつが学習しちまった癖なんだと・・・」
そう言って遊馬はディスケットを入れたドライブを指でコンコンと軽く弾いた。
「これが?」
「行動パターンデータってのはそういうもんだろ?現場でさ お前リボルバー使うの結構躊躇うだろ?その時無意識に標準がぶれてるんだと思う。それをこいつが記録しちまってるんだ、多分」
「どうして今になってそんな事・・・」
彼女の単純かつ当然の疑問に遊馬は苦笑いを浮かべた。
「気付いたのは偶然と言うか・・・出向の副産物なんだけどさ。お前 シュミレータでの射撃ならちゃんと的の真ん中に弾を撃ててたじゃないか。だからさ何で慣れたイングラムでも苦手な事が向こうなら可能なのかって考えてたんだ。そう考えると幾つか同じような事があってさ。殴る、とかタックルみたいな動作もイングラム使うより与えるダメージ値を大きく出せてただろ。最初はハードスペックの差かと思ったんだけど・・・そうじゃないんだよな。対象物が・・・計測器やシュミレータ上の仮想目標物だからなんだ」
「・・・え?」
「要するにラボでの試験は目標物が実体のないCGだったり、有ったとしてもそれは無人の計測器な訳だろ。周りに被害がでないって判ってる状況だから迷う必要が無い。けどイングラムで相手にするのは殆どの場合有人のレイバーだし周辺被害も考慮する必要がある。だから躊躇するんだ。そしてそれがそのまま動作に出る。その蓄積が最も顕著に表れたのがリボルバーの標準で毎度同じように迷っていた結果それがパターンとして学習されちまったんじゃないかって事」
「・・・成程ね。そうだとしてさ、こういう場合 どうしたらいいのかな?」
遊馬の言に『一理ある』と思いつつも野明は困ったなぁという顔で眉根を寄せ彼の顔を振り仰いだ。
「どうっていわれてもなぁ・・・理想を言うならその部分の誤差を修正するのが一番なんだろうけど、それはここじゃ無理だよな」
動作の結果をパターンデータとして解析することは出来ても中身に手をつけるのは容易な事ではない。
まして長い時間をかけて蓄積記録してきたそれは様々なデータと関連を持ってしまっていて開発関係以外の人間が不用意に手を加えるのはリスクが大きかった。
腕を組んで少し考えていた遊馬はふと背後を振り返り「そこ打ち出してマーキングしとけ」と野明に指示を出すと徐に椅子から立ち上がりスタスタと戸口に向かった。
きょとんとする野明をよそに思い切りよく扉を開け放つとそこには慌ててその場を立ち去ろうとしてタイミングを失った太田が奇妙な体制のまま固まっていた。
呆れた顔で戸口に立った遊馬はバツの悪そうな太田を見てニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。
「何か用か、太田ちゃん?」
「別に お前らに用があった訳ではない、ただ その 何だ、電算室に用があってだな・・・」
しどろもどろになる太田を前に遊馬は「ふーん」と言いながら笑いを噛み殺す。
「なら入ればいいだろ、んなところでウロウロしてないでさ。俺らの用事はもう終わったし。野明出力終わったらそれ持ってハンガーに降りるぞ」
「あ・・・うん。ちょっと待って、今 印つけるから」
野明は急いで該当箇所をカラーマーカーでくるりと囲むと用紙を束ねて太田を振り返った。
「えっと 太田さん端末使う?」
「ああ うん、そうだな」
「じゃあ 電源入れとくね お先に」
プリンタ用紙を抱えて遊馬の元へと駆けていく彼女を見送り一人電算室に残された太田は電源が入りっぱなしの端末を前に小さく肩を竦めた。
このまま部屋を出る訳にもいかず取り敢えず二号機用のディスケットを取り出したものの途方に暮れた顔で溜息を吐く。
逃げた二人に一言小言を言ってやろうと思って出てきたにもかかわらず勢い込んで扉の前に立った彼に聞こえて来たのは真面目にデータを解析している二人の会話だった。
これまでは遊馬が操作する端末の横で野明が置き物宜しく隣に座りその作業をみているだけか「よくわかんない」と首を傾げる彼女に対し遊馬が溜息交じりに内容を説明するのが常だった。
ところが今回は端末の操作を野明に任せ彼女自身にデータを読ませ遊馬が講釈を加えていた。
それはつまりこの一週間で彼女にデータを読む力がついたということでその代償があの欠伸だとすれば、出向期間中野明が寝不足になるほどの時間を勉強に割いた事になる。
となればその学習に付き合ったのは当然遊馬で 熊耳が自分に向けた困り顔がそれを踏まえての事だったのだと彼は漸く気が付いた。
その事を踏まえた上で先程自身が発した言葉を思い出し少しバツの悪い気分になった太田が取り出したディスクを手の中で弄んでいると背後で扉の開く音がした。
振り返ると書類を手にした熊耳がスタスタと室内に入ってきて空いている端末に電源を入れ指揮車で収集したデータディスクをドライブに放り込んで席についた。
黙ってデータに目を通しながら彼女は手の止まった太田を横目に微かな溜息をつくとリターンキーを叩いて演算処理を開始させ軽く頭を振った。
「手がお留守よ、太田くん」
「あ・・・はい、申し訳ありません」
慌てて手にしたディスクを端末に放り込んだものの特に目的があって取り出したものではなかっただけに表示された文字列を追う目はモニター上を上滑りする。
表示される数列を前に彼は途方に暮れた様に顔を顰めその様子に熊耳は肩を竦めつつゆっくり口を開いた。
「確かに・・・通常業務に支障をきたす様な生活はどうかと思うけれど、それなりに身に着けるものは着けて来たようだし今のところ作業の進捗に影響が出ている訳ではないわ。そう目クジラを立てる程の事ではないんじゃないかしら?」
「いや・・・しかし・・・」
引っ込みが付かない気分で口籠る彼に熊耳は困った様な笑みを向け処理の終わったデータのバックアップを手に椅子から立ち上がった。
「それに・・・今回の出向に関しては後藤隊長にも考えがあったみたいだし・・・」
呟く様な彼女の言葉に太田が困惑した顔を見せると 一度深く息を吐き出した彼女は気持ちを切り替えぽんっと彼の背中を叩いた。
「まぁ その話は置いといて。他人の事はともかく先ずは自分の事よ。差し当たってうちもデータの読み方講習会でも始めてみる?ぼんやりしてると泉さんに置いて行かれちゃうわよ」
殊更快活に言う彼女と目の前の端末を見比べこめかみを引き攣らせた太田は乾いた笑いを顔に貼り付けガタンと椅子から立ち上がった。
「先に報告書を仕上げて参りますっ」
大声と共に勢いよく敬礼したかと思うと太田は素早く踵を返し電算室を走り出て行った。
苦笑を浮かべその背中を見送った熊耳は「全く仕様が無いわね」と呟きつつ彼が立ち上げっぱなしにしていった端末からディスケットを引き抜き元の棚に戻した。
不器用な性格故に言い方に問題はあるが太田が様々な意味で一号機コンビを気にかけている事は彼女も良く承知している。
生真面目性格が災いして遊馬と小競り合いになる事は多いが最近は以前ほど険悪な状態になる事はまず無くなった。
裏を返せば遊馬が彼のあしらい方を覚えたと言う事にもなるのだが太田自身も彼の行動に一々いちゃもんをつけなくなったと言う面もある。
時間をかけて培ってきたその距離感は良くも悪くもこの部署特有の物で他の部署ではまずあり得ない。
ここに来る前の自分ならおそらく太田と同じように彼等を窘めていたかも知れないと思うと彼女は聊か困った顔で腕を組んだ。
自分を含めた第二小隊の面々が後藤というリーダーの元、警察組織としては他に類を見ないほどフランクな職場環境にすっかり慣れきってしまった事は否めない。
秋に控えた人事ではまず確実に実験部隊である二課全体の再編成があるだろう。
そういう意味ではそれを前に短期出向と言う形とはいえ一般企業に身を置いてみるということは彼らにとって有益だろうと思えた。
加えて遊馬には他の面々とはまた違う意味で大きな岐路がある。
おそらくはそれをも考慮に入れた結果が今回采配なのだろうと思い熊耳はやれやれという顔で小さな溜息を吐いた。
「本当に厳しいんだか、甘いんだか・・・」
お節介とも取れる上司の立ち回りに微苦笑を浮かべ端末の電源を落とすと彼女もまた電算室を離れた。
隊員室に戻る道すがら出力したデータを手にシゲと話し込む一号機コンビを目に留めた彼女は微かにうら寂しい気分を感じながら二人を見遣り「まぁ 気持ちは判るわね」と小さく肩を竦めた。
成長を喜ぶ気持ちと巣立ちを惜しむ気持ち、そして見送る時には何か餞をと思う親心に似た感情。
そんな物を感じた熊耳は「私まだ独身なんだけどなぁ」と呟くと軽く天井に目を向けた。
ハンガーを見下ろすキャットウォークの手すりに身体を預け一号機コンビを見下ろしていた彼等の上司は口の端に小さな笑みを浮かべ隣に立つ同僚に声を掛けた。
「ま・・成果はあった、って感じかな」
「だといいれど。でも期待してたのは彼らの意識改革だけではないんでしょう?」
「まぁね。でもそっちの方は問題ない、かな」
そう言うと後藤は一枚の紙片をひらひらと振って見せた。
黙ってそれを受け取りざっと目を通した南雲は「ふぅん」と小さく呟いて紙片を彼に返し軽い溜息を吐いた。
「相変わらず裏でこそこそがお上手だこと」
「人聞きが悪い言い方しないでよ、これでも色々苦労してるんだからさ」
「はいはい。それはそうとあの子たちは知ってるの?」
「さぁね。でも篠原あたりは薄々察してるんじゃないかと思うよ」
彼と同じように階下を見下ろした南雲は連れ立って移動する二人を目で追った。
「そう。でもそいいう話が来てるなら 彼らに知らせなくていいの?」
「それはまぁ・・・追々ね。うちの小隊あれで結構デリケートだからさ」
飄々とした態度を崩さない同僚にやれやれと言った態度で小さく息を吐いた彼女はくるりと踵を返し「その辺はご自由に」と言いながら隊長室へと向かう。
後藤はその背中を見送ると複雑な笑みを浮かべて手元の書類に目を落とした。
秋の人事が本格的に動き出し内々示が下りてくると二人の隊長は各々自分の部署に関する書面にざっと目を通した。
通達内容が概ね自分の希望に叶っている事を確認した後藤は心底ほっとしたものの、その顔にはどこか寂しそうな色が浮かんだ。
滅多に見る事のないその様子に南雲が微かに同情の籠った眼差しを向けると彼は一瞬で表情を改めいつもの飄々とした顔を作ると両手を頭の後ろに組んでぐっと背を反らせた。
「しのぶさんとこは どんな感じ?」
「どんなも何も。概ね予想通り、って感じかしらね」
「へぇ?」
「新設部隊への移動が半分とあとは・・・」
「他部署への配置転換・・・か」
「判ってはいた事だけど・・・残念ね」
経験を生かした部署への異動が叶った人数の思った以上の少なさに南雲は諦めに似た気持ちで深い溜息とともに大きく肩を落とす。
移動する面々を出来得る限り経験の生かせる部署へ移して貰えるよう福島を介して掛け合っていた彼女に後藤は苦いものが籠った笑みを向けると自分の手の中にある書面に目を向けた。
彼女と比べ格段に広い人脈と正攻法だけとは言えない手段で手を回した結果得られた部下の落ち着き先。
部隊創設に際し黎明期から共に頑張ってきた部下に対する思い入れは自分と同じかそれ以上であろうしのぶに対し少し申し訳ない気持ちを感じながらも後藤は敢えてその事には触れず体を起こすと机に両肘をついて組んだ手の甲に顎を乗せた。
「しのぶさんはよくやったよ・・・」
「・・・力不足は否めないわね。・・・こういう時、もっとちゃんと人脈を作っておくんだったと後悔するわ・・・」
「向き不向きがあるからさ、それは」
苦笑する彼に南雲は小さく肩を落とす。
「・・・そうね。たとえ私に後藤さんと同じ人脈があったとしても貴方の様には立ち回れない。悔しいけどそういう面では完敗だわ」
「勝ち負けの問題でもないと思うけどね」
淡々とした口調の同僚に彼女は寂し気な顔で目を逸らし改めて手元の書面に目を落とした。
「そっちは?随分 忙しく動いていたみたいだったけど・・・?」
「お陰さまで。あとは・・・本人達次第ってとこかな」
「そう・・・で・・・いつ話すの?」
探る様な眼差しを向ける彼女に後藤は難しい顔で微かに眉根を寄せ腕を組み直した。
「まぁ・・・早い方がいいんだろうけど。先ずは・・・熊耳と・・・篠原から、かな」
「そちらは何かと気を遣う事が多くて大変ね」
微苦笑を浮かべた南雲に軽く肩を竦め「大変ですよー」と嘯いた後藤は緩慢な動作で受話器を手に取り釦を押す直前ぴたりと動きを止めた。
「ここ 使える?」
「ご自由に。席は外した方がいいのかしら?」
「まさか。そんな意地悪は言いませんって。それに気になるでしょ それなりに」
「・・・そうね」
『しょうがないわね』という顔で小さく頷いた彼女が再び書面に目を落とすと後藤は口の端に小さな笑みを浮かべ改めて受話器を手に取った。
「失礼します」
そう声を掛け顔を出した自らの部下に着席を勧めた後藤は数枚の書類を手にしてその正面に腰を下ろした。
探る様な目を向ける青年を前に感情の読み取りにくい顔で手の中の書類を一瞥した彼は徐にそれを部下の前へと滑らせた。
軽く頬杖をつきながらざっと書面へ目を通した遊馬はそこに記された人事異動の詳細を見ると黙って眉間に皺を寄せる。
秋の人事に自分たちが掛っていることは予め聞かされていたのでそれに関して殊更驚く事はなかったものの一覧表の中から真っ先に自分とパートナーの行く先を探し出すと内容を確認した瞬間彼は何とも言えない複雑な表情を浮かべた。
「装備・・・開発課ですか」
「・・・どう思う?」
「どう・・・と言われましても・・・」
眉間に刻んだ深い皺が彼の葛藤を如実に表し後藤は苦笑したい気持ちを抑えて無関心を装った。
そんな上司を目の前に遊馬は視線を合わせる事無く手元の書類に記された自分たち以外の行き先にも目を通す。
「何と言うか・・・これ、熊耳さんは?」
「まだ これからだな。先ず篠原の意見を聞こうと思ってね」
「・・・それは・・・どうも」
後藤が自分の微妙な立場を慮った事に思い至り遊馬は小さく肩を竦めると『参ったなぁ』と言う顔で頭を掻いた。
自分と野明の移動先として示された部署は『警備部 装備開発課』
この部署の役割を考えた遊馬は難しい顔で口元に軽く手を添えた。
正直なところ遊馬はここから異動になるならば行き先は今の仕事とは無関係の部署になるだろうことを覚悟していた。
それは野明に関しても同様で彼女もまたレイバーとは無関係の、しかも自分とは違う部署に配属されると予想していた。
或いは彼女だけが最初の数カ月ないし半期程度の期間、ここ、若しくは新設されるレイバー隊で後進指導に当たる可能性も考えたが、それにしても新設部隊の運用が軌道に乗るまでの事であって それが終われば遅かれ早かれ畑違いの部署への配置転換は免れない、それ故に後藤が今度の出向に対し非常に前向きだったのだと遊馬は思っていた。
幾ら現場での実務経験があるからと言ってもそれだけでは篠原側へのアピールとしては明らかに足りない。
異動が最早動かせない事となった時、野明や自分をレイバーに関わることのできる場所へ向かわせてやろうという配慮の結果が出向への快諾であり 自分たちの有用性を篠原側に示すことで所謂転職の足掛かりを作ったのだと解釈していた。
しかし実際はもう少し状況が複雑だったらしい事に遊馬は何とも言えない気持ちで大きく顔を顰めた。
父に反発し家を出たものの結局レイバーや新しい技術に関する興味は捨てきれなかった。
警官になり配属になったレイバー隊は幸か不幸か最新鋭の装備と技術に触れる機会に事欠くことはなく組んだパートナーが愛機の中身に殆ど興味を示さない性格だったことも手伝ってそのフォローにも手を伸ばした事からソフトのみならずハード関連の知識も格段に増えた。
このままレイバー関連の仕事に従事したいと考えだした所で地方公務員としては避ける事の出来ない人事異動の話が持ち上がった。
正直、今 警察を辞して篠原に転職する覚悟はまだできていない。
かといって革新目覚ましい分野において技術職を目指すなら開発の最前線を離れることは絶対に避けたい。
現状と自分の気持ちが上手くかみ合わない状態にジレンマを感じていた遊馬は示された部署名に後藤の影を感じ取り軽く目を閉じると静かに息を吐き出した。
「俺たちはここで何を?」
問うと言うよりは確認するような彼の声音に後藤は淡々と受け応える。
「警察向け装備開発のお手伝い。具体的には今 月一で行って貰ってる出向の継続、ってことになるだろうな。少なくとも篠原側からはお前達を名指ししてそういう要望が来ている事は確かだ」
「成程・・・」
「まぁ 今の体制じゃスポット的にしか対応できない訳だから、出向させるならそれなりの部署に移籍して専念して貰う方が双方の為じゃない」
しれっとした顔で言う上司に遊馬は「ありがとうございます」と深く頭を下げた。
「ありがとう?なんで? ま 正式な発表はもう少し先になるけどそういう事だからさ、心に留めといてよ。じゃ お話はこれでお終い。隊員室に行ったらさ 熊耳呼んでくれる?」
遊馬の手元から書類を抜き取り素知らぬ顔をでひらひらと手を振る上司に彼は苦笑いを浮かべて腰を上げた。
「了解です。・・・それと・・・隊長。この話、皆には・・・」
「一応 熊耳にはこれから話すけどね。他の面子への対応は二人に任せる。正式に話が来るまでこっちからは特に何かする心算はないからさ」
「・・・そうですか。では 失礼します」
一礼して退室した遊馬を見送り扉が閉じるのを確認した後 コリをほぐす様にコキコキと肩を鳴らす同僚を見てそれまで黙って成り行きを見守っていた南雲がからかい交じりの笑みを向けた。
「教えてあげればよかったのに」
「教えるって・・・何を?」
「・・・まぁ 彼は言わなくても気付いたのかもしれないけど?」
「裏方仕事はね、こっそりやるのがいいんだよ」
嘯く同僚に彼女は苦笑いを浮かべ小さく肩を竦めた。
「はいはい、私は何も知らないわよ。本当に後藤さんはあの子たちに甘いんだから・・・」
「別に甘くはないけどね。過酷な職場環境で結構無茶もさせながら3年一緒に仕事してきたんだ。最後くらいは隊長らしい事、してやりたいじゃない?」
軽口を叩きながらもどこか寂し気な笑みを見せる彼をチラリと見遣り南雲は軽く溜息を吐いた。
「そうね・・・でも・・・」
言葉を続けようとした彼女は同僚が微かに肩を竦め視線を泳がせる様を見て言いかけた言葉を飲み込むと黙って小さく首を振った。
「熊耳さんが来る前にお茶、淹れ直しましょうか」
「悪いね」
「いいえ お気になさらず」
さらりと答え意識的にキビキビと応接セットの茶器を片づけ始めた彼女は飄々とした態度を崩さない同僚を見遣り『あの子たちからすれば充分「いい隊長」だったんじゃない?』と心の中で呟くと口の端に微かな笑みを浮かべた。
程なく姿を現した熊耳に遊馬に見せたものと同じ書類を手渡すと彼女は淡々とした様子でそれに目を通した。
「一応 篠原には先に見せたんだけど、他の面々への対応は二人に任せるから」
しれっと言う上司に彼女は軽く目を見開くとすぐに表情を改め軽い溜息を吐いた。
「私達から言わせるんですか?」
「それはさ、任せるって。先に話しておいて心の準備をさせるもよし、内示が出るまで黙って今の業務に専念させるもよし」
そう言う判断を自分たちにさせるのか、と微かな皺を眉間に刻み少し考え込んだ熊耳は聊か恨みがましい視線を自らの上司に向けた。
視線を受けた当の上司は飄々とした態度を崩さぬまま口の端だけに笑みを乗せ部下の顔を眺め遣る。
「何も異動通知そのものを任せるって言ってる訳じゃないんだからさ。そりゃ正式に通達が来たら俺が内示だすけどね。今の時点じゃ 内々示だし滅多にあることじゃないとはいえ土壇場でひっくり返る事が無い訳じゃ無い。正式に内示が下りるまであとひと月半、異動までは2カ月ちょっとあるでしょう?通常業務に支障が出ない様にメンタル面見ながら上手くやってよ」
にんまりと笑う上司に熊耳が諦めた様子で「承知いたしました」と返事を返すと、少し間を置いて後藤は真面目な口調で話を続けた。
「お前さんと篠原に先に知らせた理由だけどさ・・・」
「・・・察しはつきます」
「・・・で 良かったのか?」
「ありがたい事だと思います」
「そうか」とだけ答えた後藤に南雲は無言のまま一瞬複雑な表情を浮かべその変化に気が付きはしたものの熊耳は敢えてその事に何も触れることなく手にした書類を上司に返した。
後藤が黙ってそれを受け取り僅かな沈黙の後「話は以上だ」と言うと熊耳は目にも鮮やかな敬礼を見せて隊長室を後にした。
隊長室に残された二人の間にも微妙な沈黙が下り、南雲が苦い溜息をつく。
「ありがたいこと・・・か」
後藤の呟く様な声に彼女は机上の書類を見詰めたまま微かに眉を顰めた。
「・・・そうかもしれないわね」
熊耳の行き先は神奈川県警。
新設されるレイバー隊の小隊長という一見栄転。
しかし見ようによっては彼女を警視庁から引き離した様にも見える。
優秀な人材とはいえ リチャード王との関係が一度ならず二度までも疑われた以上この手の話題に五月蠅い警視庁内での重用には何かとハードルが高い。
警視庁に留まり好奇の目に晒される経験をした南雲にとってその居心地の悪さは身に染みる所で 彼女の転属先が神奈川県警のレイバー隊に落ち着いた裏にも後藤の尽力が有ったであろうことは察するに難くない。
他の面々に比べ複雑な立場に有る二人であるからこそ 後藤は熊耳と遊馬にだけ先に内々示を知らせ、その内容について他の隊員に対して先に話すかどうかを本人達に任せたのだと判ると南雲はやれやれというように肩を竦めた。
「本当に後藤さんはあの子たちに甘い・・・」
『もしあの時 自分にもこんな上司がついて居れば少しは人生変わっていただろうか?』
詮無いことを思い顔を曇らせた彼女に後藤は気付かぬふりをして「俺は誰にでも優しいよ?」とかららかう様な口調で混ぜ返した。
そんな彼に南雲は思わず苦笑すると「はいはい」とぞんざいに返事を返し処理すべき書類に向き直った。
隊長室から戻った遊馬が席につくと隣席で日報を書いていた野明は顔を上げ手を止めた。
入れ替わりに出ていく熊耳を見送り微妙に緊張感の漂う雰囲気の中 野明は思い切って遊馬に声を掛けた。
「おかえり」
「おう」
短く答えてペンを取る遊馬に野明がこれ以上声を掛けるのを一瞬躊躇い、斜め前から太田が物言いた気な視線を投げかける。
それに気付いてはいたものの遊馬は敢えてそれを黙殺し顰め面をして目線を下げたまま手の中でシャーペンを2,3度くるくると回した。
「野明、後でいいか?」
軽く視線を上に向ける彼の仕草を『屋上に来い』という事だと解釈し野明が「ん」と小さく頷くと彼はそれきり黙って書面にペンを走らせ始めた。
居心地の悪さを感じつつ野明もまた日報の続きに取りかかり程なく熊耳が戻ってくると全員の視線が彼女に集中した。
遊馬と目が合うと熊耳は複雑な顔を見せ 軽く肩を竦めた彼の様子にまだ誰にも人事の話をしていない事を察すると彼女は静かに頷いて自分も席についた。
隊長室で話された内容に興味はあるものの何となく聞きづらい雰囲気が漂い誰もその件に触れる事ができないまま定時が過ぎ 遊馬について屋上に上がったものの厳しい顔でさっさと腰を下ろした彼に少し気遅れした野明は座るタイミングを逸して所在無げにその場に立ちつくした。
座る様子のない彼女に遊馬が目だけで座るよう促すと野明は慌てて彼の隣に腰を下ろした。
難しい顔の彼を前に黙り込んでしまった彼女を見て遊馬は盛大に溜息をつくと両手を上げて大きく背筋を伸ばした。
軽く頭を振って眉間に寄せた皺を緩めチラリと野明を見遣る。
視線を受けて居心地悪そうに身じろぎする彼女をみて遊馬は微かにバツの悪さを覚えた。
「んなに委縮すんなよ」
「あ・・・うん・・・」
様子を窺う小動物様な野明の目に彼は思わず溜息をつき両腕で自分の膝を抱え込んだ。
「・・・俺そんなに怖い顔してるか?」
「えっと・・・今はそうでもない」
困った顔で肩を竦める彼女に遊馬は「うーん」と唸って空を見上げた。
少し考えてから彼は思い切った様に口を開く。
「さっきさ 俺、隊長室に行ったろ」
「・・・うん」
「そん時の話なんだけど・・・いいか?」
前を見たまま話す遊馬の少し迷う様な声に野明は軽く目を眇め心配そうな顔で小さく首を傾けた。
「遊馬の・・・気持ちの整理が・・・ついてからでも、いいよ」
彼を気遣う彼女の声音に遊馬は軽く目を瞬いた。
曖昧な笑みを浮かべる彼女を見遣り彼は思わず苦笑し、くしゃりとその髪を掻き回した。
「んな顔すんなって。変な気遣ってんじゃねぇよ・・・って遣わせたのは俺か・・・」
バツが悪そうに言う遊馬に野明は慌てて首を振る。
「あ・・・えっと・・・ううん、そんな事ない。でも話したくない事なら無理には聞かないよ」
「いや、いいんだ。っていうか・・・お前も当事者だからな」
少し表情が解れた遊馬にホッとしながら野明は大きな青灰色の瞳で彼を見返した。
「私も・・・?じゃあ 話って・・・」
「人事」
「・・・そっか」
予想はしていたもののハッキリ口に出されたことで心にズシンと謂れの無い不安が圧し掛かる。
寂し気な顔を見せる彼女の手を遊馬は黙って掴み取りぐっと強く握り込んだ。
反射的に野明がその手を強く握り返すと一瞬彼女へ目を向けた遊馬はゆっくりと正面に向き直った。
「秋の人事異動で・・・今の二課は解散する」
静かな声で発された言葉に野明は一度大きく目を瞬き「そう・・・」と神妙な顔でゆっくりと頷いた。
「意外と・・・普通だな」
「うん 幾らか心の準備は出来てたから。前に遊馬が言ってたでしょ?ヴァリアントが配備されれれば 遅かれ早かれ今の二課は解散するだろうって」
「そういやそんな話、したな」
「開発のペース如何によっては向こう一年以内・・・遊馬の予想当たったね」
「予想というより・・・目算だけどな」
「でも・・・最初の配備で解散するとは思わなかった・・・」
「だな。俺も運用が軌道に乗るまでは今の体制と併用するのかと思ってた」
眉間に深い皺を寄せ目の前の海を見詰める遊馬を見上げ野明は小さく呟いた。
「・・・思ったより 早かったね」
「少しな」
淡々と受け応える彼の横顔を見詰め野明は繋いだ手に力を込めた。
「・・・遊馬は・・・どうするの?」
湧きあがる不安を抑えようとして失敗し少し震えた彼女の声に遊馬は軽く息を吐き出し『参ったな』と言う顔でガリガリと自分の頭を掻き毟った。
「どう・・・って・・・あのな・・・」
「技術者として仕事をするなら現場を離れる訳にいかない、って・・・言ったよね。だったら遊馬はやっぱり警察、辞めちゃうの?」
二課が解散するなら皆が其々別の部署に配属される事を覚悟しなくはならない。
ましてレイバーに携わる事ができる部署に残れる可能性はとても低い。
ならばここを離れて尚第一線の技術に関わる事を望むなら・・・遊馬は警察を離れなければならない。
野明自身も開発という仕事に対する興味は出てきたものの当然警察官という仕事に誇りも持っていて、 今それを辞して民間に移るか言われれば そうできるだけの覚悟はない。
とはいえ警察に残るということはレイバー開発の第一線から退く事になる事は必至でそうなれば技術職を目指す遊馬とは進む方向が変わってしまう。
仕事を分かつ事が即 彼との繋がりを失くす事ではないと判ってはいても開発関連の忙しさを身をもって知った彼女にはそうなった場合今迄の様に常に一緒に居る事がとても難しくなる事が容易に想像にできた。
諸々の事が一気に脳裏を駆け巡り不安な顔をして俯いた野明の姿に遊馬は繋いでいた手をぐっと引っ張った。
苦笑しながら彼女の頭を抱きこむ様に胸元に引き寄せもう一方の手で赤みの強い髪をクシャリと掻き回す。
「人の話は最後まで聞け、馬鹿」
言葉とは裏腹に穏やかな彼の声に野明がゆっくりと顔を上げると複雑な笑みを浮かべた遊馬と目が合った。
「早合点するな、俺たちは離れたりしねぇよ。異動先は同じだ」
目を見開き自分を凝視する彼女の顔を遊馬はゆっくりと見詰め返した。
「同じ・・・?」
「『警備部 装備開発課』だってさ」
部署名を聞いた彼女は不思議そうに首を傾げ手に籠めていた力を少し緩める。
「意外そうな顔してるな?」
「えっと・・・うん。てっきり次の異動では別々の部署になると思ってたから・・・」
「俺もそう思ってた」
「うん。でも・・・『装備開発課』って・・・」
浮かんだ疑問をそのまま口に乗せた彼女に遊馬は軽く頷いた。
「今度はスポットじゃなく恒常的に事にそこから篠原へ『出向』することになるだろうってさ」
「・・・そう・・・なんだ」
ほっとした顔を見せる野明を前に彼は曖昧な笑みを浮かべる。
今迄の出向は退官して篠原に入る時の足掛かり、そういう意図が含まれた物だと思っていた。
その事自体は間違いではないかもしれない。
しかし今度の異動先は決めかねていた様々な事柄の最終的な決断時期に猶予をくれる事は確かで
その裏に後藤の尽力を感じた遊馬は複雑な気持ちで野明を見遣った。
「お前を・・・さ、巻き込んじまったのかな」
「・・・え?」
「この配属先 進路を決めかねてる俺に隊長が考える時間をくれた結果だとしたら・・・」
『野明を傍に置いたのは恐らく後藤なりのお節介の結果だろう』
胸に抱え込んだパートナーへ申し訳無さそうな目を向ける遊馬に彼が呑み込んだ言葉の先を察した野明は少し怒った顔で彼を見上げた。
「・・・遊馬の自惚れ屋」
予想外の言葉に遊馬が思わず目を丸くすると思い切り不満そうな顔をした野明が小さく舌を出す。
「私の努力の結果かもしれないじゃない、意外と遊馬がオマケかもよ?」
「・・・は?」
「私だって頑張ったんだもん。パイロットとしての資質を買って貰えたのかもしれないでしょ。遊馬の七光りみたいに言わないでよね」
もう暫くは警察に籍を置いたまま彼と共に居られそうだと判って安心した彼女が元気に軽口を叩きはじめると遊馬は一瞬きょとんとした顔を見せ次いで呆れた様に大きく肩を落とした。
「自惚れ屋はどっちだよ、ついさっきまで悄気返ってたクセに。本当 お前って現金な・・・」
「だって 遊馬が妙に難しい顔してるからてっきり・・・」
「てっきり、何だよ?」
言いかけて言葉を止めた野明に遊馬が先を促すと少し考えた後つっと目線を逸らし彼女は「ねぇ 他の皆はどうなるの?」と強引に話題を変えた。
話の持って行き方に『こいつ本当に誤魔化すのがへたくそだな』と思いつつ実際興味はあるのだろうと思った遊馬は敢えて振られた話題に乗ってやる。
「お武さんは神奈川県警、進士さんは経理、太田は奥多摩訓練校の教官だとよ」
「教官って・・・太田さんが?大丈夫かなぁ・・・訓練生・・・」
うわぁと驚きの声を上げ顔を顰めた彼女に遊馬は「少なくとも俺はご免だね」と混ぜ返し掴んでいた手をそっと放した。
「すげぇ 配置だよな」
ぽつりと言って苦笑した遊馬に野明は漸くこの異動の采配に後藤が大きく絡んでいるだろうことに気がついた。
一瞬目を見開き「・・・うん」とゆっくりとと頷いたものの、直後に『あれ?』と弾かれた様に顔を上げる。
「ねぇ・・・ひろみちゃんは・・・?」
「ここに残るってさ」
「・・・え?」
「本人の希望らしい。トマト畑とニワトリが心配だからって・・・」
「そっか・・・」
寂し気な彼女の顔をチラリと見遣り遊馬は視線を前に向けた。
眼下に見えるビニールハウスの屋根と夕闇迫る東京湾。
本当の所は実際に訊いてみないと判らないが ひろみ自身がここに残る事を希望した、と聞いた時遊馬は何となくトマトとニワトリは口実で実際は警察という組織内の人間関係に疲れたのではないか、と思った。
二課という特殊な環境下ではその煽りを受け難いとは言ってもその影響が皆無という訳ではなく たった3年という着任期間の中でさえその手の思惑や力関係によって道理が捻じ曲げられる様を見て来た数は両手足の指では既に足りない。
根が優しく繊細で真っ直ぐな彼にとってその手の環境は酷く心が痛むものだったのかもしれない。
それでも職を辞さないでいるのは警察官という仕事にまだ誇りと理想を持っているからだろうと思い遊馬は深く長い息を吐き出した。
「・・・取り敢えずさ 他の連中にどういうタイミングで話すかは俺とお武さんで判断するようにいわれてるんだ、だから・・・」
「判った。・・・まだ誰にも言わないよ」
「悪ぃな」
野明は神妙な顔で小さく首を振るとゆっくりと身体を起こし遊馬の顔を覗き込んだ。
「聞いた話って・・・これでお終い?」
「今んとこな」
「そっか・・・遊馬」
「ん?」
「もう暫く・・・一緒に居られるね」
はにかむ様に笑う彼女に遊馬は少し顔を顰め手の甲で軽く野明の頭を叩いた。
「ばぁか。仕事じゃ兎も角・・・プライベートで手放す気はねぇっつってんだろうが。暫くどころじゃ無く一緒に居て貰うさ。そう言っただろう?」
「うん・・・でも 今職場が離れちゃうのはやっぱり不安だったから」
「・・・そんなに信用ないか、俺」
頬に微かな朱を上らせて膝を抱える彼女を見遣り遊馬は不満気に顔を顰めた。
「そうじゃなくて。今 遊馬が退官してあそこに入ったらなかなか会えなくなっちゃうじゃない」
「忙しい時期はそうなるよなぁ」
考えるだけでうんざりしてきた遊馬が大きな溜息をつくと 野明は拗ねた顔でキュッと彼のシャツを掴んだ。
「ひと月顔見なかっただけで結構辛かったんだよ・・・それがずっと続くのはちょっと、ね。まして最近解析チームに女性増えたし・・・」
「なんだ、妬きもちか?」
「・・・そうよ。いけない?」
「いや、僥倖。でも まぁ俺もお前だけ警察に残して向こうに行くのは今の状態じゃ抵抗あるもんなぁ」
腕を組んで考える仕草を見せた遊馬に野明はきょとんと首を傾げた。
「そうなの?」
「そうだよ。お前 自分が思ってる以上に声掛けられ易いんだから少しは警戒心持てよ。危なっかしくて落ち着きゃしない」
しれっと言って退けた彼に目を瞬き野明は吹きだす様に笑った。
「・・・遊馬の方がよっぽど妬きもちやきじゃない」
「否定はしないけどね。兎に角そう言う事だから気をつける様に。・・・それと仕事の方はあともう一回位スポットで出向する事になるかもしれないけど その後は・・・」
「本格的に出向、って事になるんだね」
「おそらくな」
少しの間 言葉が途切れ自分の膝を両手で抱え込んだ野明がぼそりと呟いた。
「正直ちょっと・・・ホッとした」
黙って振り返った遊馬を見遣り野明は少し困った笑みを浮かべゆっくりと彼から視線を外し自身の爪先に目を移す。
「今・・・選べって言われても・・・正直選べなかったと思うから」
警官を続けるか 民間に移るか。
それに加えて彼との距離、自分の立ち位置。
言葉にし難い選択肢の数々。
言外のそれを何となく察した遊馬は言葉の代わりに黙ってぽんと彼女の頭を叩いた。
「そりゃ・・・お前だけじゃない、俺も 同じだ」
「・・・遊馬も?」
「ああ・・・だからさ 感謝しなきゃいけないよな」
「・・・うん」
『誰に』とわざわざ口に出さなくても思い描いた人物は恐らく同じ。
「折角作ってもらった貰った時間だ、目一杯有効に使わせてもらおう」
「そうだね 後悔しない選択が出来る様に」
直接礼を言いに行ってもはぐらかされる事が判り切ったその相手を思い浮かべ二人は顔を見合わせて小さく笑った。
程なく正式に内示が下り小隊全員が各々の行き先を告げられると隊内の雰囲気が微妙に変化し始めた。
妙に空気が穏やかになり無駄口が減ると同時に始末書も激減していく。
野明ばかりか太田までもがイングラムによじ登り丁寧にワックスを掛けだしたり、どうでもいい事で言い争っていた遊馬とも殆ど衝突しなくなった。
結果として現地作業のみならず内勤業務も今迄に無いほど効率よく片付けられて行き その結果提出されてきた書類の山を前に後藤は印鑑片手に複雑な顔で溜息を吐いた。
「まさか仕事が増えるとはなぁ・・・」
「いいじゃないの、始末書が増えてる訳じゃなし」
「そりゃそうなんだけどさ・・・」
積まれた書類をパラパラと捲りその厚みに顔を曇らせる同僚を見て南雲は肩を震わせクスクスと笑った。
「ここに来て驚くべき作業効率の良さじゃない?」
勤務評定表を見ながらからかう様な口調で言う彼女に後藤は「なんだかなぁ」と頭を掻きながら苦笑した。
「普段からこうなら第二小隊そのものの評価ももう少し違ったでしょうに。・・・尤も後藤さんとしてはそれじゃ物足りなかったのかもしれないけど?」
「そんな事はないって。でもまぁ始末書は少ないに越した事ないからね。・・・何と言うか、可愛いでしょ、あいつら」
にやにやと笑う彼に南雲は軽く目を瞬くと呆れた顔で溜息を吐いた。
「・・・それは兎も角 新隊員の候補生 見た?」
「見たよ」
余り気乗りない様子の後藤に彼女は微苦笑を向ける。
「やっぱりあの子たちが居なくなるのは寂しい?」
「まさか。そんな事はありませんって。寧ろ心労が減って仕事が楽になるなぁとか・・・」
嘯く後藤を横目に見ながら彼女は今しがた送られてきた新隊員の経歴にざっと目を通し「あら、そ」とあしらう様な返事を返した。
「高学歴で成績優秀。立派な肩書きの新人さん達じゃない」
「訓練校でも真面目に頑張ってましたよ、流石に選り抜きのエリートさん達は覚えも早い」
「申し分のない人材じゃない?」
「非の打ち所のない優秀な人材ですよー、そりゃもう 俺の部下には勿体ない位」
「部下の選り好みなんてするもんじゃないわよ?」
「そんな心算は無いんだけどね」
少し拗ねた様な口調の後藤に彼女は「そうあって欲しいわね」と苦笑しながら大仰に肩を竦めて見せた。
異動前最後の短期出向は9月第三週、異動の2週間前だった。
特車二課として過ごす最後の一週間。
その初日に出向を終えた一号機コンビが朝一番 報告書を携えて隊長室を訪れるといつもと変わらぬ飄々とした態度の後藤が二人を出迎えた。
差し出された書類を受け取った後藤はとざっと目を通し承認印をペタリと押す。
一瞬野明が何か言いた気に口を開いたもののチラリと彼女を見遣った遊馬が無言で小さく頭を振りそれを制した。
その様子に敢えて気付かないふりを決め込んだ後藤の「ご苦労さん」という言葉を合図に二人が一礼して隊長室を去ると南雲は溜息の交じった笑みを浮かべた。
「何か言いたそうだったわよ?」
「泉でしょ」
「気付いてたなら聞いてあげればいいのに」
「大丈夫でしょ、あいつの場合聞いてくれる奴がすぐ隣に居るんだからさ」
しれっと言う後藤に『やれやれ』と肩を竦めた彼女は少し意地の悪い目を同僚に向けた。
「そう言う事にしといてあげてもいいけど。本当は寂しいんでしょ?」
「まさか」
彼女の指摘に苦笑いを返した後藤は徐に席を立った。
そのまま扉へ向かう彼の背中に「あら どちらへ?」と問い掛けると彼はにっと笑って胸ポケットを指差した。
「この部屋 禁煙だからね」
「はいはい いってらっしゃい」
口の端に笑みを浮かべ南雲がひらひら片手を振ると苦笑いを浮かべた後藤はそそくさと部屋を出て行った。
後ろ手に扉を閉めそのままそこに背を預けると視線を天井に向けた彼は極小さな声で「寂しくなるのはこれからだよ、しのぶさん」と呟いてゆっくりその場を後にした。
異動まで一週間ともなると通常業務の合間をみつけ各々身の回りを片づけ始める。
私物の整理から始まり引き継ぎ用の書類作成、不要書類の廃棄。
加えて9月に入ってからは週に数日 研修校を卒業した新隊員達が二課棟へやってきて実際の業務体験を兼ねた引き継ぎも行われていた為その忙しさは増す一方だった。
感傷に浸る暇もない忙しさに当直でも無いのに二課棟に泊りこむ日もしばしばで出向期間中オフィスの整理に全く手をつけられなかった一号機コンビはヴァリアントの搬入を翌日に控えたその日も片づけに追われて寮に帰る事を諦めた。
流石に疲れが溜まり言動が怪しくなってきた野明に「ちょっと休憩しよう」と声を掛け宿直室へ向かうと遊馬は温かいお茶を彼女に手渡した。
一口二口くちをつけた彼女が やがてお茶を両手で持ったまま船を漕ぎ始めると苦笑した遊馬はその手からそっと湯呑みを抜き取った。
起きる気配が無い彼女の為に布団を一組引っ張り出しをそっと身体を横たえると赤味の強い髪をゆっくりと撫でた。
「・・・ここ暫く忙しかったからな・・・」
すやすやと寝息を立てて眠る顔を見遣り遊馬は小さく息を吐くと二人分の湯呑みを持って静かに床から立ち上がった。
「まぁ・・・今はその方が良いのかも知んねぇな」
独り言のように言った遊馬はそっと部屋の扉を閉め紙を一枚ペタンとそこに貼りつけた。
遊馬が湯呑みを濯いでいるとマグカップを手にした熊耳が給湯室に顔を出した。
「篠原君 まだ残ってたの?」
「出向中 何も手をつけてませんでしたからね、そのツケです。熊耳さんこそまだ残ってたんですか?」
「細かい仕事が結構残ちゃってなかなかキリがつかないのよね」
「ご愁傷様です」
同情の目を向ける遊馬と入れ替わりに流しに立った彼女は手早く自分のマグカップを洗って棚に仕舞い用事を終え歩き去ろうとする彼の背中に声を掛けた。
「篠原君、泉さんは・・・」
「宿直室にいます」
苦笑いする彼を見て扉の前に貼られていた『仮眠中 起こすな!!』と書かれた貼り紙を思い出し彼女は「成程」と頷いて小さく笑った。
「眠ってるの?」
「ぐっすりと。ここ最近満足に睡眠とって無かったですからね、あいつ」
どこか優しさが滲む彼の物言いに熊耳は微かな羨ましさを感じ口の端に軽い笑みを浮かべた。
「通常業務に加えて勉強、引き継ぎ、異動準備、加えてイングラムのお手入れは今まで以上にしてるみたいだし・・・あれだけ忙しければ疲れもするわね」
溜息が混ざる彼女の指摘に遊馬は苦笑いを返す。
「意図的にそうさせてる、というもあるんですけどね」
「余計な事考えてる暇を無くす為?」
「それもありますけど。限界まで疲れて眠れば夢も見ずに朝を迎えられる、多分・・・その方が良いんですよ、今のあいつには」
「本当に篠原君は・・・」
くすくすと笑う熊耳に遊馬は軽く頭を掻きながら『参ったな』という笑みを浮かべ軽く肩を竦めた。
「別に甘やかしてる心算はないですよ。ただ・・・あいつの性格からいって異動が終わって少し身辺が落ち着けば嫌でも感傷的になるでしょう。寂しさを感じるならやる事をやった後の方がいい、それだけですよ」
「そうかも知れないわね。でも、泉さんはそれで良いとして・・・篠原君自身はどうなの?」
「俺ですか?俺は・・・現状が予想より遥に恵まれてますからね 問題ないです」
「・・・そう。結構辛口な予想をしてたのかしらね?」
「楽天的に物を考える素養がないもので。けど今回の人事に関して言えば俺たちの行き先としてこれ以上のものはないんじゃないですか」
「確かにね。そう言えば・・・あなた達二人ははまた一緒だったわね」
「ええ・・・まぁ お陰さまで」
からかいを含んだ目を向ける彼女から遊馬は僅かに目を逸らし一瞬昇った朱を隠す様に片手で口元を覆った。
その様子が可笑しくて彼女はクスクスと笑い「じゃ お先に」と遊馬の肩をぽんと叩きすれ違いざま耳元に軽く囁いた。
「プライベートに干渉する心算は無いんだけど・・・老婆心から言わせてもらうとその気があるなら余り待たせてると機を逃すわよ?」
言われた言葉にぎょっとして慌てて振り返った遊馬を残し足取りも軽く給湯室を去って行く熊耳に彼は思わず額を押さえ『・・・どこまで知ってて言ってるんだ・・・』と大きな溜息を吐くと力一杯脱力した。
隊員室で書棚の整理に手をつけていると遠慮がちに戸を開く音がした。
「野明か?」
「うん。ごめん 布団敷いてくれたの遊馬でしょ」
「気にするな。疲れてて当然だからな、共同の宿直室じゃ何だけど・・・寝てていいぞ。女子の方 残っててもお武さん位だろ?南雲さんとこは当直だから暫くは来ないだろうし」
「あ・・そっか。他の皆は?」
「進士さんは定時で直ぐ上がっただろ、お武さんはさっきまで居たな。まだ居るかどうかは判かんねぇけど。太田とひろみちゃんは少し前に帰ったよ」
「そっか・・・」
書棚を整理する手を休めずに言う遊馬の隣に腰を下ろし引き抜かれたファイルを幾つか手にとる。
ここ数カ月の日報や報告書、その他配布書類が挟み込まれたファイル。
妙に感慨深い気持ちで表紙を撫でる彼女を横目に後継部隊には不要と思われるファイルを選び出しながら遊馬は殊更何でも無い風を装う。
「それ 机に運んだら日付順に並べとけ、あとで倉庫に運ぶから」
「判った。ねぇ・・・遊馬は今日 帰らないの?」
「そうだな まだ結構やる事残ってるし、明日だけで終わる気がしないからな。お前はどうする?」
「どうするって・・・残ってるの私たちの分でしょ、遊馬だけ残して帰る訳に行かないじゃない」
「気ぃ遣わなくていいって。無理しないで疲れてるなら休んでていいぞ。寮に帰るならバス無くなる前に・・・」
「残る」
遊馬の言葉を遮る様に言う野明の顔をちらりと見遣ると彼女は拗ねた様子で頬を真っ赤に染めていた。
「・・・二人の方が早く終わるでしょ?」
不貞腐れた彼女の口調に軽く目を瞬いた遊馬はふっと気が抜けたように笑うと彼女の頭をくしゃりと撫でた。
「了解。なら寮にはちゃんと連絡しとけ。あと、何か買いに出ないと食うもんねぇぞ」
「そうだね。じゃ整備のワゴン貸して貰おっか」
野明の提案に軽く頷きハンガーに降りると予想外に大勢の整備員が残っていて二人は思わず顔を見合わせた。
「あれ まだ残ってたの?」
二人に気付いて声を掛けたシゲに野明が小走りで駆け寄った。
「うん 片づけ終わんなくて。・・・・今日 残ってる人多いよね?」
「まぁね、みんなこいつに愛着あるからね。当直は第一小隊だし明日にはメーカーに引き取られちゃうんだから本当はそのまま返しちゃってもいいはずなんだけど・・・」
苦笑しながらハンガー内を見回すシゲに倣って同じように視線を動かすと何時もより殊更多い整備員が三機のイングラムに取り付いて電装品から間接駆動系の部品まで細かくチェックしながら黙々作業している姿が目に入った。
中には手が空いてしまったのか野明よろしくウエスを手にしてワックスがけまで行っている者もいて隣に並んだ遊馬と二人小さな笑みを交わした。
「私も後で磨こうと思ってたんだけど・・・」
「早く来ないと磨く場所無くなるんじゃないか」
「それは困るなぁ」
「じゃあ 泉ちゃん用に一号機のフェイスカバーは残しとくよう言っとく?」
にっと笑うシゲにコクリと頷くと本題を思いだした野明はぽんと手を叩いた。
「お願い。ところでシゲさん、買い出しに行こうと思うんだけどワゴン貸して貰えない?皆の分も必要なら纏めて買ってくるからさ」
「あいよ。じゃ ちょっとまってて。あいつらにも聞いてくるわ」
作業を続ける班員に「買ってきて欲しいもの有る奴いるかー」と声を掛けるシゲを見ながら野明はぽつりと呟いた。
「寂しいのは私たちだけじゃないんだね」
「俺達だけじゃ無くここの連中にも異動する奴が結構居るって話だしな」
「そっか・・・」
「何にせよ これだけ乗り手にも整備の連中にも可愛がられて来たんだ。こいつは恵まれた機体だよ」
「うん・・・そうそうあとで指揮車もちゃんと磨いてあげるからね」
「そいつはどうも」
苦笑いを返した遊馬はシゲから鍵とメモを受け取ると野明を促して駐車場に向かった。
買い出しを終え買ってきた弁当を手に屋上へ上がると並んでそこに腰を下ろす。
日中はまだ気温の高い日があるものの9月も終わりになれば夜風は涼しく まして海風が渡る二課棟の屋上は夏服のシャツだけでは少し肌寒い。
とはいえ冬服はもう片付けてしまったので今更出してくる訳にも行かず食事を終えると暖を求めた二人はどちらからともなく距離を詰めた。
暫くそのまま東京湾と対岸に浮かぶ夜景をぼんやりと眺め吹き抜ける風が陸風から海風に変わった頃漸く野明が口を開いた。
「この景色も今日で見納めだね」
「そうだな」
「ここ・・・結構好きだったなぁ」
「サボってばっかの記憶しかねぇけどな」
「週刊誌にすっぱ抜かれたりね」
「『屋根の上の油売り』ってな」
クスクス笑う彼女に遊馬もまた笑みを返すとゆっくり視線を前方に向けた。
視界に入るのは二課の棟屋と草刈りが行われたグラウンド。
フェンスの向こうにはセイタカアワダチソウが背の高い茎を揺らしさながら海の様に広がっている。
今は人影の無い防波堤には日中ならば海に糸を垂れる人の姿がよく見られた。
目を閉じれば眼裏に浮かぶここで過ごした日々と風景。
そのどれもが懐かしくそして輝いていた様に感じられる。
「この景色はさ、多分一生忘れねぇな」
「うん・・・きっと何年か後に今を振り返った時 一番最初に思い出す景色じゃないかな」
「かもな」
返事を返す遊馬の肩に軽く頭を凭せ掛け野明はしんみりとした顔で目を閉じた。
「こんな職場 他にないよね」
「まずねぇだろうな」
彼の腕から感じる自分より少し高い体温が心地よく野明が二の腕に頬を擦り寄せるとチラリと彼女に目線を向けた遊馬が「猫みたいだな」と小さく吹き出した。
暫くそのまま東京湾を眺めていた野明がゆっくりと身体を起こし大きく肩を回すと少し躊躇した後軽く遊馬の袖を引いた。
反応を窺う様な上目遣いに軽く瞠目した彼はふっと表情を緩めると滑る様に顔を近づけた。
軽く唇を合わ頬を染めて俯いた彼女の肩を引き寄せくすくすと笑う。
「ここじゃそういう顔しないと思ってたけどな」
「そういう顔って・・・」
真っ赤な顔をしてそっぽを向いた彼女を抱き込み遊馬は笑みを含んだ顔でふーっと大きく息を吐き出した。
「ま 何年か経ってこれも一緒に思い出すってのも悪くないか」
「・・・その時も隣に居るのが遊馬だといいな・・・」
「『だといいな』って・・・本当信用ねぇのな」
「そうじゃ無くて」
困った顔で反論する野明に遊馬は少し怒った目を向けた。
「じゃ お前が離れる気なのか?」
「まさか。たださ・・・」
「妙な心配しなくても簡単に手放しゃしないって。自分のパートナーを信じなさい」
偉そうな口調で言った遊馬はくしゃりと彼女の髪を掻き回し「よっ」と声を掛けて立ち上がった。
「さぁて・・・やる事まだ残ってるし そろそろ行くか」
「あ・・うん」
慌てて立ち上がった彼女の手首を遊馬の大きな掌が掴み取りそのままぐいっと傍に引き寄せた。
連れ立って歩きだし屋上へと通じる金属製の少し重たい扉が閉まる直前、野明は一度だけ後ろをを振り返り沢山の思い出が詰まったこの場所へ声にならない『さようなら』を告げた。
翌日 遊馬と二人倉庫に籠り古い日報を整理していると太田が大声で一号機コンビを呼んだ。
「篠原 泉ー お前らイングラム見送らんでいいのかー」
「もう来ちゃったの?待って今 行くー」
声を張り上げて返事をした野明は遊馬と共に慌ててハンガーへ駆け下りた。
二課棟内全ての人間が静かに見守る中 篠原重工のスタッフがキャリアに搭載されたイングラムに手際よく幌を掛けて行く。
極簡単な事務手続きの後 至極あっさりと引き取られて行ったイングラムをその場にいた全員が最敬礼で見送った。
キャリアの姿が完全に見えなくなると漸く皆が敬礼を解きシゲの指示の元 搬入されたヴァリアント3機をイングラムの有った場所に据え置いた。
榊の鋭い声を受け整備班が一斉に動き出す。
隊員室へ向かうキャットウォークの途中 足を止めた野明は寂し気な顔でその様子を見下ろした。
柵に寄り掛り腕に顔を埋めて眼下を見遣るパートナーの横顔へ遊馬は静かに声を掛けた。
「やっぱ辛いか?」
「え?」
「イングラムに乗れなくなるのが・・・さ」
「ううん それはない、後悔しない様に乗ったから。そうじゃ無くてさ・・・」
電源が入り初期設定が進んで行くヴァリアントを見ながら野明は呟く様に言葉を続ける。
「何ていうか・・・こういうものなんだよねって・・・」
「『こういうもの』って?」
「上手く言えないけど・・・例えば・・・ついさっきまでイングラムの有った場所に今はもうヴァリアントが納まっていて・・・機体は変わっても整備班の皆はやっぱり今迄と同じように整備と点検をするわけでしょう」
「そりゃ それが彼等のお仕事だからな」
当たり前の様に言う遊馬を見上げたあと野明は視線をゆっくり隊員室のある方角に向けた。
「私たちがここから居なくなっても やっぱり新しい人が配属になって・・・翌日には今迄と同じように隊長達とここで業務をこなしていくんだよね」
寂し気に言う彼女を見て遊馬は軽く息を吐き出しくしゃりとその髪を掻きまわした。
「その為にここ数週間、引き継ぎの書類作ったり出動に同行させたりしてきたんだ、そうでなけりゃ困るだろ?」
「判ってるんだけどね・・・」
「・・・心配しなくても俺達のやってきた事が無くなる訳じゃない。ここに機体が無くなってもお前がイングラムに教えて来た事はちゃんとヴァリアントに引き継がれてる。イングラムそのものはデータ収集用の実験機になって篠原に戻る訳だけどさ、たとえその役目を終えたとしてもお前があいつと一緒に蓄積したデータはちゃんとこの先後継機に生かされて行くんだ。凄ぇことだろ」
諭す様な声音に野明はゆっくり顔を上げ隣に立つパートナーをじっと見つめた。
「・・・私だけじゃない、一号機は遊馬と一緒に育てた機体だよ」
「そうだな。まぁ 要するにそれと同じで俺達自身がここから異動になっても残るものはちゃんとあるって そういうこと」
「・・・あるのかな、残る物なんて」
「あるさ。新しい連中に業務が引き継がれて行っても俺達の身代わりになる訳じゃない。あくまであいつらはあいつら、俺たちは俺たちだ。隊長もひろみも、整備の連中や異動になる他の二課連中も皆 お前を忘れたりする訳じゃない。それに俺はずっと傍に居る。だから・・・泣くな」
こくんと頷いた野明は再び組んだ腕に顔を埋めると声を殺してそっと涙を流した。
黙って彼女を引き寄せた遊馬は自らの肩口に彼女の顔を押し付けるとゆっくり何度もその髪を撫で続けた。
少し呼吸が落ち着いてきた野明が漸く顔を上げると彼はじっとその瞳を覗き込む。
「落ち着いたか」
「うん・・・ありがとう。もう 平気」
「よし、だったら顔洗って来い。目の周りちょっと腫れてる」
「そうする・・・ね 遊馬・・・」
「ん?」
「・・・一緒でよかったな・・・」
様々な思いを込めて呟やかれた彼女の言葉に遊馬は一瞬きょとんとした顔をした後ふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「そいつはどうも。とっとと行って来い、待っててやるから」
頷いて駆け出したパートナーを見送った遊馬は少し考えて先程の彼女よろしく組んだ腕を手すりに乗せハンガーを見下ろした。
イングラムの搬出と新型機搬入の為 本来休暇であるはずの面子までもが顔を出し総員出勤状態のハンガーは整備員でごった返している。
初めて触る新型機に少し戸惑っているのかイングラムを扱う時より彼等の動きが若干鈍い気はするもののこういう状態もおそらくほんの数日間だけで、直ぐにスムーズな動線が出来上がり速やかな作業を行えるようになるのだろう。
野明の感傷が少し判った気がして遊馬は微かに肩を竦めた。
人や物に対して余り執着がなかった自分がこの場所を離れる事や変わりゆく様を心寂しい気分で眺めていることに気付き遊馬は苦笑いを浮かべて「まぁ・・・色々あったしな」と呟いた。
程なく戻ってきた野明を何食わぬ顔で迎え一緒に隊員室に戻ると微妙に沈んだ雰囲気の中 全員が黙々と最後まで残して有った物品の片づけを行っていた。
きびきびとした動作を見せる熊耳の隣で太田が手荒い仕草で不要と判断したものを豪快にゴミ袋へと投げ込み 少し離れた所では進士が丁寧に引き出しの中身を整理している。
『感傷的になってるのは俺達だけじゃないってことか』と思いながら自席についた遊馬は引き出しを開けごっそり中身を取り出した。
野明もまた自分の机を片づけはじめるとこの中で唯一二課に留まるひろみが温かいお茶を運んできた。
受け取ったカップにふーふーと息を吐きかけながら野明は大柄な同僚を見上げる。
「ひろみちゃんは 片づけ終わったの?」
「僕は片づけるものが多くはないですから」
「あ・・・ひろみちゃんは・・・ここに残るんだっけ」
「本人の希望だって?」
同じくお茶を受け取った遊馬が会話に加わる。
「はい。ビニールハウスと鶏小屋の方も気になりますし・・・」
優し気な笑顔を向けるひろみを見て言葉に詰まった彼女を見遣り遊馬は微苦笑を浮かべてその髪を撫でた。
「そっか・・・あと よろしくな」
彼の言葉に一瞬寂しそうな顔をしたひろみはゆっくり首を縦に振り「・・・はい」と淡く微笑んだ。
退勤時刻間際になって南雲は所在無げな様子で足に薬を塗りつける同僚に声を掛けた。
「行かなくていいの?」
「どこに?」
「どこって・・・今日で最後でしょ、おたくの小隊。隊長なんだから挨拶くらいしてきたら?」
「・・・・苦手なんだよね、そういうの」
「そんなこと言って。お仕事なんだから最後くらいきちんと締めて来なくてどうするのよ、ほらもう行かなくちゃ」
サッサと行けとばかりに彼女がヒラヒラ手を振ると ばつの悪そうな顔をした後藤は「はいはい」と返事をしながら緩慢な動作で漸く重い腰を上げた。
ぺたぺたとサンダルの音を響かせて同僚が部屋を出て行くと彼女はふぅと大きく息を吐き「まったく 素直じゃないんだから」と苦笑した。
書きかけの書類に目を戻したものの一度途切れた集中力が直ぐには戻らずふと顔を上げた彼女は何気なく窓外に視線を向けた。
草刈りが終わったばかりのグラウンドでは第一小隊の面々がゼロの予備機を引っ張り出し人事異動後ここに残る者達に何やらアドバイスを送っている。
窓枠に頬杖をつき暫くその様子を眺めていた彼女は「はぁ・・・」と大きな溜息を吐いた。
新型機と装備を入れ替えた第二小隊と違い第一小隊のゼロはもう暫くここに残される。
その為 異動直前の週末は必然的に第一小隊が当直する事になった。
現体制最後となる当直勤務と言う事で異動する者もしない者も自主的に出勤を申し出ていて殊 土曜日の夜勤に関して言えば大きな事件もないのに第一小隊総員出勤状態となっていた。
「・・・明日は我が身・・・か」
異動辞令は翌月1日付とはいえ初代第二小隊としての勤務は今日で事実上最後。
自身で集め手塩に掛けた部下たちを送り出す後藤の心中を思い主の居ない同僚の席を見遣った彼女は深く重たい吐息を吐いて手元の書面に向き直った。
退勤時刻直前、ぺたぺたというサンダルの音と共に後藤が隊員室に姿を現すと全員の視線が彼へと集中した。
其々その場で姿勢を正し固唾を呑んで自分を見つめるその様子に何とも居心地の悪そうな顔をした後藤は困ったように眉根を寄せ落ち着か無げに頭を掻いた。
「みんな揃ってるようだし・・・一応挨拶でもしますか。まぁ その何だ、今迄ご苦労さん。これからも各々新しい職場でお仕事に励む様に・・・って俺からはこんなもんなんだけど」
室内をぐるりと見渡した後藤は少ししんみりした部下の様子に苦笑し軽く肩を竦めた。
少し間を置いて何時もと変わらない隊長の物言いに小さな笑みを浮かべた熊耳が「お世話になりました」と目にも鮮やかな敬礼をして見せるとそれに倣ってひろみを除く全員が最敬礼と共に「お世話になりました」と声を揃えた。
苦笑いした後藤もまた敬礼を返し「ま 元気でやって頂戴」と片手を上げ来た時と同じようにぺたぺたと足音をさせて戸口へ向かった。
「適当な所で帰んなさいよ」と言い残して部屋を出ると窓越しに彼らを振り返る。
未だ敬礼を崩さない部下たちにひらひらと手を振りゆっくりとその場を離れ隊長室に続く階段を上り切ると扉の前で彼は少し立ち止まった。
「思ったより・・・くるもんだね・・・」
両手をポケットに突っこんだまま極小さな声で呟やき片手で軽く目頭を押さえた後藤は細く長い息を吐き出すと自嘲気味な笑みを浮かべゆっくりと頭を振った。
軽く目を閉じ意識的に気分を切り替えいつもと同じ飄々とした雰囲気を作り上げた彼は一呼吸置いて目の前の扉を開けた。
思った以上に早く戻ってきた同僚に一瞬物言いた気な目を向けた南雲は微妙に沈んだ雰囲気を察しさらりと声を掛けた。
「早かったわね」
「言う事もないしね。大体 今更畏まった所でしょうがないじゃない」
嘯く彼に南雲は『やれやれ』という顔を向け「そういうことにしておきましょうか」と小さく笑った。
小一時間程で三々五々 二課棟を後にして行く部下の後ろ姿を部屋の窓から見送った後 後藤は緩慢な動作で席を立ちひっそりと部屋を出て行った。
足音が遠ざかり部屋の傍から人の気配が消えた後、南雲は先程彼が覗いていた窓から外を見遣った。
極端なまでに本数の少ない路線バスが遠ざかって行くのが目に入り、彼女はぐるりを周囲を見渡すと堤防の方へと向かう同僚の後ろ姿に目を止めた。
「本当に素直じゃない人ね」
小さく呟いた彼女は「・・・それは自分も同じか」と独りごち自嘲的な笑みを浮かべた。
コンクリートの壁が連なる堤防の前 そこに先客をみつけ後藤は肩を聳やかした。
一瞬 考えたあと努めて明るい調子で声を掛ける。
「どうした 帰らんのか?」
「・・・隊長」
振り返った大柄な部下の寂し気な表情に後藤は両手をポケットに突っこんだまま微苦笑を浮かべ
秋の日には珍しく一面に低い雲が広がり夕日の赤が驚くほど鮮やかに反射した空に目を向けた。
照り返しで赤く染まった二課棟を振り返りひろみがぽつりと呟いた。
「寂しく・・・なりますね」
「それでも・・・さ、元気でいてくれればいいんじゃない?」
返答を期待していなかったひろみは意外そうに上司を見返し「そうですね」と答えて彼と同じように空を見上げた。
暫くの間互いに言葉を発する事もなく暗さの増してゆく空を眺め 吹き渡る風が海風に変わる頃になってひろみは感情の読めない上司の顔をそっと盗み見た。
釣り竿の一本も持たずここを訪れた彼を見遣り『本当は泣きに来たのだろうか』と思ったものの それを口に出す事は憚られ かといって立ち去るタイミングをも逃したひろみはその場で足を止めたまま黙って足元に目を落とした。
「山崎」
空を見上げたまま声を掛けて来た上司は漸く彼に視線を向けた。
「送る側に立つってのも結構キツイだろう?」
苦い笑みを浮かべたその顔から断片的に知り得た上司の過去を思い出し言葉以上の重みを感じたひろみは軽く目を閉じゆっくりと息を吐き出した。
「それでも・・・今生の別れと言う訳じゃないですから」
感情を抑えた穏やかな声音に後藤は思わず目を瞬き自分よりも頭一つ大きな部下の顔を仰ぎ見た。
「声を掛ければきっと直ぐに駆けつけてくれます。そうでなくても、困った事があれば真っ先に相談に来るんじゃないでしょうか。僕らにとって隊長はいつまでも『隊長』なんですから」
「・・・俺の掌はそんなに大きくないよ」
苦笑いを浮かべた上司の隣でひろみは穏やかな笑みを浮かべゆっくりと空を見上げた。
「心理的な拠り所になってくれているだけで充分なんじゃないでしょうか。少なくとも僕はそうです」
「・・・重い役回りだなぁ、それは」
渋い顔で笑った後藤は「さて・・・」と呟き肩を回すと何時もの飄々とした雰囲気に戻り「んじゃ そろそろ帰るか」とひろみを促し二課棟に足を向けた。
ハンガーに入る直前 後藤は不意に立ち止まり寡黙で大柄な部下の背を軽く叩いた。
「じゃ まぁ ここに残った者同士、これからもひとつよろしく」
「・・・はい。こちらこそよろしくお願いします。じゃ 僕もそろそろ・・・」
「はい ご苦労さん」
遠慮がちに頭を下げ退勤を申し出た部下を見送り後藤は何気なく視線を上げた。
いつもと同じように明かりの入った棟屋の中 キャットウォーク越しに見える真っ暗な隊員室。
週が明ければ新しい面々が顔を揃え再び照明がつくだろうその場所を見遣り『本当の意味であそこにあかりが灯る事はもう二度とないんだろうな』と自嘲的な笑みを浮かべた。
整備員たちが走り回るハンガーを足早に通り過ぎ『ここを巣立った彼等の前に幸多からんことを』と願いながら 後藤はあと数日で自分と同じく部下を見送る事になる同僚の元へと真っ直ぐ足を向けた。
fin
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追記
というわけで「不在」はこれで終了。
はぁ~ やっとここに辿り着いた!と言うのが正直な感想です。
最初に書き始めた時に最後は絶対『そしてだれもいなくなった』状態で語るひろみちゃんと隊長で締めよう!と決めてスタートしたのになんだかもう文章を短くできない私の能力不足でえらい長い事になりました(^^;
足掛け2年弱・・・夏の話だったのに夏は二回も過ぎ去って二度目の冬が終わろうとしています
というか 立春すぎたから暦の上ではもう春じゃないですか!(^^;
当初は短い予定だったのになぁ・・・反省。
今度何か書く時はサクッと短くなる様に努力したいと思います(^▼^;
バレンタインも近いんですが気力と時間があるかどうかが大問題☆
今年はいっそスルーして余所様で愉しませてもらおうかなくらいの気持ちが~
ではでは 皆さままだまだ寒い日が続きますのでお風邪など召しませんよう(^^)
最後になりましたが長い期間 お付き合いくださって本当にありがとうございました。
何かコメント貰えると凄くうれしいな~なんて思ってますのでコメント 拍手コメ、メールなどお時間ありましたら是非よろしくお願いします♪
さくら拝
非公開 2011年02月05日(土)04時25分 編集・削除
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