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不在29

昨日は冷たい雨が降ってました
一昨日との気温差が激しい!!
17度差だそうですよ、最高気温・・マジですか?!
それにしても最近の天気は本当におかしいですよね

ここは雨でしたが山沿いでは雪のところもあったそうで。
栃木の奥日光とか積もってるし!!!
その上 霜注意報って・・・
一昨日は初夏の陽気だったんですよ?

天候不順で野菜も高騰。
家計を直撃ですねぇ・・・・・

葉物系だけでなく根菜類も高いのでここ最近もやしときのこが大活躍です(^^;
でも近頃は 夕方に行くと売り切れてる時もあって皆考える事は同じなんでしょうねぇ

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さてここからは連載のお話

頓挫して放置してましてすみません(って誰に謝ってるんだろう?)

なんかだらだら続いてますが(笑)
もしまだ覚えてて読んでやってもいいわと言う方がおいででしたら以下からどうぞ~

続き

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不在 29
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SIDE-A&N(13)

墨勇と会う前に一度荷物を潮見に置きに行きたいことと、そこそこ値段が張っても長く使うなら質が良い物の方がいいという遊馬の意向も手伝って二人は日本橋の百貨店に足を向けた。
一緒に店内を歩き回りながら必要なものをピックアップして回る。
「遊馬 これはどう?」
食器を手に取り愉しそうに品定めをする彼女の後ろから遊馬がひょいと手元を覗き込んだ。
「いいんじゃね。じゃそれ2枚な」
「2枚?」
「そ。一枚しか無かったらうちで飯食う時困るだろ」
さらりという遊馬に野明が目を瞬くと彼は当然という顔をして見せた。
「あと 碗と箸と湯呑みも要るよな」
「でも遊馬、幾ら寮だったって言ってもその辺は持ってるでしょ?」
売り場を歩きながら野明が小首を傾げると遊馬が足を止めて振り返った。
「何言ってんだよ、お前の分。お前 うちに来る度にマグに茶を淹れて割り箸使う気か?」
「え・・・って・・・私の?!」
「だから好きなの選べって言っただろ?」
呆れた顔をする彼に野明は吃驚して聞き返した。
「あの・・・えっと・・・私の物置いとくの?遊馬の部屋に」
「その方が便利だろ」
何を今更、と言う顔で言う遊馬に野明はぽんと頬を染めた。
「・・・嫌なのか?」
品物を選ぶ手が止まった彼女に訝る様な目を向けると野明はぶんぶんと首を振った。
「あ・・・ううん そんな事無い。でも私のはちゃんと自分で買うよ」
そう言って籠を取りに行こうとした野明の腕をクスクス笑いながら遊馬が素早く掴み取った。
「いいって、今回は俺が持つ」
「でも・・・」
「俺がいいって言ってんだからいいんだよ。何なら寝まきと着替えも買ってやろうか?」
「・・・はい?」
目を瞬いて聞き返す彼女の耳元に唇を寄せるとそっと囁く。
「そんだけ揃ってりゃ何時でも泊りに来れるだろ。何なら早速今日泊ってくか?」
「・・・なっ!もうっ そういう事言う?!」
「そうすっと歯ブラシも無いと困るよな・・・あと何が要るんだっけ?」
からかう様な口調で愉し気に続ける遊馬を見て野明は真っ赤に染まった顔を両手で覆った。
「馬鹿ぁ いいってば。そんなのっ」
「・・・そか? まぁ確かに寝まきはなくてもいいか。どうせ・・・」
「遊馬ぁっ!」
おちょくる様な彼の言葉を慌てて遮る彼女の焦り様が可笑しくて遊馬は声を上げて笑い、真っ赤になって抗議する野明の顔を軽く覗きこんだ。
「安心しろって、ちゃんとカーテンも買って帰るから」
「だから そういうこと言ってんじゃなくてっ」
絶対態と揶っていると判るのについムキになって応じてしまう彼女の頭を遊馬がくしゃくしゃと愉し気に掻きまわした。
「じゃ 何?」
「・・・何って・・・もう知らないっ」
頭に乗せられた彼の手を振り払いつんとそっぽを向く野明を見て遊馬は肩を震わせて笑い「怒んなよ」と言いながら彼女の肩をポンポンと叩いた。
「まぁ 冗談は置いといてさ、折角 寮出たし偶には来いよ。で、差し当たり今日本当に泊ってけば?」
しれっという遊馬に彼女が目を瞬く。
特に悪びれた様子もなく笑う彼に野明は小さく肩を竦めた。
「でも・・・」
「無理強いはしないけどさ 夜 墨勇と会うなら飯食うだろ、向こうに予定が無けりゃ飲んでもいいんだけど。寮に帰ること前提にすると門限もあるし折角休暇取れてるのに時間気にしないといけなくなるぞ」
「それはそうなんだけど・・・」
「なら最初から 外泊の心算の方が気が楽だぜ」
至極尤もな意見に何となく心が傾きかける。
少し考えて野明は小首を傾げた。
「でも 墨勇が泊ってるのは新木場で遊馬の部屋が潮見でしょ、女子寮が東雲。新木場を挟んで寮も遊馬の部屋も一駅じゃない」
「そうだけど 東雲だけは門限があるだろ? 新木場で飲む場所探すのも面倒だしさ、豊洲じゃ遅くまでやってる店を探しにくい。だったら 八丁堀とか東京近辺が妥当だろ?いざ電車を逃したって東京から新木場までなら直線距離で7キロ位だし潮見はその途中、でも東雲だけは方向が若干ズレる。そうすると女子寮は立地的に不便だぞ」
つらつらと説明されると考えを纏めるのが追い付かなくて『そうなのかな』という気になってくる。
返答までの間が空いたのを見て取った遊馬がにっと笑った。
「まぁ そう言う事だから外泊予定でいいんじゃないか。どうせ今日帰るって申告まだしてないんだろ?」
「・・・それはそうなんだけど・・・」
「じゃ 決まりな。まずは当座必要なもの買って部屋に置いてこようぜ。荷物持って歩きまわりたくないしさ」
うんうんと頷く遊馬に何だか丸めこまれた様な気がしなくもないがこの手の遣り取りで彼を論破できる自信はまるで無い。
半分諦めた様な気分で軽い溜息を吐くと思い切って遊馬の腕を取った。
「はいはい。ならサッサと買い物しちゃおう、のんびりしてたら墨勇の仕事が終わっちゃうよ」
頭を少し下げて顔を見せない彼女の耳や首筋が朱に染まっているのを見て取ると遊馬は声を立てずに笑った。
「だな。じゃ 後は・・・」
足取り軽く店内を移動する遊馬にくっついて歩きながら野明は『ちょっと新婚さんみたいだ』と思い、自分の考えた事に気恥かしさを覚えて顔から火が出そうなほど真っ赤になった。

売り場を数か所梯子してかなりの量になった荷物を二人で抱え潮見の部屋に辿り着くとどさりと荷物を床に下ろした。
部屋に中には先日見かけなかった大きな箱が幾つかあって野明は目を瞬いた。
遊馬が手前の部屋の戸を開け中を確認すると軽く頷き携帯電話で手早くメールを送信する。
きょとんとした顔をしている野明の頭を軽く叩いてにっと笑った。
「なんとか生活出来そうになってきたかな」
「ねぇ これ何?」
部屋に置かれた箱を指して首を傾げる彼女に遊馬が箱を確認しながら答えた。
「貸し倉庫に有った荷物と 購入しといた家具。シゲさんに受け取り頼んだんだ」
程なく返信されてきたメールを見て遊馬が玄関扉の新聞受けを開くと鍵が出て来た。
再度メールを送り返すと取り出した鍵を手の中でくるくる回し野明を振りかえった。
「野明 これ預ける」
ぽんと放り投げられた鍵を慌てて受け止めると彼女は首を傾げた。
「え? あの これって・・・」
「ここの鍵。不動産屋から預かったマスターキー2本の内の一本。失くすなよ?」
手の中に収まったそれをしげしげと見つめチラリと遊馬の顔を見遣る。
「預けるって・・・いいの?こんな物」
「なんか問題あるか?」
戸惑う様子を見せる彼女に遊馬はさも当然と言う顔をすると手近な荷物を捌きにかかった。
「だって こんな物持ってたら勝手に遊びに来ちゃうよ」
「来ればいいだろ?嫌なら渡さねぇって」
「来ればって・・・。勝手に入っちゃうかもしれないし」
手の中の鍵をじっと見つめて緩みかける頬を必死で抑える。
「いいんじゃないか。入りたきゃ入れよ、何時でも好きな時に。俺は困る事何もないしさ」
さらりと言われた彼の言葉にどきどきしながら野明はちらりと遊馬の顔を窺った。
「・・・本当に?」
「持ってるの嫌なら無理強いはしないけどな」
緊張した顔で鍵と自分の顔を交互に見比べる彼女を見て遊馬は軽く肩を竦めた。
「・・・えっと・・・そうじゃなくて・・・」
鍵をきゅっと握りしめて顔を朱に染めると 野明がぴょんと遊馬に飛びついた。
「・・・ありがとう」
「どういたしまして。折角お前の物も幾つか揃えたしさ 気軽にどうぞ」
幾らかホッとした声で言う遊馬に野明はくすくすと笑った。
「そういう事言うと入り浸っちゃうんだから」
「寧ろ歓迎だな。一つ部屋空けてやるから いっそ 寮引き払っちまえば?」
冗談めかして笑う遊馬に野明は「・・ばか」と言って首に回した腕にきゅっと力を込めた。
微妙な沈黙のあと野明が極小さな声で呟いた。
「・・・本気にしちゃったらどうするのよ?」
「してくれてもいいんだけどな」
低く抑えられた柔らかな彼の声にトクンと心臓が跳ねる。
心拍数が急激に上がるのを感じ、それが彼に伝わるのが恥ずかしくて慌てて遊馬から離れると落ち着きなく周りを見渡した。
「・・・あ ねぇ 荷物。早く片付けないと待ち合わせに間に合わなくなるね」
急に話題を変えた彼女の顔が耳から首筋まで真っ赤になっているのを見て取ると遊馬は目を細めた。
大仰なほど元気よく、しかし視線を外して荷物解きながらも動揺が声や手元に現れている。
何度も荷を取り落とす彼女に笑いを堪えて近寄ると野明が開封しようとしていたカーテンの包みをひょいと取り上げた。
「落ち着けって。確かに遅刻は不味いからな、ちょっと真面目にやるか。幾らか片づけとかないと帰ってきて直ぐに眠れないもんな」
気恥かしさで顔を伏せていた彼女の髪を遊馬がくしゃっと掻きまわす。
「今すぐ答えを求めてる訳じゃないからさ、ゆっくり考えていい」
言い置いて掃き出し窓に向かい広げたカーテンを手際よくレールに引っ掛けてゆく後ろ姿を眺め彼女はふぅっと息を吐くと小さな溜息と共に頬に含羞の色を浮かべた。
ゆっくり立ちあがって今度はきちんと包装を解くと遊馬の傍に歩み寄り丁寧に広げたカーテンを手渡した。
「はい」
「サンキュ。あと向こうの部屋もあるから残り持ってきて」
「ん。了解」
レースの物と遮光性のカーテンを一組分抱えて隣の部屋に行き同じようにカーテン手渡しながら先とは違う擽ったい感じに思わず野明の口元が緩む。
「何?」
カーテンを受け取りながら問い掛ける遊馬に小首を傾げ彼女は照れ笑いを浮かべた。
「良く分かんない」
「なんだそりゃ?」
呆れた笑みを向けた彼に「なんだろね」と言うと野明は少し困った顔をした。

粗方荷物を片づけて一息つくとペットボトルのお茶を口に運ぶ。
一通り荷物を開封し大雑把に配置して捨てる物を一か所に纏めるとどうにか部屋としての体裁が整った。
その分 先日の印象より少し部屋が狭くなった気がしたがそれはそう言う物なので致し方ない。
もともと遊馬の荷物はそれほど多く無く あとは八王子の部屋に残して来た物を運んでくるだけだが それも少し大きな鞄があれば収まる程度の量しかない。
そのため遊馬は『賃貸契約が月曜まで残っているのでそれは日曜でもいい』と踏んでいた。
「どうにか部屋になったね」
ふぅっと息を吐いた野明が何となくほっとした様子で室内を見渡す。
「ありがとな、助かったよ。結構汗掻いたしシャワー使ってけば?」
大きく伸びをしながら言うと 少し考えて野明はこくんと頷いた。
「そうだね、借りようかな。でも遊馬の部屋だし先に使えば?」
「出た後で準備に時間が掛るのはお前だろ。先に使っとかないと時間的に焦るぞ、いいから行って来いって」
ひらひら手を振る遊馬をみて『いいのかなぁ』と悩んでいると彼がにっと笑って振り返った。
「何? 一緒に入りたいならそれでもいいけど」
その言葉に顔を真っ赤にした野明は「いえ 結構ですっ!」と言うとものすごい勢いで鞄を抱えバスルームへ消えて行った。

入れ替わりで湯を浴びて遊馬が出てくると八王子から着用してきたスーツ一式をハンガーに引っ掛け先程購入した洋服をきて真剣な顔で化粧に取り組む彼女の姿が目に入った。
微笑ましい気分になってくすくす笑うと 野明が手を止めて顔を上げた。
恥ずかしそうに道具を纏めて彼女が洗面所に行こうとするのを手で止める。
「気にしなくていい」と笑い部屋を横切ると先程洋服類を運んだ部屋に向かい適当な物を引っ張り出した。
程なく着替えを終えてリビングに戻ると道具をしまった野明が遊馬を振りかえった。
「今 何時くらいかな」
部屋には時計が無いので遊馬は腕時計を覗く。
「17時過ぎ」
「じゃ もうじき連絡あるね」
「予定通りならな。その服 似合うな」
「バーゲン品だけどね。今シーズンはまだ着る機会ありそうでしょ?」
嬉しそうに笑いくるくると回って見せると薄いシフォン生地を重ねて仕立てられたキャミソールタイプのワンピースの裾が空気を孕んでふわりと広がった。
「いいんじゃない。じゃ そろそろ出るか?時間があれば東京駅で遊んでてもいいしさ 結構いろんな店あるし面白いぞ」
「そうだね 探検してみてもいいかな」
一緒に購入した薄手のカーディガンを羽織りバッグを手に取ると出かける用意を整えた遊馬に野明が軽く腕を絡めた。
「なら行くか。忘れ物ないよな?」
「大丈夫だって。子供じゃあるまいし」
「どうだか」
愉し気に笑いながら彼女を促し部屋をでると遊馬が野明の肩を叩いた。
「野明 鍵閉めといて」
一瞬キョトンとした野明は照れくさそうに先程受け取った鍵をキーケースから引っ張り出してカチャリと鍵を掛けた。
「いこっか」と声を掛けて顔を見合わせると妙に擽ったい気分でその場を離れた。

潮見駅で電車を待っていると野明の携帯からメールの着信を知らせる音が流れた。
内容を確認するとそのまま遊馬に画面を見せる。
文面に目を通した彼は少し考えてから「貸して」と言って彼女の手から携帯を抜きとると手早く返信を返した。
「なんて返したの?」
「時間と待ち合わせ場所知らせただけ。取り敢えず一時間後に東京駅で待ち合わせたから。ついたら少し駅の中見て回ろう」
ホームに滑り込んできた電車に乗り込み彼女に電話を返した。
東京駅について構内を歩き店の多さに喜んだ野明が上機嫌で遊馬をひっぱりまわす。
嬉しそうに腕を取る彼女に思わず目を細め遊馬は穏やかな笑みを浮かべた。
「愉しそうだな」
「うん 駅の中がこんなに賑やかだなんて思わなかった」
「こっちに来る事あんまりねぇもんな、お前」
「遊馬はあるの?」
「珠にな。乗り換えだけだけどさ。それより そろそろ時間になるから駅出るぞ」
人波を歩くのが苦手な彼女が何度となく人にぶつかるのを見兼ね、取られた腕を解くと遊馬は野明の肩を抱く様にして歩く。
「もう そんな時間?残念、また今度連れてきてね」
「はいはい。覚えとくよ」
残念そうに言う彼女を促し改札口に足を向けると二人の後ろから拗ねた様な声がした。

「なんか申し訳なくなっちゃうな」
吃驚した野明が振り返るとおどけた顔でジャケットのポケットに両手を突っ込んだ墨勇が立っていた。
「10日程度ってのは久しぶりになるのかね。それはともかく待ち合わせは改札の外じゃなかったっけ?」
遅れて振り向きながらしれっという遊馬に墨勇は軽く肩を竦めた。
「ご挨拶だな、そこに向かう途中だったんだよ。見かけたから声をかけたんだけど・・・」
「時間まではまだ少しあっただろ」
態とらしく不満気な顔を作る遊馬に彼は「お邪魔だったか」と笑って見せた。
「野暮な事を」
さらりと言い返す彼に墨勇はお手上げとばかり大仰に肩を落とした。
「デートの邪魔したのは悪かったよ、あんまり愉しそうにしてるからちょっと妬けてね」
悪びれた様子もなく言う彼に野明は目を丸くして一瞬で顔を朱に染めた。
「デートって・・・やだっ 何時から見てたの?」
「10分くらい前には気付いてたよ。というか・・・遊馬は判ってたんだろ?」
にっと笑う墨勇に遊馬は「当然だな」と言い返し野明は顔を真っ赤にして抗議した。
「うそっ! 知ってたんなら言ってよねっ!」
「お前愉しそうにしてたし 時間までは間があったしさ。暫くついてきてたからこのまま時間まで声掛ける気がないのかと思ってた」
ちらりと墨勇に視線を送ると彼は芝居がかった声音で「うわぁ あからさまに邪魔もの扱いだよ」と溜息をついた。
「え そんな事無いってば。ちょっと 遊馬ぁ?」
「強ち間違いでも無いんだけどなぁ まぁいいさ。じゃ 移動するか、何か希望は?」
問われた墨勇はひらひらと両手をふった。
「この辺はまったく知らないからね、お任せします」
「時間的に少し早いけど 居酒屋にするか? ザルが一人混ざってるけど」
野明に視線を向け遊馬がにっと笑うと彼女は慌ててぱっと身体を離した。
「ひっどい、なによそれ!」
照れ隠しも混ざって思いきっり遊馬に悪態をつく。
「・・・野明と飲みに行って奢りとか割り勘ってものすごく分が悪いよな、確かに」
「ちょっと 墨勇までそういう事言う?」
したり顔で頷く幼馴染に渋面を作る彼女の頭を遊馬がいなすように軽く撫でながら小さく吹き出した。
「なんでそんな事知ってだよ?こいつ上京した時は未成年だろ?」
「それはさ、まぁ色々。遊馬だって成人するまで禁酒禁煙って事は・・・無いよな?」
「否定はしない。けど職業柄 一応一言いっとかないとね」
そんな事を微塵も思っている様子も無く口にする遊馬に墨勇は呆れた顔をした。
「説得力無い事この上なしだな。不良警官」
「元、と言ってもらおうか。うちは そういうのの集まりだからね。気楽にやらせてもらってるよ」
「なんだかなぁ」
ちょっとした嫌味をさらりとかわされ墨勇は小さく肩を竦めた。
警察組織にあって珍しくフランクな職場である事を察して『成程 居心地がいい訳だ』と納得し、言葉を交わす二人の顔を複雑な表情できょろきょろと見渡す野明に思わず墨勇が吹きだした。
「そんなに心配そうな顔しなくても別に喧嘩したりはしないって」
「あ、うん。判ってるんだけど・・・・」
バツの悪そうな顔をする彼女に遊馬も微苦笑を返した。
「ならいいけどさ。立ち話も何だし外出ようか。苦手なものが無いならその辺に落ち着こうぜ」
「じゃ そうしよう」
墨勇の同意を取り付けると遊馬をが先に立って改札へと足を向けた。

4人掛けのテーブル席に通されると野明と遊馬が並んで座りその向かいに墨勇が座った。
最初に頼んだビールを飲み干すと適当につまみを並べて各々飲み物を追加する。
一息つくと墨勇が会話の口火を切った。
「元気そうじゃない 二人とも」
「お陰さまで」
「墨勇も元気そうだね。どうだった東京」
興味津々と言う瞳を向ける彼女に墨勇が小さく肩を竦めた。
「どうって・・・割と研修で手が一杯で色々見て回るような余裕なくてさ」
「そうなの?先週までは結構毎日定時で上がってたじゃない」
吃驚した顔をする野明に遊馬が軽く顔を顰めた。
「・・・って そんな毎日一緒に出歩いてたのか?」
「準待機期間中だけだよ・・・」
おもわず声が小さくなる野明に墨勇が苦笑すると遊馬に向かって『まぁまぁ』と手を振った。
「あの時は来たばかりで研修内容も講義中心だったから定時に終わってたんだよ。今週から実習とレポート提出が始まったから急に暇がなくなっちゃってさ。まぁ 時間があったところで地理には明るくないし 見ておきたい観光地は殆ど野明と一緒に回った後だったからいいんだけどさ」
言いながらチラリと遊馬の顔を窺うと少し不貞腐れた顔をしているのをみて内心軽く舌を出す。
野明に対する執着がそれほど強い訳ではないものの何となく遊馬への対抗意識が顔を出した。
ポーカーフェイスを装っていた先日の顔が嘘のように彼女の一挙一動で面白い様に顔色が変わる、そのことが可笑しくて微笑ましい。
「まぁ 利害の一致だからさ。気にするなよ」
カラカラ笑う墨勇に遊馬が半眼を向けた。
「利害ってなんだよ?」
「俺は一人で不案内な東京に出てきて退屈してた。野明は誰かさんに放置されてものすごく落ち込んで気晴らしがしたかった」
「放置って・・・好きでそうした訳じゃねぇよ」
不満気に言う彼に墨勇がニヤニヤとした笑みを向ける。
「そんなのはちゃんと言わないと伝わんないんだよ」
「言ってる暇も無かったの、忙しさ半端じゃなかったんだからな」
「時間なんて作るもんだよ。実際その最中でも俺とは会えたじゃないか?」
涼しい顔で言う墨勇に遊馬は渋面を作った。
「・・・あんな時間に呼び出したのは誰だよ・・・」
「無理になんて言わなかっただろ? 『可能であれば』って言ったじゃないか」
「あのな、あんな言い方されて黙ってられると思うのか?」
唸る様に言う遊馬に野明が首を傾げつつ口を挟んだ。
「ねぇ 墨勇、遊馬に何を言ったの?」
「あれ、野明聞いてないの?」
「墨勇と会ったらしい事は知ってるよ。でもその時の事って話してくれないの」
「へぇ?」
拗ねたように訴える野明に墨勇はにんまりと笑うと彼女に『こいこい』と手招きする。
きょとんと首を傾げた野明は少し考えてコクリと頷くと腰を上げた。
墨勇の隣に行こうとする野明に遊馬は黙って手を伸ばし彼女の左腕を掴んだ。
ちらりと自分を振り返る野明にムッとした顔をして『座れ』とばかりに腕を引くと彼女は目を瞬いた。
その様子に墨勇は一瞬目を丸くした後 野明と遊馬を等分に眺め、次いで口元を押さえると笑いを堪えて肩を震わせ始めた。
くっくっと笑い声を漏らす墨勇に遊馬が不機嫌さを湛えた目線を送るものの、明らかな妬きもちに笑いがこみあげて止められない。
我慢しすぎて目の端に涙を滲ませると墨勇は小声で「うわぁ 肩痛てぇ」と言いながら下を向いた。
半端に立ちあがった状態のまま野明が二人を眺めやり考え込んでいると二人がほぼ同時に声を掛けた。
「この前の話 教えてやるからこっち来いよ」
「野明 いいから座れ」
話は聞きたいが遊馬の機嫌を損ねるのは得策ではない。
どうしようか決めかねていると野明の携帯電話が音を立てた。
遊馬の隣に置きっぱなしの鞄から携帯を取り出すとメモリにない着信に野明が首を傾げた。
鳴っていたのは準待機中に貸し出される公用の電話で外部の人があまり知る番号では無い。
「誰?」
「わかんない」
訝る遊馬に短く答えると取り敢えず電話に出てみた。
「はい、もしもし」
敢えて名前を名乗らずに向こうの反応を窺う。
相手の声を聞き取ろうと遊馬が電話に耳を寄せると彼にも音が聞きやすい様に野明が携帯を少し傾けた。
そのまま名乗らずにいると少しの沈黙の後先方が口を開いた。
「こちら 特車二課の泉さんの携帯でよろしいですか。刑事課の風杜です」
「・・・風杜さん?」
思わず聞き返すと「泉さんですよね?」と重ねて尋ねられ慌てて名前を名乗った。
「あ はい。泉です・・・けど・・・どうしてこの番号を?」
「今さっき おたくの隊長さんに聞いたんだ」
「隊長に・・・」
明らかに不満そうな顔をする遊馬に軽く肩を竦めると野明は溜息をつく。
「あの・・・電話なんてどうしたんですか?よもや『待機命令が出た』とかってわけじゃないですよね?」
そうだとしても風杜が電話を掛けてくる事は無い筈だが隊長が番号を教えたというので取り敢えず聞いてみると風杜の声に苦笑が交じった。
「そうじゃないよ。今日本庁に来てたって? 後藤さんからも午後はそのまま準待機に入ったって聞いたし夕飯でもどうかなとおもったんだけど・・・周り賑やかそうだね、外に居るの?」
「はい あの・・・そうです。北海道から幼馴染が来てて・・・なので折角なんですが」
「幼馴染って泉さんの?」
「ええ そうです。なので 今日はちょっと・・・」
言い淀む野明に風杜が「う~ん」と軽く唸る。
「じゃあ 今日は無理か。今週一杯は準待機なんだよね、だったら明日か明後日・・・」
話し続ける風杜を無視して遊馬が野明の手から携帯を引っ手繰った。
軽く息を吸い込んで少し低めの冷めた声音を作る。
「悪いけど・・・明日も明後日もその先も、こいつの予定は空きませんよ。それに準待機ではなく週末は休暇です」
遊馬の声に一瞬風杜の言葉が止まる。
「・・・君も一緒だったのか。」
「お生憎様。松井さんに会ったなら聞いてませんか?一緒に帰ったんですから一緒にいますよ」
さも当然、という口調で言う彼に墨勇は軽く目を瞠ると忍び笑いを漏らし、それをみた野明が少し困った様な笑みを浮かべた。
「用件はそれだけですか?公用電話に私用で掛けてくるのもどうかと思いますけど」
「泉さんの予定を聞いたら『自分で聞けば?』って番号を教えてくれたのは後藤さんだよ。」
『やりそうなことだ』と思いムッとした気分を隠しもせず二言三言会話をして電話を切ってしまうと遊馬は少し考えて自分が持ってきた方の公用携帯を野明の手に渡した。
「こっち持ってろ」
「え?だって・・・」
「どうせ一緒に居るんだからどっちに掛かってきたって同じことだろ?」
「そりゃそうかも知れないけど」
「いいから。今度から俺がこっち使う」
そう言って野明の持っていた公用携帯を自分の鞄に放り込んだ。
金食い虫の二課は宿直も多いので全員に携帯が支給されている訳ではない。
このため 第一小隊と共用する形で携帯電話を用意し、準待機や外出になる人がその中から端末を借り受けその際、持って行く電話の番号をボードに書き残す事になっていた。
二課棟内に置かれたホワイトボードにはどの携帯を誰が持っているかが一覧表になって記載されている。
端末それ自体どれを持って行ってもいいのだが、何となく自分が良く持って行く端末が決まってくるので『この番号はこの人か この人』という当たりがつくような状態にはなっていた。
野明と遊馬は大概一緒に居るので番号がクロスする事はまずなかったのだが 『それを交換しよう』と言う彼に野明は小首を傾げた。
「でも申請書と違っちゃうよ?」
「構うもんか、要は連絡がつけばいいんだ。一緒に居ればどっちにだって連絡取れるんだから問題無いだろ?」
『もう決めた』とばかりに言い切る遊馬に野明が腑に落ちない様子をみせると顔を顰めた遊馬が偉そうな口調で「フォワードは指揮担当者の指示に従うべし」と言って彼女の額を指で弾く。
肩を竦めて「はいはい、わかりました」と『降参』の意志を示す野明をみて思わず墨勇が吹きだした。
「すげぇ 職権乱用だ」
「・・・そう思うよねぇ?」
同意を求めて身を乗り出す野明を引っ張り戻し遊馬は墨勇に半眼を向けた。
「ほっとけよ。俺らの問題なんだから」
「うわ 上から目線だ」
「どこがだよ」
からかうように言う墨勇に遊馬は不満気な顔を見せた。
「その辺が。遊馬ってこの前会った時と印象が違うなとおもったら・・・ある意味素直に捻くれてるよな」
「何の話だよ?!」
笑いを堪える墨勇に遊馬が苦虫を噛み潰したような顔をすると野明が首を傾げた。
「ね、一体どんな話したのよ、二人で」
「お前は知らなくていいこと」
「狡い!昨日は『今日判る』って言ったクセに。じゃあ やっぱり墨勇に聞くからいいもん。ね そもそもあの時どうやって遊馬を呼び出したの?」
「ああ それはさ・・・」
愉し気に口を開き掛けた墨勇に遊馬が鋭い目を向けると彼は「うわ 怖い目だなぁ」と笑い野明に向かって肩を竦め少し身を乗り出すと小声で彼女に耳打ちした。
「今はやめとくよ。また別の機会にね」
「ええ?つまんない、絶対だよ?」
「判ってるって」
同じように野明も身を乗り出し机の上で小声で話す様子を見てムッとした遊馬が「内緒話の心算なら見えないとこでやれよな」と唸る様に言って二人を引きはがした。
「・・・見えないとこならいいの?」
「いいわけ無いだろうが・・・」
拗ねた彼女を見て、肩を落とし脱力する遊馬に墨勇は『面白いものをみた』と思い 野明は『なんだかなぁ』という顔で天井を見上げた。

野明が化粧室へ向かい席を外すと墨勇がにやにやと笑って遊馬に声を掛けた。
「この前と随分雰囲気違うじゃない?」
「お互い様だろ、それは。いきなりこれだけ馴れ馴れしくしてくるとは思ってなかったよ」
頬杖をついたまま若干不機嫌そうに言う遊馬に墨勇は小さく笑みを見せた。
「確かにね。でもこれが地だからさ、大目にみてよ」
「別に不快な訳じゃないからいいけどね。っていうかこの前の話 あいつにするなよ」
釘をさす遊馬に墨勇はクスリと笑った。
「それはどうかな」
「あのなぁ・・・・」
眉間を押さえて渋面を作る彼を横目に墨勇はしれっと言う。
「野明と約束しちゃったしね、だから遊馬とその約束はできないな」
「勘弁してくれって」
本気で困った顔をする彼に墨勇は怪訝な顔で頬杖をついた。
「何がそんなに困るんだよ。聞かれて不味い事なんて無いだろ、野明は寧ろ喜ぶと思うけどね。それとも弱みを握られるみたいで嫌か?」
「余計なお世話」
「ふーん そうやって教えてくれないんじゃ協力できないな。俺は基本野明の味方だしね」
にやっと笑うと墨勇は一呼吸置いて言葉を継いだ。
「忙しかったのは判るとしてあれだけ心配するなら連絡の一つくらいちゃんとしてやればよかったんだよ。不安にさせてあいつを泣かせたのは君だからね」
「それに関しては反省してるし礼も言うよ。けど あの釣り方はないだろう?」
遊馬が軽い非難の目を向けると彼は涼しい顔をして見せた。
「そうは言うけどあの位言わないと出てこなかったっだろ?『野明を取られたかもしれない』と思ったから慌てて出て来たんだ、そう思わなかったら『勤務地の場所教えましょうか』で終わった可能性がある、違うか?」
「・・・確かにな。けどお陰で結局あの日は徹夜になったんだからな」
「それは遊馬の事情だよ。野明だって何日も満足に寝ちゃいなかったさ、気晴らしにと思って連れまわしても気が晴れた感じは殆どなかったしさ。空元気すら出せないあいつなんて滅多に見れるもんじゃないけど見ていたいものでも無いからね」
僅かに責める様な目を向ける彼に遊馬が大きく溜息をついた。
「それに関しては同意するよ」
「で 結局あの後会いに行ったんだろ。その時 野明どうしてた?」
「どうって・・・見てられなかったよ、あいつ泣きながら俺の机で寝てた」
あの光景を思い出しバツの悪さと後悔と、そして僅かに湧いた優越感に似た感情に遊馬は複雑な気分で大きく息を吐きだした。
「成程 まぁ俺としちゃ予想の範疇内だなぁ、あの落ち込みようはちょっと酷かったからね。何かしてやったの?」
「何かって・・・何も。連絡しなくて悪かったって謝っただけ。あと忙しいから暫くはこんな感じだって説明した位かな」
「それだけ?」
「それだけだよ。もともと今週で出向が終わるのは判ってた事だし」
「ふーん」
『たったそれだけの事で彼女を浮上させたんだから大したもんだよな』と内心舌を巻きつつ返事をすると遊馬が幾分バツの悪そうな顔でぼそりと呟いた。
「まぁ あの件に関して感謝してるよ。自分の事で手いっぱいで正直あいつの事まで気が回って無かった」
意外に素直に謝ってきた事に墨勇は一瞬目を瞬き小さく笑った。
「どういたしまして。でもあれは遊馬というよりは野明の為だからね」
「・・・判ってるよ」
そういうと遊馬は言葉を切り、墨勇に探る様な目を向けた。
「なぁ こんな事聞くのも何だけどさ 本当はまだあいつの事・・・」
「好きだけどね、遊馬が心配する様な感情はもう無いよ」
質問を遮る様に被せられた言葉に遊馬が目を見開くと墨勇は一瞬遠くを見る様な目をした後 ふっと力の抜けた笑みを浮かべた。
「今は佐保がいるからね。ただ あいつは今でも俺たちにとって大事な友達だからさ、『幸せになって欲しい』と思う。だから気に掛けてる、それは佐保も同じだ」
そういうとポケットから携帯電話を取り出して遊馬に手渡した。
そこには佐保からのメールが何通も入っていて墨勇は「どうぞ」と閲覧を促した。
少し迷った末、メールを開くと研修に出ている墨勇を心配する言葉や他愛のない話題に交じって野明の様子を気に掛ける言葉が随所に散りばめられていて彼女が本当に野明を心配しているのが良く分かった。
それでも野明本人に言わないのは墨勇を立てての事なのだろうと思う。
彼女のひととなりが分かる気がして『成程 野明の親友だな』と妙な感心の仕方をした。
携帯を返すと肩から力を抜いて遊馬は大きく伸びをした。
「変な事聞いて悪かった。っていうか 本当にあいつ人脈に恵まれてるよな」
「それは野明の人徳だろう?」
「否定はしないけどね。自覚が無いだけであいつ結構人に好かれてるからな」
遊馬が大きく溜息をつくと それを見た墨勇が苦笑した。
「みたいだね。さっきの電話は恋敵?」
「敵にはなってないと思うけどね。結構マメにちょっかい掛けてる相手なのは確かだな」
にやにや笑う墨勇に半眼を向けると遊馬がしれっと答えた。
「その割には手厳しい対応してたじゃないか」
「普通だろ?」
「どこが。今でこそ普通に話してくれてるけどこの前は俺にもあんな感じで接してただろ」
「そうだっけ?覚えてねぇ」
嘯く遊馬に軽く瞠目すると墨勇はクスリと笑った。
「まぁ そう言う事にしといてやるか。野明にちょっかい出さないと分かってもらえたみたいだし?」
「なんだよ、その言い方」
「だから 警戒が解けて名前も呼んでくれるようになったんだろ。いやぁ いい友達になれそうだねぇ」
「それとこれとは別問題だ・・・」
にんまりと笑う墨勇に遊馬は不満気な顔でこめかみを押さえた。
「で それはともかく『約束』は守ってくれてるみたいでよかったよ」
「・・・だから 『ご心配無く』ってメールしといただろう?」
サワーを喉に流し込みながら墨勇が遊馬の顔を覗き込む。
「そうは言われても顔見るまでは安心できなくてね、あいつ強がりだから」
「そんな事は言われなくても判ってるよ」
「じゃ 後頼むわ、二人の面倒は見切れないからね」
「了解。あんまり野明に構ってると彼女に妬かれても知らねぇぞ」
冗談めかして言うと墨勇が軽く肩を竦めた。
「気をつけとくよ。ところでさ なんか進展あったの?」
含みのある笑みを見せる墨勇に遊馬が首を傾げる。
「進展って・・・なにが?」
「何って 野明と。腕組んで歩いてたし、あいつの雰囲気が・・・すこし変わったかな?」
雰囲気の変化にはきづいていなかった遊馬は墨勇の観察眼に聊か驚いたものの頬杖をついた状態のままさらりと答えを返した。
「腕組むのは別に今に始まった事じゃないけどね。・・・雰囲気 変わったか?」
「そう思うけどな」
「そりゃ 一番落ち込んでる時に会ったからじゃないのか」
軽く聞き返すと墨勇は「違うな」と首を振った。
「そう言うんじゃないな あれは」
「じゃ あれだ。一応つきあう事になったから」
さらりと答えた遊馬に特に驚いた様子を見せる事無く墨勇は軽く笑った。
「へぇ。それはおめでとう。不幸にしたら佐保と一緒に殴りにいくから」
「するか。苦労はさせるだろうけどな」
「ああ それはそうだろうね。『御曹司』なんだったっけ?そう言う感じしないけど」
「悪かったな、品が無くて。血縁ってだけで継ぐかどうかは別問題。でもまぁ 手放す気はないから継ぐにせよ継がないにせよ一緒に苦労して貰うさ」
その言葉に目を丸くした墨勇が可笑しそうに笑った。
「付き合いだしたばかりでもう貰う気だよ」
「コンビ組んでからはもう3年目。短いとは思わないけどね」
「成程。いいんじゃないか、仲良くやってよ」
「ご心配なく」
気が抜けた様に笑う墨勇を前に遊馬は『当然』と言う顔をでビールを呷りぱたぱたと小走りに席に駆け戻ってくる彼女を目に止め片手を上げた。

押さえたペースでビールジョッキを傾ける遊馬の隣で淀みなく杯を重ねる野明。
サワーを片手に墨勇はその様子を興味深気に眺めた。
彼と軽口を叩きあって愉し気に笑う彼女の様子にホッとすると同時に幾らか寂しさも感じる。
自分の傍で笑っていた嘗ての彼女がふと脳裏を過り今の野明と少しだけ重なった。
「ねぇ 私のいない間に何話してたの?」
お猪口を使うのが面倒になったのか 升酒に切り替えた野明が升から取り出した冷酒グラスへ慎重に口を付けながら遊馬に問い掛けた。
「別に大したことじゃねぇよ」
「そうなの?」
「そういうことにしとこうか」
これ以上答えそうにない遊馬から視線を外し野明が墨勇に声を掛けると彼は含みのある笑みを見せた。
「二人で内緒話なんて妙に疎外感あるじゃない?」
拗ねた野明が頬を膨らませると、墨勇は苦笑し遊馬は「その顔やめろ」といって額を小突いた。
「だって二人とも何話してたのか教えてくれないんだもん」
「確かにな 簡単に言うと彼が妬きもちやきだってことが分かっただけなんだけどね」
「こらまて!誰がそんな事を」
「野明が他の男と喋ったり出かけたりすると心配で仕方ないんだよな?」
さくっと言い切った墨勇に「んなこと言ってねぇ!」と遊馬が噛みついた。
「そう言うことだろ? ちょっかい出さないって確信した相手以外が声を掛けると気になって仕方ないんだ。だから 俺やさっきの電話の・・・」
「墨勇 お前、それ以上言うなって!」
頭を抱える遊馬ににんまりと笑うと「じゃ かわいそうだからこの辺でやめとくか」と言って野明を振りかえった。
「・・・・なんとなく 分かった?」
きょとんとした顔で遣り取りを見ていた野明は墨勇の質問に頬を朱に染めて頷いた。
「あ・・・えと・・・分かった・・・かな」
はにかむ様な笑みを浮かべて遊馬を振りかえると不貞腐れた顔をした彼がフイと顔を逸らした。
「喋るなって言っただろうが・・・」
恨みがましい目で墨勇を見遣ると彼は涼しい顔で言い返した。
「別に呼び出したときの話はしてないだろ。それともそれも言っちゃおうか?」
「・・・言うなよ、絶対」
「今のところはね」
軽口を叩く二人を見て野明が少し拗ねた顔をした。
「なんかいつの間にか仲良くなって名前で呼んでるし。墨勇はともかく遊馬なんて他人を名前で呼ぶことなんてまず無かったんだから・・・」
「そうなんだ?確かに最初に会った時は名前一度も呼んでくれなくてさ。嫌われてるのかと思った」
「そう 意外に警戒心強いんだよ。だからなんで名前呼んでるのか気になってたの、どんな約束したの?」
「『遊馬くん』って呼ぶなっていうからさ 『じゃ 名前呼んで』って言っただけ」
「へ?」
「『くん』付けで呼ばれるのが余程嫌だったんだろうね?」
チラリと遊馬を見遣ると苦虫を噛み潰したような顔をした彼は墨勇に向かって思い切り半眼を向け大きな溜息をついた。

二軒ほど店を梯子して上機嫌で歩く野明の後ろで半ば呆れた顔をしながら墨勇が遊馬に声を掛けた。
「なぁ あんた毎度こんなのに付き合ってる訳か?」
「まさか。職業柄基本深酒は出来ないの。翌日に休暇でも取って無くちゃね。準待機中にパイロット泥酔させたら緊急招集掛った時使いものにならねぇだろうが。んなことになったら俺の『監督不行き届』だ」
「・・・保護者だね まるで」
「危なっかしいからな あいつ。けど 上京して来た時からザルだったみたいだしお前ら未成年の分際でどんな飲み方してたんだよ?」
「どんなって・・・普通だよ、野明以外はね」
「その普通の範疇には一升瓶を手酌してコップで酒を呷るのも含まれる訳か?」
「・・・他に居る訳無いだろ、あんな飲み方出来る奴・・・」
責める様な目を向ける遊馬に墨勇が大仰に溜息を吐き前を歩く野明の後ろ姿へ恨みがましい視線を送った。
「言っとくけどあのベース作ったのは北海道だからな」
「俺たちじゃなくて実家だよ。酒屋なんだから恨むなら親父さんを恨め」
ほろ酔い程度に酒の回った二人が互いにその責任の投げ合いをしていると野明がくるりと振り返った。
「なぁに二人でこそこそ話してるのよ。なんだかすっごく妬けるんですけど?」
「あのなぁ お前誰に妬くんだよ?言っとくが俺にはそっちの趣味ないぞ」
「『俺には』って何だよ・・・俺だってそんな趣味はない!佐保が聞いたら笑い転げるぞ・・・」
「・・・佐保、そうそう佐保ね。今度呼んでよ そしたら妬かずに済むんだわ」
名案とばかりに一人頷く彼女に墨勇が呆れた目を向けた。
「ここに呼ぶより野明が帰ってくればいいだろ?たまには帰省しろよ 親父さんたち寂しがってるぞ」
「はいはいはーい。判ってます、だってちゃんと纏まった休みってなかなか無いんだもん。北海道だと準待機じゃ帰省の許可でないしさ。ねぇ 遊馬ぁ?」
下から顔を見上げる野明に軽く肩を竦め「はいはい」と頷いて見せると遊馬が墨勇に目を向けた。
「酔っ払いに何言っても明日には覚えちゃいないぞ」
「だろうな。だからこれは遊馬に伝言だな。『たまには実家に戻ってこい』ってご両親から。伝えといてよ」
「覚えてたらな。俺も酔っ払いだし」
意地の悪い笑みを浮かべる遊馬に「そんだけ言えるなら大丈夫だろ」と笑うとぽんと肩を叩いた。
「流石にいい時間だしさ、これ以上は飲めそうに無いから今日は帰るよ。また上京したらつきあってよ」
「休みが合えばな。新木場に戻るんだろ、今からじゃ電車ねぇぞ」
午前1時を回っていることに漸く気付いた墨勇が軽く眉を顰める。
「ここからなら新木場まで直線で7キロちょっと。タクシー使っても10キロはいかねぇよ。俺ら潮見まで戻るから相乗りして割ればその辺で泊るより割安だけどどうする?」
「潮見って寮は東雲だろ?」
「女子寮はな。潮見には俺の部屋があんの」
しれっと言う遊馬に墨勇が軽く目を瞠り「それは失礼しました」と答えるとタクシーを使う事に同意して大通りに出た。
 
後部座席に墨勇 野明 遊馬の順で乗り込むと遊馬が行き先を指示して車が走り出す。
うとうとし始めた野明を肩で支える様にして遊馬が手を添えると墨勇は小さく笑みを零した。
微妙な寂しさを感じ取った遊馬が目を合わせずに声を掛ける。
「寂しそうじゃん」
「少しはね」
「再会して惜しくなった?」
「まさか、それはないな。・・・仮にそう言ったところで譲ってくれる訳じゃないんだろ?」
「そりゃね それは本人も嫌がるだろ、お前彼女持ちだし」
「確かに。何て言うか兄弟とか娘を嫁に出す様な心境・・・かなぁ?」
「・・・保護者みたいなのは そっちじゃないか」
複雑な笑みを見せる墨勇にチラリと視線を向け遊馬がクスリと笑った。
「保護者かぁ そういうのともまた違うんだけど・・・」
少し考える様に窓外に目を向けた墨勇は小さく溜息をついた。
「・・・『悔しい』のかもしれないな」
呟く様な声はひとり言に近く一瞬彼に視線を向けたものの遊馬は黙って野明に目線を移して次の言葉を待った。
「落ち込んでるのをみても どうしてやることもできなかった。今の野明には俺じゃ駄目なんだよな。佐保を選んだあの瞬間に野明の中の一番は俺じゃ無くなったんだ。そこに誰が入った訳でもなかったけど。あの時野明と俺達の間にそれまで無かった距離が出来た。一緒にいる時間が極端に減って気付いた時には野明は進路を定めて上京を決めてたんだ」
「・・・後悔、してるのか?」
静かに問う遊馬の声に墨勇は淡い笑みを浮かべた。
「佐保を選んだ事を?だとしたらそれは無いよ。ただ・・・そうだなぁ『もしもあの時』って考えた事が無いとは言わない」
「それはさ こいつも同じじゃないか?正直 俺は妬けたけどね」
予想外にストレートな物言いに思わず墨勇が振り返り驚いた顔をみせた。
「随分素直だな」
「酔ってっからだろ。・・・昔の話する時複雑な顔するんだよ こいつ。お前の話が出ると特にさ」
「・・・話に出るのか・・・まぁ しょっちゅう一緒にいたからあの頃の事を思い出すと一緒に出てくるんだろうな、写真も殆ど一緒に写り込んでるし。よく『つきあってるんだろう』って冷やかされてさ。でも実際はなにも無いんだよな、一緒にいるだけで。だから結果佐保とつきあうようになったら 周りが吃驚して・・・」
目に浮かぶようだと思いながら遊馬は軽い溜息をつき 眠り込んで肩から滑り落ちそうになった野明を抱え直すと、それを見た墨勇が苦笑した。
「二人見てるとさ 昔の俺達を思い出すんだ。だから背中を突き飛ばしてやりたくなった。このままお互いが黙ってる間に遊馬に女の影でもちらついたら野明はまた すっと一歩下がって居なくなりそうな気がしてさ」
「そういう傾向あるよな こいつ。妙なところで変な遠慮するんだ。そうさせない為に捕まえてんだけど。でも妬きもちやきなのは野明も同じだぜ?」
「知ってるさ、付き合いはこっちの方が長いんだ。けど、俺が遊馬に『妬いた』といえばそうなのかも知れないな、別段今に不満があるって訳じゃないんだけど」
「まぁ 保護者ってのはそう言うもんだろ?心配しなくても手放しゃしないよ。俺から見たってこいつは『特別』なんだから」
「ご馳走様。佐保にいい報告が出来そうだよ」
「そいつは良かった。さて そろそろ着くな。先 降りるからこれで払って」
「いや いいよ。これは俺が出すから」
差し出された5000円札を墨勇がやんわり手で押し返そうとすると遊馬がポンと墨勇の掌に札を押し付けた。
「いいから。彼女への詫びを兼ねた土産代」
「詫び?」
怪訝な顔で聞き返す墨勇に遊馬がにっと笑って見せた。
「俺のいない間 カウンセラー代わりにお前借りてたみたいだからな」
「ああ そう言う事ね。じゃ 受け取っとくか、今度北海道に来たら飯くらい奢るよ」
「よろしく。じゃ 俺たちはここで」
停車位置を細かく指示して車を止めると遊馬はすっかり眠り込んだ野明を横抱きにして車を降り扉が閉まる前にふと思い出して墨勇に声を掛けた。
「いつ 帰るんだ?」
「日曜の夕方。18時の便を取ってる」
「時間があったら見送りに行く」
「無理しなくていいって」
遠慮がちに笑う墨勇に遊馬は腕に抱えた野明を見遣り苦笑した。
「起きそうにないしさ、このまま挨拶もできずに北海道に帰したらこいつが怒るだろ?」
「じゃ 来れたらでいいから。・・・取り敢えず またな」
「おう、お疲れさん」
運転手に行き先を再度確認して遊馬が車体から離れると墨勇を乗せたタクシーが走りだした。
少しの間、車を見送ると野明を抱えてエントランスに足を向ける。
腕の中の彼女を見つめ軽く額に唇を寄せると遊馬はゆっくりと自分の部屋に向かった。

go to next....
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追記

今回は飲み会のお話。
大筋と関係ないと言えばないので切っちゃっても良かったんだけど「墨勇くんみたい」とおっしゃって下さった方いらしたので折角だから(笑)

次回はもう少し早くUP・・・できるのか????
GW明けになりそうな予感ですが(^^;
何か一言頂けますとやる気が湧きますのでお時間ありましたらぜひ 一言お寄せ下さいませ~

コメント一覧

ツッジー 2010年04月23日(金)14時51分 編集・削除

密かにのろけてましたよね(≧∇≦)
遊馬( *´艸`)クスッ♪

墨勇くんも安心して北海道に帰れますね(≧∇≦)

野明もたのしかっただろうなぁー(≧∇≦)

さて、いよいよ2人きり!

どうします?(* ̄ー ̄*)ニヤリッ

さくら(ツッジー様) 2010年04月23日(金)15時43分 編集・削除

>ツッジーさま

そうですね~
惚気てますよね(^^;
二人きりですが 表ですから反転はしないですよ(笑)
連載の合間にそれ挟むのはいろいろご意見もあるのでしないことにしました☆
好き嫌いの出るジャンルになっちゃうので☆

ツッジー 2010年04月23日(金)16時02分 編集・削除

そっかぁ・・・。
残念・・・。

確かに好き嫌いはあるだろうねー(≧∇≦)

裏はなくても、ラブラブな2人の関係で
充分お腹いっぱいでーす(≧∇≦)

続き楽しみにしてまーす(≧∇≦)

さくら(ツッジー様) 2010年04月23日(金)16時28分 編集・削除

>ツッジーさま

ごめんね~
やっぱり苦手な人もいるからね(^^;
あとでメールするよ♪

非公開 2010年04月23日(金)19時15分 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

こんきち 2010年04月23日(金)22時03分 編集・削除

今回の裏題は「遊馬の惚気」ですね。
野明を不幸にしたら、私も佐保ちゃんと墨夫と一緒に殴りに行きますよ~。覚悟してくださいね。
あ、私の分身はコギだから噛み付きですね。
そして
男の友情は、腹割って話せるところが羨ましいです。

さくら(内緒様) 2010年04月23日(金)22時52分 編集・削除

>内緒さま

了解です~
急がないので土日の間にPCに送りますね(^^)
ありがとう♪

さくら(こんきち様) 2010年04月23日(金)22時55分 編集・削除

>こんきちさま

そうそう、サブタイトルはそんな感じ(笑)
こんちゃんも噛みつきで参戦ですか☆
じゃ 私はハリセンで(まて!)

そうそう 男同士ってそういうのがいいなぁっておもう☆
女同士って結構尾を引いちゃうこともあるから(^^;

非公開 2010年04月24日(土)13時01分 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

非公開 2010年04月24日(土)20時37分 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

さくら(04/24 13:01の内緒様) 2010年04月26日(月)00時53分 編集・削除

>04/24 13:01にコメントを下さった内緒様

いえいえ 素敵に仕上げて下さってありがとうございます(^^)
もし ペンタブが滑って描きにくいのであれば私は間に紙を一枚挟んだりしてたんですよ、先代のペンタブの時は☆
コピー用紙でも何でもいいので描画するエリアの上においてペンタブを動かしてみると滑りづらくなりますよ(^^)

ペンタブって意外に感度がいいんですよ。
なので薄手の雑誌くらいなら貫通して信号が通るんです!
滑る時にはぜひ試してみてくださいね♪

お話の方は今回、閑話休題って感じで(^^;
今回は遊馬の妬きもちがメインでした(笑)
次回・・・・がんばります(笑)

さくら(04/24 20:37の内緒様) 2010年04月26日(月)00時58分 編集・削除

>04/24 20:37にコメント下さった内緒様

ですね、既に苦労してます(^^;

>策士で我侭で、ヤキモチ焼きで、大変そう(笑)
まさにそうですよね(^^;

内緒さまは張り手で参戦ですか(^m^)
みんなで一斉に襲いかかられたらひとたまりも無いですね(笑)
ええ?某所の予告なしですか☆
いや あのセンスは秀逸ですよ~!!
もう大爆笑でした(^◇^)

それとipodに入れたんですか!
それはどこでも楽しめるけど確かに見てると怪しい人になっちゃうのは要注意ですよね(^^;

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