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不在27

激しすぎる春の嵐、そして黄砂と花粉症・・・
桜の季節も目の前ですが何とも悩ましいシーズンになってまいりましたよ。
病院で処方していただいたクスリはとっても眠くなります・・・・
それでも 症状が軽減する程度で無くなる訳じゃないんですよね
今 ティッシュBOXが無二の親友です(^^;

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さて不在の第27弾♪

少しどころでなく間があきましたが続きです。
もう 覚えている方も少ないのではないかという気もしないではないのですが☆
一応完結はさせないと(^^;

ではよんであげようかなという心の広いお客様は以下からどうぞ(笑)

続き

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不在 27
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SIDE-A&N(11)

「んっ・・・」
軽い呻き声と共に身を捩る腕の中の小柄な身体。
気だるさが残る身体を動かし横を向くと無意識なのか離れた分だけその身を彼女がすりよせて来た。
額が遊馬の胸元に触れると安心したように再び寝息を立て始める。
自由になった左手で枕元に置いた携帯電話を手に取ると時間を確認した。
午前6時を少し回り起きるには少し早いが二度寝が出来る時間でも無い。
『目を覚ましちまった以上起きておくしかないな』と軽い溜息をついて気持ちよさそうに眠る野明の髪を軽く梳く様に撫でた。
起きる様子の無い彼女に苦笑すると額に軽く唇を落とす。
「まぁ 仕方ないか・・・」
白い肌に残る自分がつけた赤い痣を目に留め小さく笑う。
「睡眠3時間か・・・まぁ 俺にとっちゃそんなに堪えるもんじゃないけど、こいつは辛いか」
ひとりごちそのまま野明の寝顔を眺める。
「男の横でこんな格好で無防備に寝てんなよ」
安心しきったその顔に少し困った笑みを浮かべ指の腹で軽く額を小突くと身じろぎして彼女がゆっくり目を開きぼんやりとした焦点の定まらない瞳を彼に向けた。
「ん・・・あ・・・遊馬・・・」
目を擦ろうと手を上げかけ彼の背中に回していた腕が遊馬の左腕に引っかかると一瞬動作が止まる。
自分と遊馬の姿を確認して昨夜の事を思い出しポンと顔を朱に染めた。
「・・・あ・・・あのっ・・・」
「目、覚めたみたいだな。おはよう」
「あ・・・えっと おはよう」
どぎまぎして目を逸らす野明に遊馬は苦笑しながら軽く唇を重ねる。
「そろそろ起きないとな。っていうか どうした?」
怪訝な目をして野明の顔を覗き込もうとすると真っ赤になった頬を隠すように俯く。
「・・・どうしたって・・・」
「なんかこの前もこんな会話したよな、・・・まだ慣れないか?」
小さく吹きだしながら態と首筋に唇を寄せ耳朶を甘噛みする。
「あ・・・もうっ 慣れる訳ないじゃない。起きる時間なんでしょ 起きようよ」
「はいはい、起きますよっ・・・と。そうだ 野明、ご期待に沿えたか?」
悪戯っぽい瞳を向ける遊馬の顔を首筋から引き離しながら野明が小首を傾げると更に愉し気な笑みを浮かべた遊馬が低く抑えたハイバリトンを耳元に響かせた。
「『甘い言葉』ってのは あの位でいいのか?」
情事の最中に囁かれた数々の言葉を一気に思い出し野明の顔が真っ赤に染まるとそれを見た遊馬が吹きだすように笑った。
「足りないなら 今夜また言ってやろうか?」
「・・・充分です・・・」
「本当 素直で可愛いよな。さて今日まで八王子だからな、起きるぞ。シャワー使うなら連れっててやろうか?」
「馬鹿・・・自分で行けます。でも・・・シーツは借りてく」
「気にしなくてもいいのに。散々見たし、今だって・・・」
素肌の彼女を腕に収めて笑いを噛み殺す遊馬に拗ねた顔をしたまま野明がぼそりと呟いた。
「・・・言わないでってば・・・」
「はいはい だったら後ろ向いてる間に行って来れば?」
「・・・そうする」
「じゃ どうぞ」
小走りでバスルームに向かった彼女が扉を閉ざす音を確認して振り返ると遊馬は堪え切れずに声を上げて笑いだした。
扉越しにその声を聞きながら野明は頬を真っ赤に染め身体のあちこちに付けられた痣をみて気恥かしさと妙な擽ったさに複雑な笑みを浮かべた。

並んでバス停に向かいながらチラチラと自分を見上げる野明の視線に遊馬が苦笑いする。
「なんか言いたい事あるなら言えよ?」
「言いたい事っていうのは少し違うんだけどさ・・・」
野明は少し考える仕草を見せ再び彼の顔を見上げた。
「今日で私がここに来るのも最後だなって思って」
「『私が』って限定しなくても俺も一緒に引き上げる予定だろ」
殊更平然と言う遊馬に野明はゆっくりと目を向け、遠慮がちに呟いた。
「私は兎も角、遊馬の場合『取り敢えず今回は』みたいな気がするんだもん・・・」
彼女の発言に『相変わらず勘は良いな』と微かに瞠目し軽く息を吐いた。
「まぁ 今んとこ予定は組まれてないけどさ、可能性は皆無じゃないよな 確かに。でもそれはお前も同じ事だ」
「・・・私もって・・・なんで?」
意外そうな顔をする野明に苦笑いすると腕を伸ばして頭を引き寄せた。
「この前隊長が俺に訊いただろ『何か聞いてないか』って。多分 薄々感じてるんじゃないか」
「感じるって・・・何を?」
「・・・そうだな、お前も少し注意した方がいいかもな。実ちゃんとかそれ以上の役職者・・・そういう奴からの呼び出しとか質問には迂闊に答えるなよ。困ったらいつでもいいから必ず呼べ」
「・・・あの・・・どうして?」
困惑して聞き返す彼女に遊馬は「返事は?」と促す。
「え・・あの・・・はい。けど 遊馬はともかく私もって言うのがわからないんだけど・・?」
「お前って本当そういうとこに自覚ないのな。希少人材って点でいうなら俺よりお前の方がよっぽど引く手数多なんだよ。レイバー産業が過当競争に入ってきた今 優秀な技術者、殊テストを請け負うパイロットはただでさえ引き合いが多い。その上土木作業以外の用途で使用される機体の搭乗経験者は限られる。だから陸自、特に空挺レイバー隊の退官者は各企業結構な高待遇で迎え入れるんだ。それでも奴らは自衛隊に所属している限り実戦経験は無いんだ。模擬戦闘訓練はあってもそれはあくまでルールに則った模擬戦だからな、無茶な事はしないしさせない。ここにお前を呼んだのは 試験の進行問題も無くは無いんだろうけど・・・俺は『試されたんじゃないか』と思ってる」
「・・・試されたって 何を?」
「適正」
怪訝な顔ををする野明の頭を更に引き寄せ遊馬は苦い顔をして見せた。
「何の?」
「テストパイロットとしてのさ」
「・・・どういうこと?」
「つまりさ 経験の上から言うなら乗務時間も長いし98の扱いにも長けている。搭乗員としては申し分のないパイロットだけど テストパイロットってのは特殊な面があるからな。それにお前が向いてるかどうか見たかったんじゃないかと思ってさ」
「特殊?」
「そう 搭乗者としてなら太田だっていい筈だろ、あいつだって98式の操作には慣れてるし殊『格闘』とか『射撃』に関してはお前と比べて一日の長がある。それでもシノハラ側がお前を名指して来たのにはそれなりに理由がある訳さ」
「太田さんではなく 私を指名した理由・・・?」
「そう、分かるか?」
悩む野明の顔を覗き込みバス停に並ぶ列の最後尾について足を止めた。
「教えてやろうか?」
「偉そうだなぁ・・・」
「まぁな こう言う事に関しちゃ俺の方が頭が回るさ。答えは『指示通りの動作を正確にこなせるのはどっちか』って事。太田は指示通りってのがあまり得意じゃないし 正確さの面ではお前の方が上。なら引き抜きを掛けるなら太田じゃなくてお前の方がいいに決まってる。でも開発環境の人材として引き抜きを掛けるなら即戦力になる方がよりいいわけで、そういう意味で適性を見てみたかったんじゃないか?連れて来た後で 再教育を掛ける必要があるならその準備が必要になるだろうし 他にも目を付けている相手がいた場合、状況によっては他の奴でも・・・て事も無くは無い」
「引き抜きって・・・」
絶句する野明に遊馬は軽く眉根を寄せ難しい顔を見せた。
「恐らく試されたのは俺も同じなんだと思うけどな。開発環境にエンドユーザー側の目があるに越したことは無い、ダメだしの率が減るし何より作る側には気付き辛い点に運用者は気がつきやすいからな」
「でも遊馬はこの一月、開発の中でかなりメインにやって来てたんでしょ?そういう所を買われたってことだよね」
「それはオマケだな、実際ここに来た当初は実機と開発機にある動作の差異をすり合わせる様な作業が中心だったんだ。現場の情報を持っている事に重点が置かれていた気がする。その手の作業ってのは手間が掛るから結果としてかなりの時間を割かれる事になったし何よりパイロットの腕が違うからさメカニズムの動作による差異なのか操作によって生じた差異なのかの判断に迷ったりしたしな。現場の目を持った解析スタッフ位に見てたんじゃないかな。お前が来て直ぐ指の関節の跳ねあがりを指摘しただろ?あれにしても 実際は操作ではなくて機体の問題で今までだって動作に影響があった筈なんだ。なのにそれに気付かなかったのは解析側がパイロットの動作だとおもってデータを切り捨てたりパイロットもそれに気付かなかったりしたからだ。けど俺はお前がああいうミスはしないって判ってたし野明も動作に違和感を持った。だから機体を疑った訳だろ、あの辺りで少なくともお前は能力を買われたんだと思う」
苦い顔でため息交じり言う彼に野明は困惑した目を向け引き寄せられたままの頭を軽く捩った。
「でも 遊馬は技術者として優秀だって皆・・・」
不安そうな顔をする彼女に軽い笑みを向け頭を押さえていた手を離すと肩に手を回し引き寄せた。
「正直俺と同じくらいの技術者はいくらでもいるんだよ、このシノハラの中にだってさ。敢えて違いを言うならエンドユーザーとしての立場で物が見れるってだけで」
その先の言葉を遊馬はぐっと呑み込んだ。
『本当に欲しているのは「技術者」としての野明と、「シノハラの御曹司」としての俺で俺自身じゃない』
だからこいつを引き抜こうするならその裏には彼女自身の技術を買う面もあるだろうが・・・俺を釣る餌としての価値も含まれる事になるんだろう。
『こいつと一緒に』と言われたら恐らく俺は野明を突き離して『一人で行け』とは言えない。
俺は確実に弱点を掴まれたことになる。
大きな溜息を吐き遊馬は野明の身体をぐっと引き寄せた。
「俺は・・・手放さないからな 絶対」
小さく呟かれた言葉の真意を測り兼ねて野明が首を傾げつつ遊馬におずおずと声を掛けた。
「あの・・・遊馬・・・色々考えてるのはよく分かったんだけど・・・・ここでこれはちょっと・・・」
八王子工場へ向かうシャトルバスを待つバス停、その列の中で御曹司に抱きすくめられたりすれば注目を集める事甚だしい。
顔を真っ赤しにて身体を離そうとする野明にきょとんとした顔を向け周りを見渡す。
「ああ」といって片手で口元を覆い少しバツが悪そうな顔をした後少し考えて遊馬は完全に開き直った。
「どうせ今日までだよ、ここに通うのも。構うもんか、俺のもんだって主張しとくさ」
「あの でもっ・・・」
「やっかみが怖い? なら一日中張り付いててやるから心配すんなよ」
「えっと・・あの そういう問題?!」
「どう言う問題でもいいさ。なぁ 今日の昼食堂で食うのやめて外出ないか?」
「外?」
「そ。俺 一度寄ってみたいとこあってさ。一緒に行こうぜ」
「・・・はいはい。その代わり時間厳守だからね。午後に間に合わない様な所は嫌よ?」
「判ってる、じゃ決まりな」
漸く肩から手を離すと到着したシャトルバスに乗り込み八王子工場に向かった。
相当に注目を集めている事は重々承知していながら全く動じる事が無い遊馬の姿を野明は複雑な顔で見上げ丁度振り返った彼と目が合うと小さく肩を竦め笑みを交わした。

バスを降りて更衣室に向かう途中 「大丈夫だから」という野明の言葉を完全に無視する形で遊馬は扉の前まで付いてきた。
先日と同じように更衣室前の廊下に背を預け野明が出てくるのを待ち出てきた彼女を伴ってラボに足を向ける。
一度野明をラボに送り届け自分も更衣室へ向かうと手早く着替えラボに駆け戻る。
急いで扉を開けると野明が数人の開発スタッフに囲まれていた。
「おはようございます」
声を掛けると一斉に遊馬を振り返り口々に挨拶を返す。
そのうちの一人が遊馬の方に近寄ると脇腹を軽く小突いた。
「聞いたぞ、篠原。朝からバス停で泉さんといちゃついてたって?」
「耳が早いですね、でもいちゃついてったってのはちょっと違いますよ。肩抱いてただけです」
「・・・充分だって・・・」
しれっという遊馬に彼は苦笑いして肩を竦め野明は乾いた笑いを浮かべた。
「ところでどうしたんです?皆で」
「今日 送別会やろうかと思って泉さんに声掛けてたんだ」
「送別会?」
「そう 泉さんと あと序に篠原も」
「序ね。俺 こいつより3週間長くいたんですよ?」
態とらしく顔を顰めて見せると別の一人がカラカラと笑いながら遊馬の肩を叩いた。
「男はいくらで入りしてもそんなに悲しくないの。まぁ 主力の解析メンバーが抜けるから仕事がきつくなるなぁっていう悲しさはあるけどね。送別会より寧ろその間に仕事進めて貰って残作業減らしてって欲しい位だよ」
悪戯っぽい瞳で言われ遊馬は態とらしく大きな溜息を吐きながら「男の扱いは冷たいね」と笑った。
「で、泉さん どう?」
「あの・・・えっとどうしよう?」
遊馬に助けを求める瞳に誘った側は苦笑いを浮かべ遊馬は可笑しそうに笑った。
「じゃ 野明、俺が『行くな』って言ったら行かない?」
「おい ちょっとそれは」
「篠原、そりゃないだろう?!」
野明がきょとんとした顔をすると周りから一斉に抗議の声が飛んだ。
吹きだすように笑いながら野明の腕を掴み椅子から立たせる。
「コーヒー買いに行こうぜ」と声を掛けてその場から野明を連れ出した。
抗議の声を背に「俺の女に手を出したら後で報復しますよ」とひらひら後手を振りながら部屋を出ようとすると中から「なんだよ、それ!」と怒号が飛んだ。

自販機で珈琲を購入して野明にミルクティーを手渡すとソファに腰を下ろす。
ひと息つくとそこに開発チームの一人がやってきた。
先程の輪の中にはいなかった人物だったがその話はあっという間に伝播したようで珈琲を購入しながら遊馬に苦笑いを向けた。
「おはようございます、篠原さん センタールーム盛り上がってますよ」
「何の話?」
「またまた、遂に泉さんを『彼女』って宣言したって」
「何を今更。『こいつは特別』ってのは一週間前 野明が来た時から言ってる事だと思ったけど?」
苦笑する彼に遊馬はしれっと言ってのける。
その言葉に野明は顔を真っ赤にして絶句した。
「・・・あす・・・ま・・・?」
「『特別』だとは聞きましたけど『付き合ってる訳じゃない』って言ってませんでしたっけ?」
「状況が変わったの」
「変わったって・・・じゃこの数日の間に付き合い始めたって事ですか?」
呆れた顔をする彼に遊馬はにやりと笑った。
「答える義務は無いけどね」
「・・・ショックだなぁ・・・僕も泉さん気になってのに」
「・・・はい?」
声が裏返った野明に彼はくるりと向き直ると笑顔を向けた。
「泉さん 篠原さんも良いですけど僕と付き合ってみませんか?」
「あ・・・あの?」
「僕なら やっかみも受けませんし何より尽くしますよ」
慌てる野明にずずいと近づき笑みを向ける彼の頭に遊馬が拳を落とした。
「俺の目の前で口説こうとはいい度胸だな。向こうで聞いて来たんだろ?『俺の女』だっつってんだから、ちょっかい出すなって」
眉間に皺を寄せる遊馬に彼は拗ねた顔をして見せた。
「『付き合ってない』って言ってたのにずるいじゃないですか」
「文句があるなら嗾けた奴にどうぞ」
「嗾けたって・・・誰が?」
「久住さん」
さらりと名前を出し目を瞬く彼を横目に遊馬は腰を上げた。
「さて そろそろ始業だし俺ら先に行ってます」
野明の腕を引きその場をその場を離れると残された彼は「そりゃ 相手が悪いよ・・・」と手にした缶を見つめて深い溜息を吐いた。

朝礼を終えると今日の作業内容を確認して各々作業に入る。
昨日の模擬戦で得たデータの解析を開始すると遊馬は端末に掛り切りになった。
野明は担当していた部分のデータを集めてシノハラの専属パイロットである坂口相手に引き継ぎを始めた。
細かい設定の値やタイミングの測り方のコツを細かく説明する彼女に神妙に頷きながらも時折 彼女の手や肩に伸ばされる彼の手の不自然な動作に遊馬は軽い苛つきを覚えた。
「・・・ですから、こういう試験の時は今のシュミレータの設定だとフットペダルの遊びが大きいんですよ。なので・・・」
「泉さん、模擬戦の時にも思ったんだけど・・・本当にすごいパイロットですよね」
説明を遮る彼の言葉に野明は一瞬きょとんとして資料から顔を上げた。
「あの・・・ありがとうございます。で・・・続きいいですか?」
「ええ 結構ですよ。ここのタイミングは少し早めに踏んだ方が良いって事ですよね、でしたらいっそ遊びを小さく調整し直してしまっては?」
「そうすると この後の試験・・・あ ここですね。この時ポンピングをかけるタイミングを取るのがかなり難しくなりますから、遊びは置いておいた方がいいと思います。ここでまた再調整を掛けると誤差の修正にも時間を取られる事になりますから・・・」
「ああ 成程。泉さんのおっしゃる通りですね。ところで今日は送別会参加されますよね?」
「・・・一応 その心算ではいますけど・・・それは作業の進捗次第じゃないでしょうか」
困った顔をした野明に彼は「ふうん そっかぁ」と言って含みのある笑みを見せる。
「つまり『引き継ぎに手間取っちゃうと参加できない』ってことなのかな?」
「あのぅ・・・・」
「そうなると 泉さんを独占できるチャンスって事になるのか、篠原さんは彼の送別会も兼ねてる訳だから主役二人不在って訳には・・・」
彼がそこまで言うと不快感をあらわにした遊馬が困り顔をした野明の腕をぐいと掴んで席を立たせた。
「浅月主任、坂口は引き継ぎ必要なさそうなので解析の手に泉借ります」
そういうと自分の隣の端末に野明を座らせるとポンポンとデータディスクと試験仕様書を机に並べた。
不満そうな坂口を一瞥して野明に向き直るとざっと作業を説明する。
「データ均すだけだから順番にファイルロードして、出力掛けて回って。出来たら仕様書と組にして番号振ってくれ」
「あ・・・うん。・・・遊馬・・・」
「ん?」
「・・・何でも無い。まずこの五つでいいのね?」
「そう。後で比較したりするのに使うから片面で印刷して。表裏だと見づらい時あるからさ」
「はい」

野明が端末の操作を始めると遊馬はチラリと後ろを振り返り坂口の様子を窺った。
不貞腐れた顔で浅月の説教を受けている彼を見て『あいつがここに復帰するとまたデータが荒れるんだろうな』と軽い溜息を吐いた。
腕が悪いのでは無く注意力が今一つ足りない事がある彼の操作は野明が来る前の3週間で遊馬も良く承知していた。
調子のいい時と悪い時で精度の差が大きい。
それは気分で作業に斑が出ているということでそれ自体は人間である以上致し方ない部分が無いとは言わないが、彼の場合良くない時の自制が足りないと言う気がしてならなかった。
自分の腕にそこそこ覚えがある、だから人に指図されるのがあまり好きではないそういうタイプの人間には幾らか心当たりがある。
そういう人物には本人が尊敬できる人間が上に就いて制御しつつ引っ張っていくのが一番いい。
浅月がそうなれるのか 遊馬は二人がやり取りしている様子を見ながら『まだ時間はかかりそうだけど・・・悪い組み合わせじゃなさそうだ』と軽く笑みを刷いた。
出力の設定が済んだ野明がそれをみて遊馬の視線を追い小首を傾げた。
「どうかした?」
「いや。何でも無い。それはともかく、野明は気を付ける様に」
「何を?」
「お前 自分が思っている以上にもててるんだよ、坂口もそうだけど他にもさ。『俺の女だ』って宣言しても尚 ちょっかい掛けてくる奴がいるし」
苦い顔をする遊馬に野明は吹きだすように笑った。
「それは遊馬があんなこと言うからでしょ。皆面白がってからかいに来るんだって」
「そういう奴ばかりじゃないと思うけどね」
「心配性」
「悪かったな、そんだけ愛されてんだから冥利に思え」
「・・・ばっ・・・ばかぁ・・・そういうこと職場で言わないでよね」
「んじゃ 帰ってから言うよ」
「・・・もうっ・・・仕事しようってば」
小声で会話を交わしながら顔を真っ赤にして作業に集中しようとする彼女を横目に遊馬はくっくっと肩を震わせて笑った。

午前中の仕事が終わって遊馬が行ってみたかったという定食屋で食事を取りながら野明は小首を傾げた。
「ね どうしてここに来てみたかったの?」
「シノハラの女子社員がまず来ないから」
そう言われて辺りを見回すと店は満席なのだかその中に確かにシノハラの女性社員の姿は見当たらなかった。
「どうして?」
「簡単な事だよ、他の女性社員が来ないから」
「え?」
「他に女性が来ないから一人では入りづらい。だから来ないんだ」
「そういうものなのかな・・・」
「そうじゃないか? お前や久住さんみたいに男性の中に一人混ざる事に慣れている女は多分少ない、集団で動く奴の方が多いだろ」
「そう・・・かもしれないね」
「『相席いいですか』とか『また泉さんと一緒なんですね』とか余計なこと言われずに昼飯食いたいしさ。それにさ、こういう和定食って美味いと思わないか?」
子供の様な笑みを見せる遊馬に野明は呆れた顔をして見せると小さく笑みを零した。
「そうね、和食ってたくさん作る方がおいしいもの多いから」
煮物を口に運びながら言うと遊馬もまた煮魚をつつきながら笑みを見せた。
「それとさもう一件 明日終わったら3日休みが貰えるだろ?」
「申請してくれたんだもんね」
「そう でさその間でどこか上手く時間の都合付けて約束果たさないとな」
「約束?」
怪訝な顔をする野明に遊馬はにっと笑った。
「会うって言ったんだろ?『墨勇くん』に。北海道に帰る前に時間取れるか聞いてみようぜ」
野明は嬉しそうに頷くと早速彼にメールを送った。

午後の作業が滞り無く終わると送別会の準備と称して皆が珍しく定時に業務を終了する。
一斉にラボの電源が落とされると遊馬は思わず感心してしまった。
「一月いてここの電源が全部落ちるのを見たの初めてですよ」
「僕も久しぶりに見た」
浅月が笑うと野明は肩を竦めた。
「送別会なんて・・・そんなに気を使っていただかなくても。お忙しいのに」
「良いんじゃないか?みんながやりたいって言ったんだから。たまには息抜きしないとね」
「俺だけだったらしなかったでしょうに」
腑に落ちないと言う顔をして拗ねる遊馬に「そんなこと無いって」と野明がなだめる様に彼の肩をぽんぽんと叩いた。
「さてどうかな」と声を上げて笑う浅月に野明は困惑した顔を見せた。

予約されていた店に足を運ぶと大きな座敷に通される。
総勢30名弱。
開発スタッフほぼ全員が集まったと言って良かった。
その人数に野明は目を丸くし、「年度末の納会でもこんなに揃った事無いよ」と浅月は苦笑した。
『離れるな』と言う遊馬に苦笑しつつ野明が彼の隣に座ると浅月の音頭で送別会が始まった。
「泉さん おつかれさまでした~」と口々にいうスタッフに遊馬が苦笑いする。
「篠原もおつかれさま」
浅月がジョッキを手に隣に腰を下ろすと「どうも」と遊馬もまたジョッキを手に持った。
カチンとジョッキを合わせて軽く中を呷ると遊馬の隣で忙しく挨拶に追われる野明に目を向けた。
「アイドルだね、彼女は」
「女性自体が少ないってこともあるんでしょうけど・・・こういう職種に理解のある希少人材ですからね」
不貞腐れたように言う遊馬に浅月が笑った。
「まぁそれもあるけど 彼女は人柄もいいしね。その上小柄で可愛らしい」
「・・・同世代の女性社員はそういう評価してないみたいですけどね」
散々言われてきたらしい悪口を思い出し遊馬が肩を竦めると浅月は苦笑を浮かべた。
「それはさ 嫉妬とやっかみが多分に含まれているから、だろ?篠原が罪作りなんだって」
「・・・罪作りって・・・俺は何もしてませんよ」
「明らかに彼女を特別扱いするからして貰えない連中にやっかまれるんだよ。今の篠原が丁度逆じゃないか」
クスクス笑う浅月に遊馬が渋面を作ると「判らない?」と彼は愉し気な笑みを見せた。
「意識してるかしてないかは兎も角、泉さんは篠原を特別扱いしてるからね、皆やっかんでる訳だ。事務系女性社員との最大の違いはここの連中が篠原の能力と人間性に関してはちゃんと評価しているってことだな。泉さんを独占している事を除けば、だけど?」
「独占ったって・・・そもそもあいつはここの人間じゃないし俺のパートナーなんだから近しいのは当然じゃないですか」
「それはそうだけど それを言うなら篠原だってここの社員じゃないだろ?まぁ お前の場合ちょっと立場が特殊だけどな」
「特殊って・・・たまたま社長の血縁ってだけですよ。別に後を継ぐって決まってる訳でなし、現状はただの公務員なんですけどね」
「実際どうあれ見てる側がそう思ってないからやっかまれるんだろ、泉さんが」
苦笑する浅月に遊馬は溜息を吐いた。
「馬鹿馬鹿しいとしか言いようがないんですけどね、大体誰と付き合おうが俺の勝手でそれについてあれこれ言われる筋合いなんて無いんですよ。野明にケチを付けるなんてそれこそ筋違いもいいところで」
「それは正論だけどね、それが通じないから彼女が困ってるんだろ」
「判ってますよ。けど、ああやって野明を排除してそれで俺が振り向くと思ってる訳じゃないでしょう?そんなことする人間に恋心持つ様な奴はいないと思いますけどね。なら 何のためにそんなことするのか分からないと言うか・・・」
顔を顰める遊馬に浅月は吹きだすように笑った。
「そうなんだけど。お前も泉さんも本当に真っ直ぐだよな 考え方が。そうじゃないんだよ、振り向いてもらえる貰えないじゃなくてさ。望む位置に立っている人が妬ましいだけなんだよ、きっと。その結果 自分がその位置に立てると思ってる訳じゃないさ、恐らくね」
「・・・だからそれって不毛ですよね? 直接俺に言わないって辺りが」
「そう思うよ、でもその辺が女性と男性の差なんじゃないか?男は意外にストレートだからさ みんな泉さんに興味があると本人にアピールしに来るだろ? 今みたいにさ」
隣で次々やってくるスタッフに笑顔で挨拶を返し続ける野明を横目に遊馬が渋面を作ると浅月が笑いを噛み殺すように肩を震わせた。
「彼女が他の男と話すのは気に入らない?」
「そこまで心狭くない心算ですけどね。気にはなりますよ、こいつ無防備なんで」
「それは篠原が構うからだろ。あれだけ過保護にしてれば警戒心なんて無くても危ない目に会う事も少ないだろうし」
「・・・そんなに過保護ですかね?」
「自覚が無いってのも凄いな。見てると番犬みたいだよ、泉さんが嫌がってないからいいんだろうけど」
「言いますね」
「そりゃね、それはそうと聞いたよ。遂に泉さんと付き合ってるって言ったんだって?」
「遂にって・・・ちゃんと付き合いだしたのは本当に数日前なんですよ。嘘はついてません」
しれっと言う遊馬に浅月は目を丸くした。
「・・・嘘だろ?」
「本当ですよ、なんなら野明にも訊いて見たら如何です?」
「流石にそこまではしないけど・・・意外に純愛だったんだなぁ」
「そういう言い方 止めてくださいよ・・・」
額を押さえて呻く遊馬へある種の感嘆を含んだ目を向けてジョッキを呷る。
「コンビ組んでどの位って言ったっけ?」
「98式の運用開始と同時ですからね、もう3年目になりますよ」
「その間ずっとコンビ組んできたんだ?」
「・・・一時的に解消された事もありますけどね、ほぼそうですよ」
「そうなんだ。理由は聞ける事かい?」
「隠すことじゃないですしね、ここの人間はみんな知ってるんじゃないですか。汚職がらみの週刊誌報道があったでしょう?」
「ああ パトスのね。結構書かれたよなぁ、一時期社内も大騒ぎになったし」
「その時、情緒不安定になってあいつに八つ当たりしたんです。酷いこと言って信頼関係がぼろぼろになりかけて隊長にコンビを解消された」
あの頃の事を思い出して苦笑すると隣でわんこ蕎麦の様に継ぎ足されるビールに慌てて口を付ける野明を見遣りその手からジョッキをひょいと取り上げると中身を一気に呷り空にしてその手に返した。
抗議する男性陣に涼しい顔で「酔い潰さないで下さいよ、後が面倒なんだから」と嘯くと野明が吹きだすように笑った。
「ビールくらいで潰れないよ」
「ばぁか。明日 本庁だろ、酒のにおいさせて登庁する気か?少し自重しとけよ」
彼女の頭を手の甲で軽く叩き小声で囁いた。
「人数多いんだから無理するな。全部に返杯貰ってたらいくらお前でも保たねぇぞ。辛くなる前にこっちに振れ」
特に心配そうな顔をするわけでなくさらりと言う遊馬に野明は「ありがとう」と嬉しそうな顔を見せた。
「泉さん」と呼ばれる声に振り返り彼女が笑顔で応対を再開すると遊馬は軽く肩を竦め自分のジョッキを手に持った。
その様子に浅月が笑いを噛み殺す。
「ほら、そうやって構う」
「一対二十数名ってのはフェアじゃないでしょう?」
遊馬が涼しい顔で応じると浅月は「素直じゃないねぇ」と軽く息を吐いた。

暫くそのまま飲み会が続き遊馬の周りにも数人のスタッフが入れ替り立ち替わりやってきてビールを呷り21時を過ぎた頃 野明の携帯電話が軽やかな音を立てた。
滅多に鳴る事のない音に野明は一瞬首を傾げ携帯を開くとメールの着信を示すアイコンが点滅していた。
首を傾げながらメールを開き野明の顔がぱぁっと明るくなると周りにいた男性陣が色めきたった。
相手を詮索して画面を覗き込もうとする輩をかわして遊馬の腕を引くと「返信来たよっ」と嬉しそうに笑った。
「返信?」
首を傾げる遊馬に野明は満面の笑みを向ける。
「墨勇から」
「ああ、あいつか。おっせぇんだよ、あれから何時間経ったと思ってんだ。で 何だって?」
「これ」
メール画面を見せると遊馬が軽く笑った。

『忙しかったみたいだね、俺も日曜の夕方には北海道に帰る予定だったから間に合って良かった。明日と明後日の夜なら用事がないから野明の予定がつくなら是非。遊馬くんに約束を守ってるか聞きたいな、会えるの楽しみにしてると伝えてください 墨勇』

「ふーん。『楽しみに』ね。まぁいいさ、野明 ちょっと貸せ。返信しといてやる」
野明の携帯を取り上げると素早く返信文を送信して彼女の手に端末を返した。
「何て返したの?」
「履歴見りゃわかるだろ、後で見とけ」
「ケチ、教えてくれててもいいのに」
「何を今更」
拗ねた顔をした彼女に遊馬はしれっといい髪をくしゃりと撫でた。

11時過ぎにお開きになると別れを惜しむ面々に丁寧に謝辞を述べ二次会へと繰り出すメンバーへ翌日に響くと困るからと丁重に辞退を申し出た。
遊馬と並んで歩きながらふと思い出して携帯電話を取り出すと送信履歴を表示して野明は目を丸くした。

『泣かせてませんからご心配なく。間に合って幸いでした。明日は霞が関だからその後で如何です? こちらも墨勇くんに会うのを楽しみにしていますよ 遊馬』

go to next....
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追記

やっとラボでの一週間が終わりました(笑)
漸く終焉が見えてきた感じですね・・・・
話の軸がぶれてないといいんだけど(^^;

次回はもう少し早くUPするようにしないとなぁぁ
がんばります~

コメント一覧

非公開 2010年03月22日(月)23時12分 編集・削除

管理者にのみ公開されます。

ゆぴまま Eメール 2010年03月22日(月)23時34分 編集・削除

長い一週間でしたね(笑)野明と遊馬が上手くいってるとそれだけで嬉しいです。どーか変なチャチャが入りませんよーに!ナムナム…(だって本庁にはアノ人がいますしねぇ)  続きを楽しみにしています。好きだなぁ、番犬男子。過保護っぷりがなんとも…グーです(笑)

さくら(内緒様) 2010年03月22日(月)23時53分 編集・削除

>内緒さま

覚えていてくださってありがとうございます~
流石に表ですからこれ以上は(笑)
そういう類は 年齢制限掛けて地下室で展開します(ってホントに?!)
その際は年齢自己申告の上でパス希望者を募集しますね♪
もう少々お待ち下さい~
次回は墨勇登場予定です、さてどう展開しましょう(笑)

花粉症は重症化すると本当に辛いですよ~
ご心配ありがとうございます(^^;

さくら(ゆぴまま様) 2010年03月23日(火)00時05分 編集・削除

>ゆぴままさま

長かったです~(^^;
変な茶々ですか☆
そうですよね、本庁にはあの人いますしねっ
過保護な番犬男子 お気に召してよかったです(^m^) 

たまき Eメール 2010年03月23日(火)00時21分 編集・削除

甘い言葉…いいなぁ(〃▽〃)ベッド限定でも羨ましい…番犬遊馬は息つく暇もないですね。相手が無自覚の野明なのでところかまわず吠えまくりだし(-_-;)きっと本庁でも吠えまくって忠実な番犬となるでしょう!

さくら(たまき様) 2010年03月23日(火)08時54分 編集・削除

>たまきさま

あはは 甘いのはベッド限定かぁ(^m^)
番犬は忙しい様子です
何しろ飼い主が紅一点ですからね(笑)
休む暇なく吠えるんでしょうね~ 本庁でも(^^;

ツッジー 2010年03月23日(火)11時54分 編集・削除

26と27の間の26・5がありませんが?( *´艸`)クスクス


野明も遊馬も1週間お疲れ様でしたー(≧∇≦)

墨勇くんとの絡みどうなるのかなぁー(≧∇≦)

さくら(ツッジー様) 2010年03月23日(火)12時05分 編集・削除

>ツッジーさま

26.5今回はないですよ~(^^;
表ですからこの辺が限界ですね★

そういうのは裏で展開しないと(笑)
墨勇との絡みはどうしましょうかね~♪
今 試行錯誤中です★
その前に本庁出頭ですけど(^m^)

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