さて不在の第18弾♪
ものすごい間があきました。
覚えてる人いるのかなぁぁ(^^;
トラブルで頓挫してましたがなんとか・・・upしてみます
長いなぁ この話も。
いつ終わるんでしょうねぇ(おい!)
こんなうだうだ話でも付き合ってあげるわ、という心やさしい方がおいででしたらぜひご一読ください(^^;
では 以下が本文です
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不在 18
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SIDE-SV2(2)
翌朝遊馬が目を覚ますと 自分の腕の中で野明が身体を丸くして穏やかな寝息を立てていた。
あまりに無防備なその顔に遊馬は思わず苦笑して『いい気なもんだよな、人の気も知らないで』と心中で呟き起こさないよう慎重に腕を引き抜いた。
そっとベッドを抜け出そうとすると「んっ・・・・」と呻いて野明が身動ぎした。
顔を覗き込むとうっすらと目を開き焦点の定まらない瞳を遊馬に向ける。
「起こしたか、悪かったな」
苦笑しながら言うと野明は黙って遊馬の服の端を引いた。
引き寄せられる形になった遊馬が呆れたような笑顔を見せると彼女は拗ねた目をして「行かないで」と彼の首に手をまわした。
「まだ 酔ってんのか?」
その腕を敢えて解くことなく再び野明の隣に座り直すと彼女は自ら手を離し甘えるように身を寄せた。
「酔ってない、と思うんだけど・・・自信ない」
「酒屋の娘が形無しだな」
「遊馬だからいいの。もうちょっと甘えさせて?」
小さく噴き出すように笑う遊馬にしれっとした口調で答えると幸せそうに瞳を伏せて彼の胸に頬を寄せる。
「そりゃいいけどさ、一月放置した負い目もあるし?でもなぁ・・・」
少し困った顔をして彼女の髪を撫でながら肩を竦めた。
「お前、こんなこと他所でしみてろ、無事じゃ済まないからな?気をつけろよ」
「しないよ。遊馬こそ、他所でこんなことさせたら無事じゃ済まないよ? 『篠原の御曹司』ってそれだけで引く手数多なんだからね?」
そう言ってくすりと笑う野明を呆れた顔で見下ろすと一度腰を浮かせて座りなおし、野明の顎を引き上げた。
「このまま押し倒されるかもって、思わないのか?」
剣呑な光を僅かに滲ませハイバリトンの声を少し低めて至近距離で問う遊馬に野明は少し目線を外して小さな声で答えた。
「遊馬は・・・無理矢理そんなことしないよ。『最悪の事態』を想定するんでしょ?いつも」
ちらりと顔を窺う野明に遊馬は目を瞠りついで大きく息を吐き出すと諦めたように両手を離す。
「言ってくれるなぁ・・・・」
溜息混じりに言うと天井を見上げた。
「降参。今回は野明の勝ちだよ。でも頼むから少し自重してくれ、俺が保たん。これでも一応健康な青年男子なんだからさ?」
立てた膝に頬杖をつく彼に野明は「善処します」と笑って見せた。
「とりあえず今日の予定な。車借りて倉庫で荷物幾つか出して、二課に寄って鍵を受け取る。で 借りた部屋に荷物を置きに行って戻る。一度東雲にも寄ってやるけど二課に行く前と後どっちがいい?」
「先にする、洗濯とかしないといけないし」
「了解 じゃ隊長に電話入れておくから着替えて来いよ、飯は途中で食べればいいだろ?」
「うん わかった。準備するね」
遊馬から身体を離しベッドを下りる野明を横目で見送り 大きく伸びをすると遊馬もまた準備に取り掛かった。
車を借りて倉庫から季節の外れた着替えやら当座使いそうにないものをいくつか選んで詰め込むと遊馬は都心に向けて車を出した。
日曜の昼前、首都高は大渋滞で、遊馬は環状線に入る少し前に高速を降りた。
混雑する国道を避け とりたてて地図を見ることもなく器用に一般道を選択して渋滞を回避する。
その様子に感心して野明は思わず声をかけた。
「こんな道、よく知ってるよね?」
その声にちらりと視線を向けた遊馬はさも当然と言わんばかりの様子で答えた。
「そりゃね、出動の度に都内隈なく出歩いてれば少しは覚えるだろう? 俺はね、ただなんとなくキャリアの助手席で座ってる誰かさんと違ってちゃんと周りをみて運転してるの」
偉そうに言う遊馬に図星をさされ 反論の余地がなかった野明はつん、とそっぽを向いて「悪かったわね」と悪態をついた。
「ま、いいいんじゃないの?出動の時は運転手がいるし、出かける時は首都圏なら電車の方が有効だ。野明が運転しなくちゃいけないような機会はそんなになさそうだしさ。俺が一緒にいる間は少なくともその必要はないしな」
くすりと笑う遊馬の言葉に野明は引っかかりを覚えて彼の横顔をまじまじと見つめた。
視線を感じた遊馬が「何?」と問うと野明は少し考えて小さな声で質問した。
「『いる間は』って・・・いなくなる予定でも あるの?」
その声音が不安を色濃く含んでいることに気づいて遊馬がちらりと野明を見やると、正面を向いたまま何かを考え込むような眼をしてうつむき加減に前を見る彼女の姿が目に入った。
「いや、今すぐって話は聞いてないな。たださ このままずっとってことはないだろう?警察という組織にいる以上異動は付き物だし。まして二課ってのは実験部隊だ。勤務体制みててもわかるだろ?正式運用には負担が大きすぎる編成だ。たぶん 部隊の有用性がはっきりした時点で本格運用に向けた大規模な再編成が遅かれ早かれ起きるだろうさ。その時、俺達 現二課の人間がどういう形で配されるかなんてわからないだろう?異動となればきっと皆散りじりになる。それは俺とお前も同じだろうってこと」
遊馬の言葉にそんなことを考えているとは思っていなかった野明は思わず顔をあげ彼の顔をまじまじと覗き込んだ。
その眼は明らかに動揺していて遊馬は野明を見やると小さく肩をすくめた。
「そんな顔すんなって。少なくとももう少し先の話だ。とはいっても 向こう1年以内だろうとは思うけどさ」
「一年?」
野明が小さい声で訊き返す。
「推察だけどな。けどそう思える要素は揃ってる」
黙り込んだ野明に言ったことを少し後悔しながら声をかけた。
「この話、やめるか?」
遊馬が自分を気遣っていることがわかったものの野明は小さく首を振った。
「聞かせて?」
彼女に投げやりな様子がないことを確認して遊馬は軽く頷くと話し始めた。
「俺の推察だからさ、外れるかもしれない。でもそれなりに条件は揃ってきてるんだ」
一通り遊馬の話を聞き終えた野明は膝の上に置かれた自分の拳を見つめて俯いた。
その手は白くなるほどギュッと握りしめられ、わずかに震えていた。
その様子に遊馬は話したことが良かったのか悪かったのか判断しかねて軽く息を吐いた。
「野明?」
声をかけると彼女はピクリと身を震わせて顔を上げ遊馬の方に目を向けた。
泣いてこそいないものの不安と自己嫌悪に似た感情を綯交ぜにしたその顔に遊馬は痛ましさすら覚えた。
「私、いま自分がしてる仕事がそんな風につながるなんて考えてもいなかった・・・」
自嘲気味に言うと再び拳に力を込めて視線を落とした。
「遊馬みたいにちゃんとどこがどう繋がってるのかなんて思ってみたこともなかった」
唸るような小さな声に遊馬は軽く息を吐き出して左手を野明の頭に乗せた。
「いいんだよ、それで。野明はそんなこと考えなくてもいい。その分 俺がちゃんと考えてるから」
軽く髪を梳くように撫でると、野明は一層俯いた。
「でも・・・二課が解散して遊馬とパートナーでいられなくなったら、その時は自分で考えないといけないんだね」
「だからその前に後悔しないようにできることはしておく、そういうこと。それにお前なんか勘違いしてないか?」
「勘違い?」
野明は遊馬を振り返ると首を傾げた。
「俺はなにも仕事でコンビ組んでるからってだけでお前と一緒にいるわけじゃないぞ。プライベートだってちゃんと一緒にいるじゃないか。それともお前はコンビが解消になったら前のパートナーとは一切合切スッパリ縁を切るつもりなのか?」
不機嫌さを漂わせる遊馬の声音に野明は思わずドキリとした。
「あ・・・えっと そんなことない、です。でも 遊馬は・・迷惑じゃない?」
「迷惑だと思ってたら最初からこんなに関わったりしねーよ。俺はそういう奴なの。変な気を回すなって」
「・・・うん。ありがとう」
「どういたしまして。さて 寮につくぞ」
野明が小さく頷くのを確認すると遊馬はにっと笑って頭をぽんと軽く叩いた。
寮の前で野明を一度下ろすと 一時間半後に迎えに来ると約束して遊馬は一旦その場を離れた。
大急ぎで 洗濯物を室内に干して部屋の掃除その他を済ませ時間を確認すると 彼が迎えに来るまであと10分ほどしかないぎりぎりの時間になっていた。
少し考えて野明はボストンバッグに『念のため』に水曜まで困らない程度の着替えなどを詰め込むと寮を後にした。
外に出てほどなく遊馬が迎えにくると野明の着ている洋服と手にしている荷物に目を止めた。
野明が僅かに緊張したのがわかると遊馬はくすりと笑ってそのことには触れずに手を差し出した。
「荷物それだけか?」
こくりと頷く野明から受け取った荷物を後部座席にぽんと載せると彼女を助手席に座らせ二課に向かって車を出した。
道中少し道が混雑していたものの午後2時前に二課棟に到着するとハンガーを通って隊長室に向かう。
途中 何人かの整備員とすれ違ったが 皆一様に普段滅多に目にすることがない雰囲気の私服を着こんだ野明を見て目を瞠った。
隊長室の扉を叩き名前を名乗ると中から「はいは~い」という気の抜けたような返事が返る。
中に入ると 二人の隊長がそれぞれのスタイルで机に座っていた。
二人が入室したのを見て後藤が席を立つ。
「ま、座れや」
応接セットを示して自らもそこに腰を下ろす。
ほどなく 南雲がお茶を入れ始めたのに気づいて野明が慌てて立ち上がった。
「あの私やりますから」
「いいのよ、座ってて頂戴。ここは私の使いやすいようにしてあるから」
そういうとトレイにお茶を4つ載せて皆と同じようにソファに腰かけた。
南雲がお茶を配り終わるのを待って 後藤が話の口火を切った。
「じゃ まずはこれ」
そう言って遊馬に向かって差し出された封筒を受け取り 中身を確かめると鍵が2本入っていた。
「確かに。ありがとうございます、ご面倒おかけしました」
そう言って受け取った封筒を鞄に仕舞うと僅かに沈黙が流れる。
鍵を受け取るだけだと思っていた野明は 戸惑って遊馬と後藤の顔をせわしなく眺めた。
その様子に南雲は『やれやれ』といった顔をして、ポーカーフェイスの得意な男性二人の会話の行方を傍観することに決めた。
次に口を開いたのは遊馬だった。
「なにかありましたか?」
「なぜそう思う?」
訝るような声音に後藤はあくまで芒洋とした様子で逆に問いかけた。
「俺たちをここに座らせたから」
鞄に仕舞った鍵を示してみせると遊馬もまた淡々と応じる。
「これだけのことなら態々4人でテーブルを囲む必要はない、何か少し込み入った話があると思いましたが。違いますか?」
『少し』と言ったのは遊馬なりの考えがあってのことだった。
本気で込み入った内容でしかも 自分たちに直接影響することなら恐らく後藤は野明を同席させない、そんな気がしたからだった。
彼女は良くも悪くも素直で感情が顔に出やすい。
そんな人間に何かを伝えるにはそれなりのタイミングを図る必要がある。
その意図を的確に汲み取ったらしい彼の上司は満足げににやりと笑う。
「『当たらずと雖も遠からず』ってとこかな」
言いながら背もたれに凭れかかっていた上半身をぐっと引き 少し身を乗り出すようにして顎を組んだ手に乗せる。
「お前さん 向こうで何してた?」
「何って。仕事してましたよ 至極真面目に。それこそ不眠不休って感じですかね」
「そのようだな」
「それが何か?」
「それはさ 『あの一件』と関係があるのか?」
『あの一件』が実山の失言だということを察して遊馬は苦笑いをして見せた。
「『関係ない』といったら嘘になるでしょうね。お陰で色眼鏡で見られるようになったんで。腰かけ呼ばわりされるのは性に合いませんし」
半ば投げやりな口調で答える遊馬に後藤もまた半ば投げやりな様子で答えた。
「そうだよなぁ あれさえなけりゃ もう少し気楽に終わらせて帰ってこれたのに。うまくやられたな?」
苦笑気味にいう後藤に遊馬もまた苦笑を返した。
「意図的にやったとは思ってませんけどね。そうだとしたら大した策士ですよ」
「俺もわざとだとは思ってないけどね、それにしてもいいタイミングだったよな、あれは。お陰で手を抜けなくなっただろ?」
遊馬は肩をすくめると大きくため息をついた。
「否定はしませんよ。お陰で寝不足この上ないです。ここの宿直の方がいくらもましです」
後藤は苦笑いしながら鷹揚に頷く。
「なるほど。で 進捗の方はどうなんだ? 予定通り水曜には切り上げてこれそうか?」
「どうでしょうか。今デバックの真っ最中で試験は頓挫してますし、テストパイロットにも超過勤務科すくらいなので進みとしては芳しくないです」
「そうなのか?」
野明に目線を移した後藤が問うとうっかり傍観者になっていた野明が慌てて答えた。
「あ、はい」
頷く野明に後藤は軽く顔を顰め「そういう話は聞いてなかったなぁ」と首を捻ると眉間に薄く皺を刻んだ。
南雲もまた同じように顔を顰め、野明に気遣わしげな視線を向けた。
「泉さんは大丈夫なの?レイバーに乗りっぱなしって結構負担でしょう?」
「それは・・・大丈夫です。現場に出ているわけではないので指示書通りの動作を再現するだけですから。ただ・・・」
「ただ?」
「早くここに帰りたいです」
野明にしては珍しくネガティブな発言に南雲は表情を曇らせた。
「珍しいわね 泉さんが弱音を吐くなんて。そんなに大変な職場なの?」
「いえ そういう訳では・・・」
口をついた一言にばつが悪い思いがして思わず遊馬に助けを求めるように視線を向けると小さくため息をついた彼がやれやれと肩を竦めた。
「大変なのは仕事だけじゃないってことか」
状況を敏感に察した後藤がため息混じりに天井を仰ぎ次いで遊馬に含みのある目を向けた。
視線を受けた遊馬は苦虫を噛み潰したような顔を見せ面白くなさそうに応じる。
「人が多い場所ってのはいろんな意味で苦労しますよ」
「ここは特殊な環境だからね そっちが本来の社会の姿ってことでしょ?」
「否定はしませんけどね。仕事以上に人間関係のほうが問題で」
嘯く上司に 遊馬もまた頬杖をつきながら冷めた口調で答えた。
「成程ね。それはさ フォローしてやってよ?」
「目が届く範囲ならどうにでもなるんですけどね、こればっかりは」
「元凶が手を出せる範囲には限界があるか?」
「元凶って・・・まぁ そうなんですけどね」
揶揄するように笑う上司に苦笑を返す。
その流れから 大体の事情を察した南雲が大きな溜息を吐いた。
「個人的な事情で仕事に支障出るのはいかがなものかと思うけど」
南雲の至極当然でありながら機微に疎いその発言に後藤は微苦笑を向けた。
「それはそうなんだけどね。一度生まれた噂や誤解はさ 一旦広がるとそう簡単に収拾し切れるものじゃないでしょ。こういうのは本人たちの意志とは無関係に広がっちゃうからさ?」
痛いところを突かれて南雲の顔が曇るのを見て後藤が諭すように言葉を継いだ。
「起死回生の一打がだせないならさ、自然に収まるのを待つほかないじゃない?」
「・・・・・そうね」
後藤の言葉に一瞬はっとした顔をみせた南雲は嘗ての自分の姿を思い起こし僅かに目線を泳がせた。
含むところがありそうな二人の会話に口を挟める雰囲気ではなく、野明と遊馬は互いに少し困ったように黙って顔を見合わせた。
微妙な沈黙が流れた場を切り替えるように後藤が遊馬に声をかける。
「ところで 篠原。お前 何か聞いてない?」
一見漠然とした質問でありながら問う内容は決して広くない、そんな訊き方。
遊馬はその意図を汲んで少し考えるような仕草をみせ 軽く口元に手を当てながら慎重に訊き返した。
「それは 俺のことですか、野明のことですか?」
「どっちもってことになるんだろうなぁ」
質問の答えに彼がこちらの意図を的確に捉えたことを察し口の端に笑みを浮かべる。
「少なくとも俺は何も。こっちに聞こえてこないだけっていうのは十分あり得ますけどね」
「そりゃ あるだろうな。じゃ 訊き方を変えようか。評価はどうだ?」
「俺のほうはまぁ それなりに。野明の方は・・・」
軽く視線を向けると話題が自分に移ったことで野明がそわそわした様子で遊馬の顔を見返した。
野明に微苦笑顔を向け、後藤に向き直ると遊馬は軽いため息とともに答えを返した。
「・・・レベルが違いすぎます」
「どっちにとは 訊くまでもないか。・・・とはいえ向こうだって専属がいる訳だろう?そんなに違うか?」
「一目瞭然ですね。データの精度がまるで違う。数字で出てくる分 性質が悪いですよ」
「なるほどねぇ」
後藤が含むところのありそうな目でちらりと野明を見やると 遊馬もまたため息交じりに野明を振り返る。
「欲しいだろうなぁ・・・・」
「そうでしょうね、俺が担当なら引き抜きますよ」
「それは困るなぁ・・・」
苦笑いを浮かべる上司に遊馬は大きくため息をついた。
「あそこに野明を出した時点でこうなることは判ってたでしょうに」
「そうはいってもご指名だからね、上が首を縦に振っちゃった以上 こっちは断りようがないじゃない」
お手上げとばかりに両手を顔の横で広げて見せる上司に遊馬は諦めたような顔を見せた。
「とにかく 何かあればすぐ報告しますよ」
「よろしく。 じゃ 今日の所はこれでいいかぁ。篠原、泉、あと数日頑張ってくれや」
「はい」と二人が同時に返事を返し隊長室を辞して足音が遠ざかるのを待って南雲は後藤に声を掛けた。
「後藤さん?」
多少 含むところのある声音に動じることなく振り返ると出した茶器を片づけながら話しかける南雲が目に入る。
「なにか 思うところがあるのかしら?」
「どうして?」
「さぁ・・・なんとなく。ただね・・・・」
言葉を切り茶器を水道のある部屋の隅に運びながら小さく笑う。
「さみしそうじゃない?」
そう言われて後藤は軽く目を見開くと苦笑いを見せる。
「そうみえた?」
「少しね。でもそれは どっちのことなのかしらね?」
「どっちって?」
「部下を取られそうなことと 娘を取られそうなこと」
揶揄するよう言って笑う南雲に大仰に肩をすくめて見せると後藤は呆れたような顔を見せた。
「娘って・・・おれは泉の親じゃないよ?」
「でも そんな心境でしょう?」
野明と遊馬が部屋に入ってきたときの様子を思い出しクスクスと笑う彼女に後藤はバツが悪そうな顔をして見せた。
野明はこの職場に通勤してくるときには見かけたことのない『女の子らしい格好』をしてきていた。
タートルネックのカットソーにひざ丈よりも少し短いチュニックワンピース、手にポーチを抱えてミドル丈のブーツで現れた出向中の部下とそのパートナー。
それを気遣う彼の様子は今までとあまり変りが無くても 彼女の反応は微妙に変わっていた。
嬉しそうに少しはにかむ様な表情はここに赴任してきた頃にはなかったもので、彼女が自らのパートナーに好意を抱いていることは容易に察せられた。
彼もまた 彼女に好意を持っていることは想像に難くなく仕事上のパートナーとしてだけでなくプライベートでもまた親密になりつつあることは傍目からも明らかだった。
『女の子らしい格好』は恐らく彼の為なのだろうと思うと微笑ましい半面、少し面白くないような気がなくもない。
それでも かわいい部下には幸せになって欲しいと願う訳で後藤は微妙な表情を浮かべると南雲から軽く目線を逸らした。
長い付き合いから それが彼なりの照れ隠しなのだろうと察した彼女は敢えて追求することなく肩を竦めると小さく笑みを零した。
暫しの沈黙のあと漸く後藤が口を開く。
「選択肢はさ 多い方がいい、って思ってるからね。あいつらにしたって何時までもここにいるわけじゃないからさ。シノハラが二人に目を付けたとしたらそれはさ いいことなのかも知れないじゃない?それにさ 篠原には泉が必要なんだよ、多分ね」
言いながら窓の外を眺める後藤の視線を追うとその先にはレンタカーの扉を開けて野明に乗車を促す遊馬の姿があった。
南雲はちらりと後藤の横顔を伺うと 同じように窓外に目を向ける。
去っていく車を見送りながら首を傾げた。
「篠原君に? 泉さんにではなくて?」
普段の様子から野明が遊馬を頼り、遊馬がその面倒をみているような印象を受けていた彼女は腑に落ちないという顔を見せた。
視界から車が消えるのを待って後藤はゆっくりと南雲を振り返ると苦笑いを浮かべる。
「そう。頼ってるのは篠原の方だよ」
不思議そうな顔を見せる彼女にゆっくりと言を継いだ。
「泉はさ あの性格だからね、多分誰と組んでもそれなりに上手くやるだろうし幸せになれちゃうんだろうと思うよ。けど 篠原はね、そうはいかないでしょ。あいつ 不器用だからさ、本人は器用なつもりかもしれないけどね。捻くれているようで変なとこで真っ直ぐだから、苦労もするさ。そういうのを丸ごと受け入れてくれる人間ってのは 探したっておいそれと見つかるもんじゃないよ?」
珍しく饒舌に話す後藤をしげしげと見詰め 南雲は浮かんだ疑問を口にした。
「その場合 篠原君にとってはいいとして 泉さんは幸せなのかしら?」
後藤は再び窓外に目を向けると軽く頬杖をつきながら答えた。
「だからさ、そうあって欲しいって思うわけ。篠原の場合自身の性格もそうだけど それ以上に家庭環境が複雑だからね。実際のところ理解者が傍にいて支えてくれるか否かってのは大きいからね」
静かな声音で語るその姿は亡くしてしまった嘗ての伴侶を思ってかパートナーを思ってか。
判断し切れずに南雲はそっと目線を外した。
なんとはなしに彼が自分の部下、殊にあの二人を気に掛ける理由がわかった気がして南雲は軽く目を伏せる。
何かにつけて野明のメンタルケアを遊馬に、遊馬のケアと野明にと時には職場の上司としては行き過ぎではないかと思うほどにお節介を焼くように見えていたのは 或いは遊馬に自分を重ねる部分があるからかもしれない、そして野明には自分の公私のパートナー其々の影を纏めて投影しているのではなかろうかと思い当たり 彼女は深い溜息を吐いた。
その様子に後藤は肩を竦めつつ敢えて何かを問うことはしなかった。
結局 それは消極的な肯定であると判断した南雲は小さく首を振ると重い溜息とともに極小さな声で「苦労するわね、彼女」と呟いた。
go to next....
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追記
間をあけすぎて しかも一度原稿を消失(^^;
結果 話は変わっちゃうしすごく長くなりましたご免なさいぃぃぃ!!
(大筋は変わってないんですが、ちまいエピソードが増えたり減ったり・・・)
次回は もう少しペース上げたいけど・・・どうかなぁぁぁ
がんばります(^^;
ではでは 続きはのんびりおまちくださいね~(^^)
ツッジー 2009年11月24日(火)18時18分 編集・削除
まってました!!!!
18弾!!!!!
遊馬って頭がいいというか
流石隊長の部下だね!!!
切れ者だなぁー(≧∇≦)