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不在11

さて不在の第11弾

遊馬に巻き込まれてしまった野明はこのあとどうなるでしょうか?(^^)
遊馬 がんばれ~!

続き

以下本文

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不在 11
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AT LABO-(3)

二人が去った後の食堂ではそこかしこで憶測交じりの噂話が花開く。
取り分け列に並んでいた際の一悶着を間近に見ていた人の中には不機嫌さそのままに多少手荒く野明を引き寄せた遊馬の様子を興奮気味に話して聞かせる者まで出て食堂はちょっとしたお祭りのようになっていた。
『篠原の御曹司は出向の警察官に御執心』という噂は瞬く間に工場中に広まってしまった。
遊馬は自分の出自が広まった時、既に経験済みなのでそれは予想の範囲内。
しかもあの時はラボの中という限られた人しか居ないはずの場所の発言があれだけの速度で広まったのだから 不特定多数が出入りし、しかも最も混雑する時間の食堂で起きたことが広まらないわけが無かった。

食堂を出て後ろをついて歩く野明を振り返り遊馬が手招きする。
野明は小走りでその横に並ぶと不安げな顔で遊馬を見上げた。
「どうした?」
「・・・よかったのかなぁ」
眉間に皺を寄せるようにして考える仕草をする野明に悪びれた様子もなく遊馬が短く受答える。
「何が?」
「今の。女の子達置いてきちゃったじゃない?」
「ああ あれか?いいんだよ、別に俺らが呼んだ訳じゃないし。ていうか野明、人の心配してる場合じゃないからな、これから大変なのはこっちの方だ」
遊馬は溜息交じりの笑顔を向けると野明の頭をクシャリと撫でる。
野明は小首を傾げて聞き返した。
「こっちって? 午後の試験ってそんなに大変なの?」
的外れな質問をする野明に遊馬は鼻白み、軽く額を押さえた。
「あー、まぁそれもあるけどな そのことじゃ無くて・・・・ま、すぐわかるさ・・・」
説明する気力を失った遊馬は言葉を切ると 野明の顔を窺った。
眉根を寄せて考える野明を視界の端に捉えて『巻き込んじまって悪かったかな』と軽い罪悪感を覚える。
その一方でそうでもしないと同じ工場に居てさえも会話すら儘ならない状況に追い込まれそうなことは明白でそれは顔が見れなくてコミュニケーションが取れないことよりも精神的打撃が大きいことは目に見えていた。
巻き込まれた野明には災難だろうが此処は出来る限り自分がついて回ることで矛先を逸らしつつ公然と会話が出来る状況を確保する事の方が遊馬にとって先決だった。

残り20分ほどの昼休みをラボの裏手にある中庭で缶コーヒー片手に過ごすことにして野明を伴って敷地内を歩けばすれ違う人が皆一度は物珍しげな目線を二人に送って遣した。
野明は『有名人って大変なんだなぁ』と暢気に構えて遊馬に同情の眼差しを向けていたが実は注目を浴びていたのは野明の方だった。

この一ヶ月弱 数多の女性社員がどれだけ周りをうろうろして媚を売ろうが誰一人として彼の気を引くことが出来なかった。
それでもまだ諦めきれない連中は滅多にラボから出てこない遊馬を昼休みに狙いを定めて食堂で待ち伏せたり、定時後に差し入れと称してラボを訪れたりするものの、品物はそれが何であれ一切受け取らず 昼も相席を断りはしないが適当にあしらうだけで話題に乗ってくることはしない遊馬に多少なりと不満を持っていた。
そのことは工場内では結構有名でラボ以外で彼と接することのない人間からは 『御曹司は愛想の悪い仕事の鬼』のような言われ方をしていた。

その遊馬が見慣れない女性を伴って機嫌よく会話をしながら歩く姿は食堂の一件をしならくてもかなり興味を引くものだった。
彼女に対する遊馬の態度はこの一月ほどの間、彼にモーションを掛けていた連中からみれば面白くないことこの上ない。
親しげに遊馬が名前で呼ばわり自分たちには一度として見せたことのない笑顔を向け愉しげに会話をする小柄なショートカットの女性。
彼女に対して八つ当たりと言っていい感情が集約していく。
それは遊馬個人に対する恋愛感情というよりも『御曹司』という美味しい立場の人間を独占する野明に対するやっかみだった。

そんなことなど露知らず遊馬に連れられて芝の貼られた中庭にやってきた野明はさっさと腰を下ろして伸びをする遊馬を興味深げに眺めていた。
ごろんと身を投げ出す遊馬をしげしげと眺めていると遊馬が微かに鼻白む。
「なんだよ?」
「何でもないよ」
「お前も座れよ、見下ろされてると落ちつかねぇ」
自分の隣に座るよう手で示す遊馬に軽く肩を竦めて野明もゆっくりと腰を下ろした。
寝転んで眼を閉じる遊馬を視界の端に捉え野明はゆっくりと口を開いた。
「昨日ね 墨勇に会って来た」
遊馬は僅かに眼をあけて野明の横顔を眺める。
「それで?」
「今日からこっちに来るから暫く会えそうにないって言ってきた」
その言葉に遊馬は微かに眉根を寄せる。
それを知ってか知らずか野明は前を向いたまま手の中の缶コーヒーを弄びながら続ける。
「帰ったらまた会えるといいねって言ったら、遊馬も一緒にって」
「俺も?」
「うん 二人で出かけて妬かれると面倒だから、だって」
それを聞いた遊馬が溜息と共に手で顔を覆う。『あの野郎 余計な事言いやがって』遊馬は眉間の皺を深くした。
その仕草をどうとったのか野明は遊馬を一瞬振り返ってからまた前に視線を戻した。
「それは無いんじゃないかなって 言ったんだけどね」
膝を抱えるようにして微かに笑う野明を視界に捉え遊馬は勢いをつけて半身を起こすと溜息をついた。
「なんでそう思うんだ?」
互いを眼の端に捉えながら前を見て話す。
「・・・妬いてくれるわけ?」
互いの探り合いをするような微妙な沈黙のあと遊馬が大きく息を吐いて眼を逸らした。
「ちょっと引っかかったところがあるんだけどな」
目線を合わせずに言う遊馬に野明は「何?」と首を傾げた。
「暫く会えそうにないって、お前ここ暫くそんなに頻繁にあいつと会ってたのか?」
野明は遊馬の口調に若干の棘を感じて首を捻った。
「準待機の間だけだよ? 墨勇の仕事が終わってから東京観光とあと食事しにいったりしてたけど?」
悪びれる様子もなく、後ろめたさもまったく感じさせない素直な表情と語り口であっさりと事実を伝えてくる野明に遊馬は苦虫を噛み潰すような顔を向けた。
「え・・なに?!」
遊馬の顔に非難の色を見つけた野明が驚いてその顔を見返した。
「昨日も会ってたって?」
「うん・・・携帯電話の件もあったし。あれ遊馬でしょ?机に置いていったの」
「ああ 俺だよ。けど お前あれどこに置いて来てんだよ?」
膝に肘をつき非難の眼差しを送る遊馬に野明は「あちゃ」とちいさく言うと眼を逸らした。
「酒とつまみ持って部屋に行ったって? 無用心にも程があるだろうが」
「だって 墨勇は幼馴染だし彼女持ちだよ?」
小さく抗議する野明に遊馬はフンと鼻を鳴らし眼を逸らす。
「それでも何でも。密室で男と二人になるな!何かあってからじゃ遅いんだからな。大体お前は自分が年頃の女だって自覚に欠けてんだよ」
捲くし立てる遊馬に野明は軽く後ずさりながら「遊馬 怖い・・・」と引きつった笑顔を張り付かせる。
その野明を一瞥して遊馬は更に言い募った。
「そのくらい言わないと 危なっかしいんだよ、お前は。様子見に行きゃ 俺の机で突っ伏して寝てるわ、そうかと思えば他の男の部屋で酒盛りしてるわ、いい加減自覚を持て」
一気に言い放つとずいっと野明の顔に近づく。
固まる野明の顎を右手で押さえると真正面からその瞳を覗き込んだ。
「・・・心配させるな」
気持ちいつもより低い声で言うとパッと手を離して再び芝生に倒れこんだ。
驚いてそのまま固まった野明を横目にみて軽い溜息をつく。
「返事は?」
「・・・・はい・・・」
すっかり毒気を抜かれた野明が神妙に返事をすると遊馬は「よし!」と偉そうに頷いた。

暫く黙って缶コーヒーを口に運び腕時計に視線を落とす。
もうすぐ5分前の予鈴がなるだろう時間に差し掛かるのを確認した遊馬はさっと立ち上がると野明に手を差し出した。
少し躊躇した後 その手を取った野明をぐっと引っぱり上げると野明の背中に手を添えて歩き出す。
「そろそろ戻るけどさ、覚悟しとけよ」
若干緊張感が見える遊馬の顔を見上げて野明が首を傾げた。
「覚悟ってなんの?」
「行けば分かるけどな、なるべく近くに居ろよ」
「遊馬?」
「フォローはする、できる限り」
「それとも・・・野明、お前 俺といるの嫌か?」
最初に聞くべきだったかもしれない と思いつつ既に時遅しだ。
今更どうなるわけでもないのだが確認しなかったのはまずかったかなと遊馬は野明の顔を覗き込んだ。
野明は不思議そうな顔をしていたが すぐに首をフルフルと横に振った。
「嫌じゃないよ」
「じゃ 好きか?」
真意を測りかねる野明が小首を傾げる。
「どうしたの、急に」
「聞いておきたいだけ。で 答えは?」
「好きだよ 遊馬といると落ち着くもの」
神妙な顔で答える野明に遊馬は安堵の息を吐く。
「そりゃ よかった。じゃ いくぞ」
背中を遊馬に押されるようにして 野明はラボに向って歩き出した。
隣の遊馬はさっきよりは幾分和らいだ顔をして前を向いていた。

ラボに向う道すがら かなりの人の視線を感じて野明は若干たじろいだ。
不安になって遊馬を見上げると何でもない顔をして普通に足を運んでいて、ここに於ける遊馬がこういう視線に晒され慣れていることを窺わせ『遊馬も大変なんだな』と野明は内心大きな溜息をついた。
そして当の遊馬は今朝まで自分に向けられていた視線と今浴びている注目の違いを敏感に感じ取って既に噂はこの昼休みの間だけでかなりの範囲に広がったであろうことを確信していた。
向けられる視線が自分ではなく野明に向いている、そのことが遊馬自身の気持ちを苛む。
自分で巻き込んだことだけに自責の念が強かった。

ラボに入ると 若干空気が変わる。
ここでは 遊馬を『御曹司』として揶揄するものが殆どいない代わりに純粋に興味と関心のネタとしての注目を浴びた。
遊馬は軽く肩を竦めると端末に手を伸ばし、そばに積んだ資料の中から試験仕様書を引き抜くと野明に手渡した。
「午後はそれからはじめるから、目通しとけよ」
「了解」
受け取った仕様書を捲りながら返事を返す野明に遊馬は幾つかの注意点を指摘すると他の開発メンバーに声を掛けて試験の準備に取り掛かった。

モーショントレーサーを使った試験は繊細な動きが要求される。
シュミレーターもそれ専用に開放型のコクピットにマニュピレーターを接続した骨組みのようなものが用意されていて分析側からも操作するパイロットの動きが見やすいように造られていた。
レイバーのマニュピレーターとパイロットが装着するモーショントレーサーは連動して動く。
その動きの誤差や差異をとりやすいように造られたそれは密閉型のコクピットになれている野明にとって違和感を感じるものであり奇妙な緊張を誘発するものでもあった。
とはいえ『密閉型にしてください』といえるものでも無いので野明は遊馬にインカムで声を掛けた。

遊馬の装着したヘッドセットがPB(プライベート)回線での呼び出しを示すビープ音を発し、手早く遊馬がセッションを開く。
「どうした?」
「えっとこの回線 遊馬以外受けてないよね?」
「PB回線だからな 大丈夫。何かあったか?」
「何かって訳じゃないんだけど 解放系のコクピットって慣れなくて・・・試験開始までどのくらい時間ある?」
遊馬は少し考えて、データ解析の準備をしているメンバーに声を掛けた。
「すみませんー 準備ってどの程度でおわりますか?」
「そうだな~ 今回は結構駆動箇所が多いからセンサー系の接続とチェックにあと30分は欲しいな、急ぐのか?」
「いえ、その間 あれ動かしてもいいですか?」
野明のいるシュミレータを示して伺いを立てる遊馬に制御系のチェックを担当する技術者が頷いた。
「暫くならかまわないよ。オシロ接続する時には声かけるから、それまでなら」
後ろを振り返り、別のグループに「試験用のソフトはもう載せてあるんだよな?」と声を掛けると「昼休み前に転送済みですよ」と余裕の笑みが帰ってきた。
「だそうだから、20分くらいならいいぞ」
「有難うございます」
遊馬は軽く頭を下げると野明に声を掛ける。
「許可もらったから試験前に少し慣らそう。ソフト起動しろ。そっちに行くから」
「了解」
安堵の混ざった野明の復唱を確認して試験仕様書を手に取ると遊馬は小走りで管制室をでてシュミレーターの傍に向った。
その様子に管制室と解析室の面々は一様に顔を見合わせて沈黙する。
微妙な空気の中で浅月が呆れたようにボソリと呟いた。
「まったく 甘いんだか厳しいんだか分からんな、あいつは」
それに呼応するように何人かが深く頷くと保田がつまらなさそうに口を開いた。
「過保護lなんですよ、絶対。昼休み前にちょっと声掛けただけですごい眼で睨まれましたよ、俺」
「呆れた奴だなぁ・・・もう ちょっかい出したのか?」
「出し損ねたんだって。まるで番犬みたいにガード固いんだから」
溜息混じりに言う保田に皆が笑い、管制室の張り出し窓から眼下に見えるシュミレーションルームに眼を移す。
野明の隣に立ちシュミレータの操作や試験仕様書の内容について遊馬が説明を始めていた。
その様子をラボ内の人間は比較的好意的に受け止めていた。
無駄にベタベタするわけでもなく、寧ろ学生も吃驚の爽やかなコンビでしかも有能。
それに何より根を詰めすぎてともすればピリピリしていた遊馬の雰囲気が一気に緩和されたことは大きかった。
その上で試験もスムーズに進むとあれば文句の有り様もない。
しかしそれは二人と接する機会の多いこのラボ内ではの話だ。

二人の様子を眺めていた浅月は誰にとも無く呟いた。
「それにしても 今日の昼の一件で泉さんは大変になるだろうね」
溜息交じりのその声に皆一様に階下で遊馬と話す野明に同情の眼差しを向け大きく頷いた。

go to next....
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追記

ラボ内は取り敢えず平和☆
でも一歩外にでたら 野明は大変?!

ではでは 続きはのんびりおまちくださいね~(^^)

コメント一覧

ツッジー 2009年09月17日(木)22時22分 編集・削除

あらまぁ・・。
どうなるのでしょう・・・。
一難去ってまた一難。。。

野明、遊馬頑張れ!!!!

さくら(ツッジー様) 2009年09月18日(金)02時38分 編集・削除

>ツッジーさん

今度は社内で問題山積ですよね~(^^)
野明 遊馬がんばれ~!!
って 私が頑張らないと(笑)

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