さて不在の第四弾
野明が激しく落ち込んでいる間遊馬は何をしていたのでしょう?
その答えがこちらです~
明るくないですよ。
それでもいいいわという方は 広いお心で先にお進みくださいませ~
以下本文
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不在 4
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SIDE-A(1)
工事現場で起きた土砂崩れの処理に出動した日、お武さんと共に隊長室に呼ばれた遊馬はその場で隊長である後藤から出向人事を申し渡された。
期間は一ヶ月。
作業の進捗によっては前後する可能性もあるというその先はできることならば避けていたいと考えていた己が実家、篠原重工の八王子工場だった。
「なぜ俺なんですか?」
遊馬が素朴な疑問を口にする。
自分が篠原の社長の息子であり、そこに出向することは本人の意思はともかく周りからは癒着と取られ兼ねない危険を孕む。
そのことに気づかない後藤ではない筈で、熊耳もまたその事を察し無言で眉間に皺を刻んだ。
2人の顔を当分に見遣って 後藤は机上に組んだ手の甲に顎を乗せ頬杖を付ながら答える。
「他に適任者がいないからね」
2人の反応を見るように少し間をおくと言を継ぐ。
「あちらさんが欲しているのはイングラムの操作とデータの解析に明るい人物だ。解析だけならば進士でもいいわけだが彼にイングラムの操作は出来ない。そうなると条件を満たす人間は2人に絞られるわけだが・・・・熊耳を出向させた場合太田を制御できる人間がいなくなるだろう? それに管理職である巡査部長を出向させるわけにはいかないじゃない? 誰が熊耳の代わりに管理職やるの?」
正論を突きつけられた遊馬は返答に窮した。
これを覆せるだけの論旨を展開できない以上遊馬の負けは明白だった。
理解できるのに納得しきれない遊馬は白くなるほど拳を握り締めて俯いた。
その様子にそれまで成り行きを静観していた南雲が同情した顔で口を開く。
「篠原巡査。気持ちはわからないでもないけれどこれも仕事だから。一月だけの事だし何も帰ってこられなくなるわけじゃないわ。もしそんな話になったら 後藤さんだって黙っていないでしょう?」
揶揄するように彼の上司たる後藤を見遣ると彼は恨みがましい目を向け肩を竦めて見せた。
「ま、そういうい事だからよろしくね」
逃げ切ることは出来ないと悟った遊馬は小さく溜息をついてからキッと顔を上げて「拝命します」と敬礼をして見せた。
彼なりの小さな抵抗、というよりは軽い嫌味に近い行動であることに気づいた後藤は小さく笑うと「じゃ、よろしくね」と気の抜けたような返事を返した。
そこで遊馬の抜けた後の事のを相談するため進士が呼ばれ暫く話し合いが行われた。
大まかな方針が決まると定時を大きく回ってしまったこともあり詳細は後日という事にして一先ず解散する。
隊員室に戻ると定時を回っていたにも関わらず全員が残っており物問いた気な雰囲気が漂っていた。
結局 熊耳が聞いた話を大まかに説明し、話題が遊馬の出向に及ぶと明かに野明が動揺した。
遊馬が敢えて『大したことではない』といってはみたものの野明の動揺は傍目にも明かで、結局遊馬は彼女を連れて屋上に上がり事の次第を説明をすることになった。
努めてショックを与えないように事実を端的に説明したが、それでも野明の不安を払拭するには至らず遊馬は困って彼女の頭をそっと撫でた。
動揺のあまり頼りなげにみえた野明を、ともすれば抱きしめてしまいそうになる自分を制し、『ここで待つ』といった彼女に『待っていろ』と答えた。
そして金曜の夕方、送られてきた出向先での業務内容の詳細に目を通すとその量は尋常ではなく、定時で帰宅できるようなものではないことを察した。
潮見の寮から八王子までは片道約一時間半、往復では3時間近くもロスすることになる。
この時間を惜しんだ遊馬は一旦寮を引き払って八王子工場の傍に部屋を借りることにした。
後藤の尽力もあって部屋代にも補助がつくようにしてもらい、引越しが決まったのは土曜の昼過ぎだった。
荷物もそれ程多くなく、引越し屋を頼む時間もないので寮の連中に手伝ってもらい軽トラックをレンタルしてきて荷物を運び出した。
そもそも寮生活の男の1人暮らし。
しかも月の半分はニ課棟に寝泊りする遊馬の荷物は左程多くもなく、自ら軽トラックを運転して荷物を運びだした。
人手が有った方がいいだろうと同じ寮の武田たちは自分たちの車に相乗りして手伝いに来てくれた。
この時 携帯電話を普段滅多に使わないドライブモードに設定してしまったことがこの後の歯車を大きく狂わせるきっかけになってしまった。
大方の作業を終えて武田たちにお礼がてらファミレスで夕飯を奢り彼らを見送ったのが午後7時前。
部屋に入ると色んな疲れが一気に襲ってきてともすれば眠り込んでしまいそうになるのを堪えて荷物を整理すると軽くシャワーを浴びてベッドに横になった。
引き込まれるように眠るとあっという間に朝になっていた。
目覚まし時計で目を覚まし慌てて顔を洗い普段着慣れないスーツを引っ張り出すと袖を通す。
いくら近いとは言っても初日から遅刻するわけにはいかないので大慌てで部屋をでると自転車で八王子工場に向った。
普通に漕いで20分もあれば余裕で出社できる位置に居を構えたことで遅刻もせずに出勤すると指定されたラボに向って移動する。
初日という事で後藤が同席することになっており遊馬がラボに入ると程なく彼も姿をみせた。
後藤から主任に紹介されて表面上にこやかに挨拶が済み後藤が帰ろうとしたとき、遊馬にとって最悪の事態が訪れた。
ラボの扉が大きく開き 実山が入ってくるなり「遊馬さん、こちらにいらしてたんですか!」と彼に声をかけたのだ。
自己紹介でフルネームを名乗ってもラボの人間は彼を社長と結びつけることはなかった。
篠原という苗字は特別珍しいものではなかったし、何より社長の息子が警察官になっていることを知るものは少ない。
まして本人に『御曹司』を感じさせる雰囲気がなかったこともある。
イングラムを扱うメンテ部門なら知っている人も居たはずだが開発では遊馬の素性を知るものはなかったのだ、この瞬間までは。
今日初めて出向してきたはずの警官を工場長が親しく名前で呼ばわり、且つ敬語で応対したことで 彼の苗字とその素性が結びついてしまった。
後藤の「あちゃ」という呟きと、遊馬の苦虫を噛み潰したような表情で場の雰囲気に気づいた実山が顔色を変えたときにはもう遅かった。
遊馬が諦めの溜息をつき 実山が動揺して肩を落とす中、後藤だけがいち早く自分のペースを取り戻した。
「ご無沙汰しております。二課の後藤です。篠原になにか?」
「あ はい、そうですよ、あす・・・っと・・」
呼び方に戸惑う実山に遊馬は「もういいよ」と苦笑してみせ、「で どうしたの、実ちゃん」と話を促した。
「ラボに入る前に社長の所に寄ってもらいたかったんですが・・・遊馬さん携帯電話昨日から繋がらなくなってたんで・・・」
言われた遊馬は眉根をよせ「そんな筈はない・・・」といいつつポケットから電話を取り出した。
電源は入っていた。
ただし、その電話にはドライブモードが設定されたままになっていて着信を全く知らせてはいなかった。
慌ててモードを解除して着信履歴を確認すると 実山からの複数にわたる着信に混ざって野明からの着信も3件混ざっていることに気づき、遊馬は舌打ちした。
舌打ちを見咎めた後藤が軽く眉を上げる。
「どうした、篠原?」
「・・・いえ。なんでもないです」
その答えに内容を察した後藤は飄々とした口調で「ま、フォローはしときなさいよ」と遊馬の肩を叩いた。
この一件で遊馬の素性と居所が立ち所に広がってしまった。
工場中どこに行っても好奇の目に晒され、篠原の名を持つ遊馬に接触を持とうと女性社員が周りをうろつくようになった。
それを見た男性社員の中には『御曹司はいいね~』と嫌味を言うものもでてきて挙句、『腰掛で警官やっても将来が保証されてるんだからいいよな』とか『何もできなくても社長の椅子が待ってるんだからこんなところに何しにきたんだ』というような陰口もこれ見よがしに叩かれるようになり 遊馬にとっては針の蓆だった。
遊馬は 黙ってそれを受け流しつつ文句が出ないように完璧に仕事こなす事で失地の回復を図る外なく朝から晩まで黙々と作業に勤しんだ。
朝は一番に出勤してその日の作業をチェックして夜は回収したデータの解析を完璧に終えるまでラボに篭もる。
昼休みも食事に行けば女性社員に周りを取り囲まれ一人になることも出来ず、かといって出向の身で相手を邪険に扱うことも怒鳴り飛ばすこともかなわず適当にあしらう毎日が続いた。
野明に電話かメールを思ってはいたものの会社にいる間はその時間が作れず、かといって深夜早朝に連絡するのも憚られ、そうこうしている内にタイミングを完全に逸してしまった。
あれからもう2週間以上が経過して今更 『あの時の電話、何だった?』などと電話が出来よう筈もなかった。
あれ以来野明からの連絡はない。
いっそ連絡でもあればと思う一方で、社内で野明からの電話をうけそれをネタに何か言われるのも癪だとも感じる。
先週シゲさんがラボに顔を出したときも『御曹司はいい気なもんだね、この忙しいのに雑談ですか』とすれ違い様に言われて奥歯をぎりっとかみしめた、あの時の再現はもう御免だと思っていた。
それよりも一刻も早くノルマを達成してマンションに、もっと言うならば二課に帰りたくて仕方がなかった。
そのために昼夜を問わず仕事に集中し、僅かに摂れる睡眠時間には疲労困憊して泥のように眠った。
自分の事に手一杯になってしまった遊馬には野明の気持ちを察する余裕がなくなっていた。
あの日 取り損ねた電話のことも遊馬はすっかり忘れてしまっていた。
この日も同じように朝からラボに入り、昼には食堂に向った。
大きな画面のテレビにはワイドショーが映されていて見るともなしに眺めながら今日も回りに群がっている名前も覚えていない女性社員を適当にあしらいながら黙々と食事を取っていた。
画面が切り替わって女性キャスターが中継で天気予報を伝え始めた時 遊馬の手が止った。
キャスターの後方の大階段を横切る小さな影。
一瞬、見間違いかと思った。けれど それは自分が見間違えるはずはない3年一緒に過ごした赤味の強い色をした短い髪の小柄な女性。
「・・・野明・・?」
まさかと思って目を凝らす。
すると隣をあるく男性が彼女の頭にぽんと手を置き彼女がその顔を振り仰いだ。
画面の奥の小さな影、それなのにその顔がはっきりと目に浮ぶ気がして遊馬は激しく動揺した。
生中継の映像はそこでスタジオに切り替わってしまい確認する術はなかった。
咄嗟に電話を掛けようとして 周りを囲んでいた女性社員達の訝る視線に気づき思わず溜息をつく。
ここで電話は出来ないと判断した遊馬は 「ご馳走様でした」と席を立ち急いでトイレに向った。
社内で1人になれそうな場所など他に思いつかなくて息せき切ってたどり着き、いざ電話を掛けようとして はたと気づく。
『電話して何を言うつもりなんだ?』
あれは生中継だったから 遊馬が見たのが野明本人なら、傍には先程の男性がいる。
野明とは付き合っているわけではないのだから 他の人間と出歩いていても何かいえる立場ではなくあれが野明の彼氏だとしたら・・・今電話を掛けるのは迷惑千万ということになる。
そしてそれを今確認してしまったら 自分にとってもかなりキツイい事になりそうなことは目に見えていた。
ここにくると告げた時 不安気な顔をして『待っている』といった野明の顔を思い出し、額に手をあてて天井を振り仰ぐ。
そして今更ながらに取り損ねた電話のことを悔やんだ。
「・・・ったく。どうすりゃいいんだよ・・・」
唸る様に呟きやり場のない感情に大きく溜息を吐いたとき午後の業務開始5分前を告げるチャイムが流れた。
遊馬は気合を入れ直そう顔を洗うとラボに向った。
その足取りと気分は今まで以上に重かった。
どれだけ気分が落ち込んでいても仕事量が減るわけではない。
作業を始めると元来弱みを見せることが嫌いな遊馬は今まで以上に黙々と仕事に集中した。
ミスのないように完璧に仕上げてくるその仕事は『御曹司』と揶揄していいた連中からもそれなりの評価を得るようになってきて3週間目に入る頃にはラボ内に嫌味を言うものは殆どいなくなった。
寧ろ根を詰める遊馬に『無理をするな』と声を掛ける者まで出る程度には場になじんできた。
その一方で遊馬はTVに移りこんだ野明と思しき影について未だスッキリしないものを抱えておりその心中は決して穏やかとはいえなかった。
それでも連日の激務と休み時間すら1人になれない状況に変わりはなく野明に連絡を入れることもままならなかった。
本当は電話をして『彼氏と居ました』と肯定されることが怖くて仕事を口実に連絡を先延ばしにしただけなのかもしれなかったが それを認めてしまえる余裕は今の彼にはなかった。
そのまま更に数日が経過して篠原に出向して4週間目に入り数日たった深夜、遊馬の携帯が着信を告げた。
go to next....
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追記
篠原に出向した遊馬の針の蓆生活。
彼は彼なりに苦労していたんですね~
さて この後もう少し続きますよ☆
ではでは 続きはのんびりおまちくださいね~(^^)
ツッジー 2009年09月03日(木)17時20分 編集・削除
な・・・なんという事・・・(>_<)
墨勇ちゃんと一緒にいる所を見てしまっただなんて・・・。
なんという神様のイタズラ・・・。
はぁぁ・・。
続きがきになるでアリンス・・・。