今日は朝から大雨です
通園バスを待ってる間にどんどん強くなってバケツをひっくり返したような土砂降りに!
そしてかなり肌寒いです。
先日までを10度以上の気温差ですからね。
最高気温だけでいうなら15度近く違います。
皆さま体調管理には気をつけてくださいね
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そしてここからは連載のお話
既に 月一更新と化しているこのお話。
いい加減完結させないといけないなと思ってるんですがなかなかそこにたどり着けない構成力のなさ(^^;
頑張って入るのでもう少しお付き合いくださるとうれしいなぁ・・・
というわけでお付き合いくださる心やさしいお客様は以下からどうぞ♪
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不在 35
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SIDE-LABO(14)
シャトルバスが工場に到着すると一先ず二人は形式通りに事務所へ向かう。
既に自席で書面を作成してた浅月に声を掛け彼と共に開発の部課長への挨拶を済ますとロッカーの鍵と作業着一式を受け取った。
心配する遊馬に「平気」と手を振った野明と別れ各々着替えを終えると一度開発棟の外で待ち合わせた。
男性二人に少し遅れて野明が小走りに駆けてくると「そんなに急がなくても平気だよ」と浅月が笑い
3人一緒にラボの扉を潜った。
一月ぶりに入るその部屋に妙な懐かしさすら感じて二人が室内を見渡すと中にいたスタッフの目が一斉に彼らに注がれた。
「よう、来たな 篠原」
「泉さん おかえり」
予め今日此処に来る事を知らされていた彼等は口々に歓待の意を示した。
始業時間にはまだそこそこ時間がある上、フレックス制が導入されている筈の職場にも関わらずほぼ全員と言っていい人数が勢揃いしているのを見て浅月は苦笑しつつ肩を竦めた。
聊か面食らった顔をしていた二人は顔を見合わせた後、相好を崩し「今週一週間よろしくお願いします」と言って深々と頭を下げた。
「こんな時間からこの人数が揃う事なんてまず無かったのに」とぼやく浅月に野明が目を瞬くと遊馬は呆れた顔で溜息を吐いた。
「出向してくるのが俺一人じゃ皆 こんなに早くに出てきたりしなかっただろうに・・・」
「否定してやりたいけど当たりだろうな。彼女が来るって判った後のモチベーションの高さと言ったら特筆に値するよ、実際」
苦笑いした浅月に遊馬は少し不貞腐れた顔をして野明を見遣った。
「全く3週間も長く居た俺の立場がねぇよなぁ・・・」
「もともと女性人口が少ない職場の上、泉さんは人当たりもいいしね。まぁ 妥当な反応じゃないのか?」
「俺は気苦労が絶えませんけどね・・・」
「おやおや、随分心配性じゃないか」
「浅月さんも危なっかしいパートナーを持ってみれば分かりますよ尤も・・・こいつは譲りませんけどね」
「それはご馳走様、というべきなのかな?」
「如何様にも」
頭の上で会話する二人を交互に眺めていた野明は遊馬の発言に拗ねて頬を膨らませた。
「・・・遊馬 酷い・・・」
「別に酷かないだろ?ちゃんと面倒見てやってるじゃないか」
しれっという遊馬を見遣る野明の眉根に皺が寄ると彼は笑って人差し指を彼女の眉間に突き立てた。
「っもう! 見てやってるって何よ、それに これ、やめてよねっ」
「んな顔してっとこの皺 クセになっちまうぞ?」
「余計なお世話っ それよりもうすぐ始業時間」
「はいはい、じゃ 真面目に仕事しますかね。・・・では 浅月主任、今週の仕事内容ですが先日頂戴した資料の通りと思って宜しいですか?」
「・・・なんか落ち着かないなぁ、篠原にそういう言い方されると」
急に口調を改めた遊馬に浅月は苦虫を噛み潰したような顔をする。
「本来はこっちが正しい応対だと思いますけどね、こちらは出向の身ですから」
にっと笑う遊馬に「勘弁してくれよ」とぼやいた浅月は小さく肩を竦めた。
「ここは横の繋がりを重視する部署だからさ 対等に行こうよ」
「主任自らそう仰られるのであれば、その様に」
素知らぬ顔で言う遊馬に浅月は苦笑いを浮かべ野明は「遊馬って・・・意地が悪い」と呆れた様な目を向けた。
資料を送付した後で少し作業の進行が遅れてしまった事もあり試験内容が幾らか追加されることが分かると早速その分の試験仕様書とパラメータの理論値を記した表を受け取った。
中身の確認に入る遊馬の隣で野明もまた試験仕様書と評価仕様書に目を向け始める。
それは前回の出向時には無かった光景でその様子に浅月は軽く目を瞠った。
朝礼を挟んで試験開始までの間 真剣にそれらに目を通していた野明が少し考える様に首を傾げた。
「どうかしたか?」
「えっとね、これと・・・この辺の試験なんだけど一緒にやっちゃった方が実際の稼働状況に近い気がしない?」
「どれ?」
彼女の手元を覗き込み指し示される試験内容をざっと確認した遊馬は頬杖をついて軽く目を眇めた。
「ちょっとそれ貸してみな」
評価と試験双方の仕様書を手に取り中身を確認すると彼は「うーん」と唸って軽く腕を組んだ。
悩む遊馬に野明は聊か自信を失ったような目で彼の顔を窺い、遊馬は彼女の方へチラリと視線を向けた。
「成程、野明の言う事は判る。その方が実用の条件にも近いと思うし上手く行けばデータ的にもかなり有意義なものが取れると思う。けど・・・これを流れで行くってのはかなり条件的にはシビアだぜ。いける自信あんのか?それに、その方法で行くとなると試験項目が結構増える事になるしな」
『わかってんのか?』と言う目を向けると野明は彼の瞳を見返した。
「・・・いけると思う。管制室からタイミングの指示を的確に貰えれば」
「指示は完璧に出してやれる自信はあるけどね。お前にその自信があるなら掛け合うだけの価値はあるだろうな・・・」
そういうと暫し仕様書を前に考え込む。
考えた結果をサラサラと余白に書き込んで抜け落ちが無いかを素早く確認した遊馬は「ちょっと来い」と言って彼女の腕を掴んだ。
試験開始準備で慌しさを増すシュミレーター周辺と制御ルーム。
それを横目に浅月を探しだすと 遊馬は彼に声を掛けた。
野明の提案を彼に話すと 浅月は「ふむ・・・」と唸って腕を組んだ。
「試験の数は増えますが解析の際の手間は格段に減る筈ですよ。しかもその方が間違い無く実動作に状況が近い」
「それは確かにそうなんだか・・・操作的にはかなり厳しいタイミングを要求する事になる、泉さんはそれでいいの?」
浅月は実際に操作を行う事になる野明に気遣う様な目を向けた。
「本人が提案したんですから、やれますよ。自信の無い事は言いません、こいつは」
自信あり気な顔で遊馬が言うと隣で野明が小さくしかしハッキリと頷いて見せた。
「泉さんが?」
驚きに目を瞠る浅月に遊馬は少し誇らしげな笑みを見せた。
浅月の声掛けで主要なスタッフを一同に集めると「今日の試験を始める前に提案があるんだが」と野明からの提案を議題に乗せる。
内容を聞いたスタッフからは一様に驚きの声が上がった。
「そりゃ そうして貰えるならその方がいいけど・・・」
「正直 連続したデータがあればそれに勝る物はないんだけどね・・・」
歯切れの悪いスタッフの声に野明が探る様な目を向けると彼らは一様に小さく肩を竦めた。
「・・・じゃあ どうして」
『試験を細切れに行うのか』と言いかけた野明の声に被せる様に解析メンバーの一人が遠慮がちに口を開いた。
「試験の・・・精度がね」
「動作を連続して行うとシビアなタイミングが要求される、それをポイント毎に全て完璧に行うのにはかなりの精度が必要で・・・」
先程の浅月よろしく野明に気遣う目を向けた彼に野明は真っ直ぐに視線を返した。
「自分で言い出した事です。出来ない事は提案しません」
「泉さんが?」
驚いた顔で二人を見返したスタッフ一同に彼は軽く頷いた。
「ええ、泉からの提案です。条件付はシビアですがタイミングの指示さえきちんと出せれば彼女なら充分可能です。俺が保証しますよ」
「成程」
彼女自身が『可能だ』というならそうなのだろう、ということは前回の出向時に目の当たりにしている。
だから遊馬に太鼓判を押され無くても皆それに関して疑う余地はないのだが、今回の提案をしたのが野明だと言う事に皆が瞠目する。
その一同を前にして「如何でしょうか?」と問う彼女に「泉さんがそう言うなら 是非」と首肯したスタッフ一同はほっとした表情で「よろしくお願いします」と頭を下げる彼女に感嘆の目を向けた。
準備の為に野明と遊馬が先に退室すると浅月を含め残った一同は暫らく呆けた顔していたがやがて一人がぼそりと口を開いた。
「勉強、してきた・・・って事かな?」
「前回と違って 準備期間が有ったから・・・ってだけではないよなぁ」
「時間ったって最初の仕様書が出来たのだって先週の半ばだろ?それに今日の修正分を含めての提案なんだから・・・」
「ちゃんと仕様書の読み方覚えて来たんだな、彼女」
「指示通りの動作を完動させるだけでも大したもんだと思ってたけど」
「いい人材になってきてるじゃない、彼ら。提案したのは彼女だろうけど変更の際の試験内容の叩き台をだしたのは篠原だろ。こればかりは解析の場数を踏まないとパターンを出しきれないからね、最初の予定よりも試験は増えるけど解析の手間が減る様に考えられてる。連続動作で試験が出来るなら予測や誤差を計算する手間を省いて作業ができるし 何より機械的な負荷も同時に見れるから一石二鳥だしね。あとはこれを確実に実行できるかってことだけなんだから・・・お手並み拝見させて貰おうよ」
「そうだな、今日幾つ試験こなせるかで日程も少し変わるからがんばりますか」
口々に言いながら三々五々立ち上がったスタッフに浅月は「よろしく頼むね」と声を掛けた。
準備に小一時間掛る事を聞くと遊馬は野明をシュミレータに乗せてタイミングの誤差を修正する為に幾つかテストと同じ動作をさせてみた。
数値に出る動作のタイミングと実働の誤差を頭に叩き込み遊馬自身が指示を出すタイミングを調整する一方で野明に対しても操作の加減を細かく指示する。
コンマ何秒という誤差にもダメ出しを入れる遊馬に野明は慎重に差分を調整した。
何とか遊馬の納得する範囲に動作を収めると今度はそのタイミングを覚えるまで何度か同じ動きを繰り返し感覚を掴む。
一度呼吸を掴んでしまえば身体がそれを覚え込む。
遊馬自身も指示のタイミングを微妙に計り互いに納得できた頃になって漸く準備が整い試験が開始された。
午前中一杯使ってリテイクは僅かに2回、という驚きの精度で試験を進めると昼休みを知らせるサイレンと共に一度作業が中断された。
計器類を一通り確認してから野明がシュミレータのハッチを開くとタラップの脇に立った遊馬が「おつかれ」と言って軽く手を上げた。
コクンと頷いて身軽にコクピットから飛び出して来た彼女からヘッドギアを受け取ると遊馬はそれを所定の位置にポンと置いた。
「久しぶりに乗ってどうだ?」
「やっぱりアルフォンスとはちょっと違うかな」
「そりゃ当然だろう、違う機体作ってんだから。そうじゃ無くて調子 どうだ?」
「そんなの見てる遊馬が一番わかるでしょ?」
「・・・そりゃそうだ、午後も上手くやろうぜ?」
クシャリと頭を撫でると「飯行くぞー」と声を掛けて遊馬は彼女の手を引いた。
遊馬に引っ張られる様にして食堂に向かい前回同様の注目を浴びながらトレイをもって席を探していると二人の姿を見つけた開発の面々が大きく手を振っているのが目に入った。
遊馬の顔を見上げると苦笑いした彼は「少しは気ぃ遣えよな」と嘯きながら小さく肩を竦め、彼女を伴って姦しい女性社員と相席するより遥にマシだと踏んでそちらに足を向けた。
職業柄男性に交じってもまるで引けを取らない早さで食事をテキパキと終えた野明に男性陣は聊か驚いた顔をした。
食事を終えた野明が席を立つタイミングに困っていると隣に座る遊馬が彼等を呼んだ面々に向かって溜息交じりに問い掛けた。
「ただ相席したくて呼んだってわけでもないんでしょう、何かの相談ですか?」
「それも無くはないんだけど、泉さんと相席したかったのは本当だよ」
「私・・・ですか?」
きょとんとした顔をする野明に遊馬はチラリと目線を向け片手で頬杖を吐いた。
「俺のなんですけどね・・・」
「私は物じゃありません」
「じゃあ 俺の女」
しれっと言う遊馬に野明は耳まで真っ赤になって口をぱくぱくさせ何かを言おうとするとクシャリと髪を撫でられた。
「こういう事は先にちゃんと言っとかないと後で揉めんのはご免だからな。それとも何か、お前否定する心算じゃあるまいな?」
向けられた半眼の瞳に野明は引き攣った顔で無言でぶんぶんと首を振った。
その様子を見て開発の面々は「否定しないんだ・・・」と少なからずがっかりした顔を見せる。
少し困った様に笑う彼女に浅月が逸早く話題を振り直した。
「まぁ その話は別の機会に伺うとして午後の試験なんだけど・・・」
幾つか出された提案に遊馬は軽く眉根を寄せた。
「それは勿論 野明を乗せると言うなら可能ですが・・・今回俺ら残業時間にも制限付いてるんですよ」
「そうなんだよなぁ・・・」
皆が肩を落とす様子を見て篠原専従のテストパイロットである坂口は不満気に顔を歪めた。
「・・・俺じゃ駄目だって言いたいんですか?」
「駄目なんて言って無いさ、只 坂口は気分の斑が出やすいからなぁ」
苦笑する面々に不貞腐れた様に目を逸らすと坂口は野明に向かって厭味の混ざった視線を向けた。
「まぁ 御曹司のお気に入りで実戦経験豊かなエースパイロットには敵いませんよね、確かに。俺はシュミレータか実験機にしか搭乗経験が無いですから」
その物言いに一瞬 場の雰囲気が凍りついた。
遊馬の目がスッと眇められ 困惑した顔をした野明が遊馬の手を軽く抑えると彼はそれを机の下で強く握り込みぐっと感情を押さえ込んだ。
「こいつの技術と俺は関係ないだろう、その言い方は失礼だ。野明に謝れ」
低く唸るような遊馬の声に一瞬怯んだ坂口は不貞腐れた顔のまま視線を外しガタンと音をさせて席を立った。
「おい!」と声を掛け席を立ちかける遊馬を野明が制し小さく首を振ると彼は渋々椅子に座り直した。
気不味い雰囲気に浅月が大きく肩を竦め「不快な思いをさせて悪かったね」と野明に向かって頭を下げた。
「あの、大丈夫ですから やめてください」
慌てて手を振る野明を横目に遊馬は同席している面々に向かって疑問を投げかけた。
「何か 有ったんですか?」
「何かって言うか・・・あいつ前の模擬戦で泉さんに完敗したじゃない?」
「ああ、でもあれは・・・」
「仕様の違いからくる特性の差なんだからあれはあれでいいんだけどさ、あいつプライドが高いから・・・」
溜息交じりに言う浅月に遊馬は呆れた顔をして見せた。
「んなもんで一々機嫌損ねてたら仕事になんないじゃないですか」
「それはそうなんだけどね。前から気分が操作に出やすい所は有ったんだけどあれからそのブレ幅が大きくなったと言うか・・・」
苦笑いする彼に他のスタッフも一様に苦い顔を見せ 野明は当惑した顔で俯いてしまった。
「ああ 泉さんが気にすることじゃないんだよ、でもあいつ事ある毎に・・・」
「自分と野明が同じ条件ならあんな風に負けたりしなかったって?そりゃあの試験の主旨が判って無いって事じゃないですか」
「説明は何度もしたんだけどね、あれは指揮が悪いの一点張りでね」
「指揮?」
「そう、指示を出していたのが俺じゃ無くて篠原なら勝てた、と言いたいんだろうね。自分の能力は泉さんより上だって思いこんでるからね、坂口は」
「馬鹿馬鹿しい。あれは野明だからできたことで太田に同じ指示を出したからって出来るもんじゃない。イングラムってのはそういう機体なんだから」
「それはわかってるさ、けど あいつはそう思って無いみたいで。そんな訳で試験の進みが芳しく無い訳だよ」
大きく嘆息する一同を前に遊馬は軽く眉根を寄せた。
「試験内容に連続動作が設定されてないのはもしかして・・・」
「御察しの通りだよ。調子のいい時はいいが 失敗してリテイクを何度か出すとあっという間に機嫌が悪くなる そうすると試験にならないし挙句、『指示サポートが悪いと苦労する』と言って拗ねちまうんでね。動作は出来るだけ細切れにしてあとは解析チームでデータを繋げて間を予測値で繋いで処理するようにしてた訳」
「・・・そんな!只でさえ精度が高いと言えないものをそんな扱い方して正確な数値が出る訳が無い。あとで苦労しますよ」
「それでも進まないよりマシだろ?パイロットを挿げ替えられる程人数も抱えて無いしね。そんな人材でもうちにいる5人の中では彼が一番の経験者だからさ。他の4人も所沢に2人、1人はメンテ部門専属、もう一人は先週から宇宙研専属に転属になったからね。彼を除くと今年の新入社員が数名しかいないんだ」
「成程、そこに野明が戻ってきたからピリピリしてる訳か」
馬鹿馬鹿しい、と言う顔で頬杖を吐く遊馬の隣で野明は困った顔でパートナーに目を向けた。
「えっと・・・」
「お前が気にすることじゃねぇよ。要は奴の性根を叩き直さないとこの先仕事に支障が出るって事が分かっただけだ」
遊馬の言葉に同席していた一同が乾いた笑いを浮かべた。
食堂を出てラボに戻る途中遊馬は浅月に声を掛けた。
「いつから?」
唐突な質問に目を瞬く彼に遊馬は『言葉が足りなかったか』と質問をし直した。
「坂口。あいつ 俺たちが帰る前はちゃんと話出来てたじゃないですか。浅月さんと上手くやってけると思ってたんだけど」
遊馬の言葉に浅月は少しバツが悪そうな顔をして言葉に詰まった。
「言いにくい事ですか?」
「いや・・・というかね・・・」
言いあぐねて視線をチラリと野明に向ける浅月に遊馬は小さく肩を竦め その様子に野明がおずおずと口を挟んだ。
「もしかして・・・私 ですか?」
「泉さんがどうと言う問題じゃないんだけどね、ただ・・・」
「比較されて面白く無かった、と」
「志の問題なんだけどね」
「成程」
何となく状況を察した遊馬は軽く腕を組んで考え込んだ。
「ここで放置してあいつの士気を下げるのは得策じゃ無い、と思いますよ。このままにしておいても今週乗り切ったところでその後が続かない。先ずはあいつのメンタルケアから始める必要があるのかなぁ」
面倒だなぁという雰囲気を漂わせる遊馬に野明は複雑な目を向けた。
「お前が気に病むことじゃないさ、あいつ自身の問題。俺らは俺らでやるべきことをやる、それだけだよ。でももし、何か有るようなら遠慮せずに言って来い。お前のケアは俺がするから」
クシャリと髪を掻きまわす遊馬に浅月は苦笑いを向けた。
「こういう場合俺はやっぱり『ごちそうさま』というべきなのかなぁ」
「さぁ どうでしょう?さしあたりは少し坂口の方、気をつけてやってください、多分・・・野明が来た事で心中穏やかじゃないんだろうからさ」
「試験は・・・」
「予定通り進めましょう、時間が限られてますし」
「そうだな。泉さん ちょっとごたごたしてて申し訳ないけど宜しくね」
「はい こちらこそよろしくお願いします」
深々と頭を下げる野明に浅月は申し訳なさそうな笑みを向けた。
午後の試験を始める前に管制室へ皆を集めると浅月はこの後の作業についてミーティングを始めた。
試験内容を一通り確認すると浅月は不貞腐れた顔の坂口に目を向けた。
「坂口 話聞いてるか?」
「聞いてますよ。でも 今週は優秀なパイロットがお見えなんだし・・・」
「今日は坂口が乗ればいい」
厭味交じりの坂口の言葉を遮る様に浅月が言うと一瞬瞠目した遊馬はすぐに意図を察して頷いた。
「野明 データ整理と解析を手伝え。それと明日以降の試験内容の見直しにも参加して来い」
「はい」
浅月と遊馬が事も無げに言うと他の解析スタッフが一様に驚いた顔を見せた。
「主任 しかし!」
「本来 これは坂口の仕事だ。泉さんと篠原は手伝いに来てるんだから手が足りない場所に入って貰うのが妥当だろう。それに・・・彼女は今回そちら方面にも意欲的みたいだしね。判らない所は作業に支障が出ない範囲でサポートしてやって」
チラリと野明に目線を向けた浅月がにっと笑うと 野明は神妙な顔で解析側のスタッフに「よろしくお願いします」と大きく頭を下げた。
ミーティングが終わるとすぐさま試験の準備に入る。
遊馬は野明を自分の隣に置き指示を出しながらデータを読む準備を始めた。
浅月が管制に入り他のスタッフが各々の持ち場に着くと坂口に試験開始の確認をとる。
聊か当惑した顔でシュミレータに座った彼は計器類のチェックを終えると準備完了の旨を連絡してきた。
試験の一項目目開始の合図とともに吐き出されるデータを見ながらシュミレータの動きを注視していた野明は小さく「あっ」と息を呑んだ。
遊馬も微かに眉を顰めデータを取っていた解析チームも一様に渋い顔を見せる。
少し外れた一つ目のタイミング、続く二つ目を完全に外してしまうと坂口がチッを舌打ちする音が聞こえた。
思案顔で頬杖を吐く遊馬の隣で野明は黙って出力されてきたデータを一纏めにしてナンバリングする。
リテイクを指示した浅月を横目に遊馬が小さな声で野明に問い掛けた。
「どう思う?」
「どうって・・・」
「指示と操作 どっちに問題があると思う?」
「そう言われても・・・」
答えにくそうな彼女に遊馬は「ふむ・・」と顎に手を当てて聞き方を変えた。
「お前なら 今の指示でタイミング外さずに行けるか?」
「・・・行けるんじゃないかな。仕様書も読んでるし、指示のタイミングは悪くないと思うよ?」
「だろうな。でも 坂口はタイミングを計れてない。何故だと思う?」
遊馬の問いに野明は少し考え込んだ。
「えっと・・・試験内容をきちんと把握していないか・・・」
その先を言い淀む彼女に遊馬は黙って頷いた。
「指示を出す人間を信じてないか、だ。或いはその両方」
リテイクの指示を出す浅月を視界の隅に捉えて遊馬は難しい顔をした。
「内容に関しては本人の意識の問題なんだが・・・信頼関係はなぁ。坂口は自分の技術を過信してる節がある。坂口自身、『自分の替えは無い』と思ってきたんだろうし周りもあいつに合わせてきた所がある。けど精度を必要とする段階に入った開発環境ではああいう作業の仕方は通用しなくなってきてるんだ。それに・・・坂口は気付いてない。このまま拗ねてたんじゃあいつ 遠からず切られるぞ」
遊馬の言に野明もまた思案気な顔で考え込んだ。
「拗ねてるって・・・私が来た事で自分の立場が軽んじられる事を警戒してる、ってこと?」
「簡単に言うとそういうことだな。けれどそれは本人の怠慢が招く事なんだからお前が責任を感じることじゃない。ここから先 あいつがこの仕事を続けたいなら克服すべき課題だよ。他人から学ぶことも人の意見を聞く事も技術力以上に大事なんだって・・・何だよ?」
クスクス笑う野明に遊馬が渋面を向けると野明は悪戯っぽい目を向けた。
「遊馬からそういう事聞けるようになるとは思わなかったなぁって。最初の頃の遊馬だって偉そうに・・・」
「妙なことばっか覚えてんじゃねぇよ。俺だって3年経ちゃ少しは学習すんの」
「おーおー、偉そうに」
「お前だって最初香貫花のことまるきり信じて無かったじゃないか?」
「・・・今更そういう事 蒸し返す?」
「ばぁか 拗ねんなって。今のあいつは丁度あんな感じなんだよ。浅月さんの指示は悪くない、坂口自身も別に腕が悪い訳じゃない。けど上手くいかないのは・・・」
「・・・何となく 判った・・・太田さんと遊馬でも同じだよね」
「・・・一緒にすんな・・・」
ムスッとした顔を見せる遊馬に野明は小さな笑みを向け浅月とモニターに映る坂口の様子に目を向けた。
溜息を吐く浅月と不貞腐れた様な坂口に嘗ての香貫花と自分を重ね野明は小さく肩を竦めた。
go to next....
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追記
出向再びですね。
今回はこの先の仕事を踏まえて基盤作りといった感じでしょうか。
遂に丸一年を超えて完結しなかったとう無計画長期連載(^^;
こんなに長くなる予定じゃ無かったんですが 既に決まっている最後に辿り着くのに時間掛り過ぎですね~
〆には入ってる心算なんですが(^^;
グダグダしておりますが どうぞ見捨てないでやってくださいませね~
ではでは すっかり月一更新くらいのペースになってしまっていますが頂きますコメントや感想に支えられて頑張ってます~
ぜひぜひ お時間有りましたら一言頂けますと次書く気力に変えますので どうぞよろしくお願いします(^^)
次回更新は10月に・・・なるのかなぁぁ(^^;
成るべく早く書けるように頑張りますね!
こんきち 2010年09月16日(木)23時22分 編集・削除
35話待ってました~(>▼<)
今回は順風満帆に行くかと思ったら・・・。
坂口君、野明に負けたの相当根に持ってたんだねぇ。
でも仕事にその感情絡めちゃダメでしょ?
まだまだお子様ねぇ。
更新作業って集中が必要なので、これから徐々に大変になってくと思いますが気長にいきましょう。
うわぁ、後ろで「俺達のトコも早く更新しろ」って若旦那達が怒ってる~。