気がつけば今日から7月です。
一年の半分があっという間に過ぎ去ってしまいました(^^;
時間が流れるの早いなぁ
今月は幼稚園の午後保育なんと5回しかないんです(T▼T)
なのにお月謝は同じでございます~
通園バスの負担金も・・・・!!
そして海の日過ぎたら夏休み・・・・
毎年この時期は 月謝かえせ~!と叫びたくなる せこい私(^^;
何はともあれ七夕も近いですし 当日それにちなんだ何かUPできたらいいなぁ・・・
・・・・出来るかな・・????
ちょっと弱気・・・(^^;
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さてここからは連載の話。
気がつけば テキストのUP自体が一月ぶり。
連載なんて更に間があいてる体たらく 漸く続きをUPです(^^;
待っていてくれた方、もしいらしたらすみませんでしたぁぁぁ
書いてない訳ではなかったのですが 誤字脱字を見直す時間がなくて放置されてました。
とはいえ 直したつもりでもUPした後に何か所も見つかる事はもう覚悟してますけどね・・・
ちゃんと見直してる筈なのにどうして気付かない場所が出来るのか、さくら七不思議のひとつにカウントしておく事にします(^^;
とまぁ こんな感じのいい加減な私が展開する話なので細かい突っ込みは大きな愛で目をつぶっていただくかこっそり耳打ちをお願いする方向で(笑)
甘えるなぁ!という声が聞こえてきそうですが 意外に打たれ弱いガラスのハートの持ち主ですので温かい目で見守ってくださいね~
というわけで 本文畳んでおきますので見てやってもいいぞと言う心やさしいお客様はこちらから先にお進みくださいませ♪
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不在 32
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SIDE-SV2(4)
夕食の後遊馬は言った通りに野明を東雲の女子寮へと送り届けると自分の部屋へと真っ直ぐ足を向けた。
部屋に入って電気をつけるとシンとした室内に微妙な物足りなさを感じ微かに眉根を寄せた。
寮に居れば建物内に人の気配が絶えることはなく変則勤務の人間もそこそこいたことで 帰宅した時に誰とも言葉を交わさないことは意外に少なかった。
一月ほど前、出向に伴って寮を出た時は殺人的な忙しさもあり誰とも接することの無いあのマンションの生活を快適だと思えた。
なのに、今この部屋に戻ってきて迎えてくれる者も話をする相手もいない事に聊かがっかりしている自分に気付き遊馬は苦笑を浮かべた。
取り敢えず風呂にでも入ってゆっくりしよう、と決めて浴室に足を向ければ野明が使っていた歯ブラシが目に止まり少し考え込んだ。
『ここ一週間ずっと一緒にいたからなぁ』
無意識に部屋に残る彼女の痕跡を目で探している自分に気付いて遊馬は軽く肩を竦めた。
風呂からあがるとすることもないのでそのままベッドに向かったもののどうも気分が落ち着かない。
どうせ明日には顔を見ることになるし、来週はそのまま二課棟で待機任務なのだから暫くは静かに眠ることなんてできない訳で今日くらいはゆっくり眠ればいい、そう思うのにまるで寝付けない事に遊馬は額を押さえて眉間に軽く皺を寄せた。
上手く寝付く事も出来ずかといってもう一度起き上がるのもかったるくてそのまま手直にあった枕を弄んでいると目覚まし代わりに枕元に置いていた携帯電話が一瞬鳴って止まった。
メロディー設定なので最初の数音が聞こえるかどうかの短い着信だったが電子音以外の設定を入れている相手は一人しかいないので相手の予想は直ぐについた。
慌てて引っ手繰る様に携帯を掴んだものの既に接続は切れていて『着信あり』の表示だけがサブウィンドウに表示されていた。
履歴を見れば予想に違わぬ相手からの着信で遊馬は妙にホッとした気持ちになって『仕様が無いな』という顔を作りつつ発信元に電話を掛けた。
寮の前まで送って貰ったものの名残惜しくてなかなか門を潜ろうとしない野明に彼は「門限過ぎる前に行けって」と額を小突きくるりと彼女の身体を寮の方に向け軽く背中を押した。
「明日、遅刻すんなよ」
「遊馬もね。・・・おやすみ」
顔だけ振り返って小さく手を振ると片手を上げて答えた遊馬が『早く行け』とばかりにその手をひらひらと振った。
頷いて門を潜り寮の扉を開きつつ後ろを振り返ると軽く手を振った遊馬がゆっくりと駅に向かって歩き出した。
何となくその姿が門の陰に見えなくなるまで見送り後ろ手に扉を閉めるとほぅっと大きな溜息が漏れた。
気を取り直して受付に真っ直ぐ向かうと帰宅の旨を告げ 明日以降の待機任務に伴う外泊申請を新たに出し直した。
書類を受け取った寮母が記載漏れの有無をチェックしている間に何人かの寮生が帰宅したり夜勤対応で外出して行くのとすれ違う。
書類に不備が無い事を確認すると「ご苦労様、大変だったわね」と言いながら寮母はペタンと承認印を押した。
部屋に戻り着替えを掴んでいそいそと風呂場に向かう。
時間が遅い事もあって他に利用者がいない脱衣所で衣服を脱ぐと白い肌に浮いた赤い痣に気付いて慌てて身体にタオルを巻き付けた。
『だれもいない時間でよかった』と心底思いながら急いで浴室に向かうと大急ぎで身体を洗い湯船に身体を沈めた。
野明が上がる頃になって数人の利用者が入ってきたので目に止まらない様そそくさと浴室を出た彼女は大急ぎで衣服を身につけた。
自室に戻ると野明は変に疲れてドレッサーの前で大きく息を吐き出した。
ドライヤーで髪を乾かし漸く一息つくと特にすることもないので明日からの待機任務の荷物を纏めそのまま布団を敷いて横になった。
寝なくちゃ、と思っていてもどうにも寝付きが悪く野明は布団の端を弄りながら右へ左へとコロコロ転がってはぁっと大きな溜息を吐いた。
普通の生活に戻っただけのことなのに妙に落ち着かない。
その原因には心当たりがあり野明は困った顔をして枕をぐっと抱きこんだ。
枕元に置いた携帯電話をチラリと見遣っては慌てて首を振りまたチラリと見る、という事を何度か繰り返し遊馬から着信が無い事を確認してはまたコロコロと布団の上を転がる。
二つ折りの携帯を手にとっては開けたり閉めたりを繰り返しメールや着信の履歴を眺めているとつい、魔がさした。
遊馬の名前を表示したまま無意識に発信釦を押してしまい呼び出しを知らせる無機質なルルル・・・という音を耳にして その瞬間我に返った彼女は慌てて終話釦を押し携帯を閉じた。
時間はもう12時近くて、遊馬はもう寝ているかもしれない。
『これで起しちゃったらどうしよう』と全身に冷や汗を掻きつつ携帯を枕元に置きなおそうとした瞬間それは軽やかなメロディを奏で始めた。
その着信音は『俺 専用な』と彼が設定していったもので出る前から相手が判ると彼女は慌てて携帯を掴み直して通話釦を押した。
「よぉ」
こんな時間に電話を掛けてきても名前を名乗ることすらしない少し優位に立ったような彼の第一声。
「あの・・・えっと・・・」
戸惑う野明にからかう様な調子で声を掛けた。
「こんな時間にワン切りもないだろ、どうした、眠れないのか?」
その通りではあるもののそれを認めるのは何となく負けた気がする。
少し考えて発した「そんなことない」という彼女の声は明らかに不貞腐れていた。
予想に違わぬ反応に笑いを噛み殺した遊馬は携帯を持ったままゴロンと仰向けに転がると耳に届く野明の声に心地良さを感じて軽く目を閉じた。
「素直じゃねぇな、寂しいならそう言えよ」
「・・・そんなんじゃないもん」
彼女の拗ねた顔すら目に浮かぶような声音に遊馬の口の端に知らず笑みが浮かんだ。
「じゃあ 何で携帯弄ってたんだ?」
「・・・目覚ましセットしようとしたのよ・・・」
少し間を置いた苦しい言い訳に口にした野明自身も『かなり無理があるなぁ』と顔を顰めた。
「そういう事にしといてやってもいいけど。誤発信だったなら、時間も遅いし切ろうか?」
しれっという遊馬を野明は少し慌てて引き止めた。
「それは・・・あの・・・えっと・・・折角だし・・・少し、話さない?」
「いいよ。でも『折角』ったって さっきまで会っててまた数時間後には顔合わせるんだけどな」
「それはそうなんだけど・・・。ならいい、ごめんね夜中に起こして」
電話の向こうで遊馬がくすくすと笑う気配がして野明は頬を膨らませ拗ねた声を出した。
「寝ちゃいなかったさ、気にするな。・・・揶って悪かった、眠れないなら少し話しようか」
電話を通して聞こえる耳心地のいいハイバリトンに軽く目を閉じると野明は少し勿体ぶる様に間をおいて「ちょっとだけね」と言うと小さな笑みを浮かべた。
他愛もない話をし始めてものの5分ほどで野明の返事が鈍くなってくると遊馬は少しづつ掛ける言葉の間隔を伸ばした。
野明が返す欠伸交じりの生返事がやがて軽い寝息にとって変わると小さな声で「おやすみ」と声を掛けて通話を切った。
二つ折りの携帯をパチンと閉じ、横になったまま軽く背筋を伸ばすと大きな欠伸が出た。
少し声を聞くだけで寝付けなかった先程までが嘘のように強烈な眠気に襲われると遊馬は携帯を充電ホルダーにポンと差し込みそのまま引き込まれる様に眠りに落ちた。
翌日 遊馬が二課棟に顔を出すとハンガーを忙しく動き回る整備員たちが彼を見つけ口々に声を掛けて来た。
『久しぶり』という声に混ざって『お帰り』という言葉が聞こえ軽口を叩きつつ挨拶を返すと更衣室へ向かうタラップを駆け上がった。
二課の特徴的な制服に袖を通すと妙な擽ったさを覚え洗面所の鏡で軽くネクタイの位置を直すと隊員室へ足を向けた。
就業時間中にここへ来るのは丸一月ぶりになる。
聊か緊張して扉の前で軽く呼吸を整えると思い切ってノブを回した。
「おはようございます」
意識的に元気よく挨拶しながら扉を開けると先に来ていた 山崎 熊耳、進士、の三人が一斉に振り返った。
「おはようございます 遊馬さん」
ひろみの差し出したお茶を受け取り挨拶を返すと進士と熊耳も其々遊馬に声を掛けた。
「遊馬さん今日は早いですね」
「一応 復帰初日だし遅刻するとバツが悪いからね」
「良い心がけね 篠原君。出向 御苦労様、早速で悪いんだけどこれ今日中にお願いね」
言いながら差し出された書類に軽く目を通し「はい」と返事をすると綺麗に片づけられた自身の席に座り引き出しから筆記用具を取り出した。
早速書類に目を通しはじめて ふと隣の席に目を向けた。
「野明は?」
「今日はまだみたいですね」
「そっか」
始業時間まではまだ15分近くあるので遅刻という訳ではない。
遊馬は軽く頷くと再び書類に目を向けた。
程なく部屋の扉がガチャリと開き太田が入ってきた。
「おはようございます」と大きな声で挨拶をして自分の席にどっかりと腰を下ろす。
隊員室をぐるりと見渡し野明の姿が無い事に気付くと遊馬に目を止めた。
「おお 篠原。今日から復帰か。泉はどうした?」
「まだみたいですね」
進士が横から答えるとチラリと彼に視線を移し太田はまた遊馬に目を向けた。
「一緒じゃなかったのか?」
「今日からこっちの筈だけどね」
しれっと答えながら『この場にあいつがいなくて良かった』と内心ほっと胸を撫で下ろす。
『一緒に出向してたんじゃなかったのか』という問いなのは判っていていても出向中ずっと同居と言って差し支えない状態でいた為、太田の質問に内心ヒヤリとした。
表面上は全くの平静を装って軽く頬杖をつき応じると遊馬は軽く肩を竦め隣の席を見遣った。
自分のそれ同様綺麗に片づけられた机は未だ主が出勤していない事を言外に告げていて遊馬は『まさか寝過ごしたんじゃあるまいな』と密かに気を揉んだ。
始業のベルが鳴っても姿を見せない野明に『何かあったのだろうか』という雰囲気が隊員室を包み始めた頃 扉が開いて第二小隊隊長である後藤が顔を覗かせた。
「皆 揃ってる?」
飄々とした雰囲気で声を掛けた隊長に5人が顔を見合わせると彼は思い出したように一言付け足した。
「そうそう 泉なら心配ない。今 南雲さんと接客中」
「接客ですか?」
「そう」
首を傾げる一同に軽く頷くと後藤は『この話はここまで』と言うようにパンパンと手を叩いた。
「じゃ 朝礼はじめましょ。まずは連絡事項から。今日から一号機コンビが戻ってきてるので隊の編成を元に戻す。熊耳は二号機専属指揮担当に復帰。篠原は一号指揮担当、ここにはいないけど泉は一号機パイロットの任に着く。これに伴い指揮サポートに入っていた進士を2号機、山崎を一号機其々のキャリア担当とする」
全員が「拝命します」と答礼を返すと後藤は「じゃ 今日もよろしく」と短く告げて朝礼を終えた。
各々席に着こうと動き出すと後藤が遊馬の肩をポンと叩いた。
「篠原 ちょっと」
声を掛け後藤が軽く手招きしながら隊員室を後にすると遊馬は軽く首を傾げつつそれに続いた。
隊員室から充分な距離を取ってから遊馬が先を行く背中に問い掛けた。
「どこへ行くんです?」
「課長室・・・というか応接室、と言った方が正解か」
棟屋内には隊長室に併設されているものとは別に課長室の隣にも応接室がある。
こちらは要するに『お偉いさん』を通す為のもので後藤や南雲の知り合いは大抵の場合隊長室併設の部屋を利用する。
態々課長室側の部屋を使うと言う事は来客が少なくとも課長からみた『お偉いさん』かそれに準じる相手であると察し遊馬は眉間に小さな皺を寄せた。
「野明もそこに?」
「そゆこと」
「まさかとは思いますが ウチの関係じゃないですよね?」
野明が絡み相手が課長の上役かそれに準じる相手、もしくは外部の人間であると考えて知らず遊馬の顔に渋面が浮かぶ。
遊馬の問に後藤はこめかみを軽く掻きながら困った顔をして見せ、探る様な部下の視線に半ばあきらめた口調で応じた。
「・・・隠しておくことでもないか。判ってると思うが・・・」
「自重しますよ、誰が来てるか知りませんけどいきなり喧嘩売るほど俺だって馬鹿じゃないです」
何となく来ている人間の予想がついて遊馬は苦い顔で溜息を吐いた。
「そう願おうか。八王子の工場長自らお出ましだ、それと・・・警備本部長もな」
「それはまた・・・こんな場所まで態々お運びとはご苦労な事で」
「で こちら側からは?」
「今は福島課長と南雲隊長が泉と一緒に応接室に入ってる」
これに自分と後藤隊長が加わるとなると何となく話の道筋が見えた気がして遊馬は眉間に深い皺を刻みその顔に後藤が苦笑いを向けた。
「まぁ そんな顔しなさんな。取り敢えず話だけは聞いてみようよ」
「・・・判ってますよ」
少し不貞腐れた顔を見せた遊馬は応接室の扉の前まで来ると一度大きく深呼吸して気分を落ち着けた。
『開けるよ』と目で合図した後藤に軽く頷くと遊馬は顔を上げぐっと背筋を伸ばし隊長に続いて室内に足を踏み入れた。
「失礼します」
後藤に続き遊馬が応接室に顔を見せると一斉に視線が彼らに集中した。
遊馬はさり気無く室内を見回し少し居心地の悪そうな実山、次いであからさまにホッとした顔を見せた野明に目を止め後藤の反応を窺った。
遊馬に野明の隣へ座るよう促し自分は南雲の横へ腰を下ろす。
「何か話した?」
「まだ何も」
しのぶに小声で問い掛けると短い返事が返ってきて後藤は軽く頷いた。
野明もまた遊馬に朝礼の内容を問うと「そんなの後で教える」と答えを返した遊馬に「何か訊かれたか?」と逆に尋ねられた。
彼女が首を左右に振ると「ならいい」と小さく答えた彼は後藤と軽く頷き合い、全員が着席するのを待って後藤が口を開いた。
「お待たせしました。通常業務の方がありまして」
「当然そちらが優先だ、不備の無いように頼むよ」
極めて事務的に受応えると海法が話の口火を切った。
「では 話を始めようか。まず先日 登庁して貰ってはいるがまずは篠原、泉両巡査は出向御苦労。今日からはこちらでの勤務に復帰して頑張ってくれたまえ」
二人が「はい」と声を揃えると満足気に頷いた海法は話を続けた。
「早速だが来月からゼロ式の正式度導入が決定した。第一小隊は現行の97式改を篠原重工に引き渡しこれを代替とする」
告げられた内容に南雲は神妙な顔で頷いた。
「導入は運用機二体と予備機一体を含む計三体とし 第二小隊の98式と併せ予備機を入れて合計6体で当面の運用を図る。尚 今回導入のゼロ式は専属指揮車を必要としない為納入は機体のみとなる」
内容に間違いが無い事を確認して実山が頷く。
話を聞きながら自分がここに同席している理由が思い当たらない野明は戸惑う様な目を遊馬に向けた。
軽く腕を組んでいた遊馬はチラリと彼女を見遣ると小さく肩を竦め『ちゃんと話を聞いてろ』と軽く顎をしゃくった。
大人しく前を向き直り神妙な顔で話を耳に入れ始めるのを確認しながら遊馬はこの場に自分達が同席させられた意味をその面子と話の流れから敏感に察し嫌悪感を内心に押しとどめ表面上は平静を装った。
一瞬隣に座る後藤の顔を窺ったものの自分以上に感情を表に出さない事に長けた上司はいつもの飄々とした態度を崩すことなく手渡されたゼロ式に関する資料を手に取りパラパラとページを捲っていた。
「以上がゼロ式導入に関する連絡事項になる訳だが何か質問はあるかね」
海法が全員を満遍なく見渡すと手元の書類から目だけを上げた後藤が口を開いた。
「『当面』は六機運用とおっしゃいましたが・・・」
含みを持たせた物言いに海法が鷹揚に頷いた。
「確かにそう言った。その件についてはこれから話す。まずは基本方針について説明だけしておこう。この6機運用体制は篠原重工八王子工場にて現在開発中の量産型汎用機の導入までの暫定措置とし、新型機の導入を以て順次入れ替えを進めるものとする。導入予定時期等については篠原さん側から話をきかせてもらえますかな?」
海法の視線を受けた実山が頷くと全員に軽く会釈して説明を引き継いだ。
「篠原重工 八王子工場で工場長をしております、実山です。ご質問の件ですが 量産型汎用機、当方は『ヴァリアント』と呼称しておりますが こちらの導入可能時期は現在の所、今秋を予定しております。開発は今大詰めを迎えておりまして来月には運用試験に入れるかと思います。この時併せて基礎データおよび動作パターンの落とし込みを同時に行っていく予定になっております」
一度言葉を切った実山は遊馬、野明、次いで南雲、後藤と順に視線と巡らせ最後に福島と海法に目を向けた。
実山の視線と海法の目配せを受けた福島がやや事務的に口を開く。
「そこでこちらからの要望伝達と開発協力を兼ねて二課からも人材を派遣する事になった。この任務に篠原、泉両巡査を任命する」
『やっぱりな』という顔をする遊馬と明らかに戸惑った顔をする野明を見遣る後藤の顔に一瞬苦いものが過ったのをしのぶは見逃さなかった。
飄々とした態度を崩さない彼の代わりにしのぶは微かに眉根を寄せ少し考えて口を開いた。
「それはつまり 本日通常業務に復帰したばかりの彼らにまた出向を命じる、というこでしょうか。長期にわたる人員の不在は小隊運営上好ましくないと言う事は先日上申したばかりです。このまま長期にわたってこの二人を篠原重工に出向させるお心算でしたらそれに見合う人員の補充と隊編成の見直しが必要になるかと思いますが」
「『協力』という形である以上、こちらの業務が優先されることは大前提だ。その上で月に4、ないし5日程度、準待機期間を利用して任に当たるのが妥当だろうと考えておる」
海法の視線を受けた遊馬は微かに眉根を寄せ 野明は困惑した顔で後藤を見遣った。
予想の範疇内とは言え部下に負担を強いる提案に後藤は渋い顔で肩を竦め 福島を見ると彼もまた苦い顔をして腕を組んだ。
海法と実山へ等分に視線を投げガリガリと頭を掻いた後藤が書類を机に置き直すと組んだ手の上に顎を乗せ不本意そうな口調で切り出した。
「部課長に置かれましては当然ご存知かと思いますが、うちの勤務体制は特殊であります。確かに二課に所属する隊員は一週間おきに待機と準待機を入れ換わる体制で勤務しておりますので準待機中の出向協力というのは日程的に難しい事ではありません。しかしながら本来この期間は待機中に発生する残業及び夜勤分の代替として取得させている物であり勤務外時間に相当するものであります。首都圏にありながら僅かに二個小隊という圧倒的な部隊数の不足から本来は休暇扱いであるところ準待機中も行動に一定の規制を設けてはいますが ここに恒常的に勤務予定を入れるとなれば非常招集等の看做し分を加味すると労基法で規定されている基準時間の枠を超える事は必至。ましてその任をこの二人のみに任せると言う事になれば定時間勤務のみでも一日8時間、出向が月5日あったとして最低でも都合40時間の超過勤務が恒常的に発生する事になります。その分の帳尻を如何にして合わせるお心算ですか?」
労基法の定めで言えば 40時間を超える残業を行うと一日休暇を付与しなければならず75時間を超過すると更にもう一日休日をつくらねばならない。
準待機期間はそもそも勤務時間外の扱いなので超過分の埋め合わせは当然待機任務の時間から捻出せざるを得なくなる。
となると当然 残される第二小隊二号機組と本来準待機である筈の第一小隊にその皺寄せが行く事になる。
今の条件のまま一号機コンビの出向が決まれば結局昨日までの高負荷勤務が恒常的に行われることになるのは目に見えていた。
第二小隊の面々が遊馬を欠いた3週間のあいだ相当苦労していたのは目に見えていたし更に最後の一週間、一号機コンビが機体を含めて任を離れると、彼らの性格上泣きごとこそ言わなかったものの二号機組に掛った負荷の大きさは半端なものではなかった。
大きな事故ともなれば一機だけでは手に余り第一小隊も支援に駆けつける。
そうなればこちらの隊員にも時間外労働を課すことになるのだ。
渋い顔を見せる隊長二人。
福島もまた同じような表情を浮かべつつ上司たる海法の出方を窺った。
尊大な態度で腕を組んでいた彼は一つ息を吐くと実山に目を向けた。
「確か出向する人員にはそちらの意向があった筈ですが・・・他の隊員とローテーションを組ませるというのは如何ですかな?」
「できれば同じ方でお願いしたい というのがこちらの希望です」
実山がその提案を言外に断ると海法は眉間の皺を深くした。
「・・・彼らで無ければならない理由が何か?」
「日程が限られている上に納期まで間がございませんので今迄の作業に通じた方でなければ非効率的だと言うのが一点。加えて今回の出向でお二人には開発関連メンバーとの信頼関係が既にできておりますので作業が進めやすいという点が主な理由になるかと思います。ローテーションに関してはお越しいただく方が変わる度に作業のレクチャーと各種調整を行う必要が出て参りますのでこちらとしてはご遠慮願いたいのが本音になります」
申し訳なさそうに答える実山に遊馬と後藤は『まぁ そう言うよな』と思い海法と福島もまた予想の範疇内だという顔で鷹揚に頷いた。
「我々の側としても汎用性が高く、操作の習得に時間を要しない新型機の早期導入には大きなメリットがある。ここはひとつお互いに協力していくという方針で行きたい訳だが・・・」
言葉を切った海法が言わんとしている事を察し第二小隊の両隊長と遊馬は苦い顔をし、福島もまた複雑な顔を見せた。
実山の請う様な視線に気づかないふりをした遊馬は『迂闊に返事をするな』と野明を目で制すと指示を仰いで後藤へと眼を向けた。
『まいったなぁ』という顔で頭を掻きつつ隣に座るもう一人の隊長を見遣ると彼女もまた己が上司の言わんとした事を察し一見平静を装いつつも組んだ手の指にかなりの力が入っている事が見て取れて後藤は苦り切った顔で軽く息を吐いた。
「何分二人とも今日 こちらに復帰したばかりで他の隊員と挨拶も満足に交わしていない様な状態です。私からもこの件について当人たちに一切話をしておりませんし、遠方よりお運びいただいて誠に恐縮では御座いますが説明と意思の確認、加えて小隊単位での対応の可否について聊か検討したい事もございますので少しお時間を頂けませんか」
後藤の提案に実山は申し訳なさそうに肩を竦め、海法は鼻白んだ。
かといって反駁するだけの理由もないので渋々と言う体を装って鷹揚に頷いた。
「よかろう。私も忙しいのでね、午後には本庁に戻らねばならん。結果の報告と提出書類は今週中に取りまとめて私に届く様にしてくれたまえ。シノハラさんの方もそれでよろしいですかな」
「勿論 結構です」
ほっとした様子で頷いた実山をみて 遊馬は冷めた顔で小さな溜息を吐いた。
『お客さん』二人の相手を福島に任せ 両小隊長とその部下は応接室を後にする。
隊長室に向かう道すがら後藤は野明に声を掛けた。
「泉、隊員室に行って熊耳に隊長室に来るよう伝えて。あとお前さんは30分後に進士と一緒に俺んとこ来て頂戴」
「30分後、ですか?」
「そ。で 篠原はちょっとこっち」
手招きされて隊長達の後に続く遊馬を見送り野明が小さく首を傾げると、ひらひらと手を振った後藤が「じゃ よろしくね~」と言い残して隊長室へと姿を消した。
扉が閉まると遊馬は徐に口を開く。
「隊長、さっきの話ですけど・・・拒否権はないんですよね、やっぱり」
さっきまでのポーカーフェイスはどこへやら、すっかりむくれた顔をした遊馬があからさまに不満を滲ませた声音で言うと 両手を頭の後ろで組んで応接セットのソファに腰掛けた後藤が天井を仰ぐ様に背を逸らした。
「無いだろうなぁ、それは」
「そうはいっても 話を受ければ確実に労基法の基準に引っかかりますよ。その埋め合わせに本業を休むってんじゃ本末転倒じゃないですか。大体 ヴァリアントの導入なんて今のペースで行くとどう頑張っても秋、それ以上の前倒しは無理です。それまでこんな勤務体制を断続的とは言え続けていくなんて皆の体力とモチベーションが維持できないですよ」
脇に立つ遊馬の明らかに気乗りしない口調に『俺だって乗り気な訳じゃないよ』という目を向けると後藤は手にした紙をパラパラめくりつつ不満気な顔を作った。
不貞腐れた様な顔の二人に小さく肩を竦めしのぶは珈琲を差し出しながら遊馬に席へ着くよう勧めた。
「内緒話する気なら早くしないとおっつけ熊耳巡査部長が顔をだすわよ」
「内緒って程のものでも無いんだけどね。まぁ とにかく始めるか」
苦笑いするしのぶの声に渋々と言った感じで書面から顔を上げると後藤は少し表情を引き締めた。
「さて 篠原。さっきの話 お前はどう思った?」
「どう、といいますと?」
何となく言わんとした事には気付いていたが敢えて聞き返すと後藤は『判ってるみたいだな』と言う顔で組んだ両手の上に顎を乗せた。
「・・・判ったからって 拒否できるもんじゃないんでしょ?」
「まぁ そうだな」
不満気な声で言う遊馬に後藤は諦め半分の顔で頷いた。
「俺はともかくシュミレーターとは言え搭乗者に掛る負荷は大きい。野明に俺と同じ負担を強いるのはどうかと思いますけどね」
「そんなとことは判ってるよ、少なくとも俺と南雲隊長、課長ぐらいまではね」
後藤の手にある書類を横から抜き取ったしのぶはざっと確認するなり『やっぱりね』と溜息を吐いた。
「要するに 海法部長としては『篠原君達が自主的にそれを申請した』ってことにしたい訳よね」
「そう言う事だろうね。だから・・・自分からは書いてほしい書面の内容を口に出さなかった・・・と」
「口に出さなくても 『それ』を提出書類一式に含んで隊長に渡してる時点で同じことでしょうに」
しのぶが机に扇状に広げた書面の見出しに遊馬は呆れたように一瞥を投げた。
「しかし 『自分は彼らに残業を強要するような発言をした覚えはない』とは言える」
「言質を取らせたくないあの人らしいやり方よね」
好意的とは言えない隊長二人の口調に遊馬は大きな溜息を吐いた。
「成程、で 俺達が用意された書類に何も考えずに署名捺印するとあとで何か指摘を受け時には『書けと言う指示はしていない』って言い張るって寸法か・・・」
「嫌なやり口だと思うよ、俺も。でも こちとら兵隊だからね、そう言う指示なら従わなきゃならん。とはいえ 状況を呑みこんだ上で行くか行かないかでモチベーションも違うだろう。で 今回のこの対応 篠原はどう思う?」
「どう・・・ったって。要するに主旨としては通常業務に支障を出さない為に『出向のある期間中の時間外勤務については本人の快諾を得ています』という内容の書面が欲しいってことでしょう。不本意ですけど已む無しでしょうね、出向が避けられないなら通常業務に支障を出す訳に行きませんから」
「悪いな」
「別に隊長が謝ることじゃないですよ。それに・・・これは布石でしょう?」
しれっと言い切る遊馬に後藤は微苦笑を浮かべ目を瞬くしのぶに軽く肩を竦めてみせた。
「そうなるだろうなぁ。で 実際の所どうだ?」
「そうですね、時期にも寄りますけどあいつにとっては悪い話じゃないんでしょうね。俺としては複雑ですけど」
「だろうな。結果、向こうの思惑に乗っかる形になったとしてもさ、こっちの気の持ち方で変わるものもあるでしょ」
「そうですけどね。で 先の件はともかく今日出たこの件に関しては隊長も一枚噛んでるんでしょ」
「なぜそう思う?」
「タイミングが良すぎます。それに只の出向通達だけで海法部長が出張ってくるのも妙な話だし。人の顔見なくなってその程度の書類なら『期日までに提出の事』って連絡だけで済むはずでしょう。実際 この前はそうだったし。わざわざ 実ちゃんまで呼んでって事は・・・秋の人事に引っかかりましたか?」
「まぁ そういうことだ。まだ正式に話が来てる訳じゃないけどな、来た後じゃ遅いからさ」
「で・・・篠原君としてはどうなの、今回の話」
「受けるしかないので受けますけど正直面白くは無いですね。とはいえ・・・今回海法部長と実ちゃんを会わせたのは隊長ですよね」
「余計なお世話だって 思うか?」
「いえ。正直決めかねてた所があるので、時間的な猶予が貰える可能性があるなら寧ろ感謝します」
「まだ決まってないけどね」
「そこは隊長が頑張ってくれるんでしょう?期待してますから」
「あんまり期待されても困るんだけどね、まぁ 話はそんなとこ。篠原が判ってるならいいか」
「この事 野明には?」
「当面俺から言う心算はない。顔と態度に出易いからね 泉は。話すタイミングは篠原に任せる、尤も人事通達が来ちゃったらそれは伝えるけどね」
『すぐってことはないでしょ』と言いながら珈琲を啜り遊馬の顔を見た。
「なにか訊きたいこと ある?」
「いえ。この件に関しては了解です」
にっと笑う遊馬に後藤は少しほっとした顔をするとしのぶが苦笑を浮かべた。
熊耳を呼びに隊員室に向かった野明が扉を開けると 一斉に4人からお帰りの挨拶が飛んできた。
一通り挨拶に答えると熊耳と進士に後藤からの伝言を伝えて自分の席に向かった。
隣の机に何枚かの書類とシャーペンが転がっているのを目に留め『遊馬がここに戻ってきた』事を実感する。
嬉しさと擽ったさの交じったきゅんとする感覚が胸に広がり知らず野明の顔に笑みが浮かんだ。
その様子に進士とひろみが笑みを漏らし、熊耳が微笑まし気な顔を向けつつ先に遊馬へ渡したものと同じ書類を野明にも手渡した。
書面をパラパラと捲って確認する姿に『良く似た仕草だ』と笑みを零しつつ「それ今日中にお願いね」と言い置いて熊耳は隊長室に向かった。
ノックして扉を開けると応接セットに腰かけて珈琲を啜っていた隊長二人と一号指揮担当者が一斉に彼女を振り返った。
着席を勧められ腰を下ろすとしのぶが珈琲を差し出した。
礼を言って一口くちに運ぶと彼女が一息つくのを待って後藤が口を開いた。
「さて 熊耳も来た事だし話の続きいい?」
遊馬としのぶに同意を求め二人が頷くのを確認すると今後のスケジュールと一号機コンビの出向命令について掻い摘んで説明する。
粗方話を聞いた熊耳は先にその話を聞いた他の面々と同じように渋い顔を見せた。
「それは・・・決定事項であるなら已むを得ませんが。民間企業に其処まで手を割くというのは・・・」
「まぁ 普通に考えるとそうなんだけどね。今後の事もあるからさ・・・」
『成程』という顔で肩を竦めた熊耳に先刻同じような反応をしたしのぶが同情の目を向けた。
「それでは篠原巡査と泉巡査が出向する期間は昨日までと同様の編成で対応に当たる、という理解で宜しいでしょうか?」
「そうなるだろうなぁ」
「はいはい 決定には従いますよ」
機嫌を窺うよう振り返った後藤にしのぶは諦め顔で態とらしく肩を竦めた。
少し考えて熊耳が遠慮がちに口を開く。
「質問してもよろしいですか」
「答えられる範囲ならね」
話の先を促す後藤に熊耳は「構いません」と軽く頷き言葉を継いだ。
「『今後の事』という範疇には小隊そのものの再編成も含まれますか」
「そう言う事になるだろうね」
「・・・了解しました」
軽く腕を組み暫し考える仕草をした後 熊耳はチラリと遊馬の顔を見遣り何かを言い掛けて言葉を呑みこんだ。
両隊長に熊耳、遊馬を加えた4人で大まかな方針を決めると後藤は遊馬に進士と野明を呼びに行くよう指示を出した。
彼が退室すると少し間を置いて熊耳が口を開いた。
「『秋の人事』に掛ってるんですね。・・・篠原くんはどうするんでしょう」
「それを考える時間をね、やりたいんだよ。あいつらに」
「・・・成程・・・」
「本当に後藤さんはあの二人に甘いわよね」
やれやれという顔をみせるしのぶに後藤が決まり悪そうに小さく肩を竦めた。
「そうでもないよ。みんな可愛い部下だもの、平等に気にかけてますって」
「そう言う事にしときましょう」
言い訳がましい彼の言葉をさらりと受け流したしのぶは更に二つカップを並べ手伝おうとした熊耳を軽く制して自ら珈琲を注いだ。
手にしたカップを意味無く揺らし琥珀色の液体を暫く見つめていた後藤は感情の読み取りにくい茫洋とした声で問い掛けた。
「熊耳、お前さんには何か希望ってあるの?」
『問う』と言うより『探る』に近い目を向けられた熊耳は後藤から軽く目を逸らし僅かに首を傾けた。
「希望・・・ですか?」
「そ。行きたい部署とか やってみたい事とかさ」
その問いに彼女は眉根を寄せ聊か困った顔を見せた。
「そうですね・・・ここに来た事自体 私の希望でもありましたから・・・」
「全員が移動すると決まった訳でも希望を聞いたからと言って必ず通してやれるってもんでもないんだけどさ あるなら一応聞いとこう、って位の話なんだけどね」
「お気遣い頂きありがとうございます。けれど・・・そうですね、折角レイバーに関わるスキルを手に入れた訳ですから活用できる場には興味がありますね」
「一応 頭に入れておこうか」
模範的と言っていい熊耳の回答にしのぶは微苦笑を浮かべ、後藤は軽く肩を竦めた。
「熊耳巡査部長 第三小隊に興味は?」
「無い事はありませんが・・・」
言い淀んだ彼女に意外そうに目を瞬いたしのぶへ熊耳は微苦笑を向けた。
「辞令が出れば誠意を持って対応する心算ですが、不確定な要素に期待や希望を持てるほど純粋では無いもので」
「・・・お互い辛いところね」
熊耳の言葉に感じ入る所のある しのぶがしみじみと返事をすると後藤が『なんだかな~』と言う顔をして目線を天井に泳がせた。
程なく遊馬が野明と進士を連れて戻ってくると後藤は極めて事務的に今後のスケジュールを告げた。
その内容に察する所があった進士は少し考えて後藤に質問を投げた。
「その体制は臨時という事でしょうか、暫定と言う事でしょうか?」
「臨時・・・ってことで考えているんだけどね」
歯切れの悪い上司の答えに含むところを感じた進士は僅かに顔を顰め「そうですか」と軽く頷いた。
一通りの話を終えると後藤は山崎と太田への説明を進士と熊耳に其々任せ、解散を命じた。
熊耳を先頭に進士、野明が続いて扉を潜ると 扉を閉じようとした遊馬に後藤が声を掛けた。
「篠原、泉 頼むわ」
序の様に言う上司の言葉の裏に彼女を気遣う心情を見て取り「あいつなら大丈夫ですよ」と遊馬は余裕のある笑みを見せた。
その顔に『ほぅ』と軽く目を瞬いた後藤は直ぐにいつもの飄々とした顔にもどると「じゃ あとよろしくね」と言って手をひらひらと振った。
そんな上司の態度に遊馬は「了解しました」と澄ました顔で応え隊長室を後にした。
扉が閉まり足音が遠ざかるとしのぶが少し意地の悪い笑みを浮かべて同僚の顔を見遣った。
「なぁに、娘を取られた父親みたいな顔して」
「酷いなぁ、俺 独身だよ」
渋面を作る同僚を横目に茶器を片づけながらしのぶは含みのある目をを向け、後藤は居心地が悪そうに目を逸らした。
「だって あいつら手が掛るでしょ?」
言い訳するような口調の彼にしのぶはチラリと目を向けた。
決まり悪そうに頬杖をつくその様子に彼女は微苦笑を浮かべ「私は何も言ってないわよ?」と軽く嘯くと澄ました顔で自席に着いた。
眉間に皺を寄せ頬杖をつきながら眺める机の上には書類の束。
そこには数カ月後に控えた『人事異動』と言う名の未来の青焼きが透けて見える。
その前に出来る限りの事をしてやりたいと後藤は思考力をフル動員して自分の人脈と伝手によって得られる最善の効果について考えを巡らせていた。
出動も無く二課棟内で午前中を過ごし昼食の時間になると遊馬は野明を伴って屋上に上がった。
出前で取った天津丼と五目チャーハンを各々手に持ち屋根の上に腰を下ろす。
久々に屋上で食べる食事は代わり映えのない上海亭のそれであっても一月ぶりの遊馬にはひどく新鮮に感じられた。
野明にとってもこの場所で遊馬と二人で摂る食事は一月ぶり。
当たり前の日常が戻ってきた事が嬉しくて妙にそわそわした気分になった。
同時に彼が出向して以来感じた事の無かった安堵感に自然肩の力が抜ける。
擽ったい気分のまま野明が食事を終えると 先に食べ終わっていた遊馬が頃合いをみて口を開いた。
「なぁ、今朝の話 どう思った?」
唐突に切り出された話しに華やいだ気分が少し冷めると野明は膝を抱え込んだ。
「どう・・・って・・・決まっちゃったんだなって・・・・思った」
東京湾を見つめながら答える彼女に遊馬は「そうだな」と黙って頷いた。
「ヴァリアントが入ってきたら・・・イングラムは現場を離れるんだよね」
「そうなるな」
「その時、私たちは・・・どうなるのかな」
抱えた膝に顎を載せ何かから身を守る様に小さく丸まる彼女の姿に遊馬は少し困った様な笑みを向けた。
「その話のヒントが出てただろ?」
「ヒント?」
「そう。なんか話の方向が見えてきたしたなぁ・・・」
「それって 嫌な話?」
「嫌かどうかは本人次第だろうけど、俺は面白いとは思えないだろうな」
渋面を作る遊馬に野明が不安気な顔を向けると深く息を吐きだした彼は目線を正面に向けたまま問い掛けた。
「なぁ、お前 二課好きか?」
「・・・好きだよ」
唐突な質問に野明は首を傾げる。
彼女の顔を覗き込むようして遊馬は静かに問い掛けた。
「異動人事で他の・・・レイバーとは無関係な部署に移る事になったらお前、どうする?」
返答に困る彼女に遊馬は苦笑した。
「遅かれ早かれ起きる事だろ?前にも言ったけど、もともと二課は実験部隊だ。何時までもこのままってことはないんだ、絶対。ヴァリアントが入ってイングラムが戦列を離れる、このタイミングは二課そのものの組織を大きく作りかえるには絶好の機会だと思わないか?」
「やっぱり・・・その話だったんだ」
彼だけが先に呼ばれた理由に思い当たり僅かに動揺する彼女に遊馬は軽い笑みを見せた。
「海法部長もハッキリ明言はしてなかったけどそれを視野に入れて、って話だろ、それを臭わせる様な話は散発的に出てたしさ。それとは別に俺と・・・あと、お前に関してはちょっと扱いが微妙な感じになってきてるからな・・・」
「微妙って・・・遊馬はともかく何で私も?」
困惑する彼女に遊馬は複雑な顔を向け「巻き込んだんだとしたら・・・悪いな」と呟く様に言った。
「どう言う事?」
「ここで 最初の質問に戻る訳だけど・・・お前 今朝の話どう思った?」
重ねて訊き返されたと言う事は先の質問に対する自分の答えが彼の意図から外れていたと言う事で、返答に困った野明が遊馬の方を見返すと『やれやれ』という顔をした彼は質問の仕方を変えた。
「再度 出向の話が出てただろ」
「ああ そのこと・・・・」
漸く質問の意図に気付いた野明がコクリと頷くのを確認して言葉を続ける。
「指名されたのは俺たち二人。これを受けるとなると隊長達の言っていた通り準待機期間に月に4、5日程度、軽く見積もって40時間以上の残業が確定する訳だ。加えて本業とそれに伴う緊急招集を考えると出向期間中は ざっと80時間近い時間外勤務を強いられる事になる」
「時間外って言っても準待機が削られるだけの話でしょ?」
小首を傾げる彼女に遊馬は『やっぱりそういう認識なんだよな』と苦笑いした。
「警察に採用された時色んな書類に署名、捺印しただろう?あの中には雇用条件に関しての同意を求める事項が含まれてる。俺たちは公務員だしその基準は労基法に準じる形で明文化されていた筈なんだ。休暇や拘束時間、給与関係に至るまでな。お前がちゃんと目を通したかは兎も角としてそれに署名すると当然記載事項に同意したとみなされる訳だ」
「そうなるよね」
遊馬の言わんとしている事が良く判らなくて野明は曖昧に頷いて彼の目を見返した。
その瞳がまだ疑問を呈しているの見て取ると遊馬は更に説明を続ける。
「でもな、一番最初のそれは雇用関係を確立させることを目的とした形式としての意味合いが大きい。だから所謂本庁なんかの内勤従事者を基準にした最もスタンダードな形の勤務体制を記載していた筈なんだ。要は配属される部課を考慮しての物ではないって事だ。そこで正式に配属が決まると各々その部署の勤務体制に見合った内容の誓約書に改めてサインを求められる。ここまではいいか?」
「・・・そうだね。内容までちゃんと読んでなかったけど」
すこしバツの悪そうな様子の彼女に遊馬は「まぁそんなもんだろうな」と苦笑いを見せた。
「で ここで問題になるのが今回の話を俺らが受けてしまった場合の処理なんだよな。配属の際に提示された条件では本来の業務である二課での仕事をその分削らない事には今回の仕事を受けられない。そうしないと受けた分丸ごと時間外労働になるからな。だけど時間外労働には労基法による規定がある、過度の超過はそれに抵触する事にことになるんだ。かといってサポートの為に本業を休むのは本末転倒だよな」
「うん・・・」
「お偉いさん方としては『本業を休ませずにこの仕事を受けて、尚且つ合法的に処理したい』訳だけどこの場合 どうするのがいいと思う?」
生徒に問題を考えさせる先生の様な顔で野明の目を覗き込むと『考えてみろ』と言う様ににんまりと笑った。
「どうって・・・契約の条件を変更する・・・とか?」
「そうだな、それが一番手っ取り早い」
生徒の答えに一定の評価を与え、遊馬はその回答に一言付けたした。
「けど、それは向こうから言いたくは無いんだ」
「え?」
遊馬の答えに目を瞬く。
「要するにさ、仕事はさせたい、でもそれには労基法で規定されている制約が大きい。契約を見直す事を上から指示したという証拠が残るといざ何かでその事が外に漏れた時、足を掬われかねない。だから部長は『こっちに意向を伺う』というスタンスを取って明言を避けたんだ。まぁ 実際の所この状況で拒否できるもんではないんだから指示に等しい訳だけど体裁としては『残業時間に関しては目を瞑れ』と口には出してない訳だ」
「えっと・・・つまり・・・?」
「つまりさ 『現場の判断で出向させた』ことにして労働時間に関しては俺たちが『自主的に残業を受け入れた』形にしたいんだ。実際 労働条件に関して超過勤務を余儀なくされる場合は『本人の合意があれば』違法に問われる事は無いからな。その書面が欲しいわけだ」
漸く合点がいった野明はあからさまに不満気な表情を浮かべた。
「でも それは『上が指示した訳では無く現場の判断で』行った事にして欲しいってそう言う事?」
「そう言う事だな、その為の書式はご丁寧にこっちの名義で作成されてきてたよ。後は署名捺印するだけの状態でさ」
「・・・なんか狡いね・・・面倒は全部こっちに責任丸投げするみたいで。それって事が問題になったら二課内で責任とって、ってことでしょう?」
眉を顰めた彼女に遊馬は肩を竦めて苦笑いした。
「まぁ そうなんだけど、この話 実は隊長自身が一枚噛んでるみたいだしさ」
「隊長が?」
「でなければ こんな話を隊長があっさり受ける筈がないだろ。まして問題になった時にはこっちに詰め腹を切らせようという意図が見え見えだ。そうなると俺達だけでなく第一小隊、もっと言うなら南雲隊長もその巻き添えにする事になるんだぜ。そんな話に隊長が乗るもんか」
目を瞬く野明に遊馬は少し意地の悪い顔をして膝の上で軽く頬杖をついた。
「じゃあ どうして今回はその話を受ける事にしたんだろう」
「そりゃリスクに見合うだけの対価を引き出せる算段が付いているか、或いはそれを負ってでも話を受けておきたい何かがあるか、そんなところだろうな」
「・・・その『何か』って何?」
「さぁな」
肝心な部分を口に出さない遊馬へ野明が少し不満気に問い掛けると彼は含みのある笑みを浮かべて空を仰いだ。
go to next....
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追記
やっと話が収束に向かい始めてます。
一年越しかい! と自分に突っ込みたい衝動に駆られてますがそこは目を瞑る方向で(^^;
だって自分の首絞めるだけだし・・・
今回は二課内の話に終始しました。
心の予定帳ではあと少しで完結できる筈なのでこんなグダグダ話を読んでくださっている心やさしいお客様 もうしばらくお付き合いくださると・・・嬉しいです。
時々書く気力がさぁ~っと無くなりかける事もありますが頂けるコメントに励まされて踏みとどまってます(^^;
こんな情けない書き手ですが励ましてやろう、というお客様 ぜひ一言頂けますと嬉しいです~
正にそれが心の糧っ!
ではここまで読んでくださってありがとうございました、次回は少しでも早く・・・頑張ります
毎回そう言ってる気がしますが 本当にすみません・・・
非公開 2010年07月01日(木)22時12分 編集・削除
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