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memorial days final

memorial days final
クリスマス編です!

なんとかイブにあげましたよ~

例によって長いので畳みますね♪
ご興味を持って下さった方は続きをどうぞ!

続き

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memorial days final
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野明の誕生日から一週間。
19日に出勤した時にこちらを窺うような眼で見ていたことを除けばこれと言って彼女の様子が大きく変わることはなかった。
それもこちらが気づかない振りしていると少し残念そうな様子に変わりそのうち諦めたのか表情にも出なくなった。
野明が何を気にしていたのか実は予想がついていたし、おそらくそれに彼女が込めたであろう意味にも気がついてはいたのだが遊馬は敢えてその件に関しては一切触れることをしなかった。
とはいえ野明はプレゼントしたネックレスを毎日制服の下に忍ばせて来ていたし決して雰囲気が気まずいことはなく寧ろ互いに協力的なことには変わりがなかった。
出動があってもなくても仕事はきっちりとこなし退勤後も時間があれば夕飯を共に摂ることも多かった。
そしていよいよクリスマスイブがやってきて遊馬は電算室で手順を書きとめたノートと睨めっこしながら解析作業を進める野明の背中に声を掛けた。
「野明、今日 まっすぐ来れるか?」
場所と時間が完全に抜け落ちているものの その意図する所は正確に伝わったようで野明は遊馬を振り返ると仄かに染まった頬を軽く抑えるようにして答えた。
「大丈夫。ちゃんと用意して来たよ。それに・・・前回学習したから帰る時は通勤服にする」
上目遣いで後ろに立つ遊馬に告げると器用に首を傾けて「それでいいよね?」と確認した。
「そうだな、ここを出る時はその方がいい」
その回答に野明は神妙に頷いて見せた。
本当は少しくらい女の子らしい格好をしたいところなのだが誕生日に続いてクリスマスまでめかしこんだ格好をして遊馬に手を引かれて帰ることになればそれなりに詮索の対象になることは明白だった。
野明にしてみれば遊馬と噂になること自体は嫌ではないのだがそこから色々な憶測が飛ぶ事が好ましいとは思えなかった。
一方 遊馬から見ても野明とのことが噂になること自体に不都合はないのだが野明が妙齢の独身女性であることを考えると妙な憶測に巻き込むことがいいことだとは決して思えなかった。
とはいえ 野明の様子からなんとなくその気分を察した遊馬は彼女の頭に軽く手を置くと優しい仕草で髪を撫でた。
「でもまぁ めかし込んだ野明も見たいんだけどね、本当は」
遊馬の声に野明は窺う様な眼を向けた。
「本当かなぁ」
「本当だって。折角のクリスマスイブだし後で目一杯めかし込んで貰おうかな」
「後でって、部屋で?」
不満そうな顔をする野明に遊馬は軽く笑う。
「そう、なんなら夜中にイルミネーション見に行ってもいいけどさ、今日なら夜通し点けっぱなしのとこも多いだろ?」
「それでもいいかなぁ。でも一度部屋に入っちゃうと出るのが億劫にならない?」
「そん時はそん時。取り敢えず出動が掛らないことを祈ろうか」
「そうだね」
会話をしながら 野明は何度かコマンドの実行に失敗してノートを睨みつける様にしながら入力した文字を目で追っていると後ろから覗き込んだ遊馬が「ここ」と指をさす。
小文字で入力されていた文字列を大文字に置き換えるとエンターキーを叩いた。
一気に解析計算を開始する端末を見て野明は溜息を吐いた。
「なんで?」
「『unix系は大文字と小文字を区別する』って教えなかったか?」
「そうだっけ?」
「そうなの。忘れるならちゃんと書いとけよ」
「はーい」
ノートに注意を書きたすと野明は視線を遊馬に向けた。
「あとどの位 書類残ってたっけ?」
「4,5枚だろ。それがどうかしたか?」
「う~ん・・・それ終わったら少し付き合ってくれない?」
「いいけど、何?」
「・・・後で話す・・・」
いまひとつ歯切れの悪い野明の口調に遊馬は首を傾げつつ「ま いいけどね」と了承の意を伝えた。

隊員室に戻って残った報告書の類を書き終えると熊耳に手渡す。
他に急ぎの書類がないことを確認すると野明は遊馬に手招きして隊員室を離れた。
首を傾げつつ席を立つ遊馬に熊耳が声を掛けた。
「泉さん どうかしたの?」
「それがよくわからないんですよ」
「そうなの?」
困惑顔を見せる遊馬に熊耳もまた首を傾げた。
「ええ。でも呼んでたみたいなんで、ちょっと見てきます」
「そう、まぁ 書類は上がってるし急ぐ物もないからいいわ」
そういうと熊耳は再び机上の書面に向き直った。
太田が何か言いたげな顔をしたものの熊耳が『いい』と言った以上文句が言えないらしく不満そうな表情のまま書類にペンを走らせた。
その様子を横目に見て隊員室を出ると遊馬は野明の姿を探して左右を見渡す。
ハンガーに降りるタラップの傍に彼女の姿を見つけると足早に近寄り声を掛けた。
「遅くなって悪かった」
「ううん。勤務時間中だもんね 太田さん何か言ってた?」
「いや、何も。熊耳さんに無言の釘を刺されてたけどね」
そういうと二人でクスリと笑った。
「それはともかく 呼びだした理由は?」
遊馬が問うと野明は眉根を寄せ少し困った顔をしてそっと階下に視線を向けた。
これと言った出動も掛っていないのでハンガー内も比較的落ち着いている。
野明の視線を追ってタラップの下に目を向けると、整備員が一人こちら側を見上げて立っていた。
遊馬と目が合うとあからさまに顔を顰めたその人物は最近になって配属されてきたばかりの新人だった。
とはいえ四大をきちんと出ているので年齢は遊馬と殆ど変わらない。
どちらかと言えば精悍な顔つきのその人物は野明と遊馬の顔を等分に見て軽く息を吐くとゆっくりとタラップを上がってきた。
野明の目の前で立ち止まると 遊馬の方に向き直り声を掛けた。
「泉さんと話したいんですけどいいですか?」
それは要するに『席をはずしてくれ』ということだと理解した遊馬は野明の様子を窺った。
不安そうな目で必死に何かを訴える様子に遊馬は軽く頷くと彼と目を合わせた。
「どうぞ ご自由に。ただしここで」
しれっとした顔で遊馬がいうと彼はやれやれと言った顔をした。
「野暮なことを仰いますね」
「何とでも。俺が居ちゃまずい話ですか?」
嘯く遊馬に彼は半眼を向けた。
「篠原さんに問われることではないと思いますけどね、まあいいです。泉さん 今日か明日空いてませんか?」
野明に視線を移してにこやかに問う。
「すみません もう予定が・・・・」
「二日ともですか?」
「えっと・・・その・・・」
言いながら遊馬の方にちらりと目を向ける。
その視線を受けて遊馬が『そういうことか』という顔をして軽く息を吐くと口を開いた。
「悪いけど、どっちの予定ももう埋まってるよ、ついでに言うなら年末年始もね」
「泉さんに伺ったんですがね?」
苦笑いする彼に遊馬は意地の悪い笑みを向けた。
「同じことですよ、休みの予定は俺が握ってんだから」
さらりと言い放つ遊馬に彼は剣呑な眼差しを向けた。
「・・・付き合ってるんですか?泉さんと」
「それこそあんたに問われることじゃないけどね。だとしたらどうするんだ?」
口の端に笑みを浮かべて問うと 彼もまた同じような笑みを返した。
「それはまぁ 状況に依るんじゃないですか?」
「ふーん、状況にね。言っとくけど 貸す気も渡す気もないからな」
まるで動揺することなく淡々と受け応える遊馬の顔を野明は呆けたように見詰め、自然と顔が紅潮するのが分かって思わず頬に手を添えた。
その様子を視界に捉えると彼は軽く肩を竦めて野明に声を掛けた。
「泉さんはどうなんですか?」
話を振られた野明はどきりとして遊馬の方を窺うと遠慮勝ちにその袖を掴んだ。
「あの・・・本当にすみません。ご一緒はできないです、やっぱり」
緊張気味に答える野明に彼は質問を重ねる。
「それは篠原さんと先に約束したからですか?」
「・・・その・・・遊馬と・・・居たいので。本当にごめんなさい」
深々と頭を下げると 彼は肩を竦めて溜息を吐いた。
「そうですか、こちらこそすみませんでした。今回は諦めます。でも 篠原さんと喧嘩したら何時でも呼んでくださいね」
笑ってそう言うと目線を遊馬にチラリと向けた。
視線を受けた遊馬は腕組みをして渋面を作る。
「余計な御世話」と言いながら野明の頭をくしゃりと撫でて「そろそろ戻るぞ」と声を掛けた。
頷いて彼にもう一度頭を下げると野明は遊馬と共に隊員室に向かった。
扉を開ける直前に「ありがとう」というと遊馬は「気にすんな」と言って軽く肩を叩いた。
叩かれた肩が妙に擽ったく感じて野明は嬉しそうに仄かに頬を染めた。

出動がないまま定時間になって二人連れだって二課棟を出る時 先程の整備員が二人の方を見ているのに気付いた遊馬は心中で軽く舌を出し、野明の肩に手を置いた。
野明がきょとんとして顔を上げると上機嫌な遊馬と目が合って思わず首を傾げた。
「機嫌いいね、遊馬?」
「まあな、出動もなく定時で上がれたし、出すべき書類は全部片付いたし。大手振って帰れるだろ?」
「感謝してます」
クスリと笑う野明に遊馬は相好を崩した。
ハンガーを通り抜ける間に何人かの整備員が二人の姿を認め遊馬に恨みがましい視線を向けたものの彼は涼しい顔で「お先に失礼します」と声を掛けてその場を後にした。
二人の姿が見えなくなると 残された整備員たちが口々に遊馬に悪態を吐いたものの ハンガーを巡回していた榊班長にその様子を目撃された彼等はいつ果てるともない説教を延々と聞き続けることになり気力を根こそぎ奪われることになった。

キャットウォークからそのようすを二人の隊長が見下ろしていた。
「泉ってもてるんだね」
後藤が同じように階下を見下ろすしのぶに声を掛けると彼女はこめかみを押さえて軽く頭を振った。

一方二課棟を後にした二人は買い出しを兼ねてターミナル駅にむかって移動していた。
肩に置かれたままの遊馬の手を擽ったく感じながら野明は遊馬に問い掛けた。
「ね、よかったの?これ」
肩に置かれた彼の手を目線で示すと遊馬はしれっとした顔をして「何が?」と訊き返した。
「だって 詮索されるのを避けるためにわざわざ通勤服で帰ることにしたのにこれじゃ・・・」
拗ねた様な顔でいう野明に遊馬は小さく笑った。
「なんだ その事か? いいんだよ。あの新人の整備員 名前何て言ったけかな・・・あいつと話した時点でもう整備班中に知れ渡ってるよ、お前の予定が埋まってることなんて」
「ええっ?!」
吃驚して声を上げた野明の口を手で軽く塞ぐと眉間に皺を寄せ「大声だすなって」と呆れた顔を見せた。
しれっとした顔で言う遊馬に野明はあからさまに動揺して顔を朱に染めた。
「あ・・・えっと・・・」
「まあ いいさ。それはともかく着替えたかったのか?でも俺はそのまま出てきて良かったと思うけどね」
「・・・どうして?」
折角遊馬と買い物をするならそれなりにめかし込みたい野明は拗ねた目をして問い掛けた。
「どうしても。そう言うのは俺だけ見れたらそれでいい」
さらりと言った遊馬に野明は顔を朱に染めて絶句した。

「ご飯 何買おうか?」
野明が問い掛けると遊馬はにっと笑って彼女の手を引いた。
「いいよ 買わなくて。誕生日も部屋だったしさ、外で食べよう」
そう言うとつまみになりそうなものと酒類だけを購入して駅ビルを離れた。
「え? でも どこに行くの?」
「後で分かるよ。これ部屋に置きに行ってちょっと出かけようぜ? クリスマスだしさ。あるか、着替え?」
悪戯を仕掛ける時の様な笑顔を見せる遊馬に野明は首を傾げながらも頷いた。
「えっと 一応ワンピース持ってきてるけど・・・・」
「上等。じゃ行こうか?」
上機嫌で野明の手を引いて遊馬は自分の部屋に向かった。

買ってきたものを一通り冷蔵庫にしまい込むと各々部屋で着替えることにしてダイニングを離れた。
光沢のあるブルーのドレスシャツとスーツに着替えた遊馬が先にダイニングに戻ると 少し遅れて裾と袖口にファーをあしらったベルベット調の深紅のワンピースと透かし模様の入ったストッキングを身につけた野明が 先週置いて帰ったコートを片手に部屋から出てきた。
装飾の少ないシンプルなデザインと光沢のある深い赤色は彼女の白い肌によく映えて、制服を着ているときには決して見えない胸元には遊馬が誕生日に贈ったネックレスが光っていた。
普段あまり見掛けることないスーツ姿に野明が思わず頬を染めて魅入っていると遊馬がクスリと笑う。
「何、スーツ気になるか?」
問われてハッとしたように眼を瞬くと野明ははにかむ様な笑顔を見せた。
「あんまり見ないからちょっと新鮮かなぁ・・・」
「それはお互い様だけどな。いいんじゃないか?良く似合ってるよ」
そう言うと目を細めて胸元のペンダントヘッドに手を触れた。
「似合ってるのは服、それともネックレス?」
愉しげに訊き返す野明に遊馬もまた笑みを返した。
「どっちも。にしてもここで着替えて正解だな。こんな格好で二課をうろつかせなくてよかったよ」
苦笑する遊馬に野明は小首を傾げる。
「今日みたいに言い寄ってくる奴が増えると面倒だしな、それに・・・見せてやるのが勿体ない」
耳の傍で囁くと首筋まで桜色に染めた野明が両手で頬を押さえて俯いた。
その頭をくしゃりと撫でると グレイのロングコートを羽織り、野明の肩に彼女のコートをふわりと被せた。
「さて そろそろ出かけるか」
声を掛けると野明を促して玄関に向かった。
部屋を出る前に野明は飾られた大きなツリーを振り返り 先日自分が残してきた飾りがそのままの場所にあるのを確認して少し複雑な顔を見せるとくるりと玄関に向かって踵を返した。

二駅程電車で移動して着いた先は瀟洒な洋館を利用した個人経営のレストランだった。
躊躇することなく扉を潜る遊馬に野明は少し不安そうな顔をした。
クリスマスイブの夜に予約もせずに入れるような感じの店ではなかったし 事実店内はほぼ満席状態で待っている様な客はいない。
『完全予約制』といった雰囲気に仕事柄事前に予約など取っているとは思えなくて思わず遊馬の袖口を引く。
すると悪戯っ子の様な顔をした遊馬が野明の肩に手を掛けた。
応対にでた男性に 名前を告げるとそのまますんなりと席に通されたことで野明は吃驚して遊馬の顔を見上げた。
席についた遊馬は二言三言 ウェイターと会話を交わすと野明に向かって「コースでいいだろ?」と声を掛けた。
言われるままに頷くとてきぱきと注文を終えた遊馬がまだ呆けた様な顔を見せる野明に向かってにっと笑って見せた。
「めかし込んできた甲斐はあるだろう?」
クリスマスムード満点に装飾された店内、テーブルにはキャンドルが灯っていて如何にも『クリスマスのデート』という感じがする。
「それは そうなんだけど・・・・よく入れたね、こんなお店」
心底驚いたように言うと遊馬は小さく笑った。
「当日ってのは意外に取れるんもんなんだぜ? 土壇場で都合が付かなくなる奴ってのは必ずいるからな」
「そうなんだ・・・」
「誕生日は部屋だったしさ クリスマスくらい外でもいいだろ?」
「えっと・・・かなり嬉しい・・・」
照れて俯く野明の顔に満足気な笑みを向けると 運ばれてきた食前酒に手を伸ばした。

日本酒に比べると洋酒には弱い野明は食前酒のシャンパンと遊馬が別にオーダーした赤ワイン一本でほろ酔い状態になってしまった。
食事を済ませドルチェを嬉しそうに食べ終わると供されたコーヒーを口に運ぶ。
上機嫌に笑う野明の白い肌は酒の効果も手伝って薄い化粧越しにもほんのりと桜色に染まっているのがわかる。
酔いが入って少し潤んだ大きな瞳に暖色照明の蝋燭やライトが反射して常にない表情を作り出していた。
口をつけたカップをソーサーに戻し 僅かに首を傾げると首から鎖骨に欠けてのラインにネックレスのチェーンがさらりと流れ落ちた。
一瞬 邪な気分になりかけて遊馬は軽く頭を振ると手にしたカップの中身を黙って口に運んだ。
芳醇なコーヒーの香りとさわやかな苦みが口に広がり少し気持ちを落ち着かせると、改めて野明の顔を眺めた。
僅かに斜を向いた彼女の耳朶にはタンザナイトをあしらったイヤリングが揺れていて肩口が広めに開いたデザインのワンピースから覗く首から肩に流れるラインに思わず目を奪われた。
遊馬の視線に気がついてきょとんとした顔を彼に向けると野明は小さく首を傾げた。
「なぁに?」
「いや、何でもない。もう少ししたら出ようか」
コクンと頷く彼女の耳朶でイヤリングがきらりと光を反射した。

店を出ると外は雪こそ降らないまでもかなり冷え込んでいてほろ酔い状態の野明ですら「うわぁっ」と声を上げ思わず自分の体を抱き込んだ。
肩口の開いたワンピースにコートを羽織っただけの野明はファーの着いたコートの襟をかき寄せると一度小さく身震いした。
遊馬自身もまたコートの襟を立て身を竦める。
「本当寒いな」
言いながら野明を見下ろすと手をこすり合わせる様にして暖をとる野明の耳でイヤリングが小刻みに揺れていた。
「そんなに寒いか?」
声を掛けると野明はチラリと彼の顔を見上げた。
「ちょっとね。どうして?」
「震えてるからさ、あんまり寒いなら無理しないでタクシー使うか?」
「ううん いい。駅まですぐだし。電車はきっと暑いよ」
野明はそういうと殊更元気よく数歩前に進むとクルリと回って見せた。
「それに 折角お互いドレスアップしてきたんだし少し一緒に歩きたいじゃない?」
ふわりとスカートの裾を翻して遊馬の傍に戻ってくると嬉しそうに笑って彼の腕を絡め取った。
そのまま頭を凭せ掛けるとゆっくりと歩く。
「遊馬、ありがとう」
「ん?」
「こんなクリスマスって初めて」
嬉しそうに笑う野明に遊馬もまた穏やかに笑い返した。
「そうか?そりゃよかった。そんだけ喜ばれると連れてきた甲斐があるよな」
「本当に大感謝っ。でもごめんね、年末にこんなに出費させちゃって」
「ばぁか、そんなのはいいんだよ。時期の問題だけで負担は同じだろ?それに・・・」
野明の顔をひょいと覗き込むとニッと笑って見せた。
「めかし込む野明を見れて俺も満足だし?」
「私も。正装した遊馬なんて貴重だもんね」
「まぁな こんな面倒な格好滅多にしないからよく見とけよ」
そう言うと二人で顔を見合わせて愉し気に笑った。

部屋に戻ると遊馬が出掛けにかけて置いたタイマーが功を奏して室内はホッとするようにな暖かさになっていた。
野明は羽織っていたコートを脱ぐと大きく息を吐きながらツリーの前に置かれたラグの上にしゃがみこむ。
遊馬も同じようにコートとジャケット類を脱いでシャツとスラックスになると冷蔵庫を覗きながら声を掛けた。
「なんか飲むか?」
「えっと・・・少し貰おうかなぁ、まって 見に行く」
そう言って遊馬の肩越しに冷蔵庫を覗き込むとシードルに手を伸ばした。
「珍しいな、日本酒にしないんだ?」
遊馬が笑うと野明は少し考えて「この格好でコップ酒っていうのもね?」と言ってワンピースの裾を持ち上げた。
「まぁ 確かにな」
「あ、もしかして遊馬これが良かった?」
「いや どれでもいいよ。洒落たものはないけど グラスに移してやろうか?」
「じゃ お願いしちゃおうかなぁ、『乾杯』ってしたい」
「はいはい、ちょっとまてよ」
食器棚を探ってシンプルこの上ないガラスのコップを2個引っ張り出すと「これしかないけどいいか?」と声を掛けた。
コップを受け取って軽くすすぎながら上機嫌に笑う野明に遊馬が怪訝な顔を向けた。
「どうかしたか?」
「ううん。シンプルなグラスだなって」
クスクスと笑う野明に遊馬は苦笑を返した。
「悪いな、あんまり洒落たものなくて。今度買っとこうか?」
「そうじゃなくて。ちょっと嬉しかったりして」
はにかむように笑う野明に遊馬は首を傾げた。
「何が?」
「この部屋に女っ気がないこと。綺麗なペアのシャンパングラスとかさっと出てきたら何時使ったんだろうって思うじゃない?」
「ああ 成程ね。お前 あまり洋酒飲まないし俺一人なら必要ない物だもんな。・・・気になるか?」
「そりゃね。気にならないって言ったら嘘でしょう?」
「そいつは僥倖。じゃ 取り敢えず向こう行こうぜ。折角ツリーも飾ったしな」
野明の頭を軽く撫でてツリーの前に場所を移す。
他愛もない話をしながらゆっくりとグラスに注がれたシードルを口に運ぶと甘酸っぱい炭酸の風味が広がってほろ酔い加減の心地よさに野明の表情が柔らかく緩んだ。
アルコールの作用で仄かに上気した彼女の白い肌はほんのりと桜色に染まり開いた肩口から覗く野明の首筋に知らず目線が止まる。
ツリーの飾りに目を移して再び野明に視線を戻すと目を軽く閉じ遊馬の肩に頭を凭せ掛けて愉しそうに話をする姿が目に入った。
彼女の肩に手を掛けると遊馬も心地良さ気に目を閉じて声を掛けた。
「野明、クリスマスプレゼントってのは 日付が変わる前と後どっちに渡すもんなんだ?」
唐突に出された問いに野明は話を止めて小首を傾げた。
「どっちでもいいんじゃない? でもサンタさんからなら『翌朝枕元で見つける』って言うのがお約束って気がしない?」
「成程ね。じゃ 訊くけど・・・」
言いながら野明の手首と腰を掴むと手元に引き寄せた。
「このサンタはいつプレゼント持ってくるんだ?」
問われた野明は「あっ!」と声を上げて遊馬の腕をすり抜けると先日プレゼントを置いたツリーの土台になっている植木鉢に手を伸ばした。
遊馬もまたそこに収めた包みに手を伸ばして各々自分の用意した包みを手に取るとツリーの前で正対した。
遊馬がまず野明にむかって手にした小さめの箱を差し出すと「メリークリスマス」といって彼女に手渡した。
「ありがとう」と言って大事そうにそれを受け取ると 今度は野明が手にしていた細長い小さな包みを差し出した。
「えっと・・・メリークリスマス」
「ありがとな」
包みを受け取ると遊馬はそれをしげしげと眺めた。
「結構 嬉しいもんだな」
そう言って笑う遊馬に野明もまた嬉しそうに頷いた。
「開けてもいい?」と言って再び腰を下ろそうとする野明の肩と手首を掴むとぐっと手元に引き寄せ遊馬はにっと笑った。
「まだ受け取ってないものがあるんだけど?」
野明が首を傾げると遊馬は愉しげな顔を見せた。
「違うか。受け取るのは俺じゃなくて野明になるのかな?」
そういうと野明の顎を片手で持ち上げて軽く唇を重ねた。
唇を離すと真っ赤な顔をして俯いた彼女の顔を覗き込む。
「あ・・・あの・・・えっと・・・?」
口籠る野明に遊馬は 軽く笑って見せた。
「仕掛けたのは野明だろ 怒るなよ」
口元に手を当てて彼を見遣るその視線に遊馬は黙ってツリーに飾られたリースに目を向けた。
「あれは俺が買ったものじゃない。一緒に飾り付けした時にはなかったしな。野明があとでつけたんだろ、お前しか部屋に上げてないんだから他に該当者はいないし?」
言われた野明は拗ねた顔をして遊馬を見遣った。
「・・・気付いてたんだ? いつから?」
「お前が帰った日の夜。部屋に戻ってすぐに気付いたさ」
「すぐって・・・遊馬そんな様子なかったじゃない?」
野明が抗議すると遊馬は愉しげに肩を震わせた。
「お前は気にしてたよな、かなり」
「・・・気付いてたなら言ってよね?」
「言うって何を言うんだよ? 『ツリーにヤドリギのリース置いてったけどあれは『キスしてください』ってことだと思っていいのか?』って面と向かって職場で聞いてほしかったのか?」
あまりにストレートな表現に野明が硬直すると遊馬は呆れた顔をして見せた。
「・・・遊馬ぁ・・・」
真っ赤な顔をして自分を見上げる野明に遊馬は軽く肩を竦めた。
「大体俺は最初お前が『意味を分かって置いて行ったのかどうか』の方に自信がなかったからな」
苦笑する遊馬に野明は拗ねた顔をしてそっぽを向きその仕草に遊馬がクスクスと笑った。
「まあ 今まで中途半端にしてた俺も悪かったよ。なんか今更って感じもするけどさ、付き合わないか、俺と」
さらりと言ってのける遊馬を野明は呆けた様な顔で見つめると小さく肩を竦めた。
「・・・本当に今更だよね・・・」
溜息を吐く野明に向かって両手を伸ばし軽く引き寄せると耳の傍で声を掛ける。
「悪かったって。野明からアピールさせたのは俺のミスだよ。それで どうする、付き合う気あるか?」
「なかったら あんなもの置いてったりしないってば」
言いながら口元に手を宛がう野明に遊馬は軽く首を傾げた。
「もしかして ・・・初めてだったのか?」
野明は遠慮がちに頷くと小さな溜息を吐いた。
「現実なんてそういうものなんだよねぇ・・・・」
「・・・そういうって・・・・」
困った顔を見せる遊馬に野明はぽすんと彼の胸に頬を寄せた。
「なんか拍子抜けしただけ。気にしないで」
淡々という野明に遊馬は少し考えるとひとつ提案した。
「拍子抜けねぇ・・・・よし じゃ こうしようか。俺も悪かったとおもってるしさ 仕切りなおそうぜ?」
「ええ? 仕切りなおすって・・・」
戸惑う野明にニヤリと笑うと改めて彼女を自身が飾ったリースの傍に立たせた。

受け取っていたプレゼントの箱を机に置いて両手を空けると、野明を軽く抱き寄せる。
一度大きく深呼吸すると 気持ちを落ち着けて目線を合わせた。
「野明 お前が好きなんだ。・・・俺と付き合わないか?」
正面から問われて頬を染めた野明がコクンと小さく頷く。
「私も遊馬が大好き。あの・・・えっと・・・よろしくお願いします・・・で いいのかな、返事って?」
どきまぎしながら応対する野明に遊馬が笑った。
「いいんじゃないか? 野明、取り敢えず目閉じろ」
そういうと彼女の顎を軽く持ち上げた。
緊張して全身が強張っている野明の耳元に遊馬が小さく「少し力抜けよ」と囁いて優しく唇を重ねた。
先程の一瞬で離れた軽いキスとは違う 甘くて優しい口付けに野明の心臓がギュッと縮む感覚に襲われる。
ゆっくりと唇を離すと遊馬は野明の顔を覗き込んだ。
「緊張しすぎ」
「だってっ・・・」
「少しは浸れたか?」
「十分です・・・」
頬を染めて目を逸らす彼女の首筋にふと悪戯心が湧いて軽く唇を押し当てると喉元に向かってゆっくりと舌を滑らせた。
「やぁんっ」
吃驚して思わず声を上げて身を捩ると遊馬がぱっと腕を離した。
ぺたんと座りこんだ野明に向かって「意外に艶っぽい声が出るもんだな」と悪戯に成功した子供の様な笑顔を向けた遊馬は先程机に置いたプレゼントの箱を手に取った。
「続きは後で考えるとして・・・これ 開けていいか?」
「え? あ、うん。どうぞ って・・・続きって・・もう、遊馬の馬鹿ぁ・・・」
動揺して受け答えが怪しくなる野明に遊馬は思わず噴き出しそうになりながら「お前も開けてみたら?」と声を掛けた。
言われるままに素直に頷くと丁寧にリボンと包装を解いていく。
遊馬の手にした箱からは ボールペンが出てきた。
適度な重さのあるメタルボディのボールペン。
見てすぐに遊馬は「へぇ・・・」と声を上げた。
「fisherか。SPACE PENだな。ありがとう」
すぐに商品のブランドに言及した遊馬に野明は目を丸くした。
「知ってるの?」
「有名だろ?宇宙飛行士御用達」
「そうなんだぁ・・・・」
散々悩んだ挙句にデパートのコンシェルジュに相談までして見つけたものが意外に有名なものだったことに野明は複雑な顔をした。
その表情に遊馬はくすりと笑う。
「それだけ質がいいってことだよ、有名なのは。明日から早速使わせてもらうよ」
「うん。そうして」
野明はホッとしたように笑うと自分もまた遊馬から受け取った包みを開いた。
中から出てきたのは綺麗な青色をしたシンプルで使いやすそうなキーケース。
ハンドメイドの商品らしく鍵を掛けるフックも4連になっていて有名ブランド品の様な華奢な作りではなく実用的なしっかりとした丈夫なものだった。
「ありがとう 遊馬。あとで鍵つけかえちゃうね」
嬉しそうに手にとってと笑う野明を満足そうに見遣り、遊馬は胸ポケットから何かを取り出し「それもやるよ」と言って野明の掌にぽんと載せた。
掌に乗っかった物を見た野明が目を丸くして遊馬の顔を覗き込んだ。
「え? あの 遊馬・・・これって・・?」
「ここの鍵」
事もなげにそう言うと遊馬は口の端に笑みを載せた。
「受け取るか?」
「えっと・・・・はい・・・・ありがとう・・・」
言いながらしげしげと掌に載った鍵を見詰め上目づかいで遊馬を見遣るとおずおずと問い掛けた。
「あの・・・これ貰ったってことは・・・その・・・ここに何時来てもいいの?」
「どうぞ」
遊馬は躊躇することなく機嫌良く答えを返す。
「遊馬が、居ない時でも?」
「もちろん。何時でも来いよ、お前に見られて困るようなもんなんてないからな。尤もお前が見て後悔する様なものはあるかもしれないけど?」
「なによ、それ?」
首を傾げる野明に遊馬はにやりと笑って見せた。
「俺も成年男子だからな、その手の物はないとは言わない」
一瞬怪訝な顔をした後 一気に頬を真っ赤に染めた野明を見て遊馬は噴き出すように笑った。
「お、可愛いもんだな。安心しろって、最初はちゃんと優しくしてやるから」
耳元で囁くと野明が一気に後ずさる。
その反応が面白くて再び声を上げて笑うと拗ねた顔をした野明が数歩の間を取って抗議した。
「もうっ 遊馬の馬鹿ぁ」
「はいはい 馬鹿で結構ですよ、もういい時間だし風呂入ってこいよ、話の続きは後でしてやるから」
言いながらタオルとガウンを放ってやると野明は慌ててそれを受け止めた。
「もうっ そんなこと言われたら出てこれなくなるでしょ?!」
顔を朱に染めて抗議する野明に遊馬はしれっと言い返した。
「そうか? じゃ中で倒れてると困るから出てこなければ踏み込むぞ」
「・・・・それは・・・やめて・・・」
口論で遊馬に勝てないことを悟って野明はこめかみを押さえて溜息を吐いた。
「ま 兎に角いって来いって。この辺少し片づけるから」
そう言って野明をシャワールームに放り込むと遊馬は部屋をざっと片づけて自分の着替えを用意する。
野明と入れ替わりにシャワーを浴びながら0時を少し回ってしまった事に小さく肩を竦め、先に出た野明がどうしているか、それによって変わりそうな今夜の長さに遊馬は軽く笑うと湯の温度を少し上げた。

fin

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クリスマス編です!

付き合うとこまで行きました~って感じで♪
3部作なのでここで完結です。
この先はご想像にお任せで(笑)

裏を期待した方ごめんなさい~★
表用なのでここまでです(^^;

裏はもう過去2本で引き出しを使い切ってしまったので当分無理です~!!

そして今日の午後から実家に行ってきます♪
コメントその他のレスは少しづつがんばりますのでしばしお待ちを~!!

ではでは メリークリスマス!(^^)

コメント一覧

日咲 2009年12月24日(木)09時29分 編集・削除

読みました~♪
って、いろいろメールで書いてしまったのでこちらでは割愛しますね。失言しそうだし(笑)
んで、書き忘れたことありました…スミマセン。
私のために?いさおくんを出して下さってアリガトウ!!
あと、惜しかったのかな???言ったもん勝ちで副賞差し上げますよ~。
え、いらない?(笑)

さくら(日咲様) 2009年12月24日(木)09時36分 編集・削除

>日咲さん

うわぁぁい♪
コメントまでありがとうございます~!!!

功ちゃん ちらりと出した甲斐がありましたよ~(笑)
ところで 副賞いただけるんですか!!!
ぜひぜひ下さいませっ♪
遊馬がいっぱい出てくる話が読みたいです~(なんて大雑把な注文だ!!)
言ってみましたよ、言ったもん勝ちですよね、ね?(笑)

ツッジー 2009年12月24日(木)13時45分 編集・削除

読みましたぞよー(≧∇≦)

いい話だねぇー(≧∇≦)

キーケースに部屋の合鍵

最高のコンビだね!!!!!

こんなプレゼントほしい!!!!!!

あっ!!

Merry。..☆。.*Å*:.。☆..。X'mas♪

瞳子 2009年12月24日(木)23時02分 編集・削除

ヾ(≧∇≦)〃ヤダヤダ

こちらの、のあすまもドレスアップ、ドレスアップ。O(≧▽≦)O

普段と違う姿を見るとドキドキするよね。


遊馬の部屋の鍵、ウチにも。
えっ!?野明チャン、ダメ!?

こんきち 2009年12月24日(木)23時28分 編集・削除

いいなぁステキなイブ過ごしてる~(><)
そして遊馬の家の鍵ゲットですか!!おめでとう野明。
私の所はちびっ子ギャング(という名の姪っ子ズ)が来て
賑やか過ぎるクリスマスになりますよ。

さくら(ツッジー様) 2009年12月25日(金)22時03分 編集・削除

>ツッジーさま

読んでいただけました?!
ありがとうございます~(^^)
キーケースとのコンビです~♪
おお そうだ! メリークリスマス!!

さくら(瞳子様) 2009年12月25日(金)22時05分 編集・削除

>瞳子さま

そうなんですよ 偶然にもこちらでもドレスアップ~♪
瞳子さんのとこはもっとドレッシーですけど(^^)

遊馬の部屋の鍵・・・私もほしい~!!(殴!)

さくら(こんきち様) 2009年12月25日(金)22時06分 編集・削除

>こんきちさま

鍵GETです(^^)
こんきちさんのところは賑やかそうですね♪
楽しいクリスマスをお過ごしくださいませ~!!!

非公開 2009年12月25日(金)23時37分 編集・削除

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さくら(内緒様) 2009年12月26日(土)00時12分 編集・削除

>内緒さま

あはは 魔性勝ちましたね~
このあとは・・・どうでしょうね★
実は野明はもうひとつ願をかけてるんですよ(笑)
張っておきながらまだ回収してない伏線があるんです(^m^)
気づいてる人はいるでしょうか?!