さて不在の第19弾♪
ええとですね。皆様 覚えておいででしょうか?
この話自体のこともそうなんですが。
実はこの話 時間設定 『初夏』なんですよ!!
どんだけ放置したかわかるというものですね(^^;
ここ最近は月一連載状態だし・・・・
だって 12月はイベント多いんですもの~(言い訳してみる)
真冬に夏の話もなんなのでこのまま初夏まで待ちます・・・というわけにもいかないでしょうし頑張ります(^^;
というわけで季節感ないですが・・・
あ なんなら 夏まで待って読んでいただいてもいいですよ~(こら!)
では 以下が本文です
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不在 19
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SIDE-A&N(7)
隊長室を辞した二人は一応隊員室に顔を出したもののその場には誰もいなかったのでそのまま車に足を向けた。
この時間部屋にいなければミーティングをしているか自主トレか。
何れにしても探し回ってまで会わなければならない用事はなかったし じきにここに戻ってくることになっているのだからそこまでしなくてもいいだろうという気もした。
そのまま真っ直ぐハンガーに降りてすれ違った整備員と二言三言言葉を交わすと早々に車に足を向けた。
野明は黙って遊馬について歩き 促されるとそのまま助手席に乗り込んだ。
運転席についた遊馬はミラー越しにこちらを眺める二人の隊長の姿を認め 微妙な空気を漂わせた先ほどのやり取りを思い返して苦い表情を作った。
遊馬の横顔をそっと窺っていた野明はその仕草に僅かに眉根を寄せ遠慮がちに声を掛けた。
「遊馬?」
不安の滲む声に我に返ると遊馬は考えていたことを一旦中断すると表情を改める。
「悪い、ちょっと考え事してた」
苦笑しながら野明にちらりと目線を走らせ不安そうな顔を見せるパートナーの髪をくしゃっと掻き回す。
「そんな顔するなって。お前が心配するようなことは何もないよ」
温かい大きな手の感触に思わず野明が安堵の息を吐くと、自分の掌を見て遊馬は小さく笑う。
よく変わる彼女の表情は遊馬にはないもので喜怒哀楽のはっきりしたそれを初めは疎ましくさえ思ったこともあったのに今は自分の掌一つでがらりと変わる野明の表情を好ましいとさえ思う。
それと同時にこれといった価値を見出すことができなかった自分自身のことさえも何時しか蔑ろに扱うことに抵抗を感じるようになってきていたことに気付かされた。
それは 自分がかわいいと思うようになったからではなく自虐的に動くことで悲しい表情を見せる野明の顔を見たくないということの方が要因としては大きくてそのことに遊馬自身が驚いていた。
再び思考に耽り沈黙した遊馬の顔を心配そうな表情を湛えた野明が覗き込みその仕草にはたと我に返った遊馬は困った様な笑みを浮かべると「いこうか」と声を掛けて車を出した。
新しく借りた部屋の前まで来ると遊馬は書類を確認して指定された駐車場に車を止め野明を伴って部屋に向かった。
鍵を開けて中に入ると思ったよりも採光が良く部屋の中はかなり明るかった。
2DKの間取りで一人で暮らすには幾分贅沢なその空間に野明は目を丸くする。
キッチンも比較的広くて男性の一人暮らしと言うよりは夫婦二人ないしそこに子供が一人くらいいても十分に過ごせる様な間取りになっていた。
「広いね」
「まだ何も置いてないからな。荷物が入ると少し印象がかわるんじゃないか?」
日差しの強さに中はかなり蒸し暑く遊馬は通りすがりにすべての窓を開け放してまわった。
風が少し回って体感気温が少し下がったものの立っているだけで汗が噴き出す様な気温に遊馬が先に音を上げる。
「暑くてたまんねぇ。どうせ何にもないんだし窓あけといて先に買い物してこないか?」
「そうだね。掃除道具とかあった方がいいし。」
野明が同意すると遊馬は野明を連れて部屋を出た。
小一時間で掃除道具と雑貨をいくつか買い込んで戻ってくると風が抜けたことで部屋の中はいくらか過ごしやすい気温になっていた。
それでも暑いことに変わりなく野明は汗をぬぐいながら床を乾拭きしつつ溜息を吐いた。
「こんな恰好してくるんじゃなかったなぁ」
「あ 悪い。床なんて俺やるからいいよ」
慌てて遊馬が野明を立たせると野明はきょとんとした顔をした。
「え なんで?」
「洋服 気付かなくて悪かった」
「あ・・ そういう意味じゃないよ」
野明はクスクスと笑う。
「紛らわしい言い方してごめん。そうじゃなくて、カットソーの上にノースリーブのワンピースでしょ?暑いのにこれ以上脱げないんだもん。もっと調整の効く服装の方が良かったとおもって」
そう言いながら 薄手とは言え長袖にハイネックのカットソーとワンピースの裾を引っ張って溜息を吐いた。
「この暑いのになんで長袖にハイネックなんて着てきたんだ?」
素朴な疑問を口にした遊馬に野明は軽く肩を竦めた。
「だって デパートもショッピングモールもすごく冷房効いてて寒いでしょ?それに外は日差しが強くて日焼けも気になるし・・・」
「・・・お前が日焼けを気にするとは思ってなかったなぁ」
本気で驚いた顔をした遊馬に野明はツンとそっぽを向いた。
「一応 これでも女性なんです」
拗ねた顔をした野明に遊馬は苦笑しながら謝った。
「悪かったよ、謝る。でも そういうの気にする様になったの最近だろ?」
「・・・どうしてそう思うの?」
「みてりゃ分かるよ。八王子でなんか言われたか?」
さらりと言う遊馬に野明は吃驚して目を見開いた。その様子で状況を察した遊馬が小さく肩を竦める。
「やっぱりそうか。で 何言われた?」
目を逸らして逡巡する野明の頭にぽんと手を置くと軽く自分の方に引き寄せた。
されるままに頭を凭せ掛けた野明の耳の傍にもう一度声を掛ける。
「お前は愚痴も弱音もめったに吐かないけどさ 一人で溜め込まなくていいからたまには吐き出しちまえよ。いくら仕事が忙しいって言ってもその位のことはしてやれる心算はある。まして今回は十中八九 俺絡みの話だろ?」
その言葉に思わず顔を上げると気遣わしげな顔をした遊馬が自分を見下ろしていて目が合った途端
色んなことが一気に思いだされてじわりと涙腺が緩んだ。
顔を上げていられなくなって目を閉じて俯くと遊馬が頭と背中を優しく撫でながら「ごめんな」と小さく呟く声が聞こえた。
結局部屋の掃除はなんとなくそのままになって遊馬は部屋の窓を閉めると冷房を入れて買ってきたばかりのラグマットの上に野明を落ち着かせた。
遊馬が野明を連れているときにはあからさまに纏わりつくことがなくなった女性たちは野明が傍にいないと群がってくる。
同じことが野明にも起きていて不思議はなかった。
その事に気づかないではなかったが 女性同士のやり取りがこれだけ陰に籠るものだとは遊馬は正直思っていなかった。
相手が一人になる機会、更衣室やトイレなどのちょっとした時間を見つけては彼女たちは野明に心ない声を浴びせていた。
実際手を上げたりしないのが証拠を残さない常套手段で相手は必ず複数でやってくる。
それも面と向かって文句を言う訳ではなく そこにいるのを確認して聞こえるように嫌味を言うという手段で 初めは気にしなければいい、と思っていたもののその頻度の高さと内容の低次元さに虚勢が張りきれなくなるまで然程の時間は掛らなかった。
そしてそれが実害を伴う訳でもなければ 内容に至っても名誉棄損に問える様な内容の物ですらないので殊更それを取り上げて誰かに相談ということも情けなくてできない。
そんなことをされている自分自身が情けなく思えて嫌がらせを受けてますということを遊馬に知られるのも嫌でとても口に出せなかった。
「で 具体的に何を言われるんだ?」
尋ねる遊馬に野明は眉根を寄せる。
「何って・・・すごくどうでもいい様なことだよ、馬鹿馬鹿しいっていうか、事実そのままというか。」
言葉を濁す野明に遊馬は頬杖をついて眉間に皺を寄せた。
「だからそれじゃ分かんないだろ? いくつか挙げてみろって」
少し考えた後野明は一度深呼吸すると一気に捲し立てた。
「えっとね、ちび。胸がない。スタイルが良くない、化粧っ気がない、あとは、服装が地味、、それから・・・」
「・・・わかった、もういい・・・」
目を閉じて指折り数えながら言われた嫌みを羅列する野明を遊馬は頭を抱えるようにしながら手を振って遮った。
「まだあるけど 聞く?」
「いや いい。分かった、野明が相談できない理由も察した」
あまりの低次元な内容に呆れながらもこれを毎日言われたら気が滅入るだろうなということは想像に難くなく遊馬は本気で頭を抱えた。
「それとね」
野明は少し声のトーンを落として言葉を継いだ。
「同じ質問を何度となく受けるんだよね」
「質問?」
「そう。でも本当は質問してるんじゃなくて意見されてるんだと思うんだけどね」
自嘲気味に笑う野明にいつから彼女がこんな笑い方をするようになったのかと遊馬は困惑した。
「『あなたは篠原さんの何ですか?』、『どんな関係ですか?』、『なぜいつも一緒なの?』」
淡々と棒読みの様に言う表情のない野明の横顔に遊馬は薄ら寒いものを感じて「野明」と名を呼ぶと反射的に腕を伸ばし野明を抱き竦めた。
「あ、遊馬?」
驚いて目を瞬く野明の顔にはいつもの表情が戻っていて遊馬は安堵する一方で一瞬感じた心臓が縮む様な感覚に激しく動揺した。
一瞬で冷や汗を掻いた顔と背中の感覚が気持ち悪く、抱え込んだ野明を離すまいとして腕に無意識に力が入った。
「あの・・・どうしたの?」
何時にない彼の様子に野明が問い掛けると肩に顔を埋める様にして遊馬が首を振った。
「・・・るな・・・」
「え?」
「・・・そんな顔するなよ」
漸く顔を上げて腕を緩めると野明の頬を両手で包むようにして顔を持ち上げた。
くるくると変わる表情は不安と疑問に溢れていたけれど先程の様な自嘲めいた冷たさはなくて遊馬はほっとしながらもあの顔をさせた原因が自分にあると思うと激しい自責の念に囚われた。
複雑な表情を浮かべる遊馬の顔をじっと見つめると野明は少し困った顔をして彼の頬に手を伸ばした。
「ごめん。そんな顔させたくて言ったんじゃなかったんだけど、ちょっと答えようのない質問だったから。いつも答えに詰る度に『遊馬と不釣り合い』とか『優しいからって甘えてるんだ』って言われるとちょっとね、否定できない分しんどかった」
「野明?」
「ほら、今だってすごく心配そうな顔をしてる。そんな顔してもらっちゃうとやっぱりね 離れがたくなるでしょ?」
穏やかな笑みを浮かべて淡々と話す野明にまた不安が鎌首を擡げる。
「まてよ・・・・離れがたくって・・・何だ?」
曖昧に笑う野明に遊馬の不安が嵩を増した。
曖昧な笑顔に自嘲が交じり複雑さを深めた野明の顔はある種の憂いを含み、その視線はどこか遠くを見る様に宙を彷徨う。
『篠原さんにはちゃんとしたところからお見合いとかくるんじゃない?』
『そうよね、後継ぐとなったらそれなりの人と結婚するでしょうし?』
『確かにね、今のうちだけじゃない、その辺の子と付き合うの、私もちょっとつきあってほしいなぁ』
そんな会話を耳にして野明も少なからずその可能性を考えた。
今は警察官として同じ場所にいるから傍にいられる。
でも 遊馬が退官してシノハラに行ってしまったら自分はどうなるんだろう。
答えの出ていない曖昧な関係は 微妙なバランスで成り立っていてそれでいて確たる保証は何もない。
ずっとこのままかもしれないし 明日と言わず今すぐにだって壊れてしまうかもしれないほど繊細なものなのは承知していた。
「遊馬が『ただの遊馬』でいてくれたらいいのに」
ひとり言のように呟かれた言葉に遊馬は眉根を寄せた。
「・・・え?」
不安そうに訊き返す彼の瞳を見返す野明の声は掠れるほどに小さい。
「どうしてあの人たちは私を放っておいてくれないんだろう。気がつかなければ今のままで十分だったのに」
野明の瞳は遊馬の方に向けられているものの目の前の遊馬を見ている様子はなく何か遠くをみる様に焦点が微妙に定まっていなかった。
そのまま黙って宙を見つめる野明の様子に遊馬は戸惑った。
『どんな関係なのか』
そう訊かれて『仕事の同僚』だと答えた。
『特別な関係がない』と分かった彼女たちは野明を横目に見ながら嫌な感じのする笑みを向けると聞こえる様に話し始めた。
『そりゃそうよね 女としての魅力ってなさそうじゃない?』
『あ 確かに。『優秀なパイロット』なのかもしれないけど『彼女』にするには色気もないもんね』
『長く一緒にいて何もないっていうんだからよっぽどでしょ?』
『でも仕事の相手としてはその方が面倒がなくていいんじゃない』
そう言われて野明はいたたたまれなくてその場を後にすると後からクスクスと笑う声が追いかけてきた。
『長く一緒にいても何もない』のは『その魅力がないからだ』というのは正直痛かった。
野明は遊馬との間にそういう関係を意識して求めることはなかった。
それでも彼に一番近しいのは自分だという気はしていたしそれを疑うことはなかった。
遊馬もまたそうだと思い込んでいたこともあったし、何よりあの職場において二人の間に割り込んでくるような女性は皆無と言ってよく野明自身に声を掛ける人は少なかった。
またそうしたところで困ったことになる前に遊馬が手を差し伸べてくれるのでなんとなく二人でいることに違和感を感じなくなっていった。
ところが 遊馬が出向になって傍にいなくなることでその気持ちの均衡が崩れ出した。
いつの間にか失うのが怖いと思うほど心を占める割合が大きくなった遊馬の存在。
しかし八王子に出向してきたことが彼のもう一つの顔に光を当てた。
『篠原重工の御曹司』
今まで知ってはいたけれど意識したことのなかった彼の実家とその微妙な立場に直面して野明は困惑した。
『立場の違い』の様なものを周りから突きつけられ野明は遊馬の傍にいることに戸惑いを覚える様になっていた。
それでも遊馬は傍にいようとしてくれるし野明自身も傍にいたいと思う。
出向前は当たり前に思えたことが実はかなりの好待遇であったことに今更ながらに気がついて野明は自分の迂闊さに溜息を吐いた。
『心此処に非ず』という様子の野明に俄かに不安を覚えた遊馬が彼女の両肩を掴んだ。
「野明?」
ぼんやりと遊馬の顔に焦点を合わせる野明の生気に乏しい顔にほんの数日の間にこんなにも精神的に追い詰められていたのかと思うと胸が痛んだ。
昨夜の様子を思い返しあの時 どうして気付いてやれなかったのかと今更に後悔する。
『甘えさせてほしい』といい珍しく翌朝にまで持ち越すほどに酔っ払った野明の心中を察することができなかった。
羅列された単語以外にも彼女を追い詰める様なやり取りがあったことは明白なのに野明はそれを口に出すことはなく思いに耽る。
いずれにしても野明を追い詰めている原因が自分との関係に掛っていることは明白なので遊馬はまずそこから話をすることに決めて大きく深呼吸すると気持ちを整理した。
事によっては野明を手元から失いかねない、それでもこんなに生気のない顔を見ているのはつらかったし、かといって自分の前ですら空元気をみせ虚勢を張っている様な状態を続けさせるつもりはなかった。
第一こんな状態が そんなに長くはもたないだろうことは想像に難くない。
一度肩を使って大きく息を吐くと野明の肩から手を離し彼女と正面から向き合うべく改めてその顔を覗き込んだ。
覗きこまれたことで視界を遮られた野明の瞳がゆらりと揺れて何度か目を瞬くと至近距離にある遊馬の顔に少し動揺したように彼女は小さく顎を引いた。
次いで手で口元を覆い軽く目を伏せると少し呼吸を整えてからゆっくりと目を開く。
開かれたその瞳は先程までの憂いを全く感じさせないいつもの瞳で野明は少し困った様な顔で「ごめん ちょっと考え込んじゃった」とクスリと笑って見せた。
その笑顔が逆に痛々しさを感じさせて遊馬は微苦笑を返す。
「それはいい。で 話してもらおうか。今 何考えてた?」
「えっと・・・大したことじゃないよ、ちょっとぼーっとしちゃったけど。昨日は少し飲みすぎたかなって、それだけ。・・・心配掛けてごめんなさい」
手を合わせて謝る野明を黙って見詰めて遊馬は軽く首を振った。
「確かに飲み過ぎは気をつけた方がいい。けど 俺が訊きたいのはそういうことじゃない、分かってるんだろ?」
浮かべていた笑顔を収めて野明は本気で困った顔を見せた。
「『言いたくないなら言わなくてもいい』と言ってやりたいところだけど、今回は駄目だ。ちゃんと話してもらうからな」
そう言って野明の目を真正面から見据えた。
遊馬の向ける真っ直ぐな視線に思わず目を逸らすと彼は少し怒った様な声を出した。
「野明らしくないな。ちゃんと目を見て話せよ」
「・・・ごめん」
「謝らなくていいから ちゃんとこっち向けって」
両手で頬を押さえる様にして彼女の顔を自分の方に向けたもののそれでも野明は遊馬と視線を合わせようとしなかった。
その様子に遊馬は一度手を離すと大きく溜息を吐いた。
「なぁ そんなに俺に話すのが嫌なのか?」
黙ったままの彼女に遊馬は肩を竦める。
「答えたくないか?じゃあ いいさ 先に俺が質問に答えてやろうか?」
「え?」
「お前が『答えようがない』って言った質問の答えだよ、俺は答えてもいい。『答えようがない』のは『俺の答えが分からないから』なんだろ?」
「遊馬?」
「だったら先に答えをやる。だからそのあとでちゃんと俺の質問にも答えろよ」
野明の顔を真っ直ぐに見る 鳶色の瞳は強い意志を表すように凛と澄んだ色をしている。
泣きたい様な気分でその瞳を見つめ返して野明は小さく頷いた。
「野明は公私に渡って俺のパートナーだよ、唯一無二の。一緒にいるのは居たいからだろ。他に理由なんてない。この回答じゃ不満か?」
野明は小さく首を振る。
予想通りの答えと異性として見てもらえていないことに落胆を感じている自分に思わず苦笑して、その浅ましさに野明は自嘲気味な笑みを浮かべた。
彼女の浮かべたその笑みに遊馬は眉を顰める。
「何時からそんな風に笑うようになった?」
「何時からって・・・」
困惑した顔をする野明に遊馬が苦い顔を見せた。
「何考えたんだ、今」
少し考える仕草をして野明はぽつりと答えた。
「・・・浅ましいなって」
予想外の答えに思わず遊馬は首を傾げた。
「浅ましいって 誰が?」
「私が。パートナーとして大事にしてもらえてる、それで十分なはずなのにね」
肩を竦めてぽつりと言う野明の意図するところを測りかねた遊馬が眉間に皺を寄せた。
その顔を野明は困惑と受け取って軽く息を吐くと気持ちを切り替える様にして背筋を伸ばした。
「大丈夫、パートナーなんだから明日からもかんばって仕事するよ。さぁて まずはここ片づけよう、すっかり暗くなってきちゃったし早く片付けないと・・・」
「まて。野明」
野明の言葉を遮るようにして声を掛けると慌てて野明の肩を掴んだ。
「お前 俺の答えをどう取ったんだ?」
「どうって・・・そのままだよ。仕事のパートナーで気心の知れた仲間ってことでしょ。」
「・・・公私ってのをそう取ったんだな?」
「違うの?」
首を傾げる野明に遊馬は大きな溜息を吐いた。
「じゃあ 今のは明言しなかった俺が悪い。というかお前 昨日の会話覚えないのか?」
「昨日?」
怪訝な顔をする野明に遊馬は半眼を向ける。
「酔ってて覚えてないとか言うんじゃないだろうな?」
「えっと・・・」
「今すぐどうこうってつもりはなかったけどな、一応こっちの気持ちは伝えたはずだぞ?」
「え?・・・あ・・・えっと・・・・」
「記憶ないのか?」
口ごもる野明に思わず強い口調で問い掛けた。
「・・・・あり・・・・ます・・・けど・・・」
「思い出したならいいけどな、ところでお前 自分が言ったこと覚えてるよな?」
「あの・・・・ええっと・・・」
真っ赤に染まった顔を見れば訊くまでもなく遊馬は呆れたように溜息を吐いた。
「覚えてるならいいけどさ。ところで確認するけど酔った勢いの嘘とか言わないよな?」
「・・・・言う訳ないでしょう?」
「ならいいけどね。で それを踏まえた上で聞けよ」
一度軽く目を閉じて深く息を吐きだしゆっくり目を開けると野明の両肩に手を添えて視線をぴたりと合わせた。
「お前は俺の大事なパートナーだよ、人としても女としても特別」
そういうと野明の唇にそっと自分のそれを重ねた。触れるだけの短い口づけの後彼女の顔を覗き込んだ。
「だから傍にいるし、居てほしいんだ」
顔を朱に染めて口元を押さえる野明の顔を静かに見詰める。
「お前は?」
穏やかな声音で問われた野明は緊張して俯いたままポロポロと零れ落ちる涙に自分で驚いて言葉に詰まった。
「あの・・・でも・・・私・・・」
彼女の様子に遊馬は困ったように天井を見上げた。
「・・・嫌だったか?」
遊馬の様子を窺う様な声に野明は思わず顔を上げて思い切り首を左右に振った。
「でも 私、色気もないし、スタイルがいいわけでもないし・・・」
小さな声でごにょごにょと言い募る野明に遊馬はホッとした様な笑みを浮かべる。
「それで?」
「実家は自営の小さな酒屋だし、女としての魅力にだって欠けてて・・・」
言い募る野明の言葉に遊馬は軽く息を吐きながら微苦笑を浮かべた。
「だから何だ? 他人の評価なんてどうでもいい。俺は野明がどう思ってるかだけ訊きたいんだ」
「・・・嫌なんかじゃないよ。私も傍に居たい・・です」
「本当だな?」
念を押すように言う声に野明がこくんと頷くのを確認すると彼女を抱きよせその肩に軽く額を押しつけて「はぁっ」と大きく息を吐きだした。
「遊馬?」
遊馬の態度に戸惑って野明が声を掛けると彼は困った様な笑顔を向けた。
「緊張した・・・」
「え?」
「拒絶されたらどうしようかとおもってたからさ」
その言葉に野明は目を見開いた。
「・・・どうして? それは 私の方で・・・」
抱き寄せられたまま彼の胸元で首を傾げると遊馬は野明の顔をチラリとみて彼女の肩に顎を載せて溜息を吐いた。
「お前がどう思ってたか知らないけど、これを言うのには結構勇気いったんだからな。これで拒絶されたら 明日からの仕事だってどうやってこなそうかとも思うし、第一 ものすごい後悔したと思うぞ」
「後悔って・・・」
「今までのまま進展がなくても傍には居られたんだし、口に出した結果みんな失うことになったらキツイだろ?」
「そんなこと・・・だって遊馬は・・・」
言いかけて野明は はたと我に返ると顔を朱に染めて慌てて口を噤んだ。
「俺が 何?」
問い質す遊馬に野明は「なんでもない」と言って首をぶんぶん振った。
遊馬は怪訝な顔をして首を傾げる。
「気になるから言えよ」
「でも・・・・」
「いいから。何を気にしてるんだ? さっきの話と絡んでるんだろ、吐き出しちまえって」
遊馬が促すと野明は漸く口を開いた。
「じゃあ いうけど・・・遊馬 絶対怒るもん」
「お前に怒っても仕方ないことだろ? 何言われたのか言ってみろって」
「・・・じゃあ 言うよ? 遊馬はそのうち御曹司として相応しい人と結婚するからその辺に居る様な人と付き合うのは今のうちだけだって。まして 何年も一緒に居るのに何の関係もないのは私には女の魅力がないからで仕事のパートナーとしては面倒がなくていいからだって そういうこと。」
一気に言ってしまってから野明はバツの悪さに遊馬の顔を見ていられなくてくるりとそっぽを向いた。
聞いた遊馬はその内容に半ば怒り、半ば呆れて大きな溜息とともに盛大に肩を竦めて見せた。
「ったく 馬鹿馬鹿しいことばっかり言いやがって」
憎々しげな口調で吐き捨てる様に言うと野明の髪を梳くように撫でる。
「それにしたって そんなこと気にしてたのか。じゃ一つづつ回答してやるからちゃんと聞けよ。」
そう言って野明を抱く腕に少しだけ力を込めた。
「まず 見合いなんて今んとこしてないし、する気もない。今の俺は公務員であってシノハラの社員でも幹部でもないんだからそんな話は出てないし、出ようがない。まして 親とは冷戦状態だ。もし出たところで断るさ、受ける気もない見合いに時間を割くほど俺は暇じゃないからな」
野明は質問に淀みなく答える遊馬の横顔を黙って見詰めていた。
その顔を覗き込み遊馬が野明の額を小突く。
「心配しなくても 俺は『ただの遊馬』だよ。今までも これから先も。偶然 あの会社の経営者の血縁だっただけで、会社は世襲制ってわけじゃないんだしさ。」
呆けた様な顔をする彼女に小さく笑う。
「それから 何年も一緒に居て手を出さなかった理由なんて、それこそ本当に余計なお世話って奴だけどな。さっき言った通りなんだけど・・・下手に手を出して逃げられるのが嫌だったから仕事に託けてお前を繋ぎとめてた、それだけ。失くすのが怖いくらい大事だってことで すぐに手を出したり出されたりするのが愛情の深さだなんて俺は思ってない。大体 誰かれ構わず色気振りまく様な女なんて俺は好きじゃない」
耳に心地よい遊馬の声を耳元で聞きながら野明は「うん」と頷く。
「野明は仕事のパートナーとしても最高だと思ってるけど、面倒がなくていいなんて思った事は一度もないぞ。寧ろ 面倒だったんだからな、お前 人の気も知らないで無防備に振舞いやがって。昨日、一昨日にしても俺がどれだけ自制を働かせたと思ってんだよ、今だってそうだけどな、こんな話になるなら最初にカーテン位つけとくべきだったな」
本気でつまらなそうに溜息を吐く遊馬に野明は首を傾げた。
「カーテン?」
「そ。折角色っぽい方向に話を持って行けそうなのに 素通しの部屋で押し倒す訳に行かないだろ?」
「なっ・・・ちょっと、遊馬っ?」
あせってじたばたと暴れ始めた野明の額を指で弾くと遊馬は「落ちつけよ」と言ってニッと笑った。
「ばぁか。だから今はやんないって。でも俺も健康な青年男子なの。その辺理解して接しろよ?」
「遊馬の意地悪・・・・」
上目づかいで抗議する野明に遊馬は「親切だろ、予告してやってんだから」と嘯くと野明の額に軽く唇をあて一瞬で顔を朱に染めた野明を見て口の端に笑みを浮かべた。
「少しは警戒しろって」
「・・・だってっ!無理だってば。・・・私も好きなんだもん。仕事のパートナーとしてもそうだけど。それ以上に遊馬自身が大事なの。傍に居させて・・くれる?」
俯き加減でゆっくりと紡がれた野明の言葉に遊馬は相好を崩す。
髪を撫でていた手を彼女の顎に滑らせると軽く頤を持ち上げた。
「居てもらわないと 俺が困る」
目を伏せた野明の唇に啄ばむ様な軽いキスを数度落とすと最後にゆっくり唇を塞いだ。
野明の手がおずおずと伸びて彼の首に遠慮がちに絡むと 一度唇を離して目線を合わせ、再び唇を合わせた。
緊張してガチガチになっている野明の唇と身体が妙に可愛らしく感じて一度強く抱きしめるとそっと腕を解いた。
真っ赤になってへたり込む野明を見て遊馬は天井を仰いで思い切り溜息を吐いた。
「詰めが甘いよなぁ 俺。なんで こういう時に部屋が整ってないんだか・・・」
その声に野明が頬を染めたままクスクスと笑った。
「仕方ないじゃない? 掃除に来ただけだったんだし」
「それでも。カーテン位先に買って付けときゃよかったよ、本当に」
本気で拗ねた顔を見せる遊馬に野明は少し嬉しそうな顔をして見せた。
「でもね 遊馬。私は ちょっと嬉しいんだけど?」
「何が?」
「『まだ何もない部屋』に連れてきて貰えたのが。だって 私が一番でしょ?呼んでもらったの」
楽しげな笑みを浮かべる野明に遊馬が頷いた。
「ああ、一番だ。お前 八王子の件 結構気にしてたもんな?でも あれは仮住まいだからさ。ちゃんと借りた『新居』にはこうして最初に招待しただろ?」
「うん。嬉しい」
「俺は準備不足を悔やんでるけどね」
遊馬が苦笑すると野明は楽しそうに笑った。
「でもまぁ いいさ。掃除途中になってるけど今日はもうここまでにしよう。時間も遅くなってきたしな」
時間はもうすぐ7時になるころでまだ夕方の残滓が視界を十分に確保してくれていたもののかなり薄暗い。
二人はざっと荷物を片づけるとあわただしく部屋を後にした。
車に乗ると遊馬は野明の頭を軽く撫でた。
「野明 八王子に戻ろうか」
さらりと言う遊馬に野明はくるりと振り向いた。
「荷物 持ってきてただろ、仕切りなおそうぜ」
意図を察して野明の顔に朱が昇るのを見て遊馬は愉しげに笑うと仮住まいのマンションに車を向けた。
野明は軽く呼吸を整えると一度ハンドルを握る遊馬の横顔を見遣って気持ちを落ち着けるようにゆっくりと窓外に視線を向けた。
go to next....
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追記
さてPC部屋が使えなくて絵が描けないのでノートPCでテキスト更新中です(笑)
月一更新ペースなのでこの分だと次は松が取れてから?!
ああ そうなりそうな気がします・・・・
見捨てないでくださいねぇぇ
ではでは 続きはのんびりおまちくださいね~(^^)
たまき Eメール 2009年12月21日(月)00時56分 編集・削除
もう遊馬ったら詰めが甘い!思わずカーテン私が二人の為に持って行きそうになりました( ̄□ ̄;)!!この後も八王子にお持ち帰りだし遊馬は期待に応えてくれるのでしょうか?でもまだちゅーだけで赤くなる野明もかわいいですよね(〃▽〃)ああ私にもそんな時代があったようななかったような…次回お待ちしてます(~▽~@)♪♪♪