スレイヤーズしゃどう
「んで全額寄付したってのか?」
何処にでもありそうな安宿の食堂で、何処にも無えだろうくそまじいパスタを啜
りながら、俺はイライラと目の前の小柄な女に訊いた。
「はい、困っている人を助けるのは当然のことです」
目の前の小柄な女――黒色の髪と少ない胸の女魔導士は、ぶりっ子ポーズをとり
ながら目をきらきらと輝かせながら答える。
それがさらに俺のイライラを加速させる。
コイツはいつもこうだ。
どうでも良いような事にわざわざ首を突っ込んで、俺を巻き添えにする。
この間だって、世界平和を唱える怪しい団体(平和なこの時代に世界平和なんて唱
えるやつらが平和な団体の訳が無かろう)を見付けきて、一緒に活動して、治安維持
法に引っかかって、捕まって、俺の名前を出し、保釈金を払わされたばかりだ…
他にも、へっぽこな日陰の魔導士に誘拐されたガキを助けに行って、『暴力は何も
生みません。話し合いましょう』なんて脳味噌が膿んだような台詞をのたまって、ス
リープ一発であっさり捕まって、わざわざ二人まとめて助け出す手間を俺に押しつけ
てくれた。
助けた後は後で、礼には及びませんとかなんとか言ってガキの親に礼金全額返却
してくれやがるし。
そして今度は、恵まれない子供達のために募金活動をしてる元シーフに財布ごと
寄付したんだそうだ。
ふっふっふ、財布ごとだぞ財布ごと。それも元シーフに。今頃は確実に酒に化け
てるな。俺らの財布の中身。
「んで、恵まれない子供達を救うために文無しになった恵まれない俺達は、一体どう
やってここの払いを…
「…済ませれば良いんだ?…かぎ閉じ…と…」
ぶつぶつとほんとに小さな声でつぶやくあたしの横に突然、影が覆った。
「…ちょっと…珠美…何をやってるの…」
ひぴきき…!
あたしの頭に亀裂が走る。
声のする方向に目をやると、そこには一人の女性があたしの横にに立ちはだかっ
ていた…
ぱさ…
彼女にあたしの机の上におかれている1冊のノートを取り上げられる。
「…あ…」
…し、しまった!
このままでは邪悪なる宗教団・官軍…もとい…うちの姉ちゃんに最大最強の魔道
書を…
「なによ、これは…」
英語の教師である姉ちゃんがつぶやく。
ちなみに今は授業中──
「…最近書き始めている小説じゃあないのか?」
あたしの席から2つ程左側の席から声がする。
ああ〜ルイくん…幼なじみの石江塁斗のこと…ばらしちゃ駄目!
「…ほう…」
姉ちゃんがすうっと目を細める。
「去年は隠れて小説を読み…今年は書く方なの…ふう〜ん…」
どっと汗が吹き出す。
「…へえ〜…ふう〜ん…」
「………………」
この状態で姉ちゃんの授業は過ぎていった。
そして──
「だああああ〜頭の上に毒キノコ!」
あたしは夜空に向かっておもいっきし吠える。
え?意味が分からない?
安心してあたしもわかんないから…………しくしく……
「…な、なんなんだいきなり…」
突然のあたしの咆哮に、森の中で一緒に野宿をしていたアルテイト…通称アル…
のにいちゃんが、目を点にしながらあたしに問う。その彼の背には小柄で黒色の髪、
ちと胸はないがあたしと同い年である女魔導士がおどおどしながら隠れたりしている。
何でも彼女は結構有名な魔道士とうりふたつで同姓同名だそうだ。そのせいで何
度となくどこそかの魔道士が勝負を挑んでくるらしい。
その勝負にとばっちりをくうアルくんは彼女の元々は栗色だった髪を黒に染め、
名前も偽名を名乗らせているそうだが……ぽち……だもんなあ…犬か彼女は!
あたしは彼の質問に答える。
「…いやー、ちょっといやなことがあったもので…つい…」
と言っても、ほんの少し前まで元の世界でうちの姉ちゃんにこっぴどく叱られて
いたから…などと説明できるわきゃーない…
ここは一つ、『お願い何も聞かないでうるうる涙目訴えモード』で…
びぴいゅう!
少し離れているところで塁斗が剣の素振りをおこなっていた。
なかなかの美形で学校でも女子生徒に人気のある彼。と、言ってもあたしにとっ
ちゃあ意地悪などっかのにいちゃん程度にしか思っていないのだが…まあ…最近は一
緒に冒険しているうちにちょっとかっこいいかなー(はーと)なんて…う…なんで今、
あたしはハートマークなんて出したんだろう…
…って、そ、そうだ!
先ほど元の世界って言ったけど…実はあたしとルイくんはこちらの世界の住人じゃあ
ない。
じゃあ何でここにいるのか?
ふっふっふ、それは秘密です。(石田 彰…ゼロスのまねで)
ああ、石を投げるな石を。だってしょうがないじゃないの。あたしにも分かんない
んだから。
分かっているのは、ついに買った最新刊『スレイヤーズ』の本をぱっと開いたら、
こっちの世界にいたということ…
こっちに来た瞬間にアルと・・ぽち(あってから大分経つけど未だにこう呼ぶのに
は抵抗がある)が目の前で皿みたいに目をまん丸くして驚いていた事。
それ以来定期的に…本も開いてないのに…こちらに連れてこられる事。
この三つだけ。
何のためにとか、一体どうやってとかは知らないんだなこれが。まあ知ろうとも思
わんし、分かったところでどうしようもないしね。
まあ、その呼ばれてくる時間てーのがあたしとルイくんが寝てる時、だからまだま
しってもんである。
「おい、タマ。どうせ聞いても大したことじゃない上にろくな内容じゃないし、聞き
始めると明日の朝までかかるだろうから聞かないが、そのぶつくさはやめておけ。
さっきから"ぽち"が怖がっておびえとるぞ」
「タマって呼ぶな!タマって!あたしは珠美よ!!タマじゃないのよ!!お魚くわえ
て陽気なオバさんに追っかけられてる訳じゃないのよ!!」
あたしはブチ切れて絶叫した。とゆーか、これは普通は切れるだろう。
が、しかし、
「タマで良いだろ。その方が呼びやすいし格好いい」
なんてサラッと言ってくた。
この男はー。(怒)
「…………………」
おいこら…ルイくん。
その右手に持ってる物は…その猫じゃらし見たいのは何じゃ…
「じゃ、じゃあ、この娘に付けた"ぼち"っていう名前も格好いいわけ?!」
「いや」
アルはそこで一息入れると、なんだか遠くを見るような目で続けた。
「"ぽち"というのは私が思いつく限りもっともエレガントでビュリホーな名前…」
「………………おひ…そりが…えりがんとか?…そりが…」
「そう…格好良さと言うよりは美しい響きを優先しているさ」
「また…じっくりことこと煮込んだスープにリボンのおまけをつけて、栄養失調の人
たちの世の中を暗黒と恐怖のどん底に陥れるような訳のわからん事を言ってるしなあ…」
「安心しろ俺もタマが言っている事はようわからん」
「そりゃそうよ。あんたにでもわかるような邪悪なるお兄さんの言い方をしているわ
けじゃないのよ」
「てめぇ…もしかして喧嘩うってるのか…」
「うん!おもいっきし!!」
にこにこ笑顔できっぱりはっきり言うあたし。
とその時──
どあしぐうおおぉぉぉぉーん!!!!!
近くの大地でど派手な音を立て、
「ぬ、ぬわんどぅわぁ…」
塁斗が驚きの表情を見せる。
「近いな…」
アル、ぽつり…
「どうする、見に行ってみる?」
「…そうだな…よし!ぽち。いくぞ!」
が彼女からアルへの返事はうんともすんともワンともない。
「…て、今の爆音だけで気を失ってやがる…」
しばらくしてあたしたちはため息をつき、彼女をほっぽき現場に向かった。
あたしとアルが現場に着いたのは、あの爆発から数分送れての事だった。
「ま、待ってくれ、命だけは…」
「んっふっふっふっふ…命が惜しけりゃあ、ため込んだお宝のありかを教えなさい。
有効にあたしが使ってあげるから」
「そ、そんな理不尽な!」
「あんた、理不尽という言葉を知って物事言ってるの?」
「…い、いや…基本に忠実なほうがいいかなあ…なんて…」
などと掛け合い漫才みたいなもんが聞こえてくる。そちらへと目をやると…
をををっ!
「ん?」
彼女がこちらを振り向く。小柄で栗色の髪、ちと胸はないがあたしと同い年、か
んぺけに見たことのある顔に魔導士スタイル。彼女は──だっしゅ!
「ぽちじゃねぇか」
「誰がぽちじゃあ!爆裂陣(メガ・ブランド)!!!」
ずどごばべーん!!
ひるるるるるるる!!べちん!!
彼女の呪文でものの見事に吹っ飛ぶアルくん。
やっぱしな…言葉は物を考えてから言おうね(はーと)
ちなみにあたしはこうなることを予想して、すでにダッシュでアルくんから離れていた。
やっぱ自分が可愛いしね!
「まったく、いきなり人を愛玩動物風な呼び方しおって・・・と、それはともかく。
なかなか舐めた真似してくれるじゃあないの。追い詰められて許しを請う振りをし
て、実は仲間が側面から攻撃、とはね。
ピンポン玉より軽い頭の割には面白おかしい裏技思いつくじゃない。もっとも、肝
心の仲間が人智の限界を超えた無能だったせいで、奇襲計画はいきなり身も蓋もな
く潰れたようだけど」
とりあえず不愉快の元その1――アルを遙か彼方まで吹き飛ばしたリナは、不愉快
の元その2兼財布の中身補充装置――野盗にまっすぐ目を向けて言い放った。
「ななな、何の事だ。知らんぞ。こんな旅とハイキングを勘違いしたような奴ら」
リナの怒りに恐れをなして慌ててあたし達に指さし弁解する野盗。
何げに滅茶苦茶失礼な奴である。(怒)
・・・そりゃあ確かにあたしとルイくんは大した装備はしてないし、未成年だからそ
う見られても仕方ないのかもしんないけど・・・。
「俺達も知らんぞ。こんな萎びた野菜よりも無価値な奴なんぞ」
ルイくんはさくっと言い放った。えらいぞルイくん。そーだそーだ。
「やかましいっ!」
ごすっ!
彼女のそう叫び投げた、拳ほどの大きさの石が、ルイくんのどたまに直撃した。
悲鳴を上げるいとますらなく、彼はひっくりこける。
「やるじゃない、あなた。今の石を投げる時の無駄のない動きに、スナップのきいた手首
の動き。あなた素人じゃないわね…」
「…た、珠美…そ、そういう問題じゃないと思うんだが…」
すでに今の攻撃に立ち上がれたか…ちっ(舌打ち)…塁斗が頭ふりふりぶうたれる。
「なあーに言ってんのよルイくんに無数の隕石群が来ようが、雷が降り落ちようが、
その辺のスライムにあんたが好かれ結婚を迫られようが、あたしにまったくの被害が及ば
なければそれでよし!」
「また、訳のわからん事をガッツポーズをとりながらずらずらずらずらならべたてて…」
「やっぱり、自分の身が一番!!」
「ちょっとあなた…」
いつの間に近づいていたか、ぽちにそっくりな彼女はがしいぃっ!とあたしの手を握り
瞳をうるうるさせ、
「…今のセリフ、感動したわ!!!!!」
「やっぱりそう思いますう(はーと)」
こうしてあたしは、あの『スレイヤーズ』の主人公・リナ=インバースにあったのです。
感激(嬉泣)!!!!
そしてその夜、2人で会話に弾む予定だったが、彼女はポチを見るやいなや…その辺に
転がってぴくぴくとけいれんを起こしてたりするという出来事があったのは余談である。