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光と闇 悲しき竜と剣の鎮伝歌レクレイム
(スレイヤーズしゃどう)
(新アンデット大量発生殺人事件)
〜2回目〜
**** ??? **** 「んで全額寄付したってのか?」  何処にでもありそうな安宿の食堂で、何処にも無えだろうくそまじいパスタを啜りながら、オレ はイライラと目の前の小柄な女に訊いた。 「はい、困っている人を助けるのは当然のことです」  目の前の小柄な女――栗色の髪と少ない胸の女魔導士は、ぶりっ子ポーズをとりながら目をきら きらと輝かせながら答える。  それがさらにオレのイライラを加速させる。  ──夜──  子供が起きてるにはめちゃくちゃ遅すぎる時間の夜。  外では見事な満月が踊り出て、暗い夜道を照らし出している。  そんな中での会話なのだが──  がしゃーん!  ガラスが割れる。  どぐしゃあー!  人が吹き飛ぶ。  ばきゃあーん!  テーブルや椅子が破壊され── 「てめぇー!!!」 「んのやろう!」  あちこちから喧々囂々罵倒の嵐が所かまわず降り注ぐ。  ──騒がしかったが──  オレの知り合いがが働くこの食堂では喧嘩が起こっていた…みもふたもない言い方だが…起こっ ているのだからしかたがない…  あの恐怖の闇に全世界が崩壊に曝されて既に半年たった。それでもこの国は日夜活気に包まれて いる。  壊れた、民家や修道院、魔道士協会、城…etc…etc…などは今ではほとんど修復され、再 び人々達は平凡であり幸せな生活を送っている。  全世界を崩壊に至ったある事件。それはほとんどの者たちが知る偉業。  そう異界の魔王がやらかしたことだと言うことを皆しっている。  そして、それを解決した人物が誰であるのかも。  がしゃあん!  この乱闘の中、何故かまだ無事であった一皿の料理が落ち、割れ、料理と共に床にばらまかれる。  その音に自分は我に返り、再び、ここの店内では喧嘩の嵐が吹き続けていたのを思い出してしまっ た。  …にしても…  あの料理の支払い…誰が払うんだろう…やっぱしここの店長が泣きを見ることになるんだろうか…  そんな物思いにふけるその横手で、 「あの〜やめてくださいませんか?お客様〜」  カウンターごしから、この場の収集を納めようと言う気力がミジンコ並にも感じられぬ声で、知 り合いののイーサンが、にこにこ笑顔で曇り一つ汚れ一つないグラスをせっせと磨く姿を、目のは じでとらえた。 「…あの〜…」  再び彼は声を出す。 「おのれやあーっ!」 「やるってかあーっ!」 「やらないでかあーっ!」  どたんっばたんっごおうんっつくつくてんてんっごろごろっ…  が、やっぱひ効果はない。  この喧嘩、一体どういう経緯で起こった物なのか…ま…んなのはどうでもいい… 「で…もう一回聞くが…本当に全額寄付したってのか?」 「はい(はあと)」 コイツはいつもこうだ。 どうでも良いような事にわざわざ首を突っ込んで、俺を巻き添えにする。  この間だって、世界平和を唱える怪しい団体(平和なこの時代に世界平和なんて唱えるやつらが 平和な団体の訳が無かろう)を見付けきて、一緒に活動して、治安維持法に引っかかって、捕まっ て、俺の名前を出し、保釈金を払わされたばかりだ…  他にも、へっぽこな日陰の魔導士に誘拐されたガキを助けに行って、『暴力は何も生みません。 話し合いましょう』なんて脳味噌が膿んだような台詞をのたまって、スリープ一発であっさり捕まっ て、わざわざ二人まとめて助け出す手間を俺に押しつけてくれた。 助けた後は後で、礼には及びませんとかなんとか言ってガキの親に礼金全額返却してくれやがる し。 そして今度は、恵まれない子供達のために募金活動をしてる元シーフに財布ごと寄付したんだそ うだ。 ふっふっふ、財布ごとだぞ財布ごと。それも元シーフに。今頃は確実に酒に化けてるな。オレら の財布の中身。 「んで、恵まれない子供達を救うために文無しになった恵まれない俺達は、一体どうやってここの 払いを済ませれば良いんだ?」 「さあ?」 「さあ?…じゃねーだろ!…さあ?…じゃ!第一俺はこんなところでのんびりしているないんだぞ!」 「お困りのようですね…わたしが僅かながらの援助してあげましょうか?」  くぐもったそんな声がかけられたのはそんな時だった──  桶を被り明後日の方を向く変なやつの── **** LINA ****  残酷な試練──  いつものあたしだったら、「そんなのすぺぺのぺいよ」とか言いながらほうっておくのだろう。  が──  これだけ残酷だと、その力もそんな思いもさえ飛んでいくのだろうか… 「神様──  あなたはどれだけの試練をあたしに与えてくるのですか?  魔王と戦わせ──  魔族とケンカさせ──」 「どっちが、ケンカうってるんだか…」 「破壊された町の責任を全部負わせられ──」 「…全部事実です…」 「まともな友達に出会えない──」 「それこそ俺たちが言いたいことだな…」 「だあああああーーー!やかましい!!  必殺!!!テーブル大回転アタック!!!!!」  がが、ごつっ、ごっ、げしっ 『あ゛う゛…』  あたしが振り上げたテーブルが回転すると、テーブルの足が見事にガウリィ、ゼル、アメリアの 3人のあごを捉える。  ごおっ  そして、テーブルは何事も無かったかのように元の位置に戻る。  ちなみに、テーブルの上にあるもの全ては、1ミリ間隔でしか移動していない。 「みたか…リナちゃん、究極の突っ込み兵器3号の威力を!」 「おおー!すげえー!リナっていったっけ?その技、オレにも教えてくれ!!」 「いいわよ(はあと)」 「うっしゃー!」  そんな気合を入れながら、ティム=ウィンドウズと名乗った彼はガッツポーズを決める。 「究極兵器って…ひどいですぅ…りなさ〜ん(泣)」 「……………………」 「つーことは…1号と2号もあるってことだよな…」  ちっ…ガウリィの奴…全然こたえてないし… 「1号はスリッパで2号はハリセンよ(はあと)」 「おおーー!そんなのもあるのか!!ぜひ売ってくれ!!」 「ただで上げるわよ」 「おおっ太っ腹!!」 『…そうか?』  あたしたちの会話に疑問を投げかけてくるその他一同。 「話を続けていいかな?君たち?」 「あ〜はいはい…どうぞどうぞ…」 「勝手にやってくれ…」  あたしとティムは手をぱたぱた振りながらエイプリルの問いに答える。  って……あれ?エイプリルの額から血がダクダクと流れてるんだけど…どうしたんだろ? 「……つ、つまり……その『影の鏡(シャドウ・リフレクター)』で生み出されたのが、彼女…リ ナ君の影なのだね……」 「はい(はーと)」  彼女は笑顔で…多分…答える。 「まあね…って…それよりもあんた…なんでこんな所にいるのよ…人権擁護の演説とやらをやって たんじゃ、なかったのおぉ…」 「はい(はーと)今、やっているんです(はーと)」 「今?」 「お前さんが言ってるのは、募金活動をしてる元シーフに財布ごと寄付したことを刺してるのか?」  …おい…元シーフにって… 「それとも…世界平和を唱える怪しい団体…と一緒に活動して、治安維持法に引っかかった時のこ とを言ってるのかなあ〜」 「お願い(はあと) 話し合いましょ(はあと)」  そいつは――うるうるおめめ…多分…でティムに言い放った。  うっ、うぞぞぞぞっ!! 「止めろ!その喋り方!!」 「なあ…リナ…人と話をする時はちゃんと顔みて話したほうが言いと思うぞ俺は…」  るっさいっ!余計なお世話!!  直視したくないから、顔そらせてるんでしょうが!!  『影の鏡(シャドウ・リフレクター)』――それは、あたしの体験談の中でもとにかく思い出し たくない…遠い記憶の物体1である。  かつて、四百年ほど前に存在した魔道士、シャザード=ルガンディの作り出した、魔法道具(マ ジック・アイテム)の一つ。  それが、『影の鏡(シャドウ・リフレクター)』だった。  もともと、対魔族用に作り出された代物で、これで相手を映すことにより、映した者と全く同等 の能力を持ち、なおかつ相手と全く逆の性質を持った者を作り出す事を可能にする鏡である。  姿形、基本的な能力――つまりは筋力、瞬発力などはコピー可能ではあるが、経験、技術、知識 などのコピーは現在の魔道技術でも不可能。  いくら『偉大なる(グレート)』の称号を持つ魔道士でさえ、それほどの技術を四百年もの昔に 作れるはずはない。  そう思っていたのだが、その鏡は実在し――いや、実在していたと言った方がよいだろう。  『影の鏡(シャドウ・リフレクター)』はかつて、あたしと、その時つるんでいた、とある女魔 道士の目の前で、砕け散ったのである。  だが、そのいざこざで、生み出されたあたしのコピーは、自らを生み出した鏡が砕け散ろうと、 なぜか消え去らず、こーして目の前に現れたのである。  正直言って――  ――ここまでなら、『嫌な思い出』のフレーズで終わらせることが出来るのだが、本気で泣きた くなることにそれだけでは終わらない。  映した者と逆の性質を持つと言うことは、敵意むき出して襲ってくる相手には無抵抗主義者を生 み出すことだった。  そして、あたしを映したその結果は――乙女ちっくで人道主義者というまさしく最終兵器。  あのミルガズフィアさんが持つ兵器と、どちらが最強か、ふと思うのはあたしだけでないことは たしかであろう。 「ふむ…と言うことはあの噂は眉唾ともいえないのですね…」 「あの噂?」 「この付近で…『影の鏡』があるとつい最近、わかったのだよ」  空気が止まる── 『………………………………』  ──って── 「ちょっとっまてっ!!『影の鏡』はもう…」 「いや…もちろん、リナ君が言いたいことはわかっている…だが…」 『だが?』 「まだ…『影の鏡』が存在してるとしたら?」 『………………………………』  ふむ…他にも存在してるってことか… 「そこで私の紫色の脳細胞は活性化したのだよ…リナ君が本当のことを言っているのだろうかと…」  …おい…ちょとまて…どういう意味だそれは… 「リナ君は、壊れたと我々に言ったが、本当は意気揚揚とマジックアイテム屋に行きそれを売った のではないかと…」 『おおーっ!なるほどっ!!』 「納得すなーーーーーーっ!!!!」  それにエイプリルもそんなところで、腐った脳を活性化するんじゃない!! 「…いや…リナだし…」 「…だって…リナさんですし…」 「…リナだからな…」 「…リナ君だからね…」 「お願い(はあと) 話し合いましょ(はあと)」 「なるほどリナってそういう人なのか…」 「あ〜!ん〜!た〜!ら〜!言うことはそれだけか!!!」 「まあ…冗談はこの辺にして…」 「エイプリル…」 「はっはっはっはっは…リナ君。どおしたんだい?ずいぶんと殺気立ってるよ…」 「どうしてかしらねぇ〜無性に魔法で吹き飛ばしたくなるのは、勘違いのせいだとあたしも思いた いんだけどねぇ…」  そして現在に戻る──  あたしたちはあるものに出合った。  それは、数匹のゾンビ。  最初はアメリアのホーリーブレスでちょちょいのちょいっと一掃出来たのだが…  また、なぜか3分ぐらい後に30匹ぐらい来た──  再びそいつらを片付けたら100匹ぐらい来た──  再々度、そいつらを片付けると同じぐらいのゾンビがきて──  同時に同数のゴーストが飛んできて──  後押しするかのように、スケルトンが骨をカタカタ鳴らしながら、これまた同じ数やってきた──  再々々度──以下同文──  いったい、あたしたちが何をした…… 「地精道」  ずぼおぉーっ  あたしが狙った場所に大きな穴が空くと数体のアンデットたちがその中にいっぺんに落ちていく。  そして次の呪文。 「火炎球」  ぽひ!  投げるとか、放り込むとかではなく、まさしく穴の中に捨てる。  ずおおぉぉーん! 中爆発!穴の中から派手な土柱がたつ。  再び地精道の呪文を唱え始める。  そして同じ事を繰り返し── 「地精道」  ずぼおぉーっ 「ににゃああぁぁーーーーーーっ!!!」  あれ?今の悲鳴は── 「きゃあああぁぁーーーー!こないでください!烈閃槍!こないでください!烈閃槍!こないでく ださい!烈閃槍!こないでください!烈閃槍!……」 「おおーー…アメリア…がんばるわね…でも…なんで穴の中に?」 「──私の推理によれば──」  パイプを片手にポーズを決めるエイプリル…あ…頭の上でスケルトンがケタケタ笑ってる… 「リナさんの呪文に巻き込まれた──」 「んなこたあ…誰だってわかるって…」  ざんっ!  とため息を吐きながら剣で難なくゴーストを切り裂くティム。  え?あたしはわかんなかったけど…  ざっざっざっざんっ!  さらに彼は四体のゴーストを切る。  あの剣、なかなかいい出来をした魔法剣とあたしはにらんでいる。しかも、良く見るとそれはうっ すらと光っており、何かしらの魔法障壁でも発生してるのだと思うのだが。  その剣もさる事ながら、彼の剣の腕もまた、あたし以上の腕前だった。  しかも、最初の一太刀を見せてもらった時は、あたしならまだしも、あのガウリィやゼルでさえ うならせたのだから。  そして更に──数時間──  屍累々、周囲に立ち込める異臭。  散らばる、砕けた数々の骨。  こなごなのゴーレムの残骸。  あちこち見かける窪んだ地面。  こげる草花。  元気に走り回る手首。  かたかた笑う頭蓋骨。  木の枝でぶらぶらと揺れ動くゴースト。 「ぜい…ぜい…ぜい…ぜい…ぜい…も…もうこないわよね…いくらなんでも…」 「…あ…ああ…どうやら…今度こそ打ち止めらしいな…」 「…ふえぇぇ〜ん…めちゃくちゃこわかったですう…」 「…ああ…腹減った…」  あたしたちはその場で珍しくへばっていた。  突然、アンデットに襲われたあたしたち。その数は4桁はくだらないだろう…  半分ぐらいまでいった時から、あたしたちはほとんどやけくそ気味だった。  ゾンビを炎の矢でミリアムにし、火炎球で焦がしつける。  ガウリィがスケルトンを粉砕するとゾンビ犬が骨を咥えて、穴を掘る。  ゼルが地撃衝雷で何体かのアンデットたちを貫くと、残ったゾンビが錐状の土の上で盆踊り。  アメリアが正義の向上をあげると、それに感動したゴーストが自分でどっからだしたか、木魚を たたき呪文を唱えて自滅する。  …いや……これが冗談だったら笑い話で済むが…事実なのだよこれが………いかん…エイプリル の口調が移ってる… 「…そ…それにしてもどうしてこんなに現れるのよ…」 「…さ…さあな…」 「なんなら僕が教えて差し上げましょうか」  声は突然。  その声に慌ててあたし達は声の方へ振り向く。その先には上空でたたずむ黒影一つ。そいつは──
 
 
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