OTOMO KATSUHIRO "SHORT PEACE" PRESS RELEASE
『SHORT PEACE』製作発表会(2013年3月22日)
2013年3月22日、東京国際展示場で開催された『東京国際アニメフェア』において、オムニバス映画『SHORT PEACE』の製作発表会が行われました。そのレポートです。
2013.3.24(公開)
要旨
『SHORT PEACE』は、日本人が面白いと思える、日本発の、日本を舞台とした作品群。日本の過去、現在、未来を描こうというコンセプトだった(が、「現在」の作品はポシャった)。企画は3.11よりも以前から動いていたので、地震などが日本をテーマとする発端となったのではないが、当然心のありようが変わったので、そういった影響はある。4本とオープニングで合わせて約1時間。見やすい長さにした。そのため、各作品はそれぞれ10分ほど。『火要鎮』は本当はあと5分欲しい!と言ったが、受け入れられなかったとも。森本監督は、もともとは本編1作を担当するつもりだったが、色々あってオープニング映像担当となった。1年前には完成していたので、ジブリと同日公開はたまたま。ジブリには敵わないから、僕らは僕らで頑張る。7月20日公開。宣伝してね。
イントロ
プログラム上は16:30から18:00までとなっていましたが、15時台にはカメラマン1名とファン1名が並んでいるのみで、僕は16時前にそこに接続して待機。16時半を回り、やっと配付資料の用意ができて順次受け付け開始。配布されたのはチラシ、試写会お知らせ葉書、7pプレス向け資料、イベント進行表。チラシは1週間ほど前にやっと完成したばかりの刷って出し。大友克洋GENGA展に合わせて完成していた「SHORT PEACE」のロゴと同じく、デザインはマッハ55号。B1、B2のポスターも作られていて、前者は会場内バンダイビジュアルのブースに張り出されていました。一方、資料には4作品とオープニング映像についてのあらすじと一場面の画像、それにメインスタッフの略歴が出ています。各媒体で作品紹介やスタッフ紹介として掲載されている文章は、ここからの引用です。
製作発表会開始
会場は、ステージ前にスチルカメラマン用のスペース、テーブルに英語への同時通訳イヤホンの置かれた席が100席ほど、その後ろにムービー用の段となっていて、3人目で入場した僕は最前列のテーブル席の真ん中に着席しました。その後、入場とステージの最終チェックが行われて、準備が整ったのは17時過ぎ。明るいまま『SHORT PEACE』トレーラーが流されて、会がスタートしました。
司会進行は映画関係の女性の方(お名前、所属は失念)。『SHORT PEACE』は世界規模で通用する作品を制作するプロジェクトとして立ち上げられたという説明があった後、プロデューサーのバンダイビジュアル浅沼誠氏(かつてApple Paradiseの掲示板に匿名で良くいらっしゃってました…w)からご挨拶。浅沼さんの発言の要旨は以下の通り:
- コンセプトは日本
- 4人の監督を中心にした作品作り
- ワールドワイドな作品といっても海外向けではなく、日本を舞台にして、日本人が面白いと思う物を作る
- 森本さんのキッチュなオープニングからスタート
- 4つの作品のメインスタッフが他の作品も手伝っていたりして、オムニバスと言っても絡み合っていて、そういう意味でブレのない、一本筋の通った作品群となった、そういう手法が新しいのではないかと思っている
大友克洋作品『火要鎮』は、もちろん同名の短篇が出発点となっている、完全な大友克洋作品だし、『九十九』は『FREEDOM』の森田監督、コンピュータ・ソフトのメンテに来ていたら『MEMORIES』スタッフに引きずり込まれた安藤監督による『GAMBO』、そして大友克洋の人気短篇『武器よさらば』、オープニング映像は『彼女の想い出』を監督した森本晃司さんと、まさに大友組((c)カトキハジメ)総出演。意外な人選は『武器よさらば』監督のカトキさんですが、『AKIRA』で若手天才アニメーターとして一世を風靡した田中達之さんがサポートする万全の体制。また、『GAMBO』キャラクターデザイン原案の貞本義行さんも大友組ではありませんが、吉祥寺の親しい仲間という意味では、さほど意外でもないかもしれません。
さて、プロデューサー挨拶の後には、スクリーンを使って各メインスタッフの経歴紹介が行われました。そして遂にクリエイターの登壇です。森本晃司さんから順に、森田修平さん、岸啓介さん、大友さん、安藤裕章さん、石井克人さん、カトキハジメさん、そして田中達之さんが入場して、立ったままで一人一人の挨拶が始まりました。
メインスタッフからの挨拶
まずは大友さん。マイクを受け取って第一声は「あ・あ・もしもし、大友ですどーも」(笑)。「忙しい中集まってくれて有り難うございます。完成したのは1年か2年前だけど、やっと出揃いました。是非宣伝してください。」というご挨拶。各映像が完成したのはさすがに1年、2年前じゃあないですが、『火要鎮』に関して言えば確かに2012年4月9日に初お目見えしています。長かった。1月に大友さんと話したときも、「もう前の作品だから」と、終わった作品という気分のようでした。でも、公開まではまだ4ヶ月もあります。その間、どれだけ宣伝されるかが勝負です。
以下、森本さんは「はじめは本編のつもりが、事情でオープニングを手がけることに。四本の橋渡しになるよう作りました」、森田さん「楽しんで作れました」、岸さん「本格的なアニメの仕事は初めてですが、森田さんのお陰でいい作品ができたと思います」、安藤さん「(本当に緊張しながら)こういう場所は緊張します。凄い方々の力を借りて、作らせて貰いました。楽しんで貰えれば幸いです」、石井さん「割と以前から温めていた作品で、今回の企画にいいと思って安藤監督に作って貰いました。素晴らしい出来映えだと思います」、カトキさん「大友組には馴染みがなかったのですが、誰もが忘れられない有名な作品で、スタッフも大友作品を作ってきた優秀な人たち。いい作品ができたと思います」、田中さん「キャラデザという名目でやってます。でも原作にカルト的人気があるので、大友さんの作品とスタッフの間の伝達、繋ぎ役だったと思う。カトキさんをはじめ優秀なスタッフがいるのでお任せでした。楽しんでください」という感じで一言ずつコメントされました。
この時点で「森本さんは本編参加予定だった」とか「田中さんがキャラデザてのは名目だけ」とか、初耳情報が飛び出していますが、それに続く代表質問でも初公開の情報が多数語られました。
『火要鎮』
まずは『火要鎮』のコンセプトについて質問された大友さんは以下のようなお答え:
- (大友)はじめから短篇、10分くらいということだったので、やるなら時代劇かな
- (大友)着物の柄を張り込むのは、技術的にはできないことではなかったんだけど、皆敢えてやってなかったので、それをやってみたかった
- (大友)あとは火事を描くこと(をやってみたかった)
- (大友)完成したのを見せたら、「短い!」と言われて、実はオレも「あと5分」と言ったんだけど「ダメだ」と言われて…今の長さになった(!!)
- (大友)海外のCG作品だと、柄とか繊維の質感とかまでCGで出しちゃうんだけど、そうはしたくなくて(二次元アニメの質感でやりたくて)、CGに頼らずに手描きの柄を張り込んでて、これは大変だった
「時代劇をやりたい」というのは、『STEAM BOY』以前、古くは『AKIRA』終了後から言われていたことで、『蟲師』の頃も同様の発言がありました。それが今回やっと実現したということになります。ただ、今回の10分の映像で時代劇作品は最後なのか、その辺りは語られませんでした。それにしても「あと5分」「ダメ」は驚きました。あと5分長くできたら、どこら辺が伸びたのか。話がもっと丁寧に語られたのか?エンディングが伸びたのか?興味が尽きません。そして着物の柄の話。実際に映像を見ても、そこに注目しなければ気付かないであろう部分なのですが、注目すると本当に凄い。お若ちゃんの着物に描かれた、無数の花の柄が、動きに合わせて自然に動いているのは、アニメ制作者側には驚異の作業なのでしょう。一般にはあまり伝わりそうにありませんが…。
オープニング・アニメーション
続いて森本さんへは、オープニングにどの様なスタンスで臨まれたかの質問。
- (森本)入る頃には、日本的なもので時代劇あり、SFありと、四作品の方向性は見えてきていた
- (森本)3.11の影響もあり、扉を開いたら新しいものが見えるといったような、自分が新しい発見をしていくような物を作りたかった
- (森本)自分が好きな『不思議の国のアリス』的なものを作ってみた
はじめは本編で参加するつもりだったという森本さんでしたが、合流したのは一番遅かったようです。そして森本さん流の「不思議の国のアリス」。この話が出たところで司会が「それでウサギが…」と言うと森本さんが「ええそうなんです」なんていう一幕も。あまりにもイメージにぴったりで、早く見てみたいですね。
『九十九』
続いて『九十九』のお二人へ、作品の発想の源を質問。これには岸さんが代表して答えられました:
- (岸)日本らしいものとして、モノに纏わる話にしたかった
- (岸)生き物でなく、モノに対して「お疲れ様」というような感覚は日本独特のものではないかと
- (岸)「もったいない」がキーワード
更に、作中で印象的な反物の柄の表現についての質問には、森田監督が返答:
- (森田)少人数のスタッフで作った
- (森田)さっき大友さんが手描きの柄を張り込んだ話をしていたけれど、僕らにはそれが許されなかったので(笑)、手元にあった和紙の柄を利用した
- (森田)日本昔話みたいなものをCGでやれたら、と思っていた
- (森田)もともと岸さんと別企画で一緒にやろうという話があった
「僕らにはそれが許されなかったので」の部分では、大友さんも「えっ(笑)」という感じで苦笑…ちょっと内部事情が垣間見えるようですね…。しかしこの作品、メディア芸術祭の短編アニメーション部門の上映会で見ましたが、本当に複雑で綺麗な柄がめまぐるしく動き回ります。これを『火要鎮』と同じ手法でやったらどれだけ手間がかかることか…。
『GAMBO』
『GAMBO』については、まずは石井さんにコンセプトを質問。石井さんがそれに答えると、安藤さんが続いて原案について話されました:
- (石井)シロクマと鬼が本気で戦ったらどうなるかが見てみたかった(笑)
- (石井)それを安藤さんが素晴らしい映像にしてくれた
- (安藤)そもそも原案のキャラクターデザインのインパクトが凄かった
- (安藤)異形の戦い、外からの異形とうちからの異形を戦わせて話をまとめたかった
更に、キャラクターデザインの貞本さんについて質問:
- (石井)貞本さん、なかなか描いてくれなくて大変だった(笑)
- (安藤)だから、カンヅメにして後ろに張り付いて描いて貰った
- (安藤)おかげで、細かく指示をしながら描いて貰えた
- (安藤)(いつものような)アニメの記号的な省略をせず、一旦普通に絵を描く手順に立ち返って貰って、リアルから絵に落とし込んで貰った
この作品は未見なので、これらのお話がどう映像に反映されているのかは未知数ですが、相当な苦労があったことが覗えました。最初は緊張されていた安藤監督、こういった制作の話になると饒舌です。日本の過去を舞台としたファンタジー。『九十九』と近い土俵と思いますが、フルCGの異形のバトル、楽しみです。
『武器よさらば』
そして最後は『武器よさらば』について、映像化にあたっての考えが質問されました:
- (カトキ)責任重大という感じ
- (カトキ)原作のマンガ40代半ばの人にとっては忘れられない作品
- (カトキ)本当にショックを受けたそれを、自分がやるとは思ってもいなかった
- (カトキ)原作もいいし、スタッフも優秀なのでいいものが出来ると信じてやった
- (田中)キャラクターデザインとなってるが、デザイン実質やってない
- (田中)(原作には)高校生の頃に出会った。全てが好き
- (田中)とにかく原作が偉大すぎるので、ファン代表としてやった
- (田中)こうすれば大友さんらしくなるよ、というメモを書いたくらい
- (田中)内容については口出しできない
ということで、とにかく原作であるマンガ版『武器よさらば』のイメージを如何に崩さずに作るか、というところに重点が置かれたようです。1年ほど前に「カトキ×武器よさらば」と聞いた時には、カトキデザインでメカがどんな風に変貌するのかと思いましたが、トレーラーを見る限りではデザイン的に大幅な変更は無さそうな雰囲気。そういう意味では、『MEMORIES』中の『彼女の想い出』よりも更に、ファンが期待する大友アニメ的なものになっているのかもしれません。
ここで、自身の作品を他のスタッフに預けたことについて、大友さんの気持ちが質問されると:
- (大友)前に『彼女の想い出』をここにいる森本君に作って貰たけど、(その時と同じように)自分の短篇をもう一度自分で(アニメ化する)という考えはなくて、誰かやりたい人がいればと思ってた
- (大友)カトキくんに頼んでよかったんじゃないかと思ってる
というお答えでした。「じゃあ『火要鎮』は?」とも思いますが、1995年に発表されたマンガ版『火之要鎮』は、当時から「準備している時代物の先がけ」と言われてましたから、大友さんの中では終わってないという想いがくすぶっていたのでしょう。今回でそれが「終わった」となったのかどうかは不明ですが、そこが『武器よさらば』との違いと思われます。
会場からの質疑応答
これで司会からの代表質問が終わり、質疑応答となりました。質問はすべて大友さんへのもの。最初は「今、気になるクリエイターはいますか?」:
(大友)いっぱいいる。本を送って貰うし、本屋でも色々買うけれど…イラストの世界なんかは凄いのが一杯いる。名前は出てこないけど、絵を見ればすぐ分かる。アニメでは…誰でしょうね。ベルギーやフランスで活躍してるスクイテンなんかは凄いと思うけど、若手じゃないしなぁ。あ、そんなこと言ったら失礼かな。彼はBDなんかも描いているけれど。でもアニメーションは厳しい状況なので、どんどん新しい人が入ってきて、活気づけて欲しい。
続いての質問は、「『SHORT PEACE』とジブリ作品の公開日が同日になったが、意識してますか?」:
(大友)(苦笑しながら)いや、僕らが作ったのはだいぶ前なので(だいぶ前にできていたので)、公開日が重なったのはたまたま。意識してないです。ジブリには敵わないし(一同笑)。僕らは僕らで頑張るしかないですね。
まー、この手の質問も良くありますが、これはクリエイターには関係のない話じゃないでしょうか。そもそも大友さんはジブリアニメというか、宮崎監督のファンですし。しかし、この応答が本当に新聞の見出しになってしまうとは思いませんでした(笑)。
続いて、テーマについての質問。「自分たちが好きな日本を海外に見せたい、というコンセプトはどこからきたのか。震災があったが、企画はそれと関係があるのか」:
(大友)『SHORT PEACE』の企画は3.11の前からあったから、基本的に関係ない。『STEAM BOY』の頃から、プロデューサーの土屋さんと「日本のものをやりたい」と言っていた。それで、日本の過去、現在、未来を見せられたら、というふうに思った。現代の作品はなくなってしまったけれど。
更に「大友さんの日本への想い、また何故今なのかを具体的に。」という質問には:
(大友)何故今なのか…ホントは今じゃなくてもいいんだけど。僕らはずっと日本なわけだから。でも、オムニバスの企画があって、日本でいいんじゃないか、という感じ。そんなに深く掘り下げているつもりはないかな。
最後の質問は「先ほど現代のものがなくなったというお話でしたが、『AKIRA』、『STEAM BOY』以来の長編アニメを期待する向きもあると思いますが、可能性などは」という質問:
(大友)企画はずっと出してるんですけどね。特に震災以降は劇場版アニメの資金集めには厳しいところがあって、なかなか冒険できない時期が続いてました。今やっと回復しつつあるので、今から動き出すのではないかと、僕も期待してます。
そして司会から、「大友さんに代表として最後にもう一言」という声がかかると、「え、もう全部喋っちゃったよ。言うことないよ。まあ、見て下さい」と言って質疑は終了しました。
全体にフランクな応答で、現在の業界の厳しさ、そのなかで何とか通った企画だったことが伝わりました。大変なのですね。でもその中で最高のクオリティを求めて作られた『SHORT PEACE』、早く全編を劇場で見てみたいです。
ちなみに、マスコミ試写会は4月8日からスタートして、最終は7月10日。(期間が)長い!銀座の松竹東劇で行われます。またプレス資料は前期、後期で2種類になったりするのでしょうか…。
フォトセッション
さて、クリエイターの方々が一旦捌けた後、会の直前に描いて貰ったという寄せ書きボードが登場。大友さんの絵は、背中の入れ墨を見せる定吉っつぁんでしょうか。「SHORT PEACE」のロゴも入っています。ここに、全員が名前入れをしてフォトセッション。大友さんは名前と日の丸の赤を入れられました。更に、全員揃って壇上でのフォトセッション。カトキさん、ちょっとだけ離れ気味ですが…(笑)。
というわけで、約50分の製作発表会は終了。映画公開は7月20日!まだちょっとありますが、楽しみに待ちましょう!
© SHORT PEACE COMMITTEE
© KATSUHIRO OTOMO/MASH・ROOM/SHORT PEACE COMMITTEE
終了後、会場の外で大友さんは明大NO TVのインタビューを受けていましたが、それが終わったところで「あれ、なんでここにいるの?関係者だっけ(笑)」スイマセン、web媒体の取材ということでお許し下さい…。その後大友さんと皆さんは、品川シーサイドでの打ち上げに向かわれました。
間違いのご指摘、ご意見、ご感想などありましたら junya.thesphere [at] gmail.com まで。
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